国内のネット証券最大手である株式会社SBI証券は、”ゼロ革命”と題した国内株式の売買手数料無料化などにより顧客が急増し大幅に増加した問い合わせに対し、電話が繋がりにくい状況を改善し、カスタマーサービスを向上すべくさまざまな施策を行っています。

書類請求など高度な知識を必要としない問い合わせも多い中、WEB請求や既存のIVRでは請求できず、シナリオも長いため途中離脱が多い課題を抱えていました。2023年4月より、臨機応変にシナリオを作成・変更できるAI電話自動応答「MOBI VOICE」を導入し、顧客の需要が高い書類請求の受付が可能になりました。

製品導入の背景や運用方法、導入効果、今後の展望について、カスタマーサクセス推進部 責任者 河田氏、カスタマーサクセス推進部 カスタマーリレーション1課 佐竹氏と小池氏に伺いました。

※上部写真:左よりモビルス株式会社 石川、株式会社SBI証券 佐竹氏、小池氏、モビルス株式会社 柏原

SBI証券さまの事例紹介をまとめた導入事例PDFは
こちらからもダウンロードいただけます。

組織名株式会社SBI証券
事業内容オンライン証券事業
導入製品MOBI VOICE
用途書類請求の電話での自動受付
導入時期2023年4月

※インタビュー実施日:2023年12月7日

■課題

・顧客の急増に伴い問い合わせも大幅に増え、電話が繋がりにくい状況が続く
・手続きに必要な書類が請求できれば解決する、高度な知識を必要としない問い合わせも多いが、WEB請求や既存のIVR(電話自動受付)では請求できず、シナリオも長いため途中離脱が多くなっていた

■施策

・臨機応変にシナリオを作成・変更できる「MOBI VOICE」を導入し、顧客の需要が高い書類請求の電話での自動受付を開始

■効果

・小規模での導入開始の中、平均58件/日を電話自動応答にて受付
・オペレーター1人分強の処理件数を自動化
・一対応あたり約48%のコスト削減
・電話自動応答での受付完了率が20%から68%へ大幅に増加

お客さまの体験価値をいかに上げるか?直接声を聞く唯一の部門としての役割とは

ーはじめに、佐竹さま、小池さまの所属するカスタマーサクセス推進部 カスタマーリレーション1課の業務内容について教えてください。

インタビュー様子
▲佐竹氏

佐竹氏:
カスタマーサービスセンターにお問い合わせいただくお客さまに対して、電話窓口の運営全般が主な業務です。

熊谷のセンターには、約200名のオペレーターと数名のSV(スーパーバイザー)が在籍しており、電話応対するオペレーターのフォロー、育成のほか、エスカレーションに発展した際の対応や、電話が集中して取り切れない際などにお客さま対応を行うこともあります。 ほかにもお客さまの声を活かした業務改善や、オペレーションの効率化を図る各種施策の推進、オペレーターの労務管理についてなど、センターの運営に関する幅広い業務を担当しております。「MOBI VOICE」についても、導入検討からシナリオ作成や運営まで行っています。

インタビュー様子
▲小池氏

小池氏:
新しいサービスが次々リリースされるので、日々オペレーターへ応対内容の落とし込みやフォローなどを行っています。直接お客さまの声を聞く唯一の窓口でもあるので、お客さまからのご意見を担当部署に反映し、開発部門と協力してサービスの改善やより良いサービスを生み出していくことにも携わっています。

柏原:
河田さんのお話も伺ってもよろしいでしょうか?

インタビュー様子
▲河田氏

河田氏:
私はカスタマーサクセス推進部の責任者をしております。我々の部は、元々電話を受けるコールセンター部隊から始まりました。

20年以上コールセンターの運用をする中で、お客さまのタッチポイントも電話だけでなくメールやチャットなどに広がり、お客さまの期待値や会社から求められるハードルが年々上がってきている状況です。役割が変わっていく中で、「カスタマーサクセス推進部」と部署名を変え、お客さまの体験価値をいかに上げていくかを日々追究しています。

高度な知識を必要としない問い合わせ対応を自動化し、繋がりやすいセンターを作る

ーモビルス製品を導入する前に、直面していた主要な課題は何でしたか?それらの課題に対して検討した、または実施した解決策を教えてください。

佐竹氏:
コロナ禍での巣ごもり需要や、国内株式の売買手数料を無料にする”ゼロ革命”などの影響から、お客さまが爆発的に増加し、お問い合わせも非常に増え、電話が繋がりにくい状況が発生していました。

オペレーターの増員やセンターの拠点を増設するなど、繋がりやすいセンター作りの取り組みを行ってきましたが、お客さまからいただくお問い合わせの中には、登録内容の変更や口座解約の処理のため書類など、手続きのために必要な書類が請求できれば解決する、いわゆる高度な知識を必要としない、人が応対しなくても良い内容も多くあると分かりました。

金融機関という性質上、未だに書類でしか行えない手続きも多く残っている一方、WEB請求ができなかったり、元々導入していたIVRではニーズの高い書類が請求できず、自動音声の案内も長いため途中離脱が多くなってしまったりという課題を抱えておりました。

導入していたIVRは、外部委託して作りこむ仕様のため、自分たちで手を加えるのは難しかったのです。そこで、現場で臨機応変にシナリオを作成・変更ができるIVRがないか探していた中で「MOBI VOICE」を紹介いただき、導入を決めました。

「MOBI VOICE」活用の流れの図
「MOBI VOICE」活用の流れ。「かんたん資料請求」の番号に電話をすると、「MOBI VOICE」による自動応答が開始。書類を選択し、口座番号・名前・生年月日の確認により受付完了。終話後、ショートメッセージで受付内容が届く。

ー現在において解決できたこと、まだ解決できていないことをお教えください。

佐竹氏:
当初実現したかった書類請求を受け付けるといったシナリオは、小規模ではありますが実現でき、徐々に利用量も増えております。受付後に請求データを基幹システムに投入する作業もこれまでは手作業で行っておりましたが、システム部門の協力もあり、システム化の目途が立ちました。今後請求可能な書類を増やし、さらに利用の拡大を図っていきたいと考えております。 現状は「MOBI VOICE」のみの導入のためシンプルなシナリオにとどまっておりますが、今後書類請求の受付にとどまらず、より活用のシーンを増やすため「MOBI BOT」も組み合わせた複雑なシナリオも実現できないか検討中です。

オペレーター1人分強の処理件数を自動化、48%の費用削減と平均完了率約70%を実現

ー弊社サービスを導入してから、カスタマーサポートの業務効率が向上しましたか?具体的な例や定量的な数字があれば教えてください。

柏原:
書類請求受付のうち、「MOBI VOICE」で受け付けている割合はどのくらいですか?

佐竹氏:
「MOBI VOICE」では単純平均で1日あたり平均58件の入電があり、完了率は平均69%です。まだ小規模でのスタートのため、全体の割合としては10分の1にも満たないですが、オペレーター1人分強の処理件数に対応できておりますので、効率は向上していると考えております。

また、単純なコストだけで比較できない要素もあるかもしれませんが、1件の応対にかかるコストを「MOBI VOICE」とオペレーターの人件費で比較し、ROI(Return On Investment:投資利益率)を算出すると、一応対あたり約48%のコスト削減に繋がっていると言えます。

1件の対応にかかるコストを、有人電話オペレーターの人件費と「MOBI VOICE」で比較した際の違い
1件の対応にかかるコストを、有人電話オペレーターの人件費と「MOBI VOICE」で比較した際の違い

河田氏:
元々のIVRでは、完了率が20%ほどだったので、現在の完了率が70%近いのは評価として非常に高いです。

柏原:
完了率70%と20%の違いはどのようなところでしょうか?

佐竹氏:
やはりシナリオの構成だと思います。従来のIVRは1つの書類を請求するにも長い時間がかかっていました。次の設問に行く際にも色々な注意事項のガイダンスを挟むのでさらに待たされ、長いと感じて途中で離脱している方がいたり、最後に本人確認のために口座番号を聞くのですが、途中まで進んだけど口座番号が分からず最後の最後で離脱してしまったり…。さまざまなところで離脱に繋がる要因があったと考えています。

日頃のお客さま対応の経験を元に、途中離脱が少ないシナリオを構築

柏原:
「MOBI VOICE」ではシナリオをなるべく簡素化したのですか?

佐竹氏:
はい。注意事項の説明が必要なところは、ガイダンスではなく事前にコンテンツ上に使い方と合わせて記載したり、口座番号など必要な書類や気を付けてもらいたい点を事前に補完するなど工夫をしました。

SBI証券のWebサイトに記載されている「かんたん資料請求」の案内。
必要書類や気を付ける点など事前に確認できるようになっている。

柏原:
運用が始まってからもPDCAを回してシナリオの改善なども適時行っているのですか?

佐竹氏:
そうですね。ただ、当初シナリオを作る際に元々使っていたIVRの改善点などを踏まえ、工夫をした上で運用開始したので、開始後はそれほど大きな変更はしていません。微修正や違和感があるところを見直すことはしています。

河田氏:
これまで使っていたIVRなどIT部門が先陣を切って導入した製品だと、現場の自分たちでは簡単に触れなくなるんです。今回の「MOBI VOICE」のケースは、最初から自分たちで日頃のお客さま対応の経験を元にシナリオを組み立てていったので、後々大きく修正する部分が少ないのではと思います。その代わり、入れるまでは大変なのですが…。

柏原:
なるほど。導入する際に特に大変だったところはどこですか?

佐竹氏:
一番は社内決裁です。すでに導入済のIVRがあったので、「今あるじゃないか」と。「なぜわざわざリプレイスするのか」という話になるので、いかに利便性が上がるか、効率化に繋がるか、費用面も含めて、さまざまな交渉を経ないと導入できないという苦労もありました。

柏原:
今ですと数字として効果をお示しできるようになったのではないしょうか。

佐竹氏:
そうですね。今後よりシステム化して受付できる数が増えると、「MOBI VOICE」での利用率が増えコストパフォーマンスも益々見える化すると思います。その分、「MOBI BOT」などを導入しさらに自動受付の対応幅も広げていきたいです。

利便性を一番の目的と位置づけることで、顧客満足度向上と効率化の両方を実現できた

柏原:
「MOBI VOICE」での完了率が増えていることは運用側としては非常に効率化できていると思うのですが、顧客満足度を維持されるためにはどのような工夫をされていますか?

佐竹氏:
単にコスト削減の目的だけでなく、お客さまの利便性を担保した上でのコスト削減・効率化と位置づけていました。元々のIVRは書類請求できる内容がお客さまのニーズに沿っておらず、利用率も低かったのです。そのため、「MOBI VOICE」ではオペレーターが発送処理を受けている頻度の高い書類の請求をできるようにしようと考えました。 今までオペレーターから請求するしかなかった書類が自動音声で請求できるようになり、お客さまの利便性は高まっているので、その分お客さまの満足度も上がっていると思っています。

定性的な効果ですが、SNS等で弊社のお客さまと思われるユーザーから、「電話が繋がりにくい中、今までオペレーターからしか請求できなかった口座解約の書類が自動音声で請求できた」という口コミを見かけました。

口座閉鎖やNISAを他社に移すための処理など、ネガティブな対応の際もオペレーターに電話しなければいけないのは、お客さまからするとハードルが上がる部分です。ただ、当社から出ていきたい方をオペレーターが対応しても引き留められるわけではありません。ならば、自動化で書類受付を完了できた方が利便性も高まり、オペレーターの対応も減るので効率化にも活かせるのではと考えています。

この他にも普段お電話でお問い合わせすることが難しい方を中心に既存のIVRよりも利用数が増えており、少なからず利便性の向上に寄与していると考えております。

お客さまの声を今ここで聞き、この場で問題を解決するスピード感が必須

ー弊社のセールスやカスタマーサクセスのサポートがどのように役立ちましたか?手厚いトレーニングやサポートがあったかどうかを教えてください。また満足している点、不満足な点を具体的にお教えください。

小池氏:
導入前の操作方法についての説明とトライアル期間も設けていただき、説明をお聞きしただけでは掴めない操作感など、実際に試す機会があったことでスムーズにシナリオを作成することができました。

導入したあとの疑問や改善してほしい点など導入後のサポートについても、本来お問い合わせフォーム上でご質問すべき内容に対しても、古屋様、石川様を通じてご回答いただけるため、導入の経緯までご存じの担当者様にご回答いただけるので満足しております。

佐竹氏:
我々が一番重視したいのは、お客さまのために今すぐにでもサービスを開放したい、より良く変えていきたいという点です。製品をご提供いただける会社にも、距離感の近い状態で密に連携させていただきたいというのが一番の思いですね。

外部委託すると簡単なガイダンスを変更するにも一か月かかってしまう。さらにコストがかかるみたいなことがあります。それを「MOBI VOICE」であれば、今すぐ自分たちで変えることができるので助かっています。

河田氏:
目の前のお客さまの問題が解決されず数か月後に改善したサービスがリリースされても、何の意味もない無駄な投資になってしまいます。お客さまの声を今ここで聞き、この場で問題を解決するスピード感がないと、カスタマーサクセスの意義はないと思っています。

ITに関して素人ではありますが、外注任せにせず自分たちで導入から携わることで、裏側の背景や何がどう構成されているかを理解できる。そこを理解できていないと、お客さまの問題に対して、どこを改善できるか発想が湧かなくなってしまいます。最終的な改善には結びつきません。

我々が今発生している問題に対して、ここを変えれば改善できるという姿勢で取り組んでいくべきだと思っています。こうした意味でも、「MOBI VOICE」のように自分たちで触れてタイムリーに変えていける仕組みは必須なのです。

石川:
良いですね。システムに使われるのではなく、システムを使い倒したい、というイメージですね。

河田氏:
システムってだいたい入れて終わりのことが多いじゃないですか。我々は入れてからが一番問題なので、入れたあとにより使ってもらうにはどうするか、システムやフローやシナリオの改修だけでなく、お客さまが使っていただく導線をどうするかなど、使ってもらうために必要なあらゆることを考えます。

まさに入れたものを使い倒すためにどうするか考えることが一番重要です。オペレーターにも使い慣れて使いこなしてもらうようにすることも我々管理者の役目ですし。せっかく入れたシステムを200%ぐらいの能力を発揮させないと。入れる前よりも入れたあとが勝負です。導入して満足だとコストの無駄遣いになるので、これからですね。

問い合わせに応えることから、より踏み込んだ提案でカスタマーサクセスを実現したい

ー今後のKPI目標や計画について教えていただけますか?

佐竹氏:
現状のお電話が繋がりにくい状況を、少しでも早く改善することが最優先です。 その前提でさらに日ごろいただくお問い合わせ内容の分析を進め、人の手が不要な問い合わせ内容については極力「MOBI VOICE」を活用して解決を図りたいと考えております。

具体的な目標としては、1日あたりにカスタマーサービスセンターへお問い合わせいただく件数の1割相当である500件の書類請求を「MOBI VOICE」にて受け付けることを目標にしております。

ー今後のカスタマーサポートの方針についてお教えください。

 佐竹氏:
証券業界は弊社の国内株式売買手数料無料化を皮切りに価格競争がより加速いたしました。多くのお客さまから反響いただいている一方、当社としては減収に直結しかねない出来事です。そのためカスタマーサービスセンターとしても、お客さまからの問い合わせに単に答えるだけでなく、いかにクロスセルアップセルにつながるサポートにつなげられるかが重要になります。
今後はお問い合わせに応えることから、さらにお客さま一人一人に合った提案をすることまで踏み込んで、カスタマーサクセスを実現できるような対応を推進していこうと考えております。

柏原:
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

いかがだったでしょうか?今回はSBI証券さまの顧客体験向上を目的としたMOBI VOICEの導入事例をご紹介させていただきました。よりよい体験を提供していくためには、着手当初の設計はもちろんのこと、得られた結果を踏まえて、PDCAサイクルを回していくことは必要不可欠です。特に実装するタイミングでは実装のしやすさ、しにくさ次第でスピードが全く変わってきます。より詳しい課題背景や解決の具体策などに興味があるお客様は、お気軽にこちらよりお問い合わせください。デモ画面を実際にお見せしながらご紹介いたします。