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SBIいきいき少額短期保険株式会社|生成AIエージェント型のボイスボットで受付完結率70%超を実現
実証実験で音声確認・コールバックなど後処理業務の効率化を実現し、本導入を決定

SBIいきいき少額短期保険株式会社は、死亡保険・医療保険・介護保険といった、主にシニア世代のニーズに対応した保険商品やサービスを提供しています。2025年6月、ワークフロー型の生成AIを活用した新機能「AIエージェント型ボイスボット」の実証実験(POC)を行い、受付完結率70%超やコールバック件数・音声確認件数の大幅削減を達成しました。
実証実験に参加した背景、課題解決に向けた施策と効果、今後の展望などについて、カスタマーサービス部 大菅佑介氏、山崎大暉氏にお話を伺いました。
※上部写真:(左から)モビルス 山内、SBIいきいき少額短期保険 山崎氏、大菅氏
※記事中の肩書や内容はインタビュー当時(2025年10月17日)のものです。

課題
- 従来の自動音声システムでは、お客さまの話すスピードがゆっくりであったり、言葉に詰まったりする傾向に対応できず、ボイスボットだけで受付を完結できないケースが多かった。
- オペレーターによる折り返しの電話対応、音声ログの確認といった後処理に多くの時間・手間がかかっていた。
施策
- 生成AIを活用した「AIエージェント型ボイスボット」の実証実験を1カ月間実施、2025年9月より本導入。
- 実証実験にて、従来のプッシュボタン式からお客さまへの発話内容に応じたシナリオ分岐へ仕組みを変更。また、発話への対応力や個人情報の聞き取り精度を向上させた。
効果
- 自然なやり取りで途中離脱を防止し、AIエージェント型ボイスボットでの受付完結率70%超を実現。
- 折り返しの電話対応件数は約60%削減、音声確認を要した件数も約50%削減と大幅な負担軽減を実証。
- 1件あたり後処理を含めて約10分、音声確認に約5分を要していたが、それぞれ約1分程度に短縮。
- 全体の後続処理時間は74時間/月から46時間/月へと約36%削減。
目次
従来のボイスボットではシニア世代の話し方に対応しきれず、受付を完結できない、後処理に手間がかかることが課題
―はじめに、担当されている業務内容について教えてください。
大菅氏:SBIいきいき少額短期保険は、死亡保険・医療保険・介護保険といった、主にシニア世代のニーズに対応した保険商品やサービスを提供しています。その顧客接点の中心となるのが、宮崎県にあるコンタクトセンターです。スーパーバイザー10名弱、オペレーター40~50名という体制で、新規契約から既契約まで幅広い顧客対応を行っています。
山崎氏:私たちはマネージャー職として、コンタクトセンターの業務運営を担っています。同時に、コールセンター内で組織された生成AIチームにも参加し、現場の立場から生成AIの導入検討に携わっています。
―コンタクトセンターで直面していた課題は何でしたか?
山崎氏:コンタクトセンター業界は、採用コストの高騰や高い離職率などの影響で、深刻な人手不足に直面しています。当社でも入電の繁閑に応じたオペレーターの配置が難しくなりつつあり、業務効率や顧客満足度の面で課題を抱えていました。こうした中、2021年にモビルスさんの音声自動システム「MOBI VOICE(モビボイス®)」を導入し、一定の効果を得ていました。
大菅氏:しかし、当社の顧客層は主にシニア世代。従来のシステムでは、お客さまの話すスピードがゆっくりであったり、「郵便番号、何番だったかな?」などと言葉に詰まったりする場合に対応しきれず、一定時間内に返答がないと会話が自動的に終了してしまうなどの課題がありました。

山崎氏:お客さまの話した内容が正しくテキスト化されず、1件ずつ音声ログを確認する必要もありました。さらに、音声ログや顧客情報などを確認しても正しい商品・用件が分からない場合には、オペレーターが折り返しの電話対応を行うこともありました。従来のシステムでは、こうした後処理に多くの時間を要していました。
「AIエージェント型ボイスボット」の実証実験に参加
―課題に対して実施した解決策を教えてください。
大菅氏:さらなる業務効率化と顧客満足向上を実現するため、モビルスさんからご提案いただいた、生成AIを活用した新機能「AIエージェント型ボイスボット」の実証実験に参加しました。
まず、AIエージェント型ボイスボットに何の受付をしてもらうか、そのためにはどのようなフローが必要かを検討し、モビルスさんに生成AIのプロンプト※1を組んでいただきました。その後、約2週間かけて1日に20~30件のテストコールを実施。プロンプトの指示通りに受付できるかどうかや、ハルシネーション※2や「いやだ」・「ふざけるな」・「なにそれ」など、苦情を想定した会話を続けることによる生成AIへのストレス耐性などをチェックしました。
山崎氏:たとえば、対象年齢を超えたお客さまが新規契約をご希望の場合にどのようなご案内をするか、お客さまが方言でお話しされる場合に正しく認識できるかなど、さまざまなエラーを想定してテストコールを繰り返しました。生成AIがうまく認識・対応できていない点を見つけてはプロンプトを修正し、本番環境に適応できるように準備を進めました。こうして約2カ月間の準備期間を経て、2025年6月に1カ月間の実証実験を実施しました。
※1プロンプト:AIにテキストや画像などのコンテンツを生成させるための指示や命令文のこと
※2 生成AIが事実と異なる情報を真実のように生成してしまうこと
―実証実験で、特に注力された点を教えてください。
大菅氏:課題解決に向けて、実証実験で重点的に取り組んだ施策は三つ。一つ目は、シナリオ選択方法の変更です。従来は「契約内容の変更は1番、保険金の請求は2番」のように、プッシュボタン式で用件を選択していただいていました。AIエージェント型ボイスボットでは、お客さまの発話内容に応じてシナリオが自動的に分岐する仕組みに変更しています。「解約したい」と言えば解約のシナリオが展開されるなど、人と話しているかのような自然なやり取りで必要な情報を聞き出し、自動音声で受付を完結できるようにしました。
山崎氏:二つ目は、あいまいな発話への対応力を強化したことです。従来であれば、お客さまが「生命保険の資料が欲しい」とお話された場合、死亡保険と医療保険のどちらの資料を送付すべきかが分かりませんでした。前後の文脈やお客さまの情報と照合しても不明瞭なときは、オペレーターが電話を折り返して確認する必要がありました。
AIエージェント型ボイスボットは、お客さまの意図が不明確な場合でも、生成AIが丁寧に深掘りしながら内容を把握し、お客さまの目的を特定できます。例えば、お客さまが「保険プラン変更」と発話された場合に、AIエージェント型ボイスボットは「プランを上げますか、下げますか」と聞き返すことができます。さらに「傷害保険」と発話があったときに「医療保険を送ります」と回答できるよう、類似する単語を指定した単語に変換・処理するよう生成AIにプロンプトで指示しているので、AIエージェント型ボイスボットが状況を理解して対応することもできます。
このように不明瞭になりがちな商品名や用件、単語などをモビルスさんが整理され、我々が指示したもの以外にも幅広くプロンプトに反映させることで、あいまいな発話であっても用件を正しく特定し、折り返しの電話対応を削減できるようにしました。
大菅氏:三つ目は、個人情報の聞き取り精度を向上させたことです。当社では、テレビCMを見ながらお問い合わせの電話をくださるお客さまが多くいらっしゃいます。そのため、お客さまの声とテレビ音声が混ざった状態で認識してしまう従来のシステムでは、音声ログを毎回確認しなければなりませんでした。
AIエージェント型ボイスボットでは、意図を理解したうえで氏名や住所を抽出するなど聞き取り精度そのものが高まっているうえに、背景でテレビ音声が流れていてもお客さまの声をしっかり識別できます。さらに、シナリオ内で復唱確認を実施することで、氏名や住所、証券番号など個人情報の聞き違いや抜け漏れを防ぎ、音声確認などの後処理の軽減を図りました。
具体的には、証券番号の聞き取りにおいて、従来のボイスボットでは、お客さまから証券番号以外の回答があった場合、「お手元の保険証書から証券番号を教えてください」といった定型文を繰り返すだけでした。これに対し、AIエージェント型ボイスボットは、「IKで始まり9桁か10桁の数字が続く形式の番号が見つかったら教えてください」といった具体的な情報を提示することで、お客さまを自然に誘導できます。さらに、お客さまが証券番号を探していると判断した場合、「お急ぎにならずに、ゆっくりとお話しください」と状況に合わせて発話します。これにより、お客さまはご自身のペースで話すことが可能となり、正確な証券番号の聞き取りと記録を実現しました。

受付完結率や後続処理時間など
全ての指標で目標を達成し、本導入が決定
―実証実験では、どのような効果を確認できましたか?
大菅氏:AIエージェント型ボイスボットは、お客さまの発話内容に応じてシナリオが自動的に分岐し、より自然でスムーズな対話が可能になりました。その結果、途中離脱を防ぐことができ、従来は約50%程度だったボイスボットでの受付完結率は70%超に向上しました。
山崎氏:正確な情報が記録されるようになった結果、折り返しの電話対応件数は約60%削減、音声確認を要した件数も約50%削減と大幅な負担軽減が実証されました。さらに、こうした後処理にかかる時間も大幅に抑えられました。従来は1件あたり通話で5~7分、CRM(顧客管理システム)への応対ログ(記録)作成に約3~5分と、送付書類の選定や発送処理などの後処理を含めて約10分を要しており、音声確認では約5分を要していましたが、AIエージェント型ボイスボットではそれぞれ約1分程度に短縮。業務全体の効率と生産性を大きく向上させることができました。

大菅氏:このように実証実験において、目標としていた指標を全てクリア。さらに、全体の後続処理時間は74時間/月から46時間/月へと約36%削減できたことから、短期間で導入費用の投資回収が見込めました。また、従量課金において細かいテーブル設定があるため、無駄な費用が発生しにくい点も高く評価できました。これらの理由から、2025年9月にAIエージェント型ボイスボットの本導入を決定しました。
また、実際に使ってみると本当にオペレーターに近いと感じました。プロンプトで「丁寧なオペレーターを意識してください」と条件付けしたところ、5年以上の経験があるベテランオペレーターに匹敵する対応ができている状況です。
山崎氏:人の対応ではオペレーターによって文脈の読み取り方が異なることがありますが、AIエージェント型ボイスボットは自然な読み取りができ、かつ対応品質のバラつきが少ないと感じました。
―顧客満足度や従業員満足度への影響もございましたら教えてください。
大菅氏:自動音声ダイヤルに対する顧客満足度は定量的に測定しておらず直接的な評価は難しいですが、従来よりも自然でストレスの少ない対話が実現されたことで、お客さまの安心感や信頼感の醸成につながり、結果として満足度向上に寄与しているのではないでしょうか。
山崎氏:オペレーターからも、AIエージェント型ボイスボットをポジティブに捉える声が挙がってきています。後処理を含めた対応時間が大幅に短縮され、日々の業務に時間的余裕が生まれることで、インバウンド(受信)だけでなくアウトバウンド(発信)業務にも携われるようになるなど、他の付加価値業務に集中できる環境づくりに貢献することができました。「すぐに別の仕事に移れる」という声も聞いています。こうした業務改善は、働きやすさや業務への納得感の向上にもつながっていると考えられます。
―弊社のカスタマーサクセスのサポートは、どのように役立ちましたか?
大菅氏:シナリオ構築においては、都度発生するイレギュラー対応にも迅速かつ的確にサポートしていただき、非常に質の高い実証実験を行うことができました。特に印象的だったのは、一緒に作ろうとする姿勢でした。課題解決につながる要件を整理した時も、プロンプトを組んだ後にテストコールを繰り返した時も、モビルスさんから「このようにした方が良さそう」というご提案をよくいただきました。私たちの課題感を共有し、同じ方向を向き、密にサポートしていただけたおかげで、約4カ月という短期間で構想から実証実験・本導入まで至ることができました。
山崎氏:「現場でプロンプトを調整できるようになりましょう」と、モビルスさんは4日間にわたり生成AIのプロンプトについてレクチャーしてくださいました。プログラミングを学んだことのない私の知識レベルに合わせて、初歩的な説明からしてくださったおかげで着実に理解を深められました。

―今後の展望について教えてください。
大菅氏:シニア世代が中心であるため、今まで自動音声による一次対応のフローが組めていませんでした。しかし、生成AIによる自然な対話が可能になったため、一次対応をAIエージェント型ボイスボットに任せるなど、自動音声での対応比率を向上させていきたいです。自動音声だけでなく、LINEとの連携によりチャットボットでのお問い合わせ対応も可能になると考えています。こちらもモビルスさんと取り組んだものですが、8月にはLINE公式アカウントをリニューアルし、LINE公式アカウント上で契約内容の変更などの受付ができるようになりました。今後、LINEで気軽にお問い合わせができるように検討しており、今回構築した生成AIを応用できればと思っています。
山崎氏:今後は営業面でも、AIエージェント型ボイスボットを活かしていきたいです。朝5時台にラジオ出稿する際、今まではオペレーター約20名に早朝から出勤してもらう必要がありました。しかし、AIエージェント型ボイスボットを導入すれば対応人数を削減でき、営業面で有利な時間帯にCMを出稿することも可能になります。
CM放送直後などに、瞬間的に待機オペレーターの数を上回ってしまい、『あふれ呼』が発生して受付処理ができないケースがあります。生成AIの自動音声で受付すれば、物理的に100%の受付が可能ですから、取りこぼしが一切なくなります。また、AIエージェント型ボイスボットは24時間動かせますので、お客さまには『いつでも、ご都合の良い時にお問い合わせいただきたい』という目的もあります。そういった意味で、生成AIには将来、大きな戦力として活躍してほしいと期待しています。生成AIを活用することで、「コストセンター」とも呼ばれるコンタクトセンターに、利益を生み出す視点を取り入れていきたいと考えています。
―今後のさらなる取り組みに向け、引き続き尽力してまいります。本日は貴重なお話をありがとうございました!
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