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顧客対応業務において、自動化や業務効率化を課題とする企業も多いのではないでしょうか。企業目線での効率化ではユーザーが離れてしまうこともあり得ます。企業とユーザー双方にとって労力が大きい部分を改善し、ユーザーに寄り添ったサポート体制で利便性と効率化の両立を目指すことが大切です。

本記事では、LINEを切り口に、先進的なサポートサービスを提供するアニコム損害保険株式会社(以下、アニコム損保)の兵藤氏にお話を伺い、顧客利便性をどう生み出すのか、LINE活用の考え方、獣医師へのチャット相談サービスも運営している理由など、顧客接点としてのサポートと業務効率化のバランス、生み出される効果について紹介します。

課題、施策、効果

【目次】

・使う頻度が高いペット保険だからこそ、簡単に使えることが大事
・直接請求の負担軽減にLINE活用、3分で保険金請求が可能に
・運用開始1年で目標だった利用率15%を達成、今や1,8万人、50%がLINEを利用して請求
・利便性向上、業務効率化に加え、郵送費、書類保管費用面の改善効果も
・コミュニケーションツールとしても活用し、友だち数は約35万人
・有人チャットの良さは、同時に複数対応でき、相談して正しい回答ができること
・コールセンターは応答率だけでなく、寄り添う姿勢を大切に
・チャットだけじゃない、継続的な接点を持つためにメールも有効活用。ウェルカムメールの開封率は64.7%、継続率向上にも貢献
・ペット保険は家族の証、サービスの本質的なニーズを探る

※記事内の数値等は、セミナー開催(23年1月)時点の情報です

使う頻度が高いペット保険だからこそ、簡単に使えることが大事

ペット保険シェア10年連続No1のアニコム損保

https://www.anicom-sompo.co.jp/

アニコム損保は、日本に18社あるペット保険の中で46%を占め、10年連続でシェアNo.1を獲得しています。

ペット保険は使う頻度が高く、アニコム損保では顧客の約6割が保険利用の経験があるそうです。動物ごとに顔写真つき「どうぶつ健康保険証」を用意し、全国約6,500件ある対応病院では保険証を窓口で提示する窓口精算は、アニコム損保の特長の一つです。

アニコム損害保険株式会社 
経営企画部 広報企画課 課長 兵藤未來 氏

「使う頻度が高いからこそ、保険を簡単に使えることを重視した仕組みです。言葉を話せない動物たちだからこそ、早期対応してほしいという思いも込めています」と兵藤氏は話します。その場で保険金請求が完了するので「窓口精算できるのはとても便利」と好評で、窓口精算の利用は顧客の85%と高い利用率です。

アニコム損保の顔写真つき「どうぶつ健康保険証」
顔写真つき「どうぶつ健康保険証」

直接請求の負担軽減にLINE活用、3分で保険金請求が可能に

アニコム損保では年間360万件の支払いをする中、85%が窓口請求ですが、保険証を無くした、忘れた、一部未対応病院の場合といった15%(年間55万件)は、直接請求です。「紙に印刷した上で記入し、必要書類を添付して郵送する」というお客さまの負担だけでなく、保険会社としても「届いた書類を確認した上で、入力し、書類も保管する」という手間とコストがかかっており、負担の多い直接請求の仕組みの改善が課題となっていました。

顧客、企業、双方にかかる保険金請求の負担を減らすため、2017年からLINEを活用した保険金請求の仕組みを導入。利用者の多いLINE上で質問に沿って必要事項を入力するだけで、最短3分で保険金請求が可能になりました。

アニコムのLINE公式アカウント
アニコムのLINE公式アカウント。LINE上でチャットボットの質問に答えるだけで、保険金請求が可能。極力入力の手間を省くため、選択式の質問になっている。

運用開始1年で目標だった利用率15%を達成、今や1.8万人、50%以上がLINEを利用して請求

開発・運用費等を踏まえて採算に合う割合として、LINE請求の目標利用率を15%と設定し運用を開始。結果的には、目標の利用数15%を運用開始後1年で達成しました。

「一度LINE請求を利用すると、紙の請求に戻ろうと思う方はなかなかいません」と兵藤氏が話す通り、開始後、利用率は年々増え、2022年12月には直接請求の50%以上をLINE請求が占め、月間1.8万人が利用するまでに至っています。

アニコム損保のLINEによる保険金請求の件数と、直接請求に占める割合のグラフ
アニコム損保のLINEによる保険金請求の件数と、直接請求に占める割合

利便性向上、業務効率化に加え、郵送費、書類保管費用面の改善効果も

LINE請求による改善効果は、顧客の利便性向上や、郵送で届いた書類の開封・確認・保管など対応する側の負担軽減と業務効率化だけではありませんでした。倉庫での書類保管費の削減といった効果もでているとのことです。

請求毎に1通110円かかる郵送費が削減できたほか、倉庫での書類保管費は書類が削減できた分、年間300万円から170万円まで削減できています。

LINE請求について兵藤氏は「診療明細書のピンぼけなど、写真不備の際の自動アラート機能や、テキストの自動化にも取り組んでいきたい」と話し、さらなる利便性向上・業務効率化に向けた改善に取り組んでいくとのことでした。

コミュニケーションツールとしても活用し、友だち数は約35万人

アニコムのLINE公式アカウントについて
アニコムのLINE公式アカウントについて

アニコム損保のLINE公式アカウントの有効友だち数は、約35万人(2023年1月時点)です。月2回のコンテンツ配信で顧客接点を持つなど、保険金請求ができる利便性の高いアカウントに留まらず、コミュニケーションツールとして有効活用しています。

有人チャットの良さは、同時に複数対応でき、相談して正しい回答ができること

その中でも、LINE上で獣医師に相談できる顧客向けサービス『どうぶつホットライン』はお客ささまにも好評です。 「保険料は高いと思ったけど、リアルタイムで相談できるから損じゃない!」「先生の回答は納得できてすごい」といった声もSNSで寄せられ、相談件数は2020年の開始後から伸び、月2,000件に上っています。

アニコム損保の顧客向けのサービス『どうぶつホットライン』のイメージ
顧客向けのサービス『どうぶつホットライン』。150人在籍している獣医師にLINEで相談ができる。

『どうぶつホットライン』の運用には、有人チャットシステム「MOBI AGENT」を導入。「MOBI AGENT」の管理画面からチャットのやりとりができ、履歴が残るので情報の共有や相談も管理画面上から可能です。

兵藤氏は有人チャット対応の利点について、こう説明しています。

「電話でのご相談対応のメリットももちろんありますが、その場で正しいことを答えないといけないプレッシャーもあります。動物の種類は多いので、見たことのない昆虫類や鳥などの相談がきたときに、チャットだと詳しい先生に確認した上で正しい回答ができるので安心です。

また、同時に複数の相談に対応できるので、より多くの方にサービスを利用してもらえる点もチャット対応の良さだと思います

有人チャット導入当初のインタビュー記事はこちらから

『どうぶつホットライン』相談件数の推移のグラフ
『どうぶつホットライン』相談件数の推移。月2000件の相談が寄せられている。

『どうぶつホットライン』は当初、電話相談サービスも開設していましたが2021年に終了しています。

これに対し兵藤氏はこう話してくれました。「(電話相談サービス終了は)残念だというお声はありました。ヘビーユーザーの方もおりましたが、その反面、一部の方にしか対応できていないことも課題でした。

電話相談は予約制で、30分枠を獣医師がスタンバイしていましたが、予約が入らないと待っているだけに。なるべく多くの方に相談を活用してもらえるよう、一旦電話相談を終了し、チャット相談だけに集約しました。その後、復活してという大きなクレームはありませんでしたので、電話相談をご活用いただいていた方も、チャット相談に移行されたと思われます」。

コールセンターは応答率だけでなく、寄り添う姿勢を大切にしている

次に、アニコム損保の顧客とのタッチポイントを、カスタマージャーニーに沿って見ていきます。認知からコアファンになるまでの過程で、オンラインではLINEやSNSやメルマガを活用する中で、「コールセンターは重要視している」と兵藤氏は話します。

獣医師に相談できる『どうぶつホットライン』の電話相談は終了しましたが、保険加入やそのほか相談できるコールセンターの存在は、顧客との接点において重要な立ち位置を担っているとのことです。

「コールセンターのスタッフも、犬や猫が大好きな人が多いです。話しが盛り上がって、30分近く話し込むこともあります。コールセンターは応答率も重視しますが、顧客満足度でいうと、ウェットな会話も大事にするような立ち位置にしています

アニコムの顧客とのタッチポイント一部の図

チャットだけじゃない、継続的な接点を持つためにメールも有効活用。ウェルカムメールの開封率は64.7%、継続率向上にも貢献

契約直後のウェルカムメールは、「必要な情報を必要なタイミングで配信することで、自分ごとに感じてもらい、定期的な接点により信頼関係を構築することを目的に設計しています」と兵藤氏が話す通り、ウェルカムメールは、開封率64.7%(配信数10万件以上、5通の平均値)と、高い水準で顧客と接点が取れ、情報提供を可能にしています。

ウェルカムメール配信後の情報提供メールも、ウェルカムメール配信者の開封率は55.1%と、ウェルカムメール未配信者の開封率45.4%を上回り、高い開封率を維持しているとのことです。

さらに、配信後の任意解約率の推移では、ウェルカムメール配信の方が未配信を下回っており、1年後の継続率では、1.7ポイントの差が出ています。「メール配信により継続的にお客さまと接点を持つことで、継続率向上に繋がる効果があったと感じています」

ペット保険は家族の証、サービスの本質的なニーズを探る

最後にSNSの運用について兵藤氏に聞きました。「SNSは、LINEのほかInstagramとTwitter(現 X)に力をいれています。Instagramはライフスタイルの提案や動物愛などマイルドな投稿、Twitterは現実味のある情報など、属性に応じて使い分け、ユーザーが必要とする情報を届けています。共通項は、相互コミュニケーションを大事にすることです

Instagram、Twitter、それぞれ専任担当をつけ、アニコム損保に関する投稿、UGC(User Generated Contents、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツ)へのコメントなど相互コミュニケーションを重視していると兵藤さんは説明します。

温度感、湿度感のあるコメントは、本当に動物好きじゃないとできないと思うので。業務効率化とは異なりますが、地道に返信対応を行っています

アニコムのSNSでのコミュニケーション一例
SNSでのコミュニケーションの一例。UGCに「いいね!」やコメント返信のやりとりを地道に行っている。

「ペット保険に加入する際の本質的なニーズの一つに、経済的支出に対する備えだけでなく、ご自身のペットをまさに『家族の一員』としてとらえたい、そんな思いがあると考えています。

ペットは日本の法律ではモノ扱いになってしまいます。残念ながら、法律上はモノ扱いですが、ペットの保険証は『社会の一員』であることの証明にもなりえるのです。

ペットは家族の一員であり、同時に社会の一員です。そうした飼い主の皆さまの思いを代弁し、証明するために、『家族の証』としてペット保険を提供しています。

こうした想いを伝え、賛同していただけると、その後の密なコミュニケーションに繋がっていくと考えています。”サービスの本質的なニーズは何か?”を常に意識し、お客さまとのコミュニケーションを土台として揺るがせず、KPIの設定はその上にあるものです。

応答率よりも「お客さまに寄り添ってお話を伺うこと」を重視するコールセンター運営や、SNSでの地道な返信などは、効率化の視点からは真逆かもしれません。それでも私たちのサービスの本質的なニーズを考えると、必要性が高いと考えています。

今後も、サービスとして求められていることに応じたコミュニケーションを大事にしていきたいです」

チャットサポート導入で実現する、顧客満足度の向上と業務効率化について

今回の記事では、アニコム損保のユーザーに寄り添った先進的な取り組みを元に、顧客接点としてのサポートと業務効率化のバランス、そこから生み出される効果について紹介しました。

モビルスでは、チャットサポート導入で実現する顧客満足度の向上と業務効率化についての「EBook」を公開しています。下記より無料でダウンロードできますので、ご興味いただけましたら、ぜひご覧ください。

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