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みずほ証券株式会社は、お客様とのタッチポイントの拡大やオペレーターの負担軽減など、CSとES両面の観点から、2021年12月にボイスボット「MOBI VOICE」を導入。翌年には有人チャット「MOBI AGENT」と、チャットボット「MOBI BOT」も導入し、お客様と従業員それぞれの利便性や満足度の向上につなげています。

年齢層の高いお客様の割合が多く、電話での対応が好まれる傾向にあったにもかかわらず、有人チャットは利用者の95%超が満足と評価し、チャットとボイスボットともに幅広い層から利用が進んでいるそうです。

「MOBIシリーズ」の運用で工夫しているポイントや、今後のカスタマーサポートの展望について、ダイレクトチャネル事業部の押川氏、スーパーバイザーの西川氏と遠藤氏、大久保氏の4名に伺いました。今回はその後編をお届けいたします。

【前編】
・呼量が読みづらい証券業界。ボイスボットで負担軽減と時間外の問い合わ
せ対応を推進
・有人チャットは各ページから当該分野の担当オペレーターにつながる仕組

【後編】
・電話対応の満足度調査にも「MOBIシリーズ」のSMS機能を利用するなど、多様な用途に活用
・「プロアクティブなサポート」「エフォートレスな顧客体験の提供」「ジャーニーでの一貫した品質のサポート」を目指す

※上部写真:左より、みずほ証券株式会社 大久保氏、遠藤氏、西川氏、押川氏、モビルス株式会社 古屋、柏原

電話対応の満足度調査にも「MOBIシリーズ」のSMS機能を利用するなど、多様な用途に活用

―「MOBIシリーズ」を導入してから、カスタマーサポートの業務効率は向上しましたか?

押川氏:
ボイスボットとチャットボットを導入したことで、営業時間外の書類請求ニーズやネットマイページのロック解除予約の希望などが受け付けられるようになり、それに伴って日中の電話への集中が緩和したといった効果が見られています。今後も業務効率化に向けた取り組みはまだまだ続きますが、現時点では呼量の平準化ができてきたという実感です。

柏原:
ありがとうございます。例えば「MOBI VOICE」に入る請求の問い合わせ件数では、営業時間内と時間外の比率はどの程度になっているでしょうか?

西川氏:
だいたい営業時間内が8割、時間外が2割といった具合です。

押川氏:
お客様にとっては、コンタクトセンターにつながりにくい時間が少なくなっただけでなく、コンタクトセンターの営業時間中でも自動音声を望まれるお客様も相当数いらっしゃることから、「MOBIシリーズ」は利便性や顧客満足の向上に手応えが大きいツールなのだと感じています。

柏原:
ボイスボットに対するお客様満足度調査などをされていましたら、ぜひ結果をお聞かせいただきたいです。

インタビュー様子

押川氏:
結論から言うと、とても好評です。ボイスボットでエラーがあったお客様には、当社からアウトバウンドをして問題を解消しており、その際にボイスボットやサービスに対するご意見を伺えているのですが、逆にエラーがなかったお客様の満足度を測る接点がなかったため、どういう感想を持たれているのかを知りたく、一度アウトバウンドで調査をしてみました。すると、「良かった」というお声をかなり多くいただけました。

西川氏:
当社がボイスボットやチャットボットを導入した目的としては、呼量削減や業務効率化以上に、顧客接点を増やしてお客様の選択肢の幅を広げたいという意向が強くありました。自動音声を好む方や、夜間に問い合わせをしたい方など、多様なお客様ニーズに合わせてタッチポイントが提供できたことが、満足度に直結しているのだと思います。

押川氏:
同業他社ともボイスボットやチャットボットの活用についてよく情報交換をさせていただいていますが、第一の目的をどこに置くのかは、それぞれの企業の状況や戦略によって異なると感じています。当社の場合は、もともと重点を置いていた顧客接点や満足度の面で、しっかりと効果が出せているということです。

遠藤氏:
実は今、電話対応のお客様満足度アンケートでも、「MOBIシリーズ」の機能を活用させていただいているんですよね。

押川氏:
そうなんです。電話対応をしたオペレーターが、お客様にアンケートの許諾を取った上で調査させていただいているのですが、そのうちの半数はスーパーバイザーの口頭による調査で、残りの半数は「MOBI VOICE」のSMS送信機能からアンケートチャット用のリンクを送って回答いただいています。

柏原:
面白い使い方ですね。貴社のアイデアや工夫で「MOBIシリーズ」を多様な用途に活用いただき、当社としてもとても嬉しいです。

押川氏:
このほか、コンタクトセンター従業員の勤怠連絡でも活用させてもらっています。自身や家族の体調不良で休まなければならないときに、これまでは誰かが出社する時間まで連絡するのを待たなければいけませんでしたが、今はSMS送信機能を利用することで、深夜や早朝でもすぐに連絡を入れられるようになっています。

夜中に「住所変更をしたい」と問い合わせるお客様のニーズと同様に、社内でも今まで取り込めなかった時間外のニーズがあったんだなと、ツールを導入してから気付かされることが多々ありました。

西川氏:
対お客様用にツールをどう活用するかをメインに考えてきましたが、使っているうちに、実は社内外の両方で役に立てられることがわかってきました。「MOBIシリーズ」の活用の幅は、まだまだ広げられるのではないかと思っています。

―コンタクトセンターの従業員満足度を向上させる施策や、「MOBIシリーズ」が影響したポイントなどがありましたら、ぜひお聞かせください。

押川氏:
私はCSのお客様満足度調査と合わせて、社内で年に一度実施する従業員満足度調査と、そこから得た従業員の要望に対する施策なども担当しています。当社は2015年からコンタクトセンターのキャパシティを倍増させてきたのですが、当初は業務の量も範囲も一気に増加し、その不満から離職者数が課題となったことがあります。そうした背景から、これまでに従業員満足を重視したさまざまな施策を打ち、今では長く勤務してくれているオペレーターやスーパーバイザーがかなり増えてきました。

また、「MOBIシリーズ」が従業員満足に影響した点については、オペレーターがやむを得ず電話対応が難しい体調や状況になったときも、チャットサービスに携わってもらうなど、従業員の活躍できる場所がしっかり設けられるような改善になったと思います。

いろいろな施策やツールの導入が功を奏して、2018年から取り始めた従業員エンゲージメントに関するスコアは、毎年徐々に向上してきています。

柏原:
オペレーターの皆様にとって、電話に比べるとチャットはストレスが軽減されるのでしょうか?

遠藤氏:
電話とチャットはそれぞれに配慮すべきポイントがあるので、どちらも注意深く対応していることに変わりありません。ただ、強いて言えば、クレームを伝えたいお客様の場合は、チャットの方が比較的時間に余裕のあるお客様が多く、電話よりは穏やかなやり取りになりやすい傾向にあると感じています。

インタビュー様子

西川氏:
どの業界も同じだと思いますが、電話口でオペレーターに厳しく当たるお客様も中にはいらっしゃいます。私も受電チームでオペレーター業務やスーパーバイザーを担当してきましたが、そういった電話の対応は精神的にも結構なダメージを受けてしまうものです。なので、電話を切った後にフォローをするなど、オペレーターの心身の状態は常に気に掛けるようにしています。

一方のチャットも、不満のご意見やクレームは受けるにしても、文字で落ち着いて対応できる分、熱量の高い声で伝えられるよりは焦りやダメージは少し抑えられるのかなと感じています。

「プロアクティブなサポート」「エフォートレスな顧客体験の提供」「ジャーニーでの一貫した品質のサポート」を目指す

―「MOBIシリーズ」によって、これからどういった課題や業務を解決したいとお考えでしょうか?

押川氏:
解決・実現したいこととしては、①完全なる自動窓口(DBなどとの連携による照会・手続き)②後続処理の自動化(RPAなど)③AIチャットボットの磨き込み――の3つが挙げられます。

1つ目の“完全なる自動窓口”については、現状ではまだ「MOBI シリーズ」をデータベースや基幹システムとつないでいないため、お客様からの問い合わせをその場でシステムが解決しているわけではなく、一度裏側で人が処理をして照会や手続きをする仕組みとなっています。これが自動化できれば、夜間でもパスワードロックの解除や書類の受け付けなどもできるようになるのですが、そこまではまだ実施できていません。

柏原:
お客様がボイスボットに話した内容をベースに照合をとるイメージだと思いますが、実現するにはどういったハードルがあるのでしょうか?

押川氏:
第一にはやはり、なりすましに対するセキュリティの問題ですね。あと、実現するには社内外の関係各所との念入りなコミュニケーションが必要となるでしょうし、膨大なシステム投資も想定されます。実のところ、株の発注を電話の自動音声で行っていらっしゃる同業他社が1社だけあるのですが、その他の企業が踏み切れていないということは、それだけ壁が高くて厚いのだと想像しています。

西川氏:
現実問題として、お客様が意図せずなりすましになりそうなケースは結構多いんです。詐欺などの悪質なケースでなくとも、例えば、「妻の口座の住所変更をしたい」とご主人が電話をかけてきたり、「父が病気になったので口座を解除したい」とご子息から依頼があったりと、身内からの問い合わせは珍しくありません。良かれと思って代理でお問い合わせいただいていたとしても、安全性を担保するために、そういった問い合わせには当社から必ずご本人にアウトバウンドして確認するようにしています。

現状は、裏で人がしっかりとチェックするセキュリティ体制をとっているからこそ、少しでも引っかかりのあるような問い合わせにも、一つ残らず対応できているということです。自動化できれば人の手間は当然軽減できますが、本人認証等の安全性を担保する方法は慎重に考えていかなければいけないと思っています。

押川氏:
そうですね。ただ、「MOBI VOICE」のアップデートでSMSによる多要素認証が実装されたときに、“完全なる自動窓口”の実現が少し近づいたようにも感じました。引き続き費用やリスクを見極めながら、検討していきたいと考えています。

柏原:
当社側でも、本人認証のハードルをクリアできるような仕組みの開発と改良を進めてまいります。やはり、ボイスボットの使い道をよりいっそう発展させるには、そこを突破しなければならないと思いますので。

今後解決・実現したいことの2つ目に挙げていただいた“後続処理の自動化”についても伺いたいのですが、これは本人認証と自動連携とがセットになるものなのか、それとも全く別の使い方を考えていらっしゃるのか、どちらでしょうか?

押川氏:
究極的には認証を伴うやり取りが「MOBIシリーズ」で可能になり、後続処理もRPA化するという、このワンセットが完成形だと思っています。ですが、そこまでをいっぺんに進めるのが難しいようであれば、まずは前段として、裏側で人が手掛けている作業からでもRPA化して、負荷を軽減したいという考えです。

柏原:
裏側で人の手が必要になることが理由で、ボイスボットで受け付ける問い合わせの量を抑えるようなことはありますか?

押川氏:
いえ、基本的にはありません。ただ、確定申告の時期など一時的に問い合わせのボリュームが増すときは、確かに裏の作業負担も膨らんでしまうので、その対策のためにも、なるべく早くRPA化を実現できればと考えています。

柏原:
ありがとうございます。そして3つ目の“AIチャットボットの磨き込み”についてもお聞きしたいのですが、どういった構想をお持ちでしょうか?

西川氏:
現在はチャット画面を開くと、問い合わせ内容を選択いただく形でメニューが表示され、クリックするとシナリオに沿って回答や次に聞きたいであろう質問項目が表示されるような仕様となっています。理想はこれをさらに発展させて、聞きたい質問項目が選択肢の中にないお客様に対しては、AIが回答する仕組みにしていきたいと思っています。お客様がチャット上である程度の問題をセルフで解決できるようになれば、顧客体験はより向上するでしょうし、社内としても呼量軽減につながると期待できます。

今まさにAIに対してFAQを詰め込んでいる最中で、これからチューニングに本腰を入れていく計画です。

押川氏:
証券業界でも5~6年前からAIチャットボットを導入する事例は見られていましたが、当時はまだ「分かりません」と回答されてしまうことが多い状態だったため、当社としてはしばらく導入を見送ってきました。そしてようやく2022年にチャットボットを導入したわけですが、業界内の前例から、AIチャットボットが全てを解決するとは思っていなかったので、最初はシナリオ型で解決するよう進めてきました。ネットログインのページにはそれ専用のシナリオを、NISAのページにはNISA専用のシナリオがある――といった形ですね。

ただ、AIの精度は日々向上しているので、チューニングをしていけば、AIチャットが良いセルフ解決ツールになるだろうと期待を寄せています。

―最後に、今後のカスタマーサポートの方針や展望をお聞かせください。

押川氏:
私たちは、「プロアクティブなサポート」「エフォートレスな体験の提供」「ジャーニーでの一貫した品質のサポート」を目指しています。具体的な取り組み例としては、2023年11月からマイページログインのところにチャットの導線を付けたことが挙げられます。これまでだと、ログインできずにエラーになったお客様はロック解除のために電話をかけていただかなければならず、その分待ち時間も発生してしまっていました。今回、チャットのアイコンから認証とロック解除までができる導線ができたことにより、顧客体験はかなり向上したと思っています。

自動化の推進も含め、お客様が24時間365日負担なく、気軽にご利用いただけるチャネルとして確立する道筋が少しずつ見えてきたので、今後も引き続き、一つ一つの施策を着実に進めていく考えです。

西川氏:
先ほどの話にもあったように、例えば各ページに汎用的なチャットを貼るのではなく、ログインのページにはログインのチャットを、NISAのページにはNISAのチャットを置くなど、そのページに訪れたお客様が困っていると思われるところに手を差し伸べるようなサポートを提供することが、私たちのあるべき姿だと信じています。

当社は、お客様がどれだけストレスなく当社のサービスを利用していただけるか、そして、適切かつ望まれているサポートをいかにして提供していくかを、日々追求してきました。週次や月次でデータを分析し、すぐに週次のミーティングで決裁をとり改善するようなサイクルを高速で回してきました。この背景には上席者の協力や他部署、他チームの協力があります。お客様の顧客体験向上のために一丸となって改善活動をする、この姿勢は、今後も変わることなく続いていくのだろうと思っています。

柏原:
ありがとうございます。遠藤様、大久保様にも、現場を見られているお立場から一言ずついただけますか?

インタビュー様子

大久保氏:
私はノンボイスチームに来てから1年が経つのですが、若い世代を中心にチャットの利用が増えたと感じており、満足度も高い傾向にあることが見えています。また、ボイスボットを利用された働く世代のお客様からも、サービスを高く評価いただけたお声が寄せられています。

電話を好むお客様が多い中でも、若い世代のお客様を中心にチャットや自動音声のご利用と満足度が高まっていることから、将来的には当社とお取引いただくお客様の多くがノンボイスを求められると思いますので、「MOBIシリーズ」を有効活用しながら、より便利なサービスを目指していきたいです。

インタビュー様子

遠藤氏:
そうですね、現時点でも「MOBIシリーズ」をさまざまな用途に活用していますが、まだひらめいていないアイデアや、もっと違う使い道の可能性もあるのではないかと思っています。お客様と従業員の双方にとって、より利便性が高まるサービスにつなげていけるようツールを駆使していきたいと思っていますので、引き続きサポートをよろしくお願いいたします。

柏原:
私たちモビルスも、貴社の従業員の皆様や、その先のお客様の満足度をよりいっそう高めていけるよう、機能拡張やサポート体制を強化してまいります。

本日は貴重なお話をお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。


(前編はこちら)
【前編】みずほ証券株式会社|チャットとボイスボットの双方で高水準の顧客満足度を実現。今後はさらなる自動化やAIチャットの磨き込みを目指す