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コンタクトセンター、いじめ相談など生活に浸透するLINE

LINEでAIやブロックチェーンなどの技術を使って、消費者の生活をより豊かにすることを考えながら、LINEのポテンシャルを提案するエバンジェリストとして活動しています。少し前まではMicrosoft社でクラウドの啓蒙や、IoTやAI関連の仕事に携わっていました。

そう自己紹介する砂金氏はLINEのビジネスの現状から話を初めた。

日本人であれば現在スマートフォンの中にLINEが入っている、あるいはLINE NEWSを読んでいる、LINEモバイルの回線契約をしている方は多いのではないだろうか。LINEはMAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)をKPIとしてIR上で公開しており、現在7,800万人以上になった。

面白いことに四半期に1回調査をすると、100~300万人単位でユーザーが増加しています。タイやインドネシアなど海外展開によって伸びている上に、日本でも伸びています。これはビジネスプロフェッショナルのみなさんが使い始めたり、シニア世代のおじいちゃん、おばあちゃんがガラケーからスマートフォンに乗り換えて、自分の子どもや孫たちとLINEスタンプなどでコミュニケーションしたりするために登録しているからです

少し前までは女子高生がメインユーザーだったが、現在、全世代で使用されるメッセージングのプラットフォームになっていると述べた。

私もメールは1日3回程度見るだけですが、LINEユーザーはメールよりLINEを見る頻度が高い傾向にあります。多くの人々にリーチできる手段になりました。ビジネスではTwitterやFacebookを利用されている方もいらっしゃいますが、家族で実名登録はなかなかできません。LINEでしかメッセージを送れないような人が非常に増えています

このLINEの仕組みを、現在さまざまな企業が活用している。例えばクロネコヤマトでは「もうすぐ宅急便が届きます」などの連絡や、不在時に再配達の日程を調整するような便利なサービスが登場するようになった。

このようなサービスはシンプルな仕組みで実現していると砂金氏は説明する。スマートフォンのアプリに対して、サーバーを介してAPI経由で企業の業務システムと連携する。CRMであればクーポンの配信、カスタマーサポートであればコンタクトセンターの仕組みである。どのような仕組みでも構わないといい、在庫管理などもできるようになったと述べた。さらに、LINEスタンプによってユーザーと心の距離を縮めたり、お客さまのロケーション(位置情報)から近くのお店を紹介したりするほか、ネイティブアプリとしてFlex Messageの送受信が可能。iOS、Androidともに、簡単にアプリ制作ができることもメリットだという。

「LINE カスタマーコネクト」というサービスは、FAQを元にしたAIによる自動応答や有人でのチャット対応を可能にしたり、Webサイト等からLINE無料電話への誘導や、携帯電話での通話からLINEでのチャットサポートへの誘導を可能にするものである。12月にサービスリニューアルをし、LINE公式アカウントのAPIオプション「LINE Chat API」「LINE Call API」として提供されている。AIと人間を組み合わせること、テキストチャットと電話の音声を組み合わせること、という2つの「ハイブリッド」が特長だ。

LINE カスタマーコネクトの導入事例としては、ニュースで大きく取り上げられましたが「いじめ相談」があります。長野県でいじめ相談の窓口をLINEで開設しました。電話でカウンセラーが相談を受けていたときには1年間で259件でしたが、LINEに変えたところ、2週間で547件もの相談がありました。いじめ相談はもちろん、あらゆる分野の困りごとにLINEのチャットによるコミュニケーション機能を使うことができるため、大きなビジネスチャンスを秘めています

Microsoft社の女子高生AI「りんな」と連携した事例もある。りんなは困りごとを解決するわけではないが、相談したときにちょっといい気分になる。最近、りんなが歌う機能追加が話題になった。さらに現在ではLINEから、りんなに電話をかけることができる。

りんなのプロフィール写真は後ろ姿で、実際にどこかに住んでいるわけではありません。しかし、女子高生とチャットができることから、全国の紳士たちがAIを本気で口説いていましたね(笑)。今回、女子高生AIと電話で会話ができるサービスを開始したところ、回線がパンクしました。いまは復帰しましたが、LINEスタンプをタップすると音声合成で「いま何してるの?」という会話が自然に楽しめます

チャットしながら電話をかけるUX(ユーザー・エクスペリエンス)の事例として、使ってみると面白いのではないだろうかと砂金氏は提案した。

スマートスピーカー「Clova Friends」の対話モデル

スマートスピーカーでは、LINEのキャラクターを使った製品を発売している。現在、世帯普及率5%と呼ばれるスマートスピーカーだが、今後何らかのスマートフォンではないデバイスが家庭で使われることが予想されるという。砂金氏は既に米国ではAmazonのAlexaが標準になり、何か困ったことがあればAlexaに聞けばいいというUXが普通になっていると述べた。

さまざまなスマートスピーカーがありますが、LINEの特長は親しみやすいことです。最初はスピーカー型の『Clova WAVE』を作りましたが、社内の反応として『この黒い物体に何か話しかけたいだろうか。気分が乗らないよね』という意見が多かったので、キャラクターにしてみようと考えて発売したのが『Clova Friends』です。

ドラえもんモデルは量販店に行ってももう在庫がなく、ミニオンも人気があります。しかもセットで売れています。スマートスピーカーは何をきっかけに普及するか分かりません。安いから買う、かわいいから買う、便利だから買う、さまざまな購入の動機があります。そして生活の中に溶け込んできたときに、サービスの提供の仕方、お客様とのコミュニケーション、アプリケーションの開発の仕方が変わってきます。「ドラえもんとおしゃべり」でよく使われているのは童話の朗読です。「Clova、桃太郎を読んで」といえば読み聞かせをしてくれます。

スマートスピーカーの対話モデルは、いままでのアプリの作り方と少し違っていると砂金氏は説明した。これまで対話モデルは、たとえば路線検索のような場合、出発駅と目的地の決められた情報を入力するだけだった。一方、スマートスピーカーの場合は、さまざまな質問を考えなければならない。これは日本語の場合には難しいことだと言う。例えば「1時間後に出発したい」という場合、1時間後は何時かコンピューター側が理解して、その要求に応えるVUI(ヴォイス・ユーザー・インターフェース)が搭載されている。

占いの場合「蟹座の運勢を占って」と訊かれたら、まず「蟹座」の部分にいろいろな変数が入ることを定義します。これがカスタムインテントです。さらに、「運勢を教えて」や「占って」など質問のバリエーションを登録します。AIを賢くするためには避けて通れない基本的な難所です。大量のデータがあるだけではなく、質問の状態を整理しないと的外れな答えになりますが、こうした学習を発展させると、台風情報、レシピの読み上げ、計算ドリルを開くなど、いままでチャットボットで可能だったことが手放しで可能になります。

11月10日にClovaのスキル開発を競うコンテストのファイナルプレゼンテーションがあります。優勝賞金は1,000万円です。みなさん応募していないので、1,000万円はもらえないのですが(笑)、見ていただくとClovaにどのようなことができるのかお分かりになると思います

ブロックチェーンで壮大な社会実験を

Clovaで音声認識のアプリを作るときに、日本語をタグ付けして、複数の質問例を覚えさせることは大変だと砂金氏は述べた。その解になる仮説として、将来的にブロックチェーンとAIという、まったく異なる技術分野を連携することも考えているという。

LINEは8月に、LINEが独自に開発したブロックチェーン技術を活用した「LINE Token Economy」構想を発表した。これによって、現在はサービスを提供する人、サービスを利用する人の2つの存在が一方的になっている世界を、よりインタラクティブなものに変えようとしている。

LINEはこのブロックチェーンネットワーク上で利用できる分散型アプリケーションとして、すでにいくつかのサービスを発表している。たとえば知識共有プラットフォームとして「Wizball」がある。「4CAST」はお題を出して、各個人が未来を予想するサービスである。ひとつのテーマに関して、それぞれの期待値をタグ付けした貴重なデータが得られる。今後公開予定の「Pasha」では、商品を写真に撮って、そのレビューを共有するというものだ。このように、ユーザーは、サービスを利用する中でのアクション内容やサービスへの貢献レベルに応じてインセンティブを受け取ることができる。今後、このようなサービスを続けてリリースしていくという。

LINEがブロックチェーンベースのアプリケーションに高い優先度で取り組んでいる背景には『インセンティブモデルを世の中に定着させられるかどうか?』という壮大な社会実験があります。ポイントカードやマイレージカードは、個人情報の提供と引き換えに利益を得られる仕組みで成功しました。同じビジネスモデルをバーチャルなアプリの世界で作るための考え方が『Incentive Based Annotation』です。

AIに価値を学習させることをアノテーションと呼ぶことがありますが、現時点では人間がタグ付けしなければならないことが多く煩雑です。しかし、嫌々タグ付けするのではなく、生活の中で普通にアプリを使いながらインセンティブをもらえることができれば、データ収集に関する苦労を解決できるのではないか、という考え方に基づいています。

アメリカや中国は、このような情報を収集してAIに学習させやすいエリアです。AIとブロックチェーンはまったく別のバズワードに思えるかもしれませんが、これらを結びつけて、日本のAI業界全体が抱える問題を解決していこうという試みです

LINEのミッションは「CLOSING THE DISTANCE」である。最初はユーザー同士の距離を縮めてきた。今後はAIとユーザーで、相手がAIと分かっていながらつい口説いてしまう「りんな」のようなアプリやデバイスが世の中にあふれて、社会がしあわせになれば素敵ではないだろうか。砂金氏はそう語って講演を終えた。