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チャットボットの元祖「ELIZA」の誕生

最近話題のチャットボットですが、その歴史は想像以上に古いものです。チャットボットの初期型と言われるELIZA(イライザ)は1966年にジョセフ・ワイゼンバウムによって発明されました。

ELIZAは、簡単なパターンマッチング技法を使った自然言語処理プログラムでした。患者役のユーザーが入力するスクリプトに対して、セラピストを装った応答をする「DOCTOR」とよばれる来談者診断会話シミュレーションが有名です。どのような会話か例を見てみましょう。

User: I am feeling depressed. (落ち込んでいます)
ELIZA: How long are you feeling depressed? (いつごろから落ち込んでいますか?)

とても自然なやりとりですが、種を明かしましょう。

実は、ELIZAには、”I am feeling xxx”(xxxの気分です)というキーワードに対して、”How long are you feeling xxx?”(xxxの気分なのはいつごろからですか?)という決まった応答をするようルールが組み込まれているのです。

ただし、ひとつのキーワードに対して複数のパターンがデーターベースにあるため、それを順番に選ぶことにより、同じ応答が繰り返されないように制御されています。

ユーザーのスクリプトにキーワードが見つからない場合には、“それは興味深いですね。続けてください。”もしくは、“もう少し詳しく説明していただけますか?”といった当たり障りのない応答を返します。

一見賢そうですが、たとえ英語以外の言語や意味をなさない文章を入力した場合でも、このような定型応答を返してしまうという弱点がありました。

当初、ELIZAが見せた感情のこもった応答に人々は驚き、感銘を受けました。しかし、一見すると成立しているような人とのやりとりは、その実、まだプログラムによる言葉遊びのレベルだったのです。

とはいえ、ELIZAの登場によって浮き彫りとなった問題を解決すべく、その後次々とチャットボットが開発されていきます。もう50年以上も前に誕生したELIZA。彼女は現代のチャットボットに続く長い道のりを真っ先に歩き始めた、革新的な先駆者に違いありません。

意見を持つELIZA、PARRYの登場

精神科医として人間と対話したELIZAとは対照的に、1972年に精神科医のKenneth Colbyにより開発されたPARRYは統合失調症の患者の振る舞いをモデル化して作られました。

PARRYの基本的なプログラムはELIZA同様、キーワードをデータベースから検索し自動的に返事をするというものでした

ただ、ELIZAは話の聞き役であったのに対し、PARRYは自分の信念、恐怖、心配ごとなどについて触れることにより積極的に相手を会話に引き込むようプログラムされていました。そのため、“意見を持つELIZA”と呼ばれたのです。

そして1972年、おもしろい実験が行われました。医師であるELIZAと患者であるPARRYとの会話が実現したのです。

チャットボットの元祖ELIZAと、より革新的に進化したPARRYという、2つ(2人?)のチャットボットが出会った瞬間でした。果たして両者のやりとりはうまく成立せず、滑稽な会話に終わってしまいます。

ローブナー賞に輝いた、JABBERWACKYとA.L.I.C.E.

時代は変わり、続いて登場したのはJABBERWACKYでした。Rollo Carpenterによって、1988年に開発されたJABBERWACKYは、人と楽しく会話をすることを目的として作られたチャットボットです。

それまでのチャットボットがデータベースにある既存の情報から応答パターンを選択していたのに対し、JABBERWACKYは人間との対話を通して言語と文脈を学習し、新たな応答を作成することができました。ただ、人間が話題を頻繁に変えたり、急に別の話を始めた場合にはうまく対応ができず、会話が成立しないことが多くありました。

その後、改良が施され、膨大な会話からのデータを蓄積したJABBERWACKYは、2004年のローブナー賞(人工知能として最も人間に近いと判断されたチャットボットに与えられる賞)において2位を獲得するまでに進化(後発のA.L.I.C.E.に敗退)。さらに続く2005年、2006年には、それぞれJABBERWACKYのキャラクターであるGeorgeとJoanがローブナー賞の1位に輝きました。

続いて、1995年に誕生したのがA.L.I.C.E.(Artificial Linguistic Internet Computer Entity)です。A.L.I.C.E.は、Richard WallaceによりAIMLというXML を応用したマークアップ言語を使って書かれたオープンソースのプログラムでした。

ELIZA同様、パターンマッチング技法を使い会話をするA.L.I.C.E.ですが、オープンソースであったことも助け、対応できるルール数を飛躍的に増やすことに成功。ELIZAが備えていた応答ルールは200種類でしたが、A.L.I.C.E.には実に200倍、40,000ものルールが備わっていました。その後に開発されるチャットボットの基礎といえるプログラムとなったA.L.I.C.E.は、2000年、2001年、2004年にローブナー賞を受賞しています。

コールセンターのBCP対策

本当の意味で、言葉を理解するチャットボットの実現はこれから

繰り返されてきたAIブーム

私たちは現在、第三次AIブームにいると言われています。

第一次AIブームは、1950~1960年代。「推論と探索」をベースとして、迷路や簡単なクイズ、ゲームを解くことができるシステムでした。ルールとゴールをセットすることに限界があるため、期待ほどには現実社会で生かせませんでした。

それに続く第二次AIブームは、1980年代に到来します。当時のAIは、エキスパートシステムとも呼ばれていました。エキスパートシステムとは、例えば、医師の病気の診断方法を整理してルール化し、「お腹が痛いですか?」といった質問に答えていくと、ある程度の正しい診断が行えるといったものでした。

これを応用して、様々な専門家の知識を学習させ、社会の役に立つAIを開発するべく研究が進められましたが、結局とん挫しました。これは、知識やルールの体系化には限界があり、当時のAIが複雑な問題に対応できなかったことにあります。

先にご紹介したA.L.I.C.Eも、第二次AIブームのチャットボットといえます。ELIZAはその前身にあたります。 確かに壁にはぶつかりましたが、その後のAI研究の礎を築いた重要な成果ともいえます。

ルールベースのAIの限界

第一次・第二次のAIブームが失敗に終わった原因は明らかです。結局のところ、人がルールや知識を体系的に整理し、AIに与えなくてはいけなかったためです。

もし晴れだったら、傘を持っていかない
もし曇りだったら、折りたたみ傘を持っていく
もし雨だったら、傘を持っていく

このようにルールが3つしかなければ、確かに話は簡単です。

しかし、

もし前日が雨で、今日が晴れだったら、傘を持っていかない
もし前日が雨で、今日が曇りだったら、折りたたみ傘を持っていく
もし前日が雨で、今日が雨だったら、傘を持っていく

例えば、このように前日の天気という要素(パラメータ)をひとつ増やしただけで、ルールは各段に複雑になります。

実際には、「前日の天気」「今日の天気」「今日の気温」「今日の湿度」「今日の風向き」「今日の気圧配置」・・・と、世の中のパラメータは無数にあり、それぞれが相関し、影響し合っています。

つまり、実社会で役に立つAIを考えると、人がルールや知識を与えることは現実的ではないことがわかります。ルールベースのAIは、複雑な問題に出会った瞬間、役に立たないものになるのです。

ディープラーニングの革新性とチャットボットの可能性

人がルールを与えるのでは、汎用的なAIは実現しない。この課題を解決したのが、ディープラーニングです。

ディープラーニングは、画像認識の分野で革新的な結果を出します。2012年の画像認識コンテスト(ILSVRC)において、ディープラーニングを取り入れたトロント大学のジェフリー・ヒントン教授が他チームを大きく引き離して圧勝したのです。

ディープラーニングでは、人に教えられることなく、データの特徴をつかむことができます。小さな子どもに繰り返し、様々な犬と猫の画像を見せて「これは犬」「これは猫」と教えると、犬と猫の見分けがつくようになる過程と同じです。

つまり、ディープラーニングでは、人から「ピンと立った耳が二つある(実際には、三角のとがった部分が二つ」「耳の下あたりに目が二つある」などと教えられなくても、猫のおおよその特徴をつかみ、初めて見た猫の写真も「猫だ」と認識できるわけです。

このようにディープラーニングは、画像認識の分野で革新的な成果を出し、人間と同等または人間を超える精度を出しています。一方、チャットボットで必要となる、「意図解釈」「意味認識」「対話」領域のAIはまだ発展途上です。

AIの発展度合いは領域によって異なる

今後は、画像認識や顔認識のように、ディープラーニングまたは新たな優れたアルゴリズムの開発によって、対話型AIも革新的な進化を迎える可能性があります。

ただ、現時点では、最先端の機械学習モデルを組み込んだチャットボットも、言葉の意味を理解して対話しているわけではありません。あくまで、事前に学習させる教師データによって統計確率的にユーザーの意図を推定し、最も確からしい回答を返しているのです。

一方、ELIZAからA.L.I.C.Eが使ってきたようなパターンマッチングを利用したルールベースのチャットボットは、現在でも利用価値があり、実際の顧客サポートでも活用されています。

対話は私たち人類が古代から続けてきた、最も基本となる人の営みです。

ますます開発が盛んになるチャットボットが今後、どれほど人と対話できるようになるのか、それを実現するAIにどんなブレイクスルーがあるか、注目していきましょう。

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細川
モビルスでは、IBM Watson、Google Dialogflow、BEDORE、LINE BRAINなど様々なAIエンジンと連携したチャットボットの開発実績があります。AIチャットボットをお考えでしたら、モビルスまでご相談ください。

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