ナレッジマネジメントとは?導入メリット・手順・実践プロセスまで
投稿日:2025年11月28日 | 更新日:2025年11月28日
現代ビジネスにおいて、企業の知識やノウハウの属人化は、成長を阻む深刻な課題です。こうした状況を打破し、組織力を最大化するために欠かせないのがナレッジマネジメントです。
本記事では、「ナレッジマネジメントとは?」という基本的な定義から、情報管理との違いを明確に解説します。さらに、なぜ今注目されているのか、そして導入することで得られる業務効率化、教育コスト削減、競争優位性の創出といった具体的なメリットを詳述します。
また、実践するためのプロセスと手法、そして組織全体でナレッジを定着させるための具体的な導入手順までを網羅的にご紹介します。
ナレッジマネジメントの基本を理解し、導入メリット・手順・実践プロセスを知りたい方へ、組織の知識資産を最大限に活用するための重要なヒントをお届けします。
<目次>
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生成AIの活用により、社内に散在する情報を整理・統合し、更新サイクルを効率化することで、コンタクトセンターの現場の課題解消を目指す動きが広がりつつあります。
本セミナーでは、こうしたAI活用を見据え、“AI時代に対応する課題別のナレッジ運用ノウハウ” を中心に、現場で今から取り組めるヒントをわかりやすく解説します。
「ナレッジを改善したいが何から手を付けてよいか分からない」「ナレッジがオペレーターに利用されない理由と対策を知りたい」といった方に特におすすめです。
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ナレッジマネジメントとは?
まずは、ナレッジマネジメントの定義や意味、注目されている背景について、詳しくご紹介します。

定義と意味
ナレッジマネジメントとは、組織内に存在する知識・ノウハウ・経験などを共有・活用し、組織全体の価値創出力を高める仕組みのことを指します。
ここで言う「ナレッジ」には、業務マニュアルや資料のような形式知だけでなく、長年の経験を持つベテランオペレーターが持つ暗黙知(経験や勘、瞬時の判断基準など)も含まれます。つまり、ナレッジマネジメントとは「組織に眠る知識を可視化し、再利用可能な形で活かす仕組み」に他なりません。
「情報管理」との違い
ナレッジマネジメントと混同されがちな概念として「情報管理」がありますが、この両者は目的が根本的に異なります。情報管理が「データの整理・保管」を主な目的とするのに対し、ナレッジマネジメントは「人が生み出す知識を活かす」ことを目的とします。単なる文書管理で終わるのではなく、「知識が循環する組織文化」を作る点にこそ、コールセンター(コンタクトセンター)の生産性を飛躍させるナレッジマネジメントの真価があるのです。
なぜ今ナレッジマネジメントが注目されているのか
現在、ナレッジマネジメントが注目される背景には、コールセンター業界特有の、リモートワークの普及、人材の流動化、そして深刻な属人化の問題があります。経験豊富な社員が退職や異動をした途端に、そのノウハウが失われるというリスクを防ぐため、企業は個人の知識を「組織資産」として蓄積する必要に迫られています。
また、顧客対応の高度化や、データに基づいた運営を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)推進においても、ナレッジマネジメントは不可欠です。システムでデータを活用するには、その前にまず、現場の「人の知」が整理され、形式知として整備されていなければなりません。つまり、ナレッジマネジメントはDXの土台となる考え方なのです。
ナレッジマネジメントの目的と導入メリットとは?
ナレッジマネジメントを導入する主な目的は、従業員個人の持つ知識やスキルを組織全体で共有し、組織全体のパフォーマンスを最大化することにあります。具体的に、どのようなメリットと効果が期待できるのかを見ていきましょう。

属人化の解消と組織力の向上
コールセンターの現場責任者である皆様が抱える大きな課題の一つに、「この業務はあの人しかわからない」という属人化があります。特定の個人に知識が集中している状態は、その担当者の離職や配置転換時に、オペレーションの品質低下や顧客満足度の低下に直結する大きなリスクです。
このリスクから組織を守り、安定したパフォーマンスを実現するための鍵が、ナレッジマネジメントです。
ナレッジマネジメントとは、ベテランの経験や勘といった「暗黙知」を、マニュアルやFAQ(よくある質問)などの「形式知」へと体系的に変換し、組織全体で共有する仕組みです。
これにより、誰でも同じ品質で仕事ができる体制が構築されます。担当者の交代・離職が発生しても、知識はシステム上に残り、断絶が起きにくくなります。結果として、個人の能力に依存しない、安定した組織全体のパフォーマンスを確保することができます。
業務効率化・教育コスト削減への効果
ナレッジマネジメントの導入は、具体的な成果として生産性の向上とコスト削減をもたらします。知識が共有されることで、オペレーターは同じ質問や過去のミスの解決策を自力で確認できるようになり、同じミスの繰り返しが大幅に減少し、業務処理のスピードが加速します。
また、体系的に整備されたFAQやマニュアルは、新入社員や異動者の教育を劇的にスムーズにします。OJT(On-the-Job Training)にかかる時間が削減され、即戦力化までのスピードが上がり、人件費と教育コストの削減に直結します。
特にカスタマーサポート部門では、ナレッジベースの活用により、オペレーターが瞬時に必要な情報を引き出せるため、1件あたりの平均対応時間が大幅に短縮された事例が多数あります。これは、業務効率化の大きな成果です。
顧客満足度(CS)の向上
ナレッジマネジメントの恩恵は、社内の生産性向上に留まりません。それは、企業の生命線ともいえる顧客体験(CX)の向上に直結する重要な要素です。
コールセンターにおいて、顧客体験を悪化させる最大の要因の一つは、「たらい回し」や「人によって対応が違う」といった対応の品質のばらつきです。これを解消するために、問い合わせ対応履歴や過去のトラブル事例を詳細なナレッジとして蓄積・共有することが不可欠です。
このナレッジベースを活用することで、経験年数に関わらず、どの担当者でも顧客からの複雑な問い合わせに対して、素早く、そして極めて正確な対応ができるようになります。顧客は「このセンターに電話すれば、すぐに問題が解決する」という体験を得るため、対応に対する不満が解消され、顧客満足度(CS)が飛躍的に向上します。
顧客満足度の向上は、短期的な成果ではなく、その後のブランド信頼の向上という形で企業に還元されます。信頼性の高いサポートは、リピート率の向上や口コミによる新規顧客獲得にも寄与し、持続的な企業価値の向上につながるのです。
競争優位性の創出
ナレッジマネジメントの真価は、単なる情報の保存ではなく、過去の知見を再利用して新しい価値を生み出す「知識の再生産」を可能にする点にあります。これは、組織の持続的な成長エンジンとなる機能です。
知見が共有される仕組みを持つ企業では、現場で発生した一つひとつの事象が、貴重な学習機会へと変わります。例えば、失敗事例を単なるマイナス要因として終わらせるのではなく、ナレッジとして共有することで、全社的にその原因を分析し、次の業務改善や新サービス開発のアイデアに活かすことができます。
また、ある部署で大きな成果を上げた成功事例を形式知化し、他部署へ迅速に横展開することも容易になります。これにより、全社的なベストプラクティスが標準化され、組織全体で効率よく、かつスピーディに成長していく組織学習が促進されます。
この知識の再生産と組織学習のサイクルが機能することで、競合他社には容易に真似できない、組織固有のノウハウと適応力が蓄積されます。これが、市場における持続的な競争優位性を生み出す決定的な要素となるのです。
ナレッジマネジメント実践のプロセスと手法とは?
ナレッジマネジメントは、「知識を管理する」だけでなく、現場で生まれる知見を組織全体の資産に変えていく一連の流れを指します。ここでは、ナレッジがどのように生まれ、共有され、活用され、次の知識へと進化していくのか、その核となるサイクルを整理します。

知識の「創造」「共有」「活用」「蓄積」サイクル
ナレッジマネジメントを組織に定着させるためには、単にツールを導入するだけでなく、知識が現場で生まれ、活用され、進化していく一連の流れ(サイクル)を意識することが基本となります。この流れをシステムと組織の習慣として組み込むことで、知識は自然と組織に循環し、資産として成長していきます。
私たちが提唱するのは、知識を絶えず進化させる以下の四つのサイクルです。
1. 創造(Create):現場で新しい知見や工夫が生まれる
ナレッジの出発点は、日々の業務、つまり「現場での新しい知見や工夫が生まれる瞬間」です。顧客対応で未解決のトラブルをうまく乗り切った方法や、オペレーターが見つけ出した効率的な作業手順の発見などがこれにあたります。これら一つひとつの「気づき」を、見過ごさずに知識の種として捉えることが第一歩です。
2. 共有(Share):チームや他部署に伝える
生まれた知見は、鮮度が命です。この段階では、情報の「質」よりも「スピード」が大切になります。ミーティング、チャット、あるいは専用の社内Wikiなどを通じて、チームや他部署へ素早く伝える環境を整備することがポイントです。思いついた時にすぐ共有できる仕組みこそが、知識の停滞を防ぎます。
3. 活用(Use):共有されたナレッジを業務に活かす
共有されたナレッジは、実際に業務に活かされて初めて価値を生みます。これは、他の現場でも使えるように展開することです。具体的には、FAQの更新、マニュアルの改善、新人教育資料への反映などです。ナレッジが使われることで、その有効性が証明され、「生きた知識」へと昇華します。
4. 蓄積(Store):成果を記録し、再利用できる形で残す
活用された成果は、次に再利用できる形で残さなければなりません。ナレッジを体系的に整理し、誰でも簡単に検索・再利用できるようにシステムに格納します。ここで重要なのは、蓄積は単なる「情報倉庫」ではなく、「次に活用するためのストック」であるという点です。
この4つの段階を継続的に回すことで、組織全体の知的資産が常に成長・進化する仕組みが生まれます。ナレッジマネジメントとは、まさに「学びが次の学びを生むサイクル」であり、この流れを実践することが、御社の持続的な成長を支える基盤となります。
SECIモデル(共同化・表出化・連結化・内面化)の理解
ここまで、ナレッジマネジメントのサイクルが組織の成長に不可欠であることをご説明してきました。この「学びが次の学びを生むサイクル」を理論的に説明し、世界的な経営学のモデルとなったのが、一橋大学名誉教授である野中郁次郎氏が提唱したSECI(セキ)モデルです。
これは、個人の知識である「暗黙知(経験や勘)」が、組織全体の共有財産である「形式知(マニュアルやデータ)」へと発展し、さらに新たな暗黙知を生み出すという、ダイナミックな知識創造のプロセスを示したモデルです。
このプロセスは、以下の四つのフェーズで構成されています。
1. 共同化(Socialization):経験や感覚の共有
まだ言葉になっていない、個人の暗黙知を、OJTや現場同行、対話といった「経験の共有」を通じて直接伝達するフェーズです。コールセンターで言えば、ベテランが新人に「顧客の微妙なトーンからニーズを察知する感覚的なコツ」を伝える場面などが該当します。
2. 表出化(Externalization):暗黙知の言語化・可視化
共同化で共有された経験を、文字や図表を用いて説明できる形式知に落とし込むフェーズです。ここが、ナレッジマネジメントシステムの中核となる部分です。成功事例を社内Wikiに言語化してまとめたり、トラブル解決プロセスをFAQとして書き起こす作業がこれにあたります。
3. 連結化(Combination):形式知の整理・統合
複数の形式知を組み合わせて、より広範で新しい体系を作り上げるフェーズです。たとえば、異なるチームが作成した手順書を統合し、全社共通の最新マニュアルを再構築するといった作業です。これにより、知識の整合性が高まり、組織全体でブレのない対応が可能になります。
4. 内面化(Internalization):知識の実践と体得
連結化された形式知を、現場で実践し、体得するプロセスです。オペレーターが新しいマニュアルを使って実務を繰り返し行い、その内容を自身のスキル(再び暗黙知)として定着させる段階です。
このSECIのプロセスを組織的に繰り返すことで、個人の知識が組織全体に広がり、その知識を基にまた新たな知恵が生まれるという、知識創造のスパイラルが生まれます。これが、御社の知識資産を絶えず進化させるための理論的基盤です。
暗黙知と形式知の違いと、変換のポイント
ナレッジマネジメントの議論において、最も核となる概念が「暗黙知」と「形式知」です。この二つの知識をいかに変換し、組織内で循環させるかが、マネジメント成功の鍵となります。
暗黙知:頭の中にある、言葉にしづらい経験的な知識
暗黙知とは、個人の頭の中にある、長年の経験や勘に基づいた知識です。コールセンターで言えば、「クレーム対応における絶妙な接客のタイミング」や「顧客の沈黙や声のトーンから顧客心理を読み取る能力」などがこれにあたります。これらは非常に価値が高いにもかかわらず、個人のスキルに依存しており、文書化が困難なのが特徴です。
形式知:文書化・共有化された知識
一方、形式知とは、文書やデータとして整理され、誰でも利用・共有できる形になった知識です。具体的な例としては、オペレーターが使うマニュアル、ミスを防ぐためのチェックリスト、ウェブサイトに公開されているFAQなどが挙げられます。
現在、多くの企業が直面する課題の多くは、「暗黙知が人にしか依存していない」ことに起因します。ベテランのノウハウが個人の頭の中に留まっている限り、その人が離れると組織の力が半減してしまいます。
ナレッジマネジメントの要は、この貴重な暗黙知を他の人でも使える形式知へと変えることです。この変換が、組織全体の対応品質を底上げし、競争優位性を生み出す源泉となります。
暗黙知を掘り起こし、形式知に変換するための鍵は、「言葉にしづらい経験を、自然と話せる場を作る」ことです。
- 定期的な共有会や1on1ミーティングの設計: 形式的な報告会ではなく、対応の「なぜうまくいったのか」「あの時どう感じたのか」といった感覚的な部分を語り合う場を設けます。
- 事例ノート・記録の習慣化: 成功・失敗に関わらず、対応後の気づきを短文でも記録する習慣をつけることで、経験が自然と言語化される仕掛けを作ります。
- 質問や相談を歓迎する風土: 「こんなことを聞いてもいいのか」という心理的障壁を取り除き、質問や相談を歓迎する文化を醸成することで、ベテランの暗黙知の掘り起こしが飛躍的に進みます。
この仕組みと風土を設けることで、組織の最も価値ある資産である暗黙知が、継続的に形式知へと変換され、組織全体に循環するようになるのです。
ナレッジ共有を促進する組織文化づくり
ナレッジマネジメントシステムは、ツールを入れるだけで成功するものではありません。ナレッジマネジメントを真に成功させる最大の鍵は、システムを動かす「文化の醸成」にあります。
どれほど優れたナレッジ共有ツールを導入しても、現場の社員が「知識を共有したい」「この情報を残したい」と思わなければ、システムは機能しません。知識が個人の頭の中に留まり続ける状態を打破するためには、共有を「義務」ではなく「助け合い」として感じられる心理的な安全性が不可欠です。
そのためには、共有に対するポジティブな報酬を明確にすることが重要です。「投稿したらすぐに感謝される」「自分の知識がチーム全体のパフォーマンス向上を助けている」とオペレーターが実感できるような環境を整えることが大切です。例えば、社内掲示板やチャットツールで、ナレッジの投稿に対する「いいね」や「ありがとう」を積極的に可視化するだけでも、共有意欲を高める効果があります。
この文化づくりの第一歩として欠かせないのが、リーダー層の率先した行動です。現場責任者やマネージャー層が率先して過去のノウハウや成功事例を共有し、「上司が見せる・語る」姿勢を示すことで、「共有は重要だ」というメッセージが組織全体に浸透します。
ナレッジマネジメントは、上層部からのトップダウンで知識を押し付けるものではありません。むしろ、現場から自発的に生まれる知を尊重し、それを組織全体で拾い上げ、感謝する風土こそが、ナレッジマネジメントを組織に深く根付かせ、持続的な成長を可能にする原動力となるのです。
ナレッジマネジメントの導入の手順とは?
ナレッジマネジメントは、単にツールを導入するだけで完結するものではありません。「なぜ行うのか」「どのように知識を整理・共有・運用するのか」を段階的に設計し、現場で「使われる仕組み」として根付かせることが成功の鍵です。ここでは、実践的な導入ステップを六段階で解説します。

① 現状の課題と目的を明確にする
ナレッジマネジメント導入を成功させるための最初のステップは、「なぜナレッジマネジメントが必要なのか」を明確にすることです。
システム導入前に、御社のコールセンターの具体的な課題を洗い出す必要があります。
例えば、
- 属人化が進み、退職・異動によって重要な知識が失われている
- オペレーター間で同じ問い合わせやミスが繰り返されている
- サポート部門と開発部門など、部門間で情報が断絶している
といった課題を特定しましょう。そして、これらの解消に向けた具体的な「改善したい指標(KPI)」を設定します。
この目的設定を誤ると、ナレッジマネジメントは「とりあえず情報を貯めるだけ」の形骸化に陥ってしまいます。
ナレッジマネジメントの真のゴールは、ナレッジを「貯める」ことではありません。「現場で活用される知識を増やす」ことをゴールに据えることが極めて重要です。この明確な目的意識こそが、システムを「生きた資産」にするための方向性を示す指標となります。
② ナレッジの定義とスコープを決める
ナレッジマネジメント導入の目的を明確化した後に取り組むべきは、「どんな情報をナレッジと呼ぶのか」を明確に定義することです。
この定義が曖昧だと、現場は「何を残せばいいのか」が分からず、収集対象がブレたり、必要な情報が漏れたりする原因となります。ナレッジとして扱う情報の範囲を具体的に線引きしましょう。例えば、以下のようなものが収集対象となり得ます。
- 業務マニュアルや手順書
- 顧客からのFAQとQ&A(よくある質問とその回答)
- 成功事例(対応時間が短縮された方法など)や失敗事例(トラブルの再発防止策)
- 過去の顧客対応履歴の詳細、特記事項
- システムに関する技術メモ、設計変更の議事録
このように扱う範囲を定義することで、収集・管理の対象が明確になり、システムへの登録作業が効率化されます。
同時に、情報セキュリティと透明性のバランスを取るために、社内で「共有してよい情報」と、部署長などの「閲覧・利用に権限が必要な情報」の線引きを厳密に行うことも大切です。この線引きを明確にすることで、現場は安心してナレッジを共有・活用できるようになります。
③ ナレッジを収集して整理する
ナレッジの定義が明確になったら、次のステップは、現場に散らばっている貴重な知識の収集です。
主な情報源となるのは、過去のメール、チャット履歴、既存の社内ドキュメント、古いFAQ、カスタマーサポート(CS)の対応ログなどです。これらのデータこそが、生きたノウハウの宝庫です。
しかし、この際の最も重要なポイントは、「ただ集める」のではなく、検索・再利用しやすい形に整えることです。単にデータを一箇所に集約しただけでは、利用者にとって価値は生まれません。実際、多くの企業では「情報はあるが、探せない」状態がボトルネックとなり、ナレッジマネジメントが機能不全に陥っています。
このボトルネックを解消するためには、後の利用者視点を意識した整理が不可欠です。
- カテゴリ分類やタグ設計を行い、情報の構造化を図る
- 検索ワードや同義語・異表記の統一といった工夫を行う
これにより、オペレーターが必要な知識に瞬時にアクセスできるようになり、ナレッジが現場で「生きた知識」として活用され始めます。収集と同時に整理を進めるプロセスこそが、ナレッジマネジメントシステムの真の価値を引き出す鍵となります。
④ 共有・活用の仕組みを設計する
整理したナレッジは、次の段階として、現場でスムーズに共有し、活用できる「環境の構築」が必要です。
ここでは「どのように共有するか」が最大のポイントとなります。代表的なツールとしては、Notion、Confluence、esaなどのドキュメント管理ツールや、Zendesk、Helpfeelのような特化型のFAQツールなどが挙げられます。ツールの選定も重要ですが、さらに重要なのは、「利用者にとって使いやすい導線設計」です。
単にナレッジをシステムに格納するだけでは、オペレーターは業務中にわざわざ別画面を開いて検索するという手間を嫌がり、利用率は上がりません。
ナレッジを「生きている」状態にするためには、利用者が業務中に自然にアクセスできる導線設計が不可欠です。例えば、
- オペレーターが日常的に使うチャットツール(Slackなど)から直接ナレッジを検索できる連携を組み込む。
- CRM(顧客管理システム)や問い合わせ管理システムで特定のキーワードが入力された際に、関連するFAQを自動で表示する機能を組み込む。
こうした工夫によって、必要な情報へのアクセスにかかる手間を最小限に抑えられ、ナレッジの利用率が格段に上がり、結果として平均対応時間(AHT)の短縮などの効果に結びつきます。
⑤ 運用体制とルールを整える
ナレッジマネジメントを単なる一時的なプロジェクトで終わらせず、組織の力として持続させるには、「運用する人」と「更新ルール」が不可欠です。
どれほど優れたシステムと初期データがあっても、運用が止まれば知識は陳腐化し、やがて誰も信用しなくなります。これを防ぐため、各部署にナレッジの品質維持を担う「ナレッジ管理者」を設け、定期的に内容の更新やレビューを行う仕組みを作ることが重要です。
知識を常に新鮮な状態に保つための運用ルール設計の例は以下の通りです。
- 投稿時の統一ルール: 投稿時には、検索性を高めるためのタグ付けやタイトルのルールを統一します。
- 更新期限の設定: ナレッジごとに更新期限を設定し(例:半年ごとに内容レビュー)、自動的に管理者に通知がいく仕組みを導入します。
- アーカイブの実施: 古い、または利用されなくなったナレッジは自動的にアーカイブし、検索結果から除外します。
こうした運用設計こそが、ナレッジマネジメントが陥りがちな「知識が溜まるだけで使われない」状態を防ぐための強固な基盤になります。運用とルールが確立されてこそ、ナレッジは組織の生き続ける資産となるのです。
⑥ 定着と改善を繰り返す
ナレッジマネジメントの真価は、導入や運用ルールの整備ではなく、「定着」にあります。システムが組織の日常業務に組み込まれ、自然に使われる状態になって初めて、最大の効果を発揮します。
定着を実現するには、利用状況の継続的な可視化が不可欠です。導入直後からアクセス分析や利用者アンケートを通じて、「どのナレッジが頻繁に使われているか」「どのカテゴリの情報が更新されずに陳腐化しているか」を具体的に把握する必要があります。
この利用者の声とデータを基に、UI(ユーザーインターフェース)やカテゴリ構成を改善するなど、「使われ続けるナレッジベース」に育てることが大切です。知識の鮮度と検索性を常に向上させる、継続的な改善サイクルを回す必要があります。
加えて、現場の貢献意欲を高める施策も重要です。ナレッジの投稿や更新への貢献度を可視化し、表彰制度やポイント付与などのインセンティブ設計を行うことで、「共有が評価される」という文化を根付かせます。このインセンティブ設計が、ナレッジマネジメントを一時的な義務ではなく、組織の習慣として定着させる強力な推進力となるのです。
まとめ
本記事では、ナレッジマネジメントの基本的な定義から、属人化の解消や競争優位性の創出といった導入メリット、そして実践に不可欠なSECIモデルや具体的な導入の6ステップについて解説しました。
ナレッジマネジメントは、単なる情報のデジタル化ではなく、組織が持つ暗黙知を形式知に変換し、それを継続的に「創造」「共有」「活用」「蓄積」していくための仕組みづくりです。実現することで、業務効率化や教育コスト削減という目に見える効果だけでなく、組織全体の知の創造力を高めることができます。
ナレッジマネジメントの成功は、ツール導入だけでなく、現状の課題の明確化と、ナレッジを共有し活用するための組織文化づくりにかかっています。
ぜひ本記事で紹介した導入手順を参考に、まずは「ナレッジの定義」や「課題の明確化」といった最初のステップから取り組みを始めてみてください。組織の知識を資産に変え、持続的な成長を実現するための第一歩を踏み出しましょう。
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本セミナーでは、こうしたAI活用を見据え、“AI時代に対応する課題別のナレッジ運用ノウハウ” を中心に、現場で今から取り組めるヒントをわかりやすく解説します。
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2025年12月4日 (木) 15:00~と、10日 (水) 12:00~の2日程で、開催予定となっております。どちらの日程も同じ内容です。ご都合のよい日程にご参加ください。
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