【2025年度版】AIエージェント導入メリット・ステップ・リスク
投稿日:2025年5月30日 | 更新日:2025年5月29日

生成AIへの注目が集まる中、ビジネスの現場では、タスクを自律的に実行するAIエージェントへの関心が急速に高まっています。AIエージェントの業務への導入を検討している方も多いのではないでしょうか。コールセンター(コンタクトセンター)でも、最新の技術を用いた賢いバーチャルアシスタントであるAIエージェントの実用化が見込まれています。当記事では、AIエージェントの基本的な概要から、導入するメリットや導入までのステップと注意点、導入における課題とリスクまで詳しく紹介します。
<目次>
AIエージェントとは?
AIエージェントとは、人工知能を活用して、人間のように対話や意思決定、業務処理を行うプログラムまたはシステムのことです。音声やテキストを通じて人と対話し、指示を理解し、タスクを実行する機能を持ちます。目的遂行に向けて自律的に一連の業務を実行します。
チャットボットとの違い
チャットボットはあらかじめ定義されたシナリオやFAQ(よくある質問)をもとに返答する“受動的な応答システム”ですが、AIエージェントは“目的達成型”の自律的なAIです。
例えば、チャットボットは「返品方法は?」と聞かれた場合、「返品ポリシーはこちらです」とURLを返すだけですが、AIエージェントは「お手元の商品は何ですか?」「いつ購入されましたか?」と対話を通じて状況を把握し、最適な案内を自動で行うことができます。
さらに、顧客情報を基にしたパーソナライズや、社内外の他のシステムのAPI※1との連携、情報の要約・再構成なども行えるため、より人間に近い「相談相手」として機能するのが特徴です。
従来のチャットボットのように「質問→回答」だけに留まらず、例えば以下のようなプロセスを自律的に実行できます。
====
ユーザーの曖昧な指示(例:「先月の売上分析結果をまとめて」)に対して、
外部ツール(例:Google Sheets, Notion, 自社DBなど)を探索・実行し、
必要な情報を収集・要約し、ユーザーに最終出力を返す
====
このように、「対話 × 実行 × 推論」を一体的に行うのがエージェントの本質です。
AIエージェントはチャットボットより優れているというわけではなく、役割の違いと言えるのではないでしょうか。例えば、顧客対応での利用シーンで比較した場合、決められたルールの中で、シンプルな処理で一定の結果を一貫性を持って提供したい場合であれば、コストを抑えられるチャットボットの方が適しています。より対話型でテキストや音声、画像などを介したマルチモーダルで直感的なやりとりをしたい場合などは、AIエージェントが向いていると言えます。
※1 API:Application Programming Interface:ソフトウェアやアプリケーション、Webサービスなどを連携するためのインターフェース

AIエージェントの種類と特徴とは?
AIエージェントの種類と特徴
AIエージェントには「反応型」「モデルベース型」「目標ベース型」「学習型」「ユーティリティベース型」「階層型」といった種類があり、特徴が異なります。さらに、複数のAIエージェントがお互いに連携し合う「マルチエージェントシステム」であることも大きな特徴です。
反応型エージェント
最も基本的な形式である反応型エージェントは、外部からの入力に対して即座にあらかじめ定められた応答を返すシンプルな構造を持ちます。状態の保持や過去の文脈理解といった機能はなく、単発のやり取りに特化しているのが特徴です。
FAQの自動応答や、注文ステータス確認といった用途では十分な成果を発揮し、ルールベースのチャットボットからの移行にも適しています。例えばECサイトでの配送状況確認や、自治体の簡易な問い合わせ受付など、明確な質問に即座に対応できる環境では高い効果が得られるでしょう。
モデルベース型エージェント
モデルベース型エージェントは、環境の変化を内部モデルとして保持し、それに基づいて将来的な状態を予測しながら意思決定を行う構造を持ちます。現実世界の状態を仮想的に再構築することで、単なる反応にとどまらず、より戦略的・状況適応的な判断が可能です。
物流や製造業など、変数の多い環境下での自律制御や予測最適化が求められる場面で活用されることが多く、AIによる生産ライン制御や在庫の自動補充といったケースで力を発揮します。
目標ベース型エージェント
ユーザーの最終目的を達成することを重視する目標ベース型エージェントは、ゴール志向の構造を持ちます。現在の状態を踏まえて、目的地にたどり着くための最適な行動を段階的に選択・実行していくため、会話の中での誘導力が非常に高いのが特徴です。
旅行サイトでの予約完了や、保険商品の契約変更手続き、あるいはサポートセンターにおけるトラブル解決のナビゲーションなど、途中離脱を防ぎながらユーザーを正しく誘導するような業務に適しています。
学習型エージェント
過去のユーザーとの対話や行動履歴を蓄積し、それをもとに継続的に自身の応答精度を高めていくのが学習型エージェントです。導入当初はベースモデルで対応しつつ、ユーザーの反応や問い合わせ内容の傾向を学びながら、徐々に最適な対応へと進化していきます。
例えば、ユーザーの離脱ポイントや応答に対する満足度を解析し、それに応じてフローを改善したり、より適切なトーンで対応するよう調整したりといった自律改善が可能です。サブスクリプション型サービスのオンボーディング支援や、解約防止施策のような継続的関係性が鍵となる業務において、強い適応力を発揮します。
ユーティリティベース型エージェント
単に目標を達成するだけでなく、「効率的に達成する」「顧客の満足度を最大化する」など、複数の価値軸に基づいて意思決定を行うのがユーティリティベース型エージェントです。
顧客にとって最適な選択肢を提示する必要がある場面、例えば、保険商品や通信プラン、SaaSサービスの料金体系のように複雑な選択肢がある場合に、パーソナライズされた提案を通して、コンバージョン向上やLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上につなげます。単にサービス価格など単一の要素から「おすすめ」するのではなく、サービスの品質や契約リスクといった複数の要素を勘案して、「この条件ならこれが一番得だ」という判断を自律的に行える点が他タイプとの大きな違いです。
階層型エージェント
階層型エージェントは、複数の抽象レイヤーを内部に持ち、それぞれが異なるレベルの判断を担う構造となっています。例えば、上位層は全体的な目標設定や戦略的な判断(ユーザーの意図を読み取る、対応方針を決める)を行い、下位層はそれを受けて実際の発話や動作を実行するなどです。
この構造により、単純な応答だけでなく、業務全体を横断的に理解・調整できるエージェントとして機能します。大企業におけるマルチチャネル接客や、官公庁の複雑な申請手続きの支援など、組織横断で情報や意図を統合する必要がある場面で有効です。
マルチエージェントシステム
AIエージェントは、他のAIエージェントや人間と連携・協調しながら、タスクを遂行する能力・仕組み(マルチエージェントシステム)を持つことも大きな特徴です。
AIエージェントはそれぞれが個別の目標や知識、スキルを持っていますが、特定の局面に対して最適な行動を行いつつ、連携・協調しながら集団で大きな目標を達成したりタスクを遂行したりすることができます。例えば、問い合わせ内容を受け付けるエージェント、製品情報やトラブルシューティングの知識を持つエージェント、顧客データベースを管理するエージェントなど、それぞれが違う役割やノウハウを持ちながら連携し、さらに人間に判断を仰ぐ必要がある際には確認のやりとりも自然にこなすなど、より効率的で的確なサポートが実現できるようになります。

AIエージェントを導入するメリットとは?
AIエージェントを導入することで得られる主なメリットは、「業務効率化」「顧客満足度の向上」「
コスト構造の最適化」の三つです。
業務効率化
「同じような質問が毎日繰り返される」「過去のナレッジを検索して答えるだけ」といった業務をAIエージェントが自動で対応することで、従業員の稼働を大きく削減できます。
特にコールセンターなどカスタマーサポート部門では、全体の問い合わせのうち約6〜7割が定型的・反復的な内容(例:「ログインできない」「配送はいつ届く?」)であることが多く、これらはAIエージェントが即時に処理できるものです。AIエージェントを活用することで、オペレーターの負荷を軽減し、人間にしかできない重要な業務に専念できるなど、業務効率化と生産性の向上を期待できます。
顧客満足度向上
ユーザーが最もストレスを感じるのは「待たされること」です。AIエージェントは24時間365日、どんな時間でも即時に対応できるため、顧客満足度(CS)やNPS(顧客推奨度)の向上に直結します。
さらにユーザーは「答えをもらう」だけでなく、「わかってくれている」という納得感を求めています。AIエージェントは、ユーザーの入力内容から背景や意図をくみ取り、「それならこういう選択肢もありますよ」と寄り添うような提案が可能です。
ユーザーが問い合わせた時間帯や、過去の購入履歴・会話ログに基づいて出力を変えるパーソナライズ応答も可能であり、人間の対応に近い“温度感”のある接客体験を再現できます。結果として、NPSや顧客満足度スコアが向上し、リピート率や解約率にもポジティブな影響が見込まれます。
コスト構造の最適化
AIエージェントは、初期構築に一定の投資は必要ですが、その後の運用コストは規模や状況に応じて柔軟に拡張・縮小でき、かつ低廉です。
問い合わせ数が増えても人員を比例して増やす必要がなく、1件あたりの処理コストは人間の1/10以下とされることもあります。また、「夜間・休日対応」や「多言語対応」など、本来であればシフト増員や外注コストが発生する業務も、AIエージェントによって追加コストなしで提供可能になります。

AIエージェント導入のステップと注意点とは?
次に、AIエージェント導入において必要なステップと注意点を見ていきましょう。
AIエージェントの導入は、「目的と活用シーンの明確化」「要件定義とツール選定」の順でステップを踏みます。効果的な導入において欠かせないことは「ユースケース設計とスモールスタート」「社内合意形成と現場巻き込み」「継続的な改善体制の構築」です。
目的と活用シーンの明確化
AIエージェント導入の成否を左右する最大のポイントが、「前提の整理」です。単に「問い合わせ対応を自動化したい」では不十分で、“どの業務フローをどう変えたいか”を業務レベルで具体的に定義する必要があります。
例えば、カスタマーサポート領域であれば、以下のように分解します。
====
・どのチャネル(メール/電話/チャット)を対象にするか
・1日あたりの問い合わせ件数とそのうち定型率は?
・減らしたいKPIは「平均対応時間」か「一次解決率」か?
====
さらに、「この機能まではAIが対応するが、この機能は人が対応する」という「やらないこと」の明確化も、後工程の仕様設計に大きく影響するため重要です。
要件定義とツール選定
目的が固まったら、次は要件の整理とツール選定に進みます。ここでよくある失敗は「機能比較だけで選んでしまう」ことです。大事なのは、既存の業務基盤やAPIとの親和性・社内の技術リソースとの適合性です。例えば、以下のような項目を洗い出す必要があります。
====
・「Salesforce」、「HubSpot」などCRM(顧客管理システム)と連携するか?
・自社の認証方式(SAML、OAuthなど)に対応しているか?
・会話ログやKPIはダッシュボードで可視化できるか?
====
また、セキュリティ観点では「データ保管先が国内か海外か」「IP制限やログ出力は可能か」など、法務・情報システム部門と連携して確認すると安心です。
ユースケース設計とスモールスタート
AIエージェントの適用範囲をいきなり広げすぎると、想定外の質問や誤応答が多発し、ユーザーや現場の信頼を損なうリスクがあります。初めは限定的な業務や特定チャネル(Web、LINEなど)に絞って、スモールスタートで始めることが推奨されます。
例えば「採用ページにおける応募前の問い合わせ対応」「契約更新に関するよくある質問の対応」など、失敗しても致命的でない領域から試行を始め、徐々に適用範囲を拡張するのが堅実なアプローチです。
社内合意形成と現場巻き込み
AIエージェントの導入には、現場のオペレーターやカスタマーサポート、IT部門、さらには経営層の理解と協力が不可欠です。しかし実際には、「勝手に導入が決まっていた」「自分たちの業務が奪われるのでは」という反発や不信感が、導入のボトルネックになるケースが少なくありません。
この壁を乗り越えるには、「AIエージェントは人間を置き換えるものではなく、業務の一部を肩代わりして、人間がより創造的な仕事に集中できる環境を作るもの」という価値観の共有が欠かせません。
継続的な改善体制の構築
導入直後は、ユーザーの意図を正しく捉えきれない「誤応答」「取りこぼし」が多発することがあります。重要なのは、ログを分析し、どの意図がうまく認識できていないか、どの部分で離脱しているかを可視化し、改善の仮説と検証を高速で回す体制を構築することです。
運用体制としては、以下のような役割設計が効果的です。
====
・AIチューニング担当(NLP(自然言語処理)や意図設計)
・会話ログ分析担当
・改善案を実装・反映する運用担当
・全体の品質・UXを統括するプロジェクトマネージャー
====

AIエージェント導入における課題とリスクとは?
AIエージェントの導入は、業務効率化や顧客満足度の向上などメリットが期待される反面、「ハルシネーション」や「責任の所在」「データプライバシーと情報漏洩の懸念」「倫理的課題とAIガバナンスの欠如」といった課題やリスクもあります。それぞれ対処方法も合わせて解説します。
ハルシネーション
生成AIベースのAIエージェントでは、ユーザーの質問に対して文脈上は自然な回答をしているにもかかわらず、実際には事実無根の内容を返してしまう現象(通称:ハルシネーション)が発生することがあります。
この問題への対処法としては、
===
・回答に出典元や参考URLを添付させる(RAG※2対応)
・ナレッジベース連携に限定し、AIの創造性を抑制する
・特定キーワードについては人間へ転送(ハンドオーバー設計)
===
といった対策が現場で実践されています。
※2 RAG(Retrieval-Augmented Generation):大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術
責任の所在
AIエージェントが誤った案内を行った場合、ユーザーに対して誰が責任を負うのかという責任の所在が曖昧になりやすいことも課題です。運用マニュアルでは「案内の最終責任は人間が取る」と定めていても、ユーザー側にはそれが見えにくく、不信感につながる恐れもあります。
こうしたトラブルを防ぐには、「AIが生成した回答であることを明示する」「重要な決定に関わる質問には人間を介在させる」といったUX設計が不可欠です。また、オペレーターへのエスカレーションラインを常に開放しておくなど、対応を人間に戻せる設計も重要です。
データプライバシーと情報漏洩の懸念
AIエージェントは、ユーザーの個人情報や過去の行動履歴に基づいて会話を最適化するため、データプライバシーやセキュリティ面の懸念がつきまといます。特にBtoC企業では、ユーザーが入力する情報の中に氏名・メールアドレス・契約情報などの機微情報(センシティブ情報)が含まれることがあり、そのログがクラウド上で学習されたり、社外へ転送されたりするリスクを警戒する声が根強いです。
対応策としては、
=====
・APIを通じて社内のセキュアな環境内でAIを運用する(オンプレミス/プライベートLLM (Large Language Models:大規模言語モデル))
・ログ取得に際してPII(個人識別情報)をマスキングする
・プライバシーポリシー・利用規約にAIエージェントの利用目的を明記する
====
といった技術的・法務的な対応が求められます。
倫理的課題とAIガバナンスの欠如
AIが人間の代わりに意思決定や発言を担うようになると、倫理的な問題が浮上します。例えば、ユーザーの属性情報(性別・年齢・国籍など)を無意識に参照して、偏った案内や差別的な表現を含んでしまうリスクが考えられます。
こうした問題を防ぐためには、
====
・応答内容に対する定期的なモニタリング
・有害ワード・差別用語へのフィルタリング設定
・企業倫理やコンプライアンスに即した“人格設計”
====
といった、AI活用における社内ガイドライン(AIポリシー)の整備が急務です。
まとめ
AIエージェントは、企業内のタスク遂行だけに留まらず、コールセンターなどカスタマーサポート部門での顧客対応でも実運用が期待されています。AIエージェントは、目的達成型の自律的なAIとして人間のように対話や意思決定、業務処理を行うため、導入により業務効率化や顧客満足度の向上、コスト構造の最適化といったメリットが得られます。一方で、ハルシネーションやデータプライバシーと情報漏洩の懸念、倫理的課題とAIガバナンスの欠如といった課題やリスクも忘れてはいけません。
当記事では、AIエージェントの概要を始め、導入までのステップや注意点、メリットと課題について紹介しました。AIエージェントの導入を検討する際の参考になれば幸いです。
当記事を執筆するモビルスでは、生成 AI や独自の AI 技術を取り入れたオペレーション支援生成AIサービス「MooA」をはじめ、コールセンター(コンタクトセンター)のCX向上を通じて企業の競争力を高め、収益を最大化するための総合的な支援を提供しております。
AIボイスボットやAIチャットボット、自己解決を促すビジュアルIVRなど、顧客満足度につながる幅広いニーズに対応できるソリューションを開発提供しています。
また、2025年3月には、AIエージェントプラットフォームを提供するvottia株式会社をトランスコスモス株式会社と合弁で設立しました。AIによる顧客体験の革新に取り組み、チャットを含む消費者と企業のコミュニケーション接点の変革を実現していきます。ぜひご相談ください。
モビルス、AIエージェントプラットフォームを提供するvottia株式会社をトランスコスモスと合弁で設立
オペレーション支援AI「MooA」紹介資料
MooA®(ムーア)は生成AIや独自のAI技術を取り入れた、オペレーターの応対業務の負担を軽減し、応対業務全体の短縮化とVOCの活用を促進するオペレーション支援AIです。チャットボットやボイスボットと連携しながら、応対中のオペレーターの回答業務を支援します。機能、解決できることなどを紹介資料にて掲載しています。
下記より、ダウンロードいただけます。ぜひご覧ください。
https://go.mobilus.co.jp/l/843543/2024-04-30/by8ypg
顧客体験を最大化するCX戦略支援 CX Consulting
モビルスでは、クライアントの顧客体験を最大化するため、カスタマージャーニーマップ作成や定量的調査を通じたCX戦略立案・策定を支援しています。解決するお悩みや、CXコンサルティングの流れ等の詳細は、以下からご覧ください。

CX向上に導くモビルスのカスタマーサクセスメニュー
モビルスでは、プロアクティブなサポートで企業を成功に導くため、CXを向上させる伴走型のサポート体制(カスタマーサクセスメニュー)を整えており、導入前から導入後までの全フェーズを支援するサービス提供をしています。
下記の記事で詳しく紹介しております。ぜひご覧ください。