顧客接点における「ノンボイス化」「自動化」「お問い合わせ導線の改善」など、「お問い合わせのエフォートレス化」プロジェクトに取り組む、株式会社ベネッセコーポレーションと、顧客業務のサポートソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社の対談企画、第一弾です。
ベネッセコーポレーションにて、コンタクトセンターを始め顧客接点全般を横断的に担う、校外学習カンパニー マーケティング開発本部 副本部長 境 和輝 氏をゲストに迎え、プロジェクトの背景や狙い、顧客接点における課題や取り組み、今後の展望などについて、モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏が聞きました。
前編・後編に分けてお届けします。
後編では、チャット対応の本人確認プロセスの取り組みを始めた狙いや、社内調整など開始までの苦労や今後の展開などについてお話いただいています。
前編はこちら!
ベネッセが描く、お問い合わせのエフォートレス化 :第一弾<前編> 繁閑差のコールボリュームは2.5倍。ノンボイスと導線改善で効率性とエフォートレスの実現へ
対談メンバー
株式会社ベネッセコーポレーション
校外学習カンパニー マーケティング開発本部 副本部長 境 和輝 氏
モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏
目次
- 対談動画
- チャット対応でも安全に本人確認手続きができるのか?
- コンプライアンス部門と一緒に「サービスを作る」
- マネジメント層はこう巻き込む
- 対応範囲の拡大でさらなる効率化へ
- フォローから“ハイタッチ・サービス”への進化
対談動画
<チャット対応の本人確認プロセス-導入の狙い->
チャット対応でも安全に本人確認手続きができるのか?
石井
今回お取り組みいただいている「Secure Path」導入による、「セキュアな環境でのチャットによる本人確認プロセス」の狙いや背景について教えてください。
境氏
ノンボイス領域で本人確認をどうとるかは、メールの時代から大きなテーマでした。
例えば、メールで「住所変更希望」のお問合せをいただく際、会員番号と、変更前後の住所を記入いただき、その情報に基づいて住所変更手続きを進めていく…となりますが、落とし穴が二つあります。
一つ目は、そもそも本人か分からないので、メールで来た情報を鵜呑みにして住所変更手続きしたら、ほかのお客さまに届いてしまう恐れがある点です。
二つ目は、記入いただいた情報が登録情報と異なっていると確認が発生し、不備がある度にメールの往復が発生する点です。メールでの住所変更手続きを希望されているお客さまの対応では、確認の往復が続きお客さまからの返信に時間もかかることもあり、電話だと15分もかからない対応が3週間かかった例もあります。
「ノンボイスで本人確認をとる」ということは、リスク面や、確認事項を往復すると対応に時間がかかる、という課題がメール時代からありました。
メールだと効率が悪く、お客さまに手間もかけさせてしまうので、サービスを広げられないと考えていましたが、チャットが出てきたことで可能性が広がりました。チャットは、短文でスピーディーにやりとりできると、メールの代替として期待されていました。しかし、そこでも「個人情報を入力してもらうとお客さまに不安を与える」「間違えたらどうするのだ」など、個人情報や本人確認の課題が出てきました。
それなら「最初は本人確認が必要ない範囲でチャット対応を始めましょう」とスタートした結果、お客さまのご希望に応じて住所変更手続きなどが発生すると、電話番号を通知しておかけいただく。お客さまに二度手間をかけてしまう。チャットが便利だからチャットを使いたいのに、結局電話をかけないといけないなら最初から電話すればよかったと。LINEを含めてスマホでのノンボイスのコミュニケーションが身近になっている中なのに上手く使えていない、もどかしさがありました。
お問合せをいただくときに、電話やチャットなど複数のチャネルがある中で、最適な手段を紹介したいのですが、手続き系は電話でしかできないとなると、「チャネルも電話だけでいい」となる。そこをなんとか突破したいと思っていたときに、ご紹介いただいたのが「Secure Path」でした。
<チャット対応の本人確認プロセス-会社のセキュリティポリシーの乗り越え方->
コンプライアンス部門一緒に「サービスを作る」
石井
本人確認業務をチャットでやると聞くと、一見当たり前に聞こえるかもしれませんが、特に金融機関では、対応している会社はほぼありません。個人情報をテキストベースでクラウドのシステムに乗せることの、セキュリティ上の問題があるためです。これを乗り越えていく必要があります。
今回、ベネッセさんとして掲げているセキュリティポリシーをクリアしながらプロジェクトを始めたのは大変だったと思います。そこで苦労されている会社さんは結構多いです。どのように乗り越えていったのか教えてください。
境氏
「リスクチェックをしてください」とコンプライアンス部門に行くだけではノーとしか言われません。基本は、リスクがある、ダメなことしか言われません。そこで重要なのは「リスクチェックをしたい話ではなく、サービスを作りたい」という話なのです。商品を作るのと同じですと。
サービスとしてお客さまに提供して、手間なく無理なくお問い合わせができ、お客さまの満足がどれだけ高まるかという話ですと説明しました。また、電話よりどれだけ生産性・効率化が高まるかの観点では、事業貢献も十分高い話です。「このサービスを一緒に作るにはどうしたらいいか」という観点でコンプライアンス部門を巻き込みました。
石井
今あるセキュリティポリシーをどう曲げて今回の企画を通すかではなく、新しいサービスを作るのにどこまでのセキュリティが必要かの観点だったのですね。
境氏
コンプライアンス部門やコーポレート部門も、普段は管理する側ですが、事業部と一緒に商品・サービスを作るとなると燃えるのですよ。お客さまに対して価値のあることを仕事としてできるのは大きなエンジンとなったと思います。
<チャット対応の本人確認プロセス-社内調整の方法->
マネジメント層はこう巻き込む
石井
新しい取り組みを始める上で避けられないのがマネジメント層の理解です。上からどれだけ支援が得られるかが大きいと思います。このあたり御社の場合どうでしたか?
境氏
元々、「エフォートレス化」については何年も前から戦略として掲げてきたこともありますし、幼児の保護者さまになるとスマホの利用率が高いため、スマホを使ったサービスの拡充も大きなテーマでありました。そこを根底の考え方として「いかにお客さまにとって便利になるか」の話をしていきました。
石井
元々「エフォートレス化」という大きな思想があり、その中でこれは大事な打ち手だと話をしていくと。
境氏
もちろんコスト効率の話にもなります。コスト面については正直に言いました。「立ち上げのタイミングですべてがうまくいくことはないので、CPH(Call Per Hour:1時間当たりにオペレータ1名が対応した入電件数)や応対効率の改善が定量的に見えてくるまでに数年かかるかもしれません」と。それはオペレータの習熟度にもよるし、ともすればユーザー側の習熟度、慣れとかにも関わってくるかもしれないので、徐々に浸透していく部分が肝になるためです。
すべてが最初から上手くいくわけではないけど、最終的には3年、5年スパンで、コストメリットが出る想定ですと。さらに、サービスとしての繫閑差を含めて、お客さまのサービスをどう変えていけばいいか、DXチャレンジの面も併せて説明しました。
<チャット対応の本人確認プロセス-今後の展開->
対応範囲の拡大でさらなる効率化へ
石井
電話対応と今回のチャットでの本人確認の対応を比較して、効率化の点では同等くらいまで結果が出始めています。今後の展開でさらなる効率化を図っていきたいです。ポイントとなるのはどのあたりでしょうか?
境氏
スケールメリットの部分と、対応単価の高いオペレーションでどこまでできるか、二つの軸があると思います。最初の導入なので対象とする商材を絞った形でお客さまに提供してきましたが、今後は対象とする範囲をどこまで広げられるかでスケールメリットがでてくるのが一つです。
対応単価が高いという意味では、テクニカルサポートで使えるか、です。対応時間が長いことはもちろんありますが、ハイスペックなオペレータに対応してもらう単価の高い対応に関しては、チャットの対応で本人確認がとれると、お客さまの端末の不具合も写真なども含めて対応ができるので、対応スピードも品質もあがります。
石井
チャットでの本人確認プロセスは、開始当初は有人対応でしたが、3月の段階で自動化を始め、有人対応時と比較してAHT(Average Handling Time :オペレータの対応平均時間)が約25%下がりました。優先度を決めてボリュームの多さ、対応単価の高さを基準に優先度を決めて、今後の取り組み範囲を考えていきましょう。
<今後の野望>
フォローから“ハイタッチ・サービス”への進化
石井
最後の質問になりますが、今いろいろ取り組まれているのを一度すべて置いておき、組織上のしがらみやリソースや社内のポリシーなどすべて忘れたとすると、境さんが今後取り組んでみたい野望的なテーマはどんなものですか?
境氏
コンタクトセンター、顧客サポートの領域は、契約していただいたお客さまへのアフターフォローの意味合いが強いので、会社的にはコストとして扱われることが多いですが、元々エフォートレスの観点からもお客さま対応は「サービス」だと考えています。
そのため、サービス品質という言葉も使いますし、顧客満足度も測らないといけないと思っています。
突き詰めていくと、コストではないという考えです。商品のラインナップの一つにサービスとして加えるくらいのことをしたいです。
ご利用いただくお客さまが契約期間の中で、活用されている・されていない、学習内容の履歴で問題が解けている・解けていない、点数がどうだったか履歴で分かります。そこに応じた形でフォローサービスをこちら側から提供していく、「ハイタッチ・サービス」をしていきたいと考えています。
「使いこなせない、成績が上がらないから辞めたい」といったときに相談に乗るのではなく、デジタルデバイスの中で学習しているお子様の状況を捉えて、こちら側から「お困りのことはないですか?」、「この学習領域で質問ありませんか?」と、プロアクティブにハイタッチにコミュニケーションをしていくイメージです。
そのためには、オペレータの習熟度も、学習領域に対する知見も必要なのでコンタクトセンターのオペレータの育成も必要です。ものすごい規模感にはなりますが、実現していきたいと思います。コンタクトセンターのサービスを赤ペン先生のサービスに近くしていくイメージです。教育サービスとして提供してお客さまに寄り添うと考えると、顧客サービスをコストではなく原価にしていきたいというのは夢ではあります。
石井
原価かもしれないし、プラスアルファの有償サービスという観点もありますか?
境氏
ハイタッチの有料化ですか。そこまでいくとすごいですね。
ありえない話ではないですよね。とある商品サービスを長くお使いいただくときに、保険じゃないですが、質問したいことを質問したいときにできることをオプションで付けることも考えられますよね。
石井
今までの事業モデルからサービス。今まではコンテンツだったのが、サービスの事業に転換していくのかもしれませんね。
境氏
おっしゃる通りですね。ものを作ってお届けする時代から、ものを使っていただける横にどう寄り添ってサポートしていけるか、まで実現できると素敵だなと思います。