KITTE、MARK IS などの商業施設ブランディング、亀田製菓の主力商品「柿の種」の新商品開発、ユニクロや23区などの有名ブランドや東京オリンピック公式ゲームでのセガ社広告を手がける株式会社ミックデザインワークス 代表取締役 三木氏とモビルス執行役員 柏原との対談です。
「つなぐ、こたえる、を超えていけ。」や「The Support Tech Company」を掲げた前回のブランディングから3年が経過し、時代の変化やモビルスの成長を表す新たなコーポレートメッセージが求められるようになりました。
モビルスがリブランディングを決断した背景やワークショップでの取り組み、新しいコーポレートメッセージを創り上げるまでを語っていただいたほか、対談を聴いたモビルスメンバーから寄せられた質問にも、三木氏に回答いただきました。前編、後編の2回にわたってお届けします。今回は前編をお届けします。前編はこちら。
【前編】
【後編】
■対談メンバー
株式会社ミックデザインワークス 代表取締役 三木 香 氏
クリエイティブディレクター、アートディレクター。1981年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、ADK(アサツーディ・ケイ)を経て独立。株式会社ミックデザインワークス代表取締役。多摩美術大学グラフィックデザイン学科 非常勤講師。京都芸術大学 情報デザイン学科 非常勤講師。
モビルス株式会社 マーケティングディビジョン 執行役員 マーケティングディビジョン長 柏原 学
1999年 早稲田大学卒、ソニー株式会社およびソニーモバイルコミュンケーションズ株式会社にて、コンシューマーエレクトロニクスとモバイル通信業界で、セールスマーケティング、商品企画、ポートフォリオと多岐にわたる経験とグローバルビジネスでの実績を持つ。2003年~2008年の期間米国および中南米諸国にて従事。2015年末シリコンバレーから帰任。2016年モビルスに参画。製品開発、企画、CX、UI/UX統括を経て、現在はマーケティングを統括。
対談動画
ワークショップで経営者と社員が向き合い共に創るコーポレート像
ー新しいコーポレート像を描くためのワークショップ。どのような議論がなされたのでしょうか。
柏原:
ワーキンググループでは、2グループに分かれてグループ課題に分けて取り組みましたが、モビルス社員のアウトプットへの印象はいかがでしょうか?
三木氏:
議論が生まれづらいワークショップも多々ありますが、モビルスさんはクリエイティブな回答が本当に多く出ました。特に、問い合わせを生業にする会社でありながら、「問い合わせをしなくて良い社会を実現する」「問い合わせが不要になる社会になることは、素晴らしいことではないか」という言葉やアイディアが出たことは私自身も大変刺激になりましたし、「このままコピーにしても、すごくいいものができるのでは?」と感じるワークショップでした。
一方で、今ある商品と5年後の未来とのズレを現場の方が敏感に感じているとも理解しました。「5年後、CXに行きたいという気持ちは分かるけれども、その5年間を私たちはどう歩めば良いのか分からず混乱している」という現場の雰囲気を知れたのが、後の制作に役立ちました。
モビルス社員:
三木さんの目に私たちモビルス社員の考えはどう映りましたか。
三木氏:
100点満点でした。ワークショップを通じて改めて、モビルスさんのお仕事内容は今の時代にメインになるべき大切な仕事だと思いました。
コロナウイルスの流行もあり、店舗で商品を買わずに通販でものを買うことが当たり前になりました。そうなるとお客さまが企業側と接触するタイミングが限られ、カスタマーセンターはかなり唯一と言っていいほど、お客さまと企業が初めて向かい合うポジションになります。そこでの体験や経験は、そのままブランド価値とイコールになりますが、今は単に悩みをスムーズに解決する仕組みみたいなマイナスをゼロに戻す作業だけしかしていないというのが、すごくもったいないと思っています。
ブランディングでは「プラスにいかに持っていくか」は大変重要な視点です。マイナスだったものをゼロに戻すだけではなく、ゼロをプラスに切り替えることができ始めると、サポートの世界がブランディングに直結するようになります。クライアント企業の中でも、その部分に気付いていってほしいですし、実例が形になって現れてくれば日本の中でもカスタマーセンターというポジションはかなり上がってくるのではないかと感じました。
プロフェッショナルによるブラッシュアップ
ー沢山のアウトプットをどのように整理されたのでしょうか。言語化にあたり苦労されたことはありますか。
三木氏:
コピーライターさんと私の中で何度も議論したのは、今回のタグラインとステートメントは「誰向けの、何のためのものか」ということでした。3年前のタグラインでは「この業種の企業は世の中の役に立つ」という内容が社内外の方も一言で意識できるものでした。しかし、今回の「CXの会社になりたい」というのはモビルスの方針であり、社外の方にお伝えしても「それで?」と思われてしまう懸念がありました。
また今回のような、モビルスさん、商品を使われるクライアントさま、その先の実際の消費者という3つのターゲットが存在するときに、どこを向いた言葉を作っていくべきなかによって大きく内容が変わりますので、そこは結構悩みました。一般消費者向けで言葉を書いた場合や、もう少しクライアント寄りで書いた場合、社内向けで書いた場合などで方針分けをしてコピーを出しながら、今の時代のモビルスに一番必要な言葉の定義は「どのターゲットに向かって書くことが一番大事なのか」を話し合いました。
柏原:
三木さんからは一般消費者やエンドユーザー向けのご提案が多かったのですが、ディスカッションする中で「我々が直接向かい合うクライアント企業さま向けに発信した方が分かりやすいだろう」となりましたね。
三木氏:
そうですね。ワークショップでは一般消費者やエンドユーザーのことを考えて「問い合わせしなくて良い社会」のように、完全にエンドユーザー向けの話でしたので、私もエンドユーザーの言葉を主に使用していたのですが、よくよく考えてみると、モビルスがCXに向かって進むことが今はまだ社内外を含めて周知されていない。その点を周知させて、その先に初めて「CXが進むことで目指す社会になる」という先のエンディングベネフィットを伝えるべきであり、最初からエンドユーザーに向かうのは時期尚早かもしれないという考えに至りました。そしてタグラインは、社内とクライアントを意識して「モビルスはCXに舵を切る」と宣言するものになりました。
モビルス社員:
リブランディングでロゴデザインやコピーにおいて、BtoCやBtoBの面で配慮されることがあれば教えてください。
三木氏:
デザインやコピーはBtoBの場合、純粋なBtoBなのかBtoBtoCなのかによっても状況が変わります。モビルスさんはBtoBtoCですね。ファイナルにコンシューマーがいらっしゃる状態では、ある程度BtoCも意識しながら作ります。とはいえベースはtoBなので、お客さまのエンドユーザーの満足よりは、クライアントの収益だとかビジネスが向上することの方がウェイトが高くなります。世の中がこんなに幸せになっていくというような情緒的な表現というよりは、もう少しビジネスに寄ったような言葉の表現の仕方というところをやや強めに意識しています。
クライアントによっては、BtoBのイメージがしっかり固定されブランドポジションも確定されており、「社会に対しての行動宣言」が企業のメリットになる場合もあります。そのような時はtoCを意識した言葉をあえて作ることもあります。
新しいコーポレートメッセージに込めた想い
ーミッション、ステートメント、ポジショニングワード、それぞれについて教えてください。
三木氏:
今回のリブランディングでは言葉の階層を減らし、タグラインとミッションを一つにまとめ、モビルス社員の皆さんにも使いやすいものに整えました。自分たちがどうあるべきなのかというミッションとそれを世の中に差し示した時に、世の中も「なるほど、いいね」と思ってもらえるような、両方兼ね備えるワードにしていますので、現状のタグラインよりも使いやすくなっていると思います。
柏原:
では改めまして、当社の新しいコーポレートメッセージをご紹介します。一つめ、ミッションは「すべてのビジネスに、一歩先行くCXを。」です。二つめ、ステートメントは「商品やサービスへの小さな不満の数々が企業の信頼や評価を大きく傷つけるリスクの高い世の中だから。企業はいま、顧客との関係性を見直すべき時を迎えています。必要とされるのは、潜在的なニーズの発見と起こり得る問題の予測。そして、様々な問題へ先回りして答える解決力。日々、カスタマーと向かい合い続けたモビルスだからこそテクノロジーを駆使した、「本当に使える」サービスで企業と顧客の新しいコミュニケーションを生み出します。これからは、顧客体験の向上が企業のブランド価値を高めるカギになる。一歩先のビジネスへ、モビルスからリードします。」です。三つめは、ポジショニングワード「CX-Branding Tech.」です。
三木氏:
ひと昔前は、素敵なテレビCMを作ればブランドイメージは簡単に上がっていました。しかしSNSが発達した現代では、何億円も掛けたテレビCMよりも日々のちょっとした企業のコミュニケーションの方が信頼される。そう考えると、普段の単なるサポートだと思われていたお客さまと企業との接点は、高額な広告よりも価値があるものであり、それ以上のブランディングの支えになって行くことを感じています。
皆さんが生業としているサポートの仕事は、「困っている人を助けるだけではなく、取引先のクライアントのブランド力を上げていく中心の仕事でもある、それがCX(顧客体験)である」ということが伝わってほしいです。そこに注目しているモビルスが世の中から見てもすごく一歩先を行っている企業に見えてほしいという、そこの想いも込めてタグラインとステートメントを制作しています。
モビルス社員:
新しいコーポレートメッセージと共に歩む我々に対して、アドバイスをいただけますでしょうか。
三木氏:
リブランディングで一番大切なものは、「社員の皆さんの気持ちと方針がひとつにまとまること」だと思っています。世界に名の知れた経営者が牽引する企業であれば、トップの発言が社会的影響を持つので、それに社員が邁進してついていくスタイルで上手く行くところもあると思います。ただ当然、ほとんどの会社がそのような状態ではないのです。
何かを開発したり何か進めたりしている中で疑問がある場合に、当然皆で話し合いますが、疑問があれば「この方針は難しいのではないか」と声を上げていくことがすごく重要なのかなと思っています。
トップダウンで経営層から新しいコーポレートメッセージを提示されて「絶対についていかなくてはならない」というマインドではなく、「目的に向かって皆でチューニングしながら進む」という感覚で取り組むことが、現状のモビルスさんの体制や世間でのポジショニング上で大切なことだと考えます。
柏原:
ありがとうございます。最後に、今回のリブランディングも含めてモビルスへのメッセージをいただけますでしょうか。
三木氏:
広告やブランディングの仕事を通して「SNSの影響で、世間は色々なことを慮るのが当たり前になっている」と負担に感じることが増えました。発言に対しての先回りが当たり前になり、ひとこと一言が怖くなりロックをかけて進んでいくことが多いと感じます。
ただ、その「先回りする」という考えはカスタマーセンターの世界ではとても役に立つと思うんです。「お客さまがこういう悩みの声を上げています」という意見が挙がる一方で、「声を上げていない方はこのように思っている可能性もあるので、そこに先回りして答えておきましょう」だとか、場の空気を読んで先回りして対応することが、メリットになり得る業界だと思います。
「空気を読む」という言葉があるように、日本人は相手の気持ちを慮ることに長けていると思いますし、カスタマーセンターは日本の文化と相性の良い職種だと考えています。「先回りして物を考えていくことの楽しみ」をカスタマーセンターの世界で皆さんが感じてこの先進んで行けば、CXは自ずとついて来ると思います。
柏原:
モビルス社員の皆さん。ミッション、ステートメント、ポジショニングワードの3つのメッセージを理解し、クライアント企業さまを含めて「モビルスのミッションとは何か?」を問われたときにすぐに言葉にできるよう自分のものにしていきましょう。