「これからのコンタクトセンターにおけるCXの在り方とは?」をテーマに、コンタクトセンターをはじめとするさまざまな顧客接点で培ったノウハウと、最新技術を活用したデジタルソリューションで顧客体験(CX)をデザインする 株式会社NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部 西日本営業部長 新谷 宜彦 氏と、顧客サポート業務のソリューションの開発・提供を行う モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏の対談後編です。
前編では、コロナ禍での顧客サポートを取り巻く環境の変化、在宅化の必要性・推進するためのノンボイスシフトについてお話いただきました。
後編は、コンタクトセンターにおけるCX向上のために必要なこと、ノンボイスシフトの現状と課題、成功事例、今後の動向などを中心とした内容です。
※前編はこちら※
CX(顧客接点)を会社経営の中心に置く? 【NTTマーケティングアクトProCX×モビルスが描くこれからのCXとは】 <前編>
■目次
広告よりインパクトを出せるCX投資
人によるおもてなしが、すべてではない?
「完全自動化」が目指すゴールではない
チャットボットを入れても期待する効果は出ない?
メンテナンスし続けられる運用ルールが大事
全体呼量の50%をノンボイスシフトに成功
1対6の同時対応で効率化が大幅に進む
企業価値を上げるCXの全体デザインを提供したい
■対談メンバー
株式会社NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部 西日本営業部長 新谷 宜彦 氏
モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏
■モデレーター
モビルス株式会社 セールスマーケティングディビジョン パートナーセールスユニット アカウントマネージャー 瀧澤 朋未
広告よりインパクトを出せるCX投資
―コンタクトセンターのCXになぜノンボイスが必要なのでしょうか?
新谷氏
CXへの考えは、日本では欧米と比べるとまだ浸透していない印象です。顧客満足度、顧客価値をどう提供するか、カスタマージャーニーを通してシームレスに考えることが必要だと考えています。
石井
欧米ではCX専任の役員がいる企業が多くありますが、日本ではごくわずかです。また、企業の売上利益を上げるための投資として分かりやすい広告投資ですが、最近は少しでも尖ると炎上するため広告で差別化することが難しくなっているという話も聞きます。その中で、CX投資は、広告投資以上に売上利益を上げるうえでインパクトが大きい可能性があるのではないでしょうか。
新谷氏
そうですね。広告やプロモーションは基本的には新規顧客開拓のためにやっていたことですが、新規顧客開拓より既存顧客に対していかに永続的な価値を高めていくかを重要視する流れになっています。新規開拓よりも既存顧客のロイヤリティを醸成する方が、企業価値が上がるという考え方に今後シフトしていくと考えられます。その上で、CX投資は理にかなっていると言えますね。
人によるおもてなしが、すべてではない?
新谷氏
サービスレベルの維持、応答率の担保のためには、すべて人が対応することが最適ではないと思います。例えば、若年層は電話へ抵抗のある人も多いです。人に丁寧に対応してもらって嬉しい場合と、自分で調べてすぐに解決できた方が嬉しい場合があります。自動応答だから、電話でないから、CXが低下するというわけではないのです。「すぐに解決できること」がCXのレベルの高さを意味することもあります。問い合わせする方の状況や内容などに応じて要望に応えるためには、デジタルシフト・ノンボイスシフトは必要です。
一方、コンサルやコンシェルジュ、クレーム対応といった分野は人が対応すべきです。
石井
まったく同じ意見です。我々もノンボイス至上主義ではありません。チャットなどノンボイス化やチャットボット・ボイスボットなど自動化の製品を提供していますが、ボイスとノンボイスの融合、有人と自動化の融合が大事だという考えです。
CXを考えるとすべての顧客接点でノンボイス化、自動化が適しているわけではありません。コールリーズンや顧客属性、問い合わせ時の状況などを加味した上で、人が対応すべきところ、自動化すべきところ、ボイスとノンボイスを使い分けることが必要だと考えています。
「完全自動化」が目指すゴールではない
新谷氏
私的には、チャット対応だけでなくFAQでもWebサイト内でも顧客が自己解決できる手段まで含めてノンボイスシフトだと考えています。自己解決させることが、顧客満足度を下げるわけではありません。コールリーズンを分析する際、発生する原因まで突き詰めて、有人チャット対応なのか、チャットボットなのか、Webサイトなのか、電話なのか、選別することが大事です。
石井
ある通信教育事業の会社さんと、ノンボイス対応業務の幅を拡張するプロジェクトを進めています。住所変更など本人確認を伴うよくある手続きをノンボイスシフトし、完全自動化して効率化しようと進めていましたが、プロジェクトを進める中で、完全自動化がベストではないことに気づきました。適切なタイミングで住所変更をしないと、教材が届かなくなってしまう場合があり、手続きする前に引っ越しのタイミングなど確認する必要があったのです。
オペレータがヒアリングしたあとに、実際の手続き工程は自動応答へ促す、有人と自動化のハイブリッド対応が必要だったと分かりました。単純に「定型手続き=完全自動化が最適」、と言えるわけではないなと。
新谷氏
人と自動化を組み合わせた方が効率的な場合もありますよね。コールリーズンをしっかり分析した上でノンボイスシフトを設計することで、期待する効果が出せるようになります。
チャットボットを入れても期待する効果は出ない?
―ノンボイスシフトの現状をどう捉えていますか? ノンボイスシフトを広げていく上で、何が課題でしょうか?
石井
企業のチャット導入や、チャットでの問い合わせ経験者は増えていますが、チャットで対応できる範囲が限られているため、全体呼量に占める割合はまだまだ少ないです。
チャットボットの提供側でありますが、当初から「チャットボットを入れただけだと使えない」という思想でいました。数年前は「とりあえず導入する」というケースが多く見られましたが、単に入れただけでは期待していた効果はなかなかでません。
新谷氏
コールセンター(電話対応)、チャットボット、有人チャット対応、FAQ、Webサイトなどそれぞれ単独で効果を出すには限界があるのではないでしょうか。単体で考えるのではなく、クライアント側で顧客接点を横断的に考え、全体像を把握して旗振りする役が欠かせないと思います。
メンテナンスし続けられる運用ルールが大事
新谷氏
ノンボイスシフト、引いてはデジタルシフトを進めるための3要素は「導線・チャネル設計」「コンタクトリーズンの分析」「運用ルール」です。チャットもFAQも、誰がどうメンテンナンスするか「運用ルール」を決めることがとても大事だと考えます。メンテナンスし続ける運用の仕組みが必要ですが、あいまいだったり外部に委託しないといけなかったりするケースが多いです。運用ルールをしっかり決めることが重要で、日々メンテナンスを重ねるほどに使いやすく活用できる形になっていきます。
石井
弊社の製品の解約理由で一番多いのが、製品を導入しただけでメンテナンスができていない場合です。メンテナンスをしやすい製品であることはもちろん重要で、外部委託をせずとも運用できる仕様を目指して開発しています。それでも難しい場合には、伴走役としてCS(カスタマーサクセス)チームが支援に入るメニューを用意しています。
新谷氏
CSチームは素晴らしいですね。思想は一緒です。
センターでオペレータからヘルプの手が挙がった際、なぜ解決できなかったか突き詰めてその日のうちにメンテナンスすることがとても重要です。「FAQにコンテンツがなかったのか?」「あるけど探せなかったのか?」「チャットに行く前にWebサイト上で解決できなかったのか?」など、全ての過程を通して統括管理できるようにすることが必要だと思います。誰がどのように管理・更新してナレッジ化していくか、基本の運用フローを職務要件に落として、センターで日々のPDCAを回すことが重要ですが、できていない場合が多いです。
全体呼量の50%をノンボイスシフトに成功
―ノンボイスシフトなどに取り組んでいるセンターの成功事例について、成功の定量的・定性的ポイントや、業界の特性、元々の課題や解決に至った進め方など、運用面、ツール面、両社の視点で教えてください。
新谷氏
弊社運営のあるメーカー様のコンタクトセンターでは、目覚ましい成果があがっています。納品予定日の回答をモビルスさんのAIチャットボットで対応しているのですが、全体呼量の約50%をノンボイスシフトできました。納品予定日の確認は問い合わせも多く、すぐに自己解決できると顧客満足度も高いコールリーズンであるため、自動化することになりました。
また、在宅化も進んでいて、全体の約80%が在宅シフトしています。これらを進められた背景には、ノンボイスシフトが受け入れられやすい商材である点が挙げられます。在宅化に関しては、シンクライアントを元々使っていたことでスムーズに移行できました。
1対6の同時対応で効率化が大幅に進む
バッファロー様もノンボイスシフトが進む成功事例です。LINE公式アカウントで有人チャット・チャットボット対応をしているので、製品について問い合わせた際に画像や図面で説明でき、顧客の満足度も高いです。製品の型番号などユーザー側が調べるのを待つ時間が発生しますが、電話の場合、オペレータは電話を切ることができず待っているしかできません。チャットだと、ユーザーからの返信を待つ間、ほかの対応が同時並行でできるため、対応効率が格段にあがります。
石井
コールリーズンごとに優先順位をつけて、成果を確認しながらの導入が素晴らしいですね。インパクトのある、成果の出しやすいところからノンボイスシフトをすることが鉄則だと伝わる事例です。
バッファロー様の事例は、同時対応件数が1:6の効率化、チャットなどノンボイスシフトやFAQ動画の活用などで入電数40%削減にも成功しています。Webサイトからの各問い合わせへの導線も分かりやすいです。
新谷氏
バッファロー様は、Webサイトもセンターと同じ担当者が管轄しているので、Webサイトからの導線改善もスムーズに進められました。また、在宅化はバッファロー様の強い要望があり、実現できています。クライアント企業の強い推進力と寄り添う姿勢が必要だと思いました。
企業価値を上げるCXの全体デザインを提供したい
―今後の顧客サポート(コンタクトセンター)のCX向上のために、必要なことは何でしょうか?また、二社が考える展望(ソリューションの展開案など)を教えてください。
石井
「CXの向上=企業のブランディング・企業価値の向上」の考えの元、単なる効率化や呼量削減だけでなく、顧客接点ごとの労力低下を目指すことが必要だと考えています。ノンボイスシフトがすべてではなく、各チャネルを連携して活かすことが重要なので、CXの全体デザインを描くところから一緒に考えていけるよう、ソリューションの機能拡張と並行して導線改善の製品や伴走するCSメニューにも力を入れています。導入の考え方やコンタクトセンターのグランドデザインから考えていくコンサルなど、テーマが広がるとすべて自社で担うことは難しいです。オペレーションレイヤーの話など、ぜひご一緒させてもらいたいです。
新谷氏
顧客接点が広がっているので、CXコンタクトセンターの各チャネルだけでなく、Webサイトまで含めた統合品質からのデータ活用が必要です。オムニチャネル化し蓄積された情報をいかに活用するか。また、人材活用において、時間の制約、場所の制約、対面が苦手や子育て中など属性の制約がない職務形態を提供し、オペレータがプライドを持って働ける仕事にしていきたいです。そのためにナレッジ活用の実践プロセス「KCS(ナレッジセンターサービス)」が重要になってきます。
我々は顧客接点全般の提供を行っています。これからは運用を通じてCXを向上させ、従業員満足度の向上とプロとしてのプライドを醸成していきます。自社ですべてはできないので、パートナー企業と力を合わせていきたい。ぜひ一緒に作り上げていきましょう。