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近年、コンタクトセンターでは、チャット、チャットボット、ボイスボットなど、電話以外のデジタルチャネルの導入が進んでいます。しかし、チャネルごとに分断されていたり、適切な導線設計がされていなかったりと、上手く活用できていないケースも多くあります。

最適な問い合わせ窓口の設計のため、チャネルの活用・導線設計を考える上で何が必要か?出発点として、そもそも「ユーザーである消費者は何を求めているのか」から考えていきたいと思います。ユーザーと企業のコミュニケーションの実態について、Mobilus SupporTech Labが行った「お客さま窓口の利用実態調査2022」の結果を元に見ていきます。

顧客労力を下げ、人にしかできない対応に注力する

前提として理解すべきことは、ユーザーは問題を解決したいのであり、どのチャネルを選択するかはその為の手段に過ぎないことです。

「問い合わせをする際に、企業に最も求めること」は、「簡単に・いつでも問い合わせができ、問題が解決すること」の優先順位が高く、問い合わせ窓口を設計する際には、「いかに顧客労力を下げるか」が重要なポイントだと考えられます(図1)。

そう考えると、問題解決が最も簡単に出来るチャネルこそ、ユーザーにとって最善のチャネルと言えるのではないでしょうか。ただし、ユーザーの属性や状況、問題となっているコールリーズンで異なるため考慮が必要です。

一方で、「窓口を利用した際の良かった経験」を聞いたところ、

「要望をくみ取ってくれて、丁寧に親身に対応してくれた」
「聞いたこと以上の情報を教えてくれた」
「解決しなかったが、丁寧な対応で信頼できた」


といった「人ならでは」の良さが感動経験に繋がっているようです。簡単に解決することが最優先である上で、やはり人の対応による親密性を求めているユーザーの多さも伺えました。

電話だけでなくチャットを含めたチャネルの導入や、簡易手続きの自動化による24時間365日対応などで、顧客労力を下げつつ、人にしかできない対応に注力する。その結果、顧客体験(CX)の向上につながるのではないでしょうか。

問合わせ状況やコールリーズンで、有効なチャネルが変わる

次に、ユーザーはどのような問い合わせ手段を利用しているか見ていくと、約3人に1人は電話を最もよく使い、2人に1人がノンボイス(フォーム・メール・チャット)を一番にあげています(図2)。

この結果から多様なチャネルが浸透してきていることが分かります。ただし、この結果はユーザーの嗜好性そのものを反映していない可能性があることを留意する必要があります。

注目すべきは、チャットでの問い合わせ経験者は7割以上と、4年間で約2倍に増えている点です。チャットでの問い合わせ経験者の8割以上が「便利」だと回答しています。

「時間や場所を選ばず、自分の都合で問い合わせができる」
「すぐつながり、待たされない」
「電話や対面と比べて気を使わなくて良い」
「テキストとして記録に残るので見返しやすい」
といった、チャットならではの利点を感じているようです。

「チャットでの問い合わせで不満を感じたこと」は、

「解決できない場合、チャットで人に対応してほしかった」
「話がかみ合わず解決に至らなかった」
「対応できる範囲が少なかった」
「解決できない場合、チャットで人に対応してほしかった」

といった声も上がっています。

チャットならではの特性を活かしつつ、チャットボットと人の連携や、本人確認業務などチャットでの対応範囲の拡大が必要になってくると考えられます。

やなり、問合わせをしている状況と、コールリーズンによって、どのチャネルが有効か変わってくると言えます。

新型コロナ禍の施策でデジタルシフトの進行が顕著

ここで視点を企業側に置いて見ていきます。

コールセンター白書2021」によると、新型コロナ禍の施策として在宅以上にデジタルシフトの進行が顕著で、今後強化すべき点でも「メールやチャットなどノンボイスコミュニケーションの強化」(75%)が、「在宅コールセンターへの移行・あるいは拡大」(53.8%)を20%以上も上回る結果でした。

リックテテレコム「コールセンター白書2021」を参照の元、Mobilus SupportTech Labが編集

また「今後対応予定のチャネル」も、「チャットボット」(43.6%)、「有人によるチャット対応」(39.6%)と、ほかのチャネルと比べて圧倒的に高いです。

リックテテレコム「コールセンター白書2021」を参照の元、Mobilus SupportTech Labが編集

CX観点でデジタル化を捉え直す

ノンボイスチャネルの拡充に積極的な考えが広まっていますが、切り替えに成功していると回答した企業は、2年間で16%から17%とほとんど増加していないという調査結果(2021 グローバルコンタクトセンターサーベイ日本版レポート)もあり、チャネルシフトに苦戦している企業も多いことが見て取れます。

「顧客が従来のチャネルを引き続き使っている」、「新しいチャネルが出来て問い合わせの総量が増加している」といった要因があるようです。

顧客接点のデジタル化の掛け声の下、ノンボイス化や自動化が進められています。対応効率の向上やコストダウンの側面から語られることが多いですが、その結果としてのCXという視点でデジタル化の施策を捉え直すことが大切ではないでしょうか。

チャネルを増やすだけではなく、顧客が適切なチャネルにたどり着けず負荷が高まることや、オペレータの対応効率が下がる恐れもあります。

顧客の解決労力を低減させ、的確なチャネルでの人による親身な対応を実現する。そのためのチャネル選択肢拡大であり、定型的な業務自動化によるオペレータ対応キャパシティの獲得であると考えます。

「多大なコスト増につながるのではないか」「コストセンターなのでコスト上昇につながる施策は打てない」といった声をよく聞きますが、果たして本当なのでしょうか。

CXの向上は、企業の売上利益に直結する最優先課題

「お客さま窓口の対応が、企業のイメージや商品・サービスの購入に影響する」と答えた人は90.9%でした。

2人に1人以上(56.6%)が窓口対応に満足して、購入決定・利用継続しており、窓口に不満があった際に購入・利用をやめた人も46.6%と、窓口対応への満足度が購買決定に大きく影響している結果がでています。

顧客と直接接する窓口として、企業ブランドや売上にも影響する重要な存在であると言えます。

CXの向上は、企業の売上利益に直結する最優先課題として考えるべきです。ユーザーのSNS利用の高まりから企業広告におけるリスク上昇が懸念されており、尖った広告は炎上リスクがあるため避けられる傾向があります。

一方、優良なCXはSNSで拡散され(逆にネガティブな体験はそれ以上の規模で拡散される)、非常に理にかなった企業ブランディング投資と捉えることができます。

CXの向上は、主要経営課題になりつつあるのです。

CX向上につながるノンボイスチャネルの活用を考える際には、チャネル単体で考えるのではなく、ボイスとノンボイスの融合・定型手続きの自動化・マルチチャネルの導線設計など、全てのチャネルを組み合わせて複合的に考えていくことが必要です。