この記事は、株式会社ベルシステム24ホールディングスが運営するコンタクトセンターの森に寄稿した記事を一部更新する形でリライトするとともに、新しい記事を追加しています。
コンタクトセンター業界が注目するキーワード、生成AI。生成AIに関するニュースが連日話題に上っていますが、企業経営のテーマとして重視すべきもう一つのキーワード、CX(顧客体験価値)の向上にも今一度着目したいと思います。
CXの概念は、40年近く前から存在しており新しい言葉ではありませんが、もっとも企業価値や収益に直結すると言われています。デジタルシフトによるカスタマージャーニーの多様化により、提供サービスや製品の価値向上に加え、CXの向上が企業経営における重要指標と理解されている経営者の方も多いのではないでしょうか。コンタクトセンターは、生成AI活用による業務効率化や生産性向上だけでなく、組織としてCX向上における革新的な価値をもたらす役割への変化が期待されています。このコラムでは、その背景や企業貢献の観点を探っていきます。
目次
- なぜ今CXが注目されるべきなのか
- コンサルティングも、BPOも、ソリューションベンダーも取り組み始めている
- 具体的にCXとはどういうこと?
- 今後のコンタクトセンターの役割は
- 生成AIとCXが2024年の企業の主要テーマに
なぜ今CXが注目されるべきなのか
CXは「Customer Experience(カスタマー・エクスペリエンス)」の略語で、日本語では「顧客体験(価値)」を意味します。さかのぼれば1980年代ごろから提唱されて今に至るので、決して新しい概念ではありませんが、逆に廃れることもなくコンタクトセンターの領域においても頻繁に使われてきました。それが2010年以降再度脚光を浴び出し、2020年以降になって特に経営の重大なテーマとしてようやく思い腰を上げて取り組む企業が増えてきました。それはなぜでしょうか。
クライアント企業にとってDXをテーマにした業務効率化や生産性向上の取り組みは、人材採用難・育成難が”今まさにそこにある危機”であるため、誰もがわかりやすく、理解しやすいテーマである、と同時にROI(費用対効果)を試算しやすいため、周りの協力も得やすいです。また広告関連も、目に見える形でのクリエイティブのアウトプットや短期的な売上効果が得られやすいので施策としては実行しやすく投資対象になってきました。
一方でCXは顧客との中長期的なロイヤリティを築き上げ、生涯価値を高めることで企業のブランド価値を高め、企業の収益に直接的に貢献するのですが、これがあまり理解されないことと、ROIを明確に出しづらいためステークホルダーを納得させるほどの投資判断が難しいことも、多くの企業が取り組んで来られなかったことの背景としてあるのではないでしょうか。
ただ、この機運も大きく変わりつつあることを感じています。以降の章でそれを探ってゆきます。
コンサルティングも、BPOも、ソリューションベンダーも取り組み始めている
以下のデータからも分かるようにそもそものコールセンターの設立目的では「顧客満足度の向上」、「VOCの収集と関連部署への共有」などまさに経営貢献としてCXに関連するものが上位に来てはいるものの、それをうまく活用できていない理想と現実とのギャップに悩んでいるようにも見えます。
また今後2年間のコンタクトセンターの重要戦略を見ても「顧客体験(CX向上)」、「収益貢献・クロスセル/アップセル」と海外企業と比較した時の伸び幅が大きいのも見て取れます。
クライアント企業へ提案する側のコンサルティングも、BPOも、ソリューションベンダーもそれに気づいていて、すでに動き出しているのがわかります。実際に”CX”, “CXコンサルティング”などのサービスやソリューションで提案し始めているコンサルティング、BPO、ソリューションベンダーは着実に増えてきています。コンタクトセンターの森のオフィシャルサポーターである株式会社ベルシステム24も”コンタクトセンターからCXと顧客満足度向上を支援する”というテーマでいち早くから取り組み始めた代表的なBPOではないでしょうか。その他のCXへの取り組みを始めている企業を上げると以下のような企業がすぐに調べられます。各企業のソリューションやサービスの内容の違いこそあれ、CXの重要さをテーマにして訴求し始めていることは間違いないようです。
▼CXの取り組みを始めている企業の一例
株式会社NTTマーケティングアクトProCX
株式会社NTTデータ研究所
アビームコンサルティング株式会社
株式会社TMJ
PKSHA Communication Inc.
株式会社プレイド
具体的にCXとはどういうこと?
エンドユーザーがそのクライアント企業の商品またはサービス、ソリューションを購入して利用するまでに、一般的にはカスタマージャーニー(情報収集→比較検討→購入→購入後の相談→波及)をたどるわけですが、このプロセスにおいて苦情を申し立てるユーザーは25%以下だと言われています。逆に言えば、75%以上の顧客は多少わからないことや不満があったとしても何も言ってこないのです。わからないまま放置するケースもあれば、知らぬままに他社サービスへ移っていってしまっていることも往々にしてあります。苦情を申し立ててくるユーザーは逆にVOCとして活かせるのでどちらかというと非常にありがたいユーザーですが、マジョリティはもう一方の75%の層にあり、この層の取り込みをしっかりと押さえる(あるいは比率を抑える)べきではないでしょうか。
CXへの投資は「あまり理解されないことと、ROIを明確に出しづらいため、ステークホルダーを納得させるほどの投資判断が難しい」と冒頭に書きましたが、クライアント企業内に存在するVOCやアンケートによるデータをしっかりと活用すれば、その顧客損失や離反のリスクを定量化することはできるのです。
下図は20万人のトラブルを抱えたクライアント企業の顧客損失や離反リスクのシミュレーションの比較ですが、
苦情を申し立てる人に対して満足度を上げる応対施策をとる
苦情を申し立てない人に対して苦情を積極的に受け付ける環境を設ける
この二つの施策を取るだけでも、顧客損失リスクの人数は4,800人と大きく変わってきます。そのクライアント企業のサービス単価を仮に100,000円/顧客だとすると、4.8億円分もの収益に差が出てきます。もちろんそもそものトラブルを抱えた顧客自体を減らすことができれば(これにはもちろんサービスの品質やマーケティング施策などに関わるため全社的に取り組む必要があります)もっと収益にインパクトを出せることは、このコラムの読者の皆さんならすぐにお気づきになるでしょう。
今後のコンタクトセンターの役割は?
上述の通り、CXによる収益のインパクトまでを見てきましたが、これを実現するためにはコンタクトセンターの役割も少し変わってゆく必要があると言えます。これまでのコンタクトセンターの多くはサービス購入後のアフターサポートという役割の比重が大きく、入ってきた問い合わせ(インバウンド)に対していかに応答率を高めて、効率的に処理するかに主眼が置かれていました。そして主にコスト削減が至上命題でありました。CXを実現し、企業収益に貢献するためにはその領域を上流から下流まで広げてゆく必要があります。(注意:ここでの企業収益に貢献するというのは、コンタクトセンターそのものが営業活動を行い、直接的に売上を担う活動をするということが主旨ではありません。もちろんコンタクトセンターの中にはアウトバウンドなどでその役割を担っており企業に貢献している重責を担う役割もあります。)
例えば、カスタマージャーニーの上流であれば蓄積したデータを活用して顧客の属性を特定し、その属性に合った商品の提案や使い方の提案を顧客から問い合わせを受ける前に提案する、であったり、購入後のクチコミ波及段階であれば、自社のサービスの不満などをツイートした顧客を検知して、フォローアップのコメントを入れたり、あるいはよりコミュニケーションが活発なユーザーコミュニティにご案内して詳しい情報を入手してもらうなど、顧客行動の把握やつまずきを先回りするような対応です。あくまでも一例ですが、こう言った活動が75%のマジョリティ層の顧客体験価値を上げ、リテンションし、企業ブランド価値の向上、ひいては企業収益の貢献の一助になるのです。
これまで紹介してきた内容を根拠に、もちろん一朝一夕にとは申しませんが、今後コンタクトセンターの役割は大きく以下のように変わってゆくと想定されます。
- コストセンターからプロフィットセンターへ
- KPIは応答率向上から顧客ロイヤルティ向上へ
- リアクティブな応対からプロアクティブな応対へ
生成AIとCXが2024年の企業の主要テーマに
前回のコラムでは生成AI活用の展望をテーマにして寄稿しました。個人的にはこの生成AIとCXは対になるテーマになりうると考えています。生成AIを取り入れることでDXの理想に近づくことができれば、それがCX(顧客体験の向上)に直接貢献することもあるし、クライアント企業が腰を据えてCXに取り組む余裕も自然と生まれてくる気がします。また業界のトップマネジメントやリーダーたちがこぞってCXの重要さについて語り始めていますので、一緒に盛り上げて行きたいものです。
後編「CX(顧客体験価値)向上を成功に導くアプローチ」では、CX向上のためのアプローチとして、情報収集から組織・定着化までの取り組みをStep1からStep5の5つのフェーズに分類し、各フェーズ毎の具体的な課題や目標について解説しています。こちらもぜひご覧ください。