この記事は、株式会社ベルシステム24ホールディングスが運営するコンタクトセンターの森に寄稿した記事を一部更新する形でリライトするとともに、新しい記事を追加しています。

前回の「なぜ今CX(顧客体験価値)向上に注目すべきなのか」では、CXの重要性その意義、コンタクトセンターが担うCX向上の役割に加え、生成AIとCXが企業の主要テーマになっていくことについて触れました。短期的に成果を出したいと思われる方も多いと思いますが、CX向上の取り組みは企業にとって長期的な活動となるため、投資効果を得るためのロードマップ策定やパートナー選定が望まれます。今回このコラムではCX向上のためのアプローチとして、情報収集から組織・定着化までの取り組みをStep1からStep5の5つのフェーズに分類し、各フェーズ毎の具体的な課題や目標について探っていきたいと思います。

目次


アプローチ(Step1~2):情報収集、ベースライン作成

CXは「Customer Experience(カスタマー・エクスペリエンス)」の略語で、日本語では「顧客体験(価値)」を意味することは前回のコラムでもお伝えしました。

ここではクライアント企業にとってのカスタマーの「顧客体験(価値)」を向上させるためにはどのようなアプローチを取って行けば良いのかのコンセプトをご説明します。以下のイメージ図をご覧ください。(※図1)

※図1 モビルス社作成

CX向上のアプローチをStep1からStep5とフェーズ分類しています。Step1からStep5まで進んだら完成ということではなく、必要に応じてStep1やStep2に何度も何度も立ち返り、継続改善する必要があることは言うまでもありません。

まずStep1(情報収集)においては、そのクライアント企業にとっての顧客のカスタマージャーニーを自社で作成し、その中でのクライアント企業の業務プロセスを当てはめ、顧客接点としてVOCを得られる箇所、そして顧客にとってのペインポイント※1や顧客満足度が高い点を洗い出します。具体的には以下のイメージ図です。(※図2)

※1 ペインポイント:ユーザーが「お金を払ってでも解決したい」と考えている悩みや課題のことです。

※図2 モビルス社作成

カスタマージャーニーにおいて顧客がつまずいている点、不満に思っている点、改善すべき点、むしろ継続すべき満足度の高い点をしっかり洗い出すことが重要です。

Step2(ベースライン作成)においては、自社視点だけではなく、顧客視点でのそのクライアント企業に対する見え方を把握するために、既存顧客へのアンケート調査を活用し定量的なデータを取得します。一定程度自社サービスの既存顧客が出てきた場合にはある程度の母数を獲得しながら顧客からのデータを反映する必要があります。

このように1. 自社視点、2. 顧客視点、3. デジタル接点、そして4. ノンデジタル接点からの複数の手法でペインポイントや顧客が満足している点を多面的なアプローチで実施することで、課題や改善の洗い出しの網羅性を上げて実施します。

Step2の後半では定量的にデータで可視化したペインポイントや顧客満足度が高い点でクライアント企業が取り組むべき優先度を決めていきます。例えばですが、1. 提供するサービスの料金が高い、2. サービスが使いにくい、3. 問い合わせした時のサービス対応が良くない、などの顧客にとってのペインポイントが上がったときに企業として果たしてどこから最優先で取り組むべきかを決めるのです。


アプローチ(Step3~4):施策立案、レビュー・改善

そして、Step3(施策立案)においては定量的なKPI設計とCX施策の立案を行なっていきます。企業として優先して取り組むべき事項を決められたのであれば、それに対してKPI設計では具体的な数値を持ってゴール設定を行います。不満足な顧客の体験が収益、口コミ、リスク、利益に及ぼす影響の数値化、そしてNPSやNPI、CSATなどの顧客満足の指標数値もあるでしょう。またその目標を達成する上でソリューションが必要であれば、導入検討を行なっていきます。(※図3)

※図3 モビルス社作成

手前味噌ではありますが、ここで弊社がアプローチするとしたら、顧客接点フロントとバックオペレーションの両面で全体設計提案を行います。

もちろん運用に合わせた形で既存システムや他ソリューションとのカスタマイズの連携開発や、導入前・導入時・導入後のCX改善コンサルティング、そしてROIを出すためのカスタマーサクセス提案もここには含まれます。もちろん全てを同時に一度には実現できませんので、CX施策実現のためのロードマップをひきフェーズごとに実施すべき施策や導入すべきソリューションのスケジュールを組んでいく必要があります。

そして全体設計から俯瞰してこれらの必要なソリューションを導入・運用した後にレビューを行います。CX向上の取り組みは短期的には結果が見えにくいため(もちろん施策の中で短期的に効果を発揮する箇所も出てくるでしょう。ただし全体の取り組みからすれば部分最適な結果ですし、ここでの本来の目的の達成とは言えません。)、Step4の対策実施とレビューにおいては中長期的に見ていく必要があります。少なくとも半年以上、1年あるいは2年の取り組みを経てレビューを行うのが妥当だと言えます。

Step4(レビュー・改善)においては当初立てたKPI目標に対する結果と定性的なプロセスでの改善点をプロジェクトチームでしっかり洗い出しを行なった上で、Step1、Step2、Step3に立ち返り改善ポイントを決めます。もちろんゼロベースでStep1からの全てをイチから行う必要はありませんので、スピーディーに改善点を的確に掴むことの方が重要です。

Step4においてレビューと次回への改善点を整理できたら、Step1、Step2、Step3へのサイクルへつなぐ(※図4)と同時に Step5の組織・定着化へつなげます。

※図4 モビルス社作成


アプローチ(Step5):組織・定着化

そしてStep5(組織・定着化)は組織へこのサイクルを定着化する意味においてとても重要ですが、実はStep1より前に準備を行なっておいた方が良い時もあります。

なぜならこのCX向上のアプローチは全社横断で取り組む必要があるためです。トップマネジメントであるCEOあるいは社長から日々実務を行うメンバーに至るまで、その企業にとってのCX向上がなぜ必要なのか全社的に理解をして初めてプロジェクトは成功します。(※図5)

※図5 全社においてのカスタマージャーニー作成取り組みの様子(弊社のCXプロジェクトから)

そのための事前準備として、組織的に余裕がある企業ではCCO(Chief Customer Officer)のような横断的な役割を定めるのが理想的ではありますが、少なくともCXプロジェクトリーダーを定めて推進者の責任を明確にします。プロジェクトリーダーの役割として具体的にはVOCデータの収集、VOC統合と可視化分析、収益貢献のための施策立案とROIの算出、施策実行と効果測定、そして評価までを実行し、図4のサイクルを作り出し、組織への定着化を図ることです。


まとめ

トップマネジメントの理解と、全社の理解さえ取れれば、CX向上のプロジェクトの成功確率は格段に上がるでしょう。これは皆さんがお気づきのようにCX向上のプロジェクトにだけあてはまることではなく、どのようなプロジェクトを回すにも言えることなのです。

前編「なぜ今CX(顧客体験価値)向上に注目すべきなのか」の冒頭で、「ROIを明確に出しづらいためステークホルダーを納得させるほどの投資判断が難しい」と述べたのはこれが背景にあります。

ただ、今回のコラムでこのような中長期的な取り組みがCX向上のアプローチとしては必要だということがご理解いただけたのではないでしょうか。自社の顧客への取り組みとして是非検討をお勧めいたします。

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