2021年9月1日に発足したデジタル庁では、
『「徹底的な国民目線」を追求して必要とされる新たなサービスを生みだし、暮らしに有益なデータ資源の利活用も促しながら社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による暮らしやビジネスの変革)を推進していく。その結果、デジタル化が進んだ恩恵がすべての国民に行き渡る社会を実現させていく』
と設置の趣旨を説明しています。
様々なシーンで推進が叫ばれる「DX」。企業のお客さま窓口を始めとした顧客サポートの現場でも、「顧客接点のDX」が必要とされています。
本記事では、アニコム損害保険株式会社(以下、アニコム損保)のとても興味深い取り組み事例を元に、LINEを活用した顧客接点のDXについて具体的な取り組みと成果を紹介します。
顧客の労力を下げながら、顧客のロイヤリティを構築するには?
「顧客接点」では、どんな「変革」が必要とされているでしょうか。
まず一点目は、問い合わせシーンにおける顧客の解決労力を下げることです。
商品やサービスを購入する前、購入したあと、何か困ったことがあったとき、聞きたいことがあるとき、
「電話がつながらない」「待たされる」
「コールセンターの営業時間に電話ができない」
「Webサイト見ても良く分からない」…といった不満を皆さんも感じた経験はありませんか?
顧客の「困った」を「すぐに」「いつでも」「簡単に」解決することが求められています。
もう一点は、顧客ロイヤルティ(ブランドや商品、サービスに対して感じる「信頼」や「愛着」)の向上です。
顧客がサービスや商品に対して「楽しい、うれしい」と感じたり、「コミュニティーのような繋がり」を感じたり、「行き届いたサポートで大切にされている」「ケアしてもらっている」と実感できると、顧客ロイヤルティの向上に繋がると考えられます。
LINEを軸に顧客接点を密にまとめる
アニコム損保では、「顧客の解決労力を下げること」「顧客ロイヤリティの向上」、この2点の「変革」を実現するユニークな取り組みとして、「問い合わせ」「手続き」「相談」「コンテンツ」「繋がり」といった顧客接点を、LINE公式アカウントに集結し、「密」にまとめ、トータルでの世界観を創り出しています。
バラバラに考えがちな顧客接点をLINE上に集めることで、それぞれの要素が相乗効果を生んでいるのです。
まず、顧客労力を低減する、「早い」「簡単」「シンプル」な「手続き」や「問い合わせ」の仕組みを作りました。
普段使いなれているUI・UXで顧客にとって便利なので、LINE公式アカウントというコミュニティーに入る・居続ける基本的なモチベーションにつながっています。
また、「楽しくて便利で役に立つ」有益なコンテンツや情報を配信することで、継続的コミュニケーションを生み出し、企業側が出したい情報も受け取ってもらいやすくなっています。
例えばアニコム損保では、「どうぶつの熱中症対策」のような情報を定期的にお届けしています。
そして、チャットを通した専門家への相談や、ペットを愛する同志たちと繋がる機会など、「人とのつながり」「頼れる」「親身」「共感」を生み出し、温度感のある人と人とのコミュニケーションを実現しているのです。
ここからは、アニコム損保が取り組むLINEの具体的な活用方法を紹介します。
【チャットボットで手続き対応】かかる時間を2週間から4分強に大幅な短縮
ペットは診察など定期的に病院を利用するため、人間と比べて保険金を請求する機会が多いです。
従来は紙を印刷して記入し、診療料金明細書と一緒に郵送する流れだったため、手続き完了までに2週間近くかかっていました。
そこでアニコム損保では、保険金請求にかかる顧客の労力を下げるべく、LINE上でのチャットボットによる請求手続きの仕組みを導入しました。
LINE上での手続きは、なるべく入力を減らし選択式で選べるようになっています。また、診療料金の明細もスマホで撮影してLINE上に上げるだけなので、印刷や郵送の手間がかかりません。
LINEの活用で、2週間もかかっていた手続きを、4分強で完了できるようになり、顧客の手間と時間を大幅に削減できています。
チャットボットで自動対応するため、企業側の人の手を介した対応労力の削減・効率化も実現しています。そして、この点は長期的に企業側の「コスト削減」というニーズにもつながっています。
また、保険加入も見積もりから申し込みまでLINEだけで完了できます。ペットを迎えたときなど、入りたいと思ったときに、その場で簡単に完了できる仕組みです。
手続きの最初に、ペットの写真を送信すると「あと少し!」など写真付きで応援してくれるので、面倒な手続きも楽しみながらできる工夫も考えられています。
実際に「入りたいタイミングで手間なく申し込みができる」ので、新規加入の促進に繋がることも。
【チャット相談】獣医師へ気軽に相談できるチャットサポート
アニコム損保では、LINE上で獣医師へチャット相談ができる「どうぶつホットライン」(https://www.anicom-sompo.co.jp/hotline/)を、保険加入者へ無料で提供しています。月1,000件に上る相談が寄せられ、ペットのちょっとした心配事や悩みを気軽に相談できると好評です。
SNSでも「LINEで獣医師さんにいつでも相談できて、返事も早く返ってくるので助かっている」など話題に。心の琴線に届くサービスとして認知されています。
満足度の高いサービスを提供することで、保険の継続率向上にも繋がっています。
【ペットオーナーとの絆をコミュニティーで共有】LINEで継続的な関係性を築く
保険加入から保険金請求まで面倒な手続きをLINEで完了できる便利さ。獣医師にチャットで気軽に相談できる顧客満足度の高いサービス。便利で役立つ顧客サポートを基盤に、顧客との繋がりを深める施策も行っています。
「#withlist さよならまでにキミとやりたい3つのこと」キャンペーンは、大好きなペットと一緒にやりたい「夢」をLINE上で募集し、「夢の1日」をプレゼントする試みです。
1年間で5万件以上の夢が集まり、中でも多かった「芝生で思い切り走らせてあげたい」、「一緒に遠出をしてみたい」、「プロのカメラマンに写真を撮って欲しい」、「とびきり美味しいごはんを食べさせてあげたい」といった夢を叶えるため、一日だけの夢のドックラン「withlist Run」を特設し、8組の家族を招待しました。
(参照:https://www.anicom-sompo.co.jp/news/2019/news_0190711.html)
このような施策を通して、LINEをコミュニティーとして育て、顧客との関係を深めることに成功しています。
【有益なコンテンツ】楽しみながら事故率低下を促進するコンテンツの定期配信
情報配信のシーンでも、顧客にとって有益なコンテンツを定期的にLINEを使って配信しています。
例えば、熱中症が心配される時期に、「犬の熱中症予報」や「予防法」といった事故率低下を促進するコンテンツや、春には「犬はお花見を楽しめるか?」といった季節に合ったコンテンツなどです。
便利で役立ち、コミュニティーとしての繋がりも強いアニコム損保のLINE公式アカウントは、友だちを解除されるブロック率も低く、友だち数は年々増え続け、今では31万人を超えています。
【LINEの通知メッセージの活用】
また、「顧客接点のDX」として期待できるのが、「LINEの通知メッセージ」です。
通知メッセージとは
LINEに登録されているユーザーの電話番号と、企業が保有する顧客データベース上の電話番号情報を照合させることで、友だち登録していないユーザーに対してもメッセージを送ることができる機能です。
配信できるLINE通知メッセージは、LINEのユーザーにとって有効かつ適切であるとLINE社が判断したものに限定され、荷物の配送予定や公共料金の案内、航空機の遅延/欠航通知など、生活を豊かにする情報に利用されています。
LINEの通知メッセージ活用で有名なのが、「クロネコヤマトの再配達システム」です。使ったことがある方も多いのではないでしょうか。
クロネコヤマトのLINE公式アカウントと友だち登録していない人へも、荷物のお届け予定日時のお知らせを届けることができます。LINE上で日時変更などができるので、顧客にとって便利な仕組みです。
そのほか、例えばソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社では、「So-net」の顧客サポートで通知メッセージを活用しています。光回線の新規申込者へ、工事日通知などを通知メッセージでお知らせしています。
通知メッセージは、「広告を除く、ユーザーにとって、重要性や必要性の高いメッセージ」とLINE側の審査基準があります。審査のハードルはありますが、顧客にとって便利で価値がある仕組みとして顧客との関係作りに有効な手段です。
LINE上での手続きやチャット相談、通知メッセージなど役立つ顧客サポートを土台に、コミュニティーを作り、顧客との関係を深めていくことは、結果としてセールスアップにも繋がります。
今回はアニコム損保をはじめとした複数社の成功例をもとに「顧客労力の低減と顧客ロイヤルティの向上を実現する」LINEを活用した「顧客接点のDX」を紹介しました。
ぜひ、貴社の取り組みの中でも、スタートしやすいところから、お試しされてみてはいかがでしょうか?