2021年7月28日、オンラインセミナー「人とシステムが協調する戦略的コンタクトセンターの作り方」を開催しました。本セミナーは、『コンタクトセンターの作り方・運用の仕方』共著者のアドバンス・コンサルティング株式会社 代表取締役 有山 裕孝氏、パソナグループ ビーウィズ株式会社 執行役員CQO 仲江 洋美氏をパネリストに迎え、モビルス株式会社 代表取締役社長・Mobilus Support Tech Lab所長 石井 智宏がモデレーターを務めた、ディスカッションスタイルでの3社共催の「出版記念」セミナーです。
目次
■チャネル特性と導線~顧客労力を下げるマルチチャネルでの効率化~
・チャネルの拡充は顧客にとって衝動的な気持ちの解消にはなるが、最適な選択が出来るとは限らない
・複数のチャネル間で顧客情報の一元化や、均一な応対が必要
・複雑・個人の事情・心情的側面が求められる応対は、人でないと難しい
・セルフサービスは、企業側の効率化と共に、顧客にとって利便性も高める
■オペレーションと最新のシステム/ソリューションの組み合わせ方
・意識改革も進みクラウドサービスが一般化。AIは地に足が着いた活用へ
・モニタリングの一部を自動測定。熟練のモニタリストとの役割分担
・システム導入時に目的を明確にし、評価軸を決めることが重要
■在宅コンタクトセンターの課題と可能性
・コロナ禍で在宅化が進むも、限られた範囲での活用が実状か
・セキュリティ、品質管理、対応効率などの課題も運用する中でクリアできた
・在宅開始までのスピードはノンボイスが速いが、運用後は変わらず
■出版に込めた想い
・変化が多い中でも変わらないノウハウを記し、SVさんを応援したい
・40年の業界経験で得た知識を網羅的に整理し、業界へ恩返しをしたい
こちらの書籍は、実際のオペレーションの運用方法や、テクノロジーがどのように関わっているかなど、網羅性高くまとめていただいているので、ぜひ手に取っていただければ幸いです。
それでは早速ですが、お二方から自己紹介をお願いいたします。
私は、元々通信事業者の立場で長い間仕事をしていました。エージェンシーでも数年、ソリューションベンダー的な立ち位置でも数年間仕事をしています。
その中で、コンタクトセンターが本当に必要としているけれど、ネットワークキャリアもベンダーも十分な支援ができていない面があると感じ、どこの立場でもないコンサルタントとして仕事をしてみようと思い、2004年に創業しました。
以来17年間、コンサルタント業をしています。主な事業は、ソリューションの提案・構築支援、コンタクトセンター運用改善支援、アセスメント・グランドデザイン支援などです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
最初にビーウィズの紹介からはじめます。コンタクトセンター・BPOの運営をしている会社です。札幌から長崎まで15拠点、従業員数7,700名で頑張っています。最近はコンサルティングや「Omnia LINK(オムニアリンク)」といったデジタルソリューションの開発や提供も始めています。
おかげさまで5年連続二桁成長を続けることができました。通販からインフラなど、実に多種多様な企業様とお付き合いをさせていただいています。
私の紹介も簡単にさせていただきますと、オペレーターやSVの経験から、センターの立ち上げ、オペレーターの採用、教育、モニタリングまで、コールセンターを中心としてあらゆる仕事をやってきた二十数年間でした。
中でもSV教育のプログラム開発に特に力を入れてきました。その流れで、「一般社団法人日本コールセンター協会(CCAJ)」の講座や、今回の書籍執筆をしています。
本日はよろしくお願いいたします。
チャネル特性と導線~顧客労力を下げるマルチチャネルでの効率化~
モデレーター 石井
ありがとうございます。それではディスカッションに入ります。一つ目のテーマは「チャネル特性と導線」。本書では、第3章と8章でご紹介いただいている内容です。
最近、DXという言葉が流行っています。DXを基軸に様々な投資がされる中で、企業がユーザーに提供するサポートチャネルが拡大されてきました。例えばFAQの拡充としてチャットボットを設置。チャットボットで手続きを自動化するチャネルを作る。ボイスボットで電話の自動対応をする。有人対応でもチャット・メール・電話などいろんな導線を用意する企業が増えています。
「チャネルの拡充が顧客労力の軽減に繋がっているのか?」という疑問が出てくるのではないでしょうか。掘り下げてお伺いしていきます。コンタクトチャネルは多いほどお客さまにとってメリットになるのでしょうか。
チャネルの拡充は顧客にとって衝動的な気持ちの解消にはなるが、最適な選択が出来るとは限らない
仲江氏
運営者、消費者両方の経験から、「チャネルは多い方が幸せとも限らない」と感じたことがあります。
すごく困るトラブルが起きてすぐに解決したいとき、たくさんのチャネルから選べるのは、その瞬間の衝動的な気持ちを解決するにはとても良いと思います。
一方で、その先を考えていくと……例えば、「使っていたものが壊れた、絶対修理が必要だ」と思い、Wevサイトで修理の受付を見つけて申し込む。「よし!3日後だけど、お休み取ってる日だから修理に来てもらおう」と、その場の衝動はスッキリ解決します。
しかし、3日後修理が来たとき、「申し込みのフォームに書いた情報に記入漏れや間違いがあった」「そもそも修理が必要ではなかった」というようなことがあるかもしれません。
ほかにも、問い合わせをしたいときに「今、人と話したくないな」と思い、メールで問い合わせをした。この選択は果たして良かったのでしょうか。結局メールで何度もやりとりするならば、翌日気分が良いときに電話した方が早かったのかもしれません。
全てのチャネルから選べると、問い合わせ内容にマッチしていないチャネルを選んだ場合に二度手間になったり、解決までに時間がかかることもあります。
企業としては適切にチャネルを絞っておくという選択肢もあるのではないでしょうか。
複数のチャネル間で顧客情報の一元化や、均一な応対が必要
モデレーター 石井
問い合わせ内容に応じて、緊急度の時間軸やそのときの話したい・話したくないなどを的確に仕分けできれば良いのでは、というお考えですね。
有山氏
こちらは、モビルス社がインターネット調査したデータを元に、加工編集したグラフです。「日常生活で最も馴染みのあるコミュニケーション手段」の回答結果から、音声通信とテキスト通信を抜き出し、利用者の年代ごとに分けたものです。年代が高いほど音声通信を好み、低いほどテキスト通信を好む結果が出ており、世の中の傾向と言えるのではないでしょうか。
チャネルは多いほど、時と場合に応じてお客さまの要望に合った手段を取れるので、メリットは確かにあると思います。ただし、複数のチャネルで応対するのは、企業にとって準備の大変さがあり、やるからにはチャネル間で顧客情報や応対履歴情報が一元化されていないとデメリットにもなるので注意が必要です。
メール応対が始まった当初の話ですが、「メールで問い合わせをしたが返事が来ないので、次の日に電話を掛けたが、メールで問い合わせした内容が把握されておらず適切な回答を得られなかった」とクレームになることもありました。複数のチャネルを用意する際は、どのチャネルでも均一な応対ができるように整っていないといけません。
企業として、どのチャネルで受けたいか企業ポリシー・戦略も考慮してチャネル設計をすることも大切です。例えば、単価の安い製品を売りたい企業の場合、コストパーコール(CPC)の高い電話応対では利益が吹き飛んでしまうこともあり得ます。したがって、メールやWebのみで受け付けて、電話対応をしないと決めるのも一つの戦略です。
モデレーター 石井
そうですね、お問い合わせをしてきたお客さまが期待している時間帯、年代、好み、さらに企業の意思としてどういったチャネルに誘導したいか。チャネルを増やすのは良いが、的確なところに誘導する必要がありますね。
二つ目の質問ですが、複数のチャネルを用意しているとき、どのような考え方でルーティングを作っていくべきなのでしょうか。
複雑・個人の事情・心情的側面が求められる応対は、人でないと難しい
仲江氏
これはすごく難しく、本にも何章に渡って書いていることでもあります。有山さんと「ルーティングの優先順位をマッピングできたらいいよね」と何度も話をしていました。緊急度と複雑度の4象限に対して、ここはメール、ここはチャットボット…と考え始めたのですが、どうもうまくマッピングできません……。
さらに、「心情的に理解をしてほしい」ということもチャネル選びにはすごく重要ではないかと、軸が増え……整理できないままここに来ています。
シンプルに整理できないかと作ったのが、右側の逆三角形です。逆三角形が問い合わせの量を示しているとしたら、まずWebやIVRなど問い合わせの複雑度が最もシンプルなものがあり、大量に数を捌く。次に来るのがチャットボットやボイスボット、FAQです。AIなど技術の進化によって、10年前と比べ物にならないほど応対できる範囲が広がり、ちょっと複雑なものもできるようになりました。
究極に絞り込まれて残ったものは、やはり人がやらないといけません。複雑であり、さらに個人的な事情が絡んでいたり、心情的な側面を顧客が求めている場合などです。さすがに人でないと応対できないのではないでしょうか。
究極にシンプルに考えると、逆三角形の図がそれぞれの得意分野を最も活かした現在地かなと思います。
セルフサービスは、企業側の効率化と共に、顧客にとっての利便性も高める
有山氏
特に件数の多い問い合わせは、仕組み的にセルフサービスも使って解決できる方が、お客さんにとっても良いのでないでしょうか。セルフサービスは、必ず企業の論理でお客さまにしわ寄せが行くのではなく、いつでも問い合わせができ問題が解決できるので、お客さまにとっても利便性が高まります。
どうしても人でしかできないところはあるので、上手く使い分けを考えます。何が残るべきかをよく考えて、システムを入れるか人がやるかを設計することが必要です。
オペレーションと最新のシステム/ソリューションの組み合わせ方
モデレーター 石井
では、次のテーマに移ります。二つ目のテーマは、オペレーションと最新のシステム、ソリューションの組み合わせ方です。本書では6章で取り上げています。単にソリューションの導入だけでは目的は達成できない、というメッセージを強く感じました。
最近のトレンドとして、コンタクトセンターを支援するシステムはどんなものが出てきているでしょうか。
意識改革も進みクラウドサービスが一般化。AIは地に足が着いた活用へ
有山氏
どんなソリューションがあるか書きだしてみました。赤字が最近注目を浴びているソリューションです。いろんなチャネルが出てきていますが、チャネルごとに適切なサポートシステムやインフラが必要です。
最近の傾向として、クラウドサービスが一般化してきています。クラウドサービスは、セキュリティの問題でなかなか受け入れられなかった時代もありますが、最近は技術の進歩もさることながら意識改革が進んだことも背景にあるでしょう。
AIについては、「AIは万能」という幻想からやっと地に足がついた運用に変わってきていると思います。AIを実用化するには、十分な分析によって、どこにAIを使いたいかしっかり考えないと、入れてみたけどあまり役に立たず失敗になってしまいます。AIは導入すれば終わりではなく、人材育成と同じくAIを育てていくことも重要です。ナレッジのメンテナンスに稼働がかかるので、メンテナンスも考えて導入する必要があり、売る側のベンダーさんの姿勢も重要になってきます。
モデレーター 石井
ある調査会社から、電話インフラ、PBXでも、昨年クラウドがオンプレを抜いたという話を聞きました。元々の予測値では、クラウドがオンプレを抜くのは5年後くらいの予定でしたが、コロナで在宅対応が増える流れでクラウドが進んでいるようです。
こういったシステムの導入や、AIによる自動化も進んでいますが、システムでやるべきか、人でやるべきか、役割分担をどう考えていけば良いのでしょうか?
モニタリングの一部を自動測定。熟練のモニタリストとの役割分担
仲江氏
非常に限られた範囲の話になって恐縮ですが、私のごくごく身近で、システムと人の役割分担でうまくいった例として、モニタリングの事例があるので紹介します。
当社はアウトソーサーなので複数のセンターを運営しています。センターAの中にも、センターBの中にも、センターCの中にも、それぞれSVがいてモニタリングをしています。
一つのセンターの中だけだと見えなくなってしまうことを、監査役として専任部門(品質マネジメント部)がモニタリングする、ダブルチェック体制を取っています。品質マネジメント部は、来る日も来る日も通話履歴を聞き、モニタリングをするわけです。音声認識の技術が進歩するにしたがって、「そろそろ、クッション言葉は、AIとかロボットでチェックできるのではないか」と、モニタリング自動化を導入しました。
2019年から2年間自動評価の結果を蓄積しています。右側の表に、モニタリング項目を抜粋したものがあります。例えば「クッション言葉」だと、20個程度のクッション言葉を登録し、あるオペレーターの一カ月のコール、何百コールの中から、登録したクッション言葉を使った回数をみごとにカウントしてくれます。
どういうフードバックができるかというと、「一カ月のセンターの平均として、一件あたりのクッション言葉は1.8回です。でも〇〇さんは、一件あたり0.9回しか使っていません。でも先月は0.5回だったので増えましたね。クッション言葉別に見てみると、『恐れ入りますが』しか使っていないんです。『お手数ですが』は0回でしたので、今日から使ってみましょう!」。
「一カ月に0回」は、ものすごい説得力となりました。この結果をオペレーターが受け入れるのかと心配もありましたが、「たまたまの一件で人に評価されるより、機械に全件で評価される方が良い」という意見だったのです。
しかしながら、AIが進歩しても、説明力と共感力は自動評価できません。残った項目は、熟練のモニタリストが評価をしています。人とシステムが調和している事例だと思います。導入から2年間、上手く活用できているので、モニタリング自動化に使っている「Qua-cle」というサービスは外部向けにも提供を始めました。
モデレーター 石井
とても興味深いですね。そもそも品質マネジメントを独立してやっているところが、すごいなと思います。非常に分かりやすい例をありがとうございます。
システム導入時に目的を明確にし、評価軸を決めることが重要
モデレーター 石井
システムを導入することでお客さまの満足度がいかに推移するか、測定は大事だと思います。どのように測定し得るものでしょうか?
有山氏
まず、なぜそのシステムを導入したかったのか、目的は何か、です。品質向上のためか、効率を上げるためか、コスト削減のためか、顧客サービスを良くしかったのか、付加価値を上げたかったのか。
目的によって効果の測定方法も変わってくると思います。導入を考えるとき、何を狙いにするのかの意識を明確に持つと、自ずと評価の測定方法が決まってきます。
もちろん、最終目的まで一足飛びに行けるわけではなく、一年後、二年後などマイルストーンを置くこともあるでしょう。いずれにせよ、何を評価軸としてKPIを設定し、評価していくかは、導入の際に考えるべきことです。また、効果把握のためには、比較できるよう導入実施前の状態を把握しておくことも必要だと思います。
モデレーター 石井
何を目標にソリューションを入れるか明確にするのは非常に大事だと思います。我々も肝に銘じていきたいと思います。
在宅コンタクトセンターの可能性と課題
モデレーター 石井
次のテーマに移ります。
コロナ禍での、アメリカのコンタクトセンターの在宅化進捗データです。
大規模・中規模・小規模のセンターにおける対応がどうシフトしたか。海外はロックダウンもあったので日本よりさらにシビアだったと思いますが、大規模センターでは9割近くが在宅化しています。落ち着きが見え始めても多くのセンターで在宅を継続しているのです。
別のデータでも、コロナ終息後もおそらく30-40%くらいの比率で在宅対応、またはギグワーク対応が浸透するのではと言われています。
本書では第5章で、在宅化におけるボイス、ノンボイスの可能性が取り上げられています。日本での在宅オペレーションはどれくらい浸透してきたのでしょうか?
コロナ禍で在宅化が進むも、限られた範囲での活用が実状か
有山氏
「コールセンタージャパン2020年8月号」から引用した図です。「自社センターで実施したコロナ対策」を調査した結果で、「手洗いうがい」や「ソーシャルディスタンスを保つ」に続いて三番目に、「オペレーターのすべて(あるいは一部)を在宅勤務に移行した」があります。
在宅は、技術的にはずいぶん昔から運用できると言われてきましたが、運用的に問題があるとなかなか実現しませんでした。コロナ禍で導入せざるを得なくなった、やってみたら意外と上手くできたというのが実状だと思います。
次のグラフは、「自社センター実施したリモートワークの内容」の回答結果です。一部のオペレーターや一部の業務、特定のチャネルのみ在宅化したのが一番多い結果でした。在宅化できているのは、限られた範囲のみというのが実態かと思います。
モデレーター 石井
そうですね、席数的にはどのくらい在宅化が進んでいるか、非常に疑問でした。おっしゃれる範囲で結構ですが、仲江さん、実状としていかがでしょうか。
仲江氏
当社は「ビーウィズ デジタル ワークプレイス(在宅コンタクトセンターサービス)」と称して、センターの在宅化を浸透させる活動をしてきました。現在1,000席ほどで在宅運用をしています。大規模センターから数席規模まで、複数のセンターの合計です。思ったより進んでいるなと思います。
セキュリティ、品質管理、対応効率などの課題も運用する中でクリアできた
<モデレーター 石井>
1,000席はすごいですね。今のお話の流れとなりますが、在宅運用をする上で課題になっていることはいかがでしょうか?
有山氏
こちらの図は日本コールセンター協会(CCAJ)が毎年実施している、コールセンター企業 実態調査の結果です。
「在宅オペレーションを採用しない理由」の質問に対して、「セキュリティ上の問題」が一番多いです。二番目が「労務管理上の問題」、「品質管理上の問題」と続いています。
年代別に比べると、2018年、2019年、2020年と、どんどん減っています。「セキュリティ上の問題」は、2018年では、53社の内38社が問題だと言っていますが、2020年では50社の内15社と大幅に減っているのです。課題はあるが上手くやればそれなりにできるという結果なのではと思います。
モデレーター 石井
確かに、構成は変わっていませんが実数はかなり減っていますね。クリアされてきたことなのかもしれないですね。
仲江氏
ちょうどこのウェビナーの前に、当社では「ビーウィズ デジタル ワークプレイス」座談会をやりました。在宅化している席数が1,000席あることもすごいなと思いましたが、現場って強いな、と改めて感じています。
グラフはどこかのセンターの実数値ではなく、座談会で複数のSVから聞いた様々なセンターの話を元に、私が感覚的にグラフ化したKPIの変化イメージです。
「モニタリング結果」「後処理時間」「通話時間」「欠勤率」それぞれ、「在宅前」と「12カ月後」を比べると、あまり変わっていません。一年経っていろんな課題をクリアできた結果だと考えています。
しかし、在宅開始時には、数値の変化が起きています。「モニタリング結果」はあまり変わりませんでしたが、「後処理時間」は大幅に増えました。原因は様々で、例えば「在宅では、SVへのエスカレーションをチャットでするため、コール中に後処理対応に手がつけられなかった」「在宅で不安のため、今までより丁寧に後処理をしようと思った」などです。
オペレーターが家にいることで、物理的面だけでなく、感情的な面もあり、このような現象が起きていました。
「通話時間」が多少伸びたのは、保留中のエスカレーションが上手く行かなかったことが要因かなと。「欠勤率」については、在宅開始時に大幅に減少しています。在宅開始して誰も休まなくなったということなので、多くのSVが歓喜しました。残念なことに12カ月後には欠勤率が戻ってきているので、家だけど休みたくなっちゃうというのが現状です。
モデレーター 石井
なるほど。セキュリティの面でも在宅対応でも問題ないという話がありましたが、応対品質や効率も、在宅を一年続ける中で課題がクリアされているということですね。
続いては、在宅化する際に、ボイス・ノンボイス、それぞれ応対内容やチャネルによって向き不向きはあるのかお聞きしたいです。いかがでしょうか。
在宅開始までのスピードはノンボイスの方が早いが、運用後は変わらず
仲江氏
在宅を開始できたスピードは、ノンボイス、チャット業務が圧倒的に早かったです。ボイスと何が違うかというと、在宅対応できる電話のシステムを用意しないといけない、システムの壁でした。
そして生活音対策です。これは結果的には、心配いらなかったかもしれません。お客さまは、私たちが懸念しているほど気にされていませんでした。ただ、本当に一人で集中できる部屋を用意できるか、そういった規定のところも含めて、ボイスの方が開始までにクリアすべき課題が多いという現実があります。
しかしながら、いざ運営を開始すると、マネジメント課題はノンボイスでもボイスでも変わらないので、開始までの壁を越えて始めると、ノンボイスもボイスもそれほど変わらなくできています。
いずれにしても一番重い課題は、社内規定や労務管理やシステムなど、始めの方にあることが分かりました。センターがどうするかより、企業としてどうするか、企業としてセンターをどう支援するかが問われます。
出版に込めた想い
モデレーター 石井
今回ご出版に至ったのは、非常な努力だったと思います。努力を乗り越えて出版をしようと思った背景、この本を通じてお伝えされたかったことなど、最後に熱く語っていただければと思います。
変化が多い中でも変わらないノウハウを記し、SVさんを応援したい
仲江氏
長年に渡り、社内でのSV教育を始め、ご縁があって日本コールセンター協会のスクールでも講師を務めさせていただきました。社内であっても社外であっても、センター長さんやSVさんの悩みはこんなにも同じなんだなと目の当たりにしました。
コールセンター、カスタマーセンターを支える技術がどんどん進化していていく一方で、全然変わらないと思うこともあります。私がSVをしていた25年前からほとんど変わらないから、この先10年もほとんど変わらないんじゃないということを一度残しておくことが、SVさんの応援になると思い本書を執筆しました。
私は常に、SVさんを応援したい気持ちがあるようで、みなさんのためになると良いなと思っています。私は本書の前半部分、これまでもこれからも根本的に変わらない部分を書いていますので、参考にしていただければ嬉しいです。
40年の業界経験で得た知識を網羅的に整理し、業界へ恩返しをしたい
有山氏
この業界の知識やノウハウを体系的に整理した本がないと昔から感じていまして、実は2006年に本を書いたのです。しかし残念ながら、出して一年後くらいに出版社が倒産してしまい、書店で買えなくなってしまいました。もう一度こういった本を作りたいとずっと思っていたところに、日本実業出版社さんからお話をいただき、今回の出版に至りました。
コンタクトセンター業界は非常にたくさんの知識もノウハウも必要な世界です。きちんと網羅的に整理した本を作りたいとずっと思っていました。
自己紹介でも申し上げましたが、この業界の仕事を40年以上やってきましたが、その中で得たノウハウや知識を、少しでも多くの業界関係者の方にお伝えできればと、業界への恩返しの気持ちも込めてこの本を作りました。皆さまにご活用いただけたら非常に嬉しく思います。
コンタクトセンターは生き物です。常に変化し、良くも悪くもなるので、たゆまざる分析と改善の努力を継続していくことが大切かなと思います。