Communication Tech Conference 2019へのご招待ありがとうございます。

今回、講演を依頼されたとき、スピーチのテーマについて考えました。そこで、しばらく前に友人から「ジェリー、あなたは自分がこの世界で最も幸運な人間の一人だと知っていますか?」と問われたことを思い出しました。なぜ、私がそれほど幸運な人間なのか。今日は、これまでの私のビジネスでの経験をもとに、そのようなお話をさせてください。

Webのもたらした革命とYahoo!の創業

私は台湾で生まれ、移民としてアメリカに渡りました。スタンフォード大学に進学し、ちょうどインターネットを学んでいた頃のことです。World Wide Webが人気になりました。1989年にTim Berners-LeeがWebの概念を提唱してから、今年で早30年が経ちます。インターネット技術そのものはもっと以前からありましたが、Webは今日これほど盛んな情報の検索と公開において、真の革命をもたらしたのです。

ブラウザー1つで、Webサーバーを介してインターネットで相互に通信できます。ひとたびコンテンツをWebに公開すれば、世界中の誰もがそれを見ることができるわけです。ですから、この革命に立ち会ったDavid Filoと私は、1994年にYahoo!を始めました。1995年には法人化、1996年には上場し、公開会社となりました。当時は、本当にクレイジーな日々でした。私たちはまさに、いいタイミングで、いい場所にいたのです。

登壇の様子

日本への進出、Yahoo! Japanの立ち上げ

Yahoo!のような会社を始められるだけで、起業家としては十分に幸運です。しかし、私の次なる幸運は、日本でのインターネット革命に携われたことです。米国で上場する少し前、ソフトバンクの孫正義さんに出会いました。ソフトバンクはYahoo!の最大の投資家の1つになり、孫さんは投資の一環として、Yahoo! Japan、つまり日本への進出を求めてきたのです。

Yahoo!は当時、まだ本当に小さな会社でした。おそらく100人もいなかったかもしれません。正直なところ、日本への進出は、まったく考えてもみないことでした。しかし、皆さんも孫さんに一目会って、お話をしたらわかります。孫さんが語る言葉には、本当に説得力があるのです。

そこで、私たちはソフトバンクの支援を受け、Yahoo! Japanを立ち上げることにしました。 1996年3月、たった1か月でYahoo! Japanを立ち上げてしまったのです。当時ソフトバンクのオフィスに、みんなで詰め込まれたのをよく覚えています。ポータルサイトに掲載するウェブサイトを収集するサーフィンクルーには、孫さんの弟である孫泰蔵さんまでいました。

そんな多くのサポートと強力なパートナーシップのおかげで、Yahoo! Japanは成功しました。今日でも、Yahoo! JapanはLINEと合併し、世界最大のインターネット企業の1つになろうとしています。

さて、米国ではYahoo!を、さらに日本ではYahoo! Japanを立ち上げることができました。起業家としたら、もうこれで十分でしょう。しかし私は、さらなる幸運にも恵まれました。

ジャック・マーとの出会い、アリババへの投資

私は台湾生まれでしたが、中国を訪れたことがありませんでした。1997年に初めて中国を訪れたときのことです。中国政府は、私のために北京を案内するツアーガイドを割り当ててくれました。ガイドの名前は、馬雲(ジャック・マー)。後にアリババを創業した人物です。

その頃、ジャックはまだ創業前で、ちょうど新しい事業について検討していました。想像できると思いますが、1997年のジャックは非常に好奇心が強く、新しく生まれたインターネットへの熱意に満ちていました。その後、ジャックとは連絡はとっていませんでしたが、数年後、中国でYahoo!が事業を行う中で再び出会うことになります。

当時Yahoo!は、アリババ・グループのオンラインショッピングモール淘宝(Taobao)と競合していました。そして、ジャック・マーこそが淘宝とアリババの創業者だとわかったのです。すぐにYahoo!は、アリババに投資を行いました。今日アリババは、時価総額5,000億ドル近くを誇るEコマースの巨人です。このアリババへの投資は、誰にもできない最高の投資の1つとなりました。

このように、1995年から2005年にかけて、私は10年のビジネスキャリアで驚くべき経験をしてきました。そしてそれは、Yahoo!を辞めた後も続きます。

登壇の様子

AME Cloud Ventures Partnersを創業、投資家へ

2012年、私はキャリアを変え、新しいテクノロジー、そして起業家の支援に焦点を当てることにしました。そして直近10年ほどで、私たちは前例のないイノベーションを経験してきました。モビリティやクラウドの進化、ビッグデータ革命から発展したAI革命を迎えて、私は極めてシンプルな着想から、2012年にAME Cloud Ventures Partnersを創業します。

ところで、社名にあるAMEとは日本語の雨であり、妻と2人の子供の名前にも由来しています。私の妻は日本人なので、彼女はいつもYahoo!が彼女とは何の関係もないとこぼしていました。しかし、彼女は今や会社の名前の一部となったことを喜んでくれています。

私たちの事業は、クラウドビジネスに焦点を当てたものです。しかし、空に雲(Cloud)があるだけで、雨(AME)が降らなければ、そこに生命は生まれません。そこで、私たちは、クラウドとAI革命を活用する企業、アイデア、起業家にフォーカスしたいと考えました。投資家としての私の幸運な旅は、これまで7年間続いています。そして、数多の起業家と彼らの素晴らしいアイデアのおかげで、私はこれまでで最も幸運な瞬間にいると感じています。多くの成功もありましたが、その陰には、また多くの失敗があるにもかかわらずです。

Zoomへの投資、その成功を支えたストーリー

私たちの投資先企業の中で有名なところには、ビデオ会議ソリューションのZoomがあります。今日がCommunication Tech Conferenceということもありますが、Zoomのストーリーが非常に素晴らしいためにご紹介します。創設者はエリックという名前の中華系アメリカ人です。エリックはもともと、WebExという別のビデオ会議の会社のエンジニアでした。WebExは当時よく知られており、そんな折でシスコに買収されたのです。

エリックは、モバイルデバイスに特化したビジネスユーザー間のコミュニケーションにフォーカスするため、自分の会社を立ち上げることにしました。彼が会社を始めた2013年当時、市場には多くの競合企業が存在しました。例えば、Skype、WebEx、Googleハングアウト、Blue Jeansなどです。世界的に資金が潤沢な大企業がたくさんいたのです。

しかし、エリックはただ、最高のプロダクトを開発することだけに集中していました。中国には、映像や音声をエンコード・デコードするコーデックスの開発エンジニアチームがいました。エリックが資金調達のために私のもとを訪れたとき、「自分たちは、伝統的なベンチャーキャピタリストは求めていない。ビジネスを理解し、苦しい時代を一緒に乗り越えて創業者と付き合ってくれるような、強力な起業家を求めているんだ。」と言ってきました。そこで、私は「素晴らしい。よくわかった。」と返し、Zoomに資金を投じました。今日、Zoomは200億ドル企業にまで成長しています。

登壇の様子

最近になってエリックから聞かされたのですが、Zoomが資金を求めて私のところに来たとき、すでに多くのベンチャーキャピタリストたちから断られていたそうです。当時、エリックがベンチャーキャピタリストを求めていないと私に言ったのはそのためでした。しかし、Zoomの場合、アーリーステージでVCが入らなかったからこその成功だったかもしれません。

Zoomのビジネスは、単なるビデオ会議ツール以上のものです。Zoomは、人々の働き方を変えているのです。これは創業当時のエリックにさえ、わかっていなかったことです。今や、私たちは世界各地にオフィスを持つスタートアップを立ち上げられます。優れた通信デバイスにより、離れたオフィスにいる仲間とでも、本当にスムーズに連携した仕事ができます。Zoomは、離れた場所にいる人々を結びつけ、1つのオフィスに縛られない働き方を生み出しているのです。

コミュニケーションテクノロジーは、単なる技術ではありません。これは、ひとつのビジョンであり、私たちが持っている可能性のひとつです。人々をつなぎ、コミュニティ同士を結びつけるのです。

ロボットからブロックチェーンまで、150以上の投資

過去7年間、クラウドとデータを追いかけながら、150以上の企業に投資しました。ほとんどはシリコンバレーにあり、ロボットからブロックチェーンまですべてです。

私を本当に驚かせたのは、ライフサイエンス領域です。私たちの投資ポートフォリオを大きく占めています。デジタル生物学、合成生物学、遺伝子工学、新薬発見などの分野です。ビッグデータやAIなどのITと生物学を掛け合わせることで、遺伝子やDNAの分析から生物学的プロセスの使用まで、あらゆるものを極小化して効率を高めることができます。そのため、ライフサイエンスとデジタルアセットを結び付けることには、大きな未来があると考えています。

また、私たちは新素材にも投資しています。今後のモノづくりを革新的に変える3Dプリンター会社への投資や植物由来の食品(Plant-based foods)にも進出しています。私たちは、植物由来バーガー用の人工肉を作っているインポッシブル・フーズにも投資しています。

私たちは本当に恵まれています。起業家が会社を立ち上げる素晴らしい方法を見出し、ビジネスをすごいスピードで立ち上げてくれているからです。もちろん、すぐにまた失敗もしていくのですが。

ますます複雑化する世界

2019年の今日、私たちはどこにいるのでしょう。

30年前にWEBが始まった1989年とはまったく別の世界になっていると思います。まず、巨大なグローバル企業がいくつか存在しています。米国に多いですが、中国にもいくつかのグローバルインターネット企業があります。

しかし、こういった企業や国家は、分断を始めています。インターネットの世界でも分断が進んできています。例えば、OSには、iOSとAndroidがあります。Facebookには膨大な数のユーザーがいますが、そのデータは同社のユーザーベース外に出てくることはありません。GoogleとAmazon、Baidu、Tencentでも同じことが言えます。

各国のデータ、ガバナンス、主権に対するルールは、大きく異なっています。ヨーロッパには現在、プライバシー規則であるGDPRがあります。世界は、ますます難しくなってきているのです。

かつては私たちが行っていたのは、WEBにコンテンツを公開し、世界中の誰もがそれを見られるということでした。現代では、国ごとに異なるデータセットの様々なアプリを提供し、各国のデータ規制の仕組みを理解しなくてはなりません。世界は、このように複雑化しているわけです。

登壇の様子

AIへの期待や懸念と、どう向き合うか

もちろん、ここでもAIは、とてつもなく大きな可能性と課題の両方をもたらしています。可能性についていえば、AIは、ナレッジとナレッジへのアクセス方法を根本的に変えることができます。ロボットに組み込むことができ、車の自動運転や自律飛行機を実現するでしょう。

あなたの薬の理解を助けたり、学習を支援したりするAIも考えられます。このようなAIも私たちの想像の範囲内にあり、おそらく今後10年以内には実現するでしょう。多くは実現するでしょうが、また大きな課題も出てきます。AIが労働者にとって代われるとしても、望ましい場合と、望ましくない場合の両方があります。

AIを兵器に組み込んだらどうなるのか、人々は心配しています。実際、各国で防衛の一端を担わせるべく、AIの研究が進められています。私たちは、AIのどの部分にどう制限をかけるのかという課題に直面しているのです。ただ、あくまでAIは、人が与えたデータ、ルール、アルゴリズムの範囲で賢くなるわけです。

AIのガバナンスとローカライズ

私は、AIに何を取り入れるにしても、人間がその輪の中にいなければならないと強く信じています。AIのプロセスには、人間の意思決定が介在するようなしくみがあるべきです。

次に、AIは単なるテクノロジーではないと認識することです。人類は、ディープラーニング、機械学習、転移学習を用い、そして最終的には汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)と、より賢いAIを生み出していくでしょう。そこでは、社会のあらゆる部分を巻き込んで、AIについての議論を行っていくべきなのです。

そこには、政治・経済、教育、倫理、哲学などの専門家を巻き込みます。そして、エンジニアやコンピュータ科学者も交えて、社会でAIをどう使っていくのかを議論するのです。まず先にAIを開発してから、AIが引き起こす社会問題の解決策を考え出すのではありません。もしも適切な文化的・社会的価値観なくしてAIを賢くし続けたなら、人類がコントロールできないほど速く、AIが成長してしまう可能性があるからです。

そして、ここでAIについて、私の3つ目のポイントにつながります。

AIの学習データやアルゴリズムは、それぞれの社会の信条を反映させたものであるべきということです。アメリカ版のAIはアメリカ的な価値観とアメリカ的な信念を持ち、日本のAIは日本的な価値観と文化的な価値観を持つのです。中国のAIやヨーロッパのAIも同様です。私たちの文化がAIのソフトウェアやデータに注ぎ込まれるイメージです。そして、あくまでAIは人から学び、教えられたことをするのです。

そのためには、AIをどう管理するのか、グローバルでの対話が求められます。というのも、日本では許されることが他の国では問題になる可能性があり、またその逆もまた起こりえるからです。AIをどのようにグローバルで管理するかは、技術者、政府などのコミュニティで考えるべきものです。

講演の様子

グローバルな課題解決で、テクノロジーの果たす役割

私たちは、持続可能性、気候変動、食料供給や食の安全保障など、グローバルな課題を解決できる技術を模索してきました。インポッシブル・フーズにも投資しているとお伝えしましたが、経済成長を進むと、地球温暖化と気候変動をもたらします。

私たちが目の当たりにしている厳しい気候変動と海面上昇の恐れに対しては、非化石燃料や再生可能エネルギーなどのテクノロジーが役割を果たせる可能性があります。こういったテクノロジーには投資する価値があり、そこでAIもとてつもない役割を果たすことができると思います。

今日、学界からも多くのゲストスピーカーが参加しますね。私はスタンフォード大学の評議員会のメンバーですが、スタンフォード大学はシリコンバレーの成り立ちとその後の成功において中心的役割を担ってきました。

産業界と学界が結束し、緊密に連携することが大切です。単に研究成果をビジネスにつなげるだけではなく、より健全な社会のエコシステムを構築するため、長期的視点での対話が求められています。

日本がイノベーションを起こすために

最後に、日本がイノベーションを起こすために必要となるエコシステムについて、私の意見を述べさせてください。

私は1992年、日本にいました。富士通でインターンシップをしたのです。初めて東京の街に降り立ったそのとき、日本は目下AIについて議論していました。皆さんが当時を覚えているような年齢かわかりませんが、日本は80年代後半から90年代前半にかけて、AI分野における世界のリーダーだったわけです。

30年ほどが経った今、AIが再び大きな話題になっています。今回は、本物だと思います。私は、日本にはこの分野で主導権をとるチャンスがあると思っています。なぜなら、労働人口が減少し、社会の高齢化が進む日本は、AIを最も必要とする国だからです。向こう数十年にわたって、日本の社会をよりよくしていくために、社会の自動化や人間中心のAIは欠かせないでしょう。

そこで、必要となるものは何でしょうか?過去20年間、日本のイノベーション、経済、エコシステムを見てきた経験から言えば、日本には間違いなく、優秀な人材、起業家、エンジニアがおり、優れた大学もあります。イノベーションがどう起こるかを考えると、ただそこにビジネスのアイデアがあり、起業家がいて、資金があるだけでは不十分です。

リスクを共にとり、スタートアップを一緒に立ち上げてくれる仲間をみんな巻き込む必要があります。アメリカでは、国を代表する企業であるフォーチュン500のほぼすべてがスタートアップとの事業創出プログラムを持っています。スタートアップには失敗・消滅のリスクもありますが、大企業たちは喜んで協業を進めているのです。もちろん、フォーチュン500のような企業にとどまらず、銀行などの融資機関や弁護士もそうです。ベンチャーキャピタリストだけでもありません。

登壇の様子

失敗してもペナルティがないことの大切さ

よく冗談でいうのですが、私たちのビル清掃スタッフでも、自分たちが掃除するスタートアップが明日にはなくなっているかもしれないと知っているんです。そこには、事業で失敗してもOKという文化があります。

ぜひここは強調したいのですが、スタートアップで失敗してもペナルティがないということは本当に大切なことです。

もちろん、失敗はいいことではありません。ただ、失敗してもそこから学び、再び挑戦することで起業家は成長していくからです。実際、2度、3度と起業する例は数多くあります。スタートアップの起業は、今や大学卒業時のひとつのキャリアと見なされています。いわば、はじめから失敗を許容しているわけです。

過去7年間では、一緒に働いた日本の起業家もいます。その中には、ビッグデータ解析企業であるTreasure Dataがあります。非常に成功した例です。

創業者は2人の日本人ですが、彼らはシリコンバレーで事業を始めました。私は、彼らになぜシリコンバレーで事業を始めたのか尋ねました。同社のエンジニアは東京におり、日本には多くの従業員がいます。答えはこうでした。「私たちはグローバルで市場を開拓し、グローバルでサービスを提供したいと考えています。日本で開発すると、日本でしか使えないものになるように感じているからです。」

このようにビジネスでは、自社の製品にとって最もポテンシャルの大きい市場を見つけるべきです。もちろん、自国の市場が十分に大きければよいですが、大きくない場合にはどうするか、考える必要があります。

2人の起業家は、日本にいる優秀な人材をうまく使って競争優位性を確保しながら、アメリカを起点にビジネスを拡大できると考えました。彼らは昨年ARM社に買収されましたが、非常に成功した例です。そして再び、起業を考えています。今回は、1つの会社という枠を超えて、スケーラブルな方法でグローバル市場を活用する方法を考えているようです。

日本は、クラウドAIを始めとしたテクノロジーによって、私たちの先を行く革新的なエコシステムを活用できるでしょう。イノベーションによって、日本が立ち向かう大きな課題が解決されていくことを心より願っています。どうもありがとうございました。