製品やサービスだけで差別化が難しくなっている現代において、「カスタマーサクセス」の考え方を重視する企業が増えています。カスタマーサクセスとは、「顧客の成功体験」を目的に、自社の製品やサービスを最大限活用できるよう支援や伴走を行うことです。カスタマーサクセスで成果を上げるためには、多様な視点でKPIを設定し、適切な測定や運用を行っていくことが求められます。

当記事では、カスタマーサクセスで指標となるKPI10選と計測・測定方法と活用方法、カスタマーサクセスにおけるKPI運用のポイントについて解説します。

目次


カスタマーサクセスにおけるKPIとは?

始めに、カスタマーサクセスの基礎知識とカスタマーサクセスにおけるKPIの役割と目的について解説します。

カスタマーサクセスの重要性とは?

現代のビジネス環境では、単に製品やサービスを提供するだけでは差別化が難しく、競争に勝ち残ることが困難になりつつあります。顧客との長期的な関係を築き、顧客の成功を支援することが企業の持続的成長に不可欠になっています。

カスタマーサクセスとは、「顧客の成功」を意味する言葉です。顧客が望む結果を達成し、利益を最大化することを目的に、顧客が自社の製品やサービスを最大限に活用できるよう、支援や伴走を行う活動を指します。そのために、自社の顧客課題を把握し、課題解決のための提案と、その実現を行っていきます。

KPI(重要業績評価指標)とは?

KPI(Key Performance Indicator)とは、企業の目標達成に向けた進捗を測定するための具体的な指標です。カスタマーサクセスにおけるKPIは、顧客との関係性やビジネス成果を定量的に評価し、戦略の効果を検証するために使用されます。適切なKPIを設定することで、顧客満足度の向上や解約率の低下など、具体的な成果を追求することが可能になります。

KPIの役割と目的

KPIは、カスタマーサクセスの活動がどれだけ効果的であるかを測定するための指標です。

具体的には、以下のような役割と目的があります。

パフォーマンスの測定

戦略や施策が期待通りの成果を上げているかを確認する。

意思決定の支援

データに基づいた意思決定を行うための根拠を提供する。

改善点の特定

現在のパフォーマンスに基づき、改善が必要な領域を明確にする。

チームのモチベーション向上

明確な目標と進捗状況を共有することで、チーム全体のモチベーションを高める。


カスタマーサクセスでよく用いられるKPIとは?

カスタマーサクセスの効果を測定する上で、よく用いられるKPIは次の通りです。

・顧客満足度(CSAT)

・ネットプロモータースコア(NPS)

・チャーンレート(解約率)

・顧客ライフタイムバリュー(CLV)

・顧客維持率(リテンションレート)

・オンボーディング完了率

・アップセル・クロスセル率

・NRR(売上継続率)

・アクティブユーザー数

・セッション時間

それぞれの定義・計測方法・ベストプラクティスについて、一つずつ詳しく見ていきましょう。

顧客満足度(CSAT)

定義

CSAT(Customer Satisfaction Score)は、顧客が製品やサービスに対してどれだけ満足しているかを測定する指標です。高いCSATは、顧客の忠誠心を示し、リピート購入や口コミによる新規顧客獲得につながります。反対に低いCSATは、改善が必要な領域を示唆するものです。

計測方法

アンケート調査:製品やサービスの利用後にアンケートを送付し、顧客に満足度を評価してもらう方法です。一般的には5段階評価や10段階評価が使用されます。

具体的な質問: 「この製品にどの程度満足していますか?」のように具体的な質問を設定します。

タイミング: 購入後やサポート対応後など、顧客が製品やサービスを実際に体験した直後に調査を行います。

ベストプラクティス

効果的なCSATの測定と活用のベストプラクティスは下記の通りです。

シンプルな質問設定: 質問はシンプルかつ具体的にし、回答者が回答しやすいようにします。

定期的な調査: 定期的にCSATを測定し、トレンドを把握することが重要です。

フィードバックの活用: 収集したフィードバックを分析し、具体的な改善策を実施していきます。

ネットプロモータースコア(NPS)

定義

NPS(Net Promoter Score)は、顧客が他者に製品やサービスを推薦する意向を示す指標です。NPSは、顧客の忠誠心やブランドロイヤルティを測定するために広く使用されています。

計測方法

1.アンケートを取る:「この製品/サービスを他人に推薦する可能性はどれくらいですか?」という質問に対し、0から10のスケールで回答してもらう方法です。

2.回答者の分類する

回答した数値から下記の3つに分類します。

・プロモーター(Promoters): 9-10点

・パッシブ(Passives): 7-8点

・デトラクター(Detractors): 0-6点

3.スコアを算出する

NPSのスコアは、プロモーターの割合からデトラクターを引いた割合で算出します。

ベストプラクティス

測定したNPSを活用するポイントは下記の三つです。

デトラクターのフィードバック分析:評価が低いデトラクターからのフィードバックを分析し、共通する問題点を特定します。

迅速な対応:特定された問題に対して迅速に対応し、改善策を実施することが重要です。

プロモーターの活用: 評価が高いプロモーターに対して、リファラルプログラムや口コミ促進キャンペーンを展開します。

チャーンレート(解約率)

定義

チャーンレート(Churn Rate)は、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示す指標です。高いチャーンレートは、収益の減少や顧客満足度の低下を示す警告信号となります。新規顧客獲得のコストを考えると、既存顧客の維持は非常に重要です。チャーンレートを下げることは、企業の利益を上げる上で欠かせない施策と言えます。

計測方法

顧客数からみた解約率(カスタマーチャーン)と売上からみた解約率(レベニューチャーン)の2つがあります。

解約率を求める計算式はそれぞれ次の通りです。

・カスタマーチャーン=解約数÷契約顧客数(顧客数からみた解約率)

・レベニューチャーン=サービスの単価×解約数÷売上(売上からみた解約率)

ベストプラクティス

チャーンレートを減少させるためのベストプラクティスは下記の4つです。

顧客オンボーディングの強化:新規顧客が製品やサービスを効果的に利用できるように、充実したオンボーディングプロセスを提供します。初期設定ガイドやデモンストレーションなどのチュートリアルやウェビナー、専任のカスタマーサクセスマネージャーの配置などが有効です。

定期的なコミュニケーションとサポート: 顧客との定期的なコミュニケーションを通じて、彼らのニーズや課題を把握し、適切なサポートを提供します。

顧客フィードバックの収集と対応: 顧客からのフィードバックを積極的に収集し、それに基づいて製品やサービスを改善します。顧客が感じている問題を早期に解決することで、解約のリスクの低減につながります。

ロイヤリティプログラムの導入: 顧客のロイヤリティを高めるためのプログラムを導入します。ポイントシステムや特典の提供、長期契約のインセンティブなどが効果的です。

顧客ライフタイムバリュー(CLV)

定義

CLV(Customer Lifetime Value)は、顧客が生涯にわたって企業にもたらす総収益を予測する指標です。CLVを理解することで、顧客獲得や維持のための投資がどれだけのリターンをもたらすかを評価できます。

計測方法

CLV=平均購入額×購入頻度×顧客寿命

具体的には、以下の通りに算出します。

平均購入額(Average Purchase Value): 一回の購入あたりの平均収益

購入頻度(Purchase Frequency): 一定期間内における購入回数

顧客寿命(Customer Lifespan): 顧客が継続的に製品やサービスを利用する期間

ベストプラクティス

CLVを最大化する施策は下記の四つです。

顧客維持戦略の強化:チャーンレートを低減することで、顧客寿命を延ばします。優れたカスタマーサポートや継続的な価値提供が鍵となります。

アップセル・クロスセルの促進:既存顧客に対して、関連する製品や上位版のサービスを提案します。これにより、平均購入額を増加させることができます。

パーソナライズされたマーケティング: 顧客の行動や嗜好に基づきパーソナライズされたマーケティング施策を実施します。これにより、顧客のエンゲージメントと満足度の向上が期待できます。

顧客エンゲージメントの向上:定期的なコンテンツ提供やインタラクティブなコミュニケーションを通じて、顧客との関係を強化します。高いエンゲージメントは、顧客の継続利用意欲を高めることに効果的です。

顧客維持率(リテンションレート)

定義

顧客維持率(リテンションレート)は、一定期間内にサービスを継続して利用している顧客の割合を示す指標です。高いリテンションレートは、顧客満足度の高さや製品・サービスの価値が認められていることを示します。

計測方法

顧客維持率 = (期間終了時の顧客数 - 期間中の獲得顧客数) ÷ 期間開始時の顧客 × 100

ベストプラクティス

改善のためのベストプラクティスは下記の4つです。

パーソナライズされた顧客対応: 顧客一人ひとりのニーズに合わせた対応を行うことが重要です。

価値提供の継続: 定期的な製品アップデートや新機能の提供を通じて、顧客に継続的な価値を提供します。

エンゲージメントの向上: 顧客との積極的なコミュニケーションやイベントの開催を通じて、エンゲージメント(愛着・思い入れ)を高めることができます。

顧客サポートの充実: 問題が発生した際に迅速かつ効果的なサポートを提供するなど、顧客サポートを充実させます。

オンボーディング完了率

定義

オンボーディング完了率は、新規顧客が初期導入プロセスを完了した割合を示す指標です。高いオンボーディング完了率は、顧客が製品やサービスをスムーズに利用開始できていることを示し、早期の解約を防ぐ効果があります。

計測方法

オンボーディング完了率 = オンボーディングが完了した企業数 ÷ オンボーディング期間の全企業数×100

ベストプラクティス

改善のためのベストプラクティスは下記の4つです。

明確なオンボーディングプロセスの設計: ステップバイステップのガイドやチェックリストを提供し、顧客が迷わず進めるような設計にすることが重要です。

専任のカスタマーサクセスマネージャーの配置:新規顧客に対して専任の担当者を配置し、個別のサポートを提供します。

教育リソースの提供:ウェビナー、チュートリアルビデオ、FAQなどの教育リソースを提供し、顧客が製品やサービスを効果的に利用できる環境を整えます。

進捗のモニタリングとフォローアップ:オンボーディングの進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じてフォローアップを行います。

アップセル・クロスセル率

定義

アップセル・クロスセル率は、既存顧客に対して追加販売(アップセル)や関連商品の販売(クロスセル)を成功させた割合を示す指標です。これにより、顧客一人当たりの収益を増加させることができます。

計測方法

アップセル率「アップセルに成功した顧客数÷全顧客」

クロスセル率「クロスセルに成功した顧客数÷全顧客」

ベストプラクティス

アップセル率・クロスセル率を向上するための施策は下記の通りです。

顧客のニーズ分析:顧客の利用状況や購買履歴を分析し、最適なアップセル・クロスセルの機会を特定します。

パーソナライズされた提案:顧客のニーズに合わせてパーソナライズされた提案を行います。

トレーニングと教育:セールスチームに対して、効果的なアップセル・クロスセルの手法についてトレーニングを実施します。

インセンティブの提供:アップセル・クロスセルを促進するためのインセンティブを設定します。

NRR(売上継続率)

定義

NRR(Net Revenue Retention: 売上継続率)は、既存顧客からの継続的な収益を示す指標です。NRRはアップセルやクロスセルによって売上が増加した場合にも対応できるため、単なる顧客維持率よりも包括的な指標とされています。

計測方法

NRR = 前年度の顧客の今月のMRR ÷ 前年度の顧客の同月のMRR × 100

ベストプラクティス

NRRを向上するための施策は下記の通りです。

アップセル・クロスセルの強化:既存顧客に対する追加販売や関連商品の提案を強化し、アップセル・クロスセルの促進につなげます。

顧客ニーズの深掘り:顧客のニーズを詳細に理解し、それに基づいた価値提供を行うことが重要です。

カスタマーサクセスチームの強化:専任のカスタマーサクセスチームを配置し、顧客の成功をサポートする体制を築きます。

継続的なフィードバック収集:顧客からのフィードバックを定期的に収集し、製品やサービスの改善に活用します。

アクティブユーザー数

定義

アクティブユーザー数は、一定期間内に製品やサービスを実際に利用したユーザーの数を示す指標です。アクティブユーザー数は、製品やサービスの利用状況や顧客のエンゲージメントを測る重要な指標と言えます。

計測方法

日次アクティブユーザー(DAU):毎日製品やサービスを利用するユーザーの数

月次アクティブユーザー(MAU):毎月製品やサービスを利用するユーザーの数

ベストプラクティス

アクティブユーザー数を改善するための施策は下記の通りです。

ユーザーエンゲージメントの向上:定期的なコミュニケーションやインタラクティブな機能を導入し、ユーザーのエンゲージメントを高めることが重要です。

製品の価値提供:ユーザーが製品やサービスから継続的に価値を感じられるよう、機能やコンテンツを定期的に更新します。

リマインダーや通知の活用:ユーザーが製品やサービスを利用するよう、リマインダーや通知を活用します。

ユーザーのフィードバック反映:ユーザーからのフィードバックを積極的に反映し、製品やサービスの改善に努めます。

セッション時間

定義

セッション時間は、ユーザーが製品やサービスを利用している時間の長さを示す指標です。長いセッション時間は、ユーザーが製品やサービスに高い価値を見出していることを示す指標となります。

計測方法

セッション時間は、ユーザーが製品やサービスを利用開始してから終了するまでの時間を計測します。ウェブ解析ツールやアナリティクスツールを使用して計測することができます。

ベストプラクティス

セッション時間を延ばすための施策は下記です。

ユーザーインターフェースの改善:使いやすいインターフェースを提供し、ユーザーが快適に製品やサービスを利用できるようにすることが重要です。

価値あるコンテンツの提供:ユーザーが興味を持つ価値あるコンテンツを提供し、セッション時間を延ばします。

インタラクティブ機能の導入:ゲーミフィケーション(ゲーム要素を追加すること)やインタラクティブな機能を導入し、ユーザーの参加意欲を高めます。

パフォーマンスの最適化:製品やサービスのパフォーマンスを最適化し、ストレスなく利用できる環境を提供します。


カスタマーサクセスにおけるKPI運用のポイントとは?

カスタマーサクセスにおいてKPIを運用する際は、以下の3つを意識して行います。

・「SMART」を意識したKPI設計

・定期的な見直し

・KPIダッシュボードの活用

一つずつ詳しく解説します。

KPI設定は「SMART」を意識する

効果的なKPIを設定するためには、SMART基準を活用することが推奨されています。SMARTとは以下の頭文字を取ったもので、具体的な基準を示すものです。

Specific(具体的)

明確で具体的な指標を設定する。

Measurable(測定可能)

定量的に測定可能な指標を選ぶ。

Achievable(達成可能)

現実的に達成可能な目標を設定する。

Relevant(関連性がある)

ビジネス目標に直結する指標を選ぶ。

Time-bound(期限が設定されている)

達成期限を設定し、進捗を追跡する。

定期的な見直しを行う

KPIは一度設定したら終わりではなく、定期的に見直し、必要に応じて調整することが重要です。以下三つのポイントを考慮して見直しを行います。

定期的なレビュー

月次や四半期ごとなど定期的にKPIの進捗をレビューし、目標に対する達成度を評価します。

フィードバックの共有

チーム全体でKPIの進捗状況を共有し、成功事例や課題を共有します。これにより、チーム全体の意識が高まります。

柔軟な調整

ビジネス環境や市場の変化に応じて、KPIを柔軟に調整します。状況に応じて適切に目標設定することが重要です。

KPIダッシュボードの活用

KPIダッシュボードは、リアルタイムでKPIをモニタリングし、視覚的にデータを把握するためのツールです。よく使われるツールとして「Tableau(タブロー)」、「Hubspot(ハブスポット)」、「Salesforce(セールスフォース)」などがあります。

KPIダッシュボードは、以下の方法で活用できます。

進捗状況の可視化

グラフやチャートを使用して、KPIの進捗状況を一目で確認できます。

リアルタイム更新

データがリアルタイムで更新されるように設定し、常に最新の状況をチームで把握できるようにします。

アラート機能

KPIが目標に達していない場合や異常値が検出された場合に、アラートを設定します。これにより、迅速なリカバリーが可能となります。

まとめ

「顧客の成功体験」を目的に、自社の製品やサービスを最大限活用できるよう支援や伴走を行う「カスタマーサクセス」は、企業の競争優位性を保つ上で重要な視点として、近年注目を集めています。

カスタマーサクセスの成果を上げるためには、パフォーマンスの測定や意思決定の支援、改善点の特定、チームのモチベーション向上につながる適切なKPIを設定することが欠かせません。当記事では、カスタマーサクセスでよく用いられるKPI10選と計測・活用方法、KPI運用のポイントについて解説しました。カスタマーサクセスに取り組む際の参考にしていただけましたら幸いです。

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