AI実用フェーズの今、改めて問い直す「顧客体験(CX)」の作り方
顧客との対話をナレッジに変えるCX設計と「KCS」の実践手法【HDI-JAPAN×モビルス共催セミナーレポート】
投稿日:2026年7月31日 | 更新日:2026年7月28日
AIの実用化が急速に進む現在、コンタクトセンターにおける顧客体験(CX)の向上と再構築は企業にとって重要な課題です。しかし、単なるコスト削減を目的としたAI導入は、かえって顧客離れを招くリスクを内包しています。
本記事では、HDI-JAPAN 代表取締役CEOの山下 辰巳氏 とモビルス株式会社の長谷川 健が登壇した共催セミナーの模様をお届けします。日々の顧客との対話を価値あるナレッジへと変える「KCS(ナレッジ センター サービス)」の実践手法や、生成AIを活用した次世代のCX設計のヒントをぜひご覧ください。
【登壇者】

HDI JAPAN 代表取締役CEO 山下 辰巳氏
ITサポートおよびカスタマーサービス業界において世界最大のメンバーシップ団体であるHDIの日本支部代表。問合せ窓口の格付け調査、ベンチマーキング、国際認定プログラムなどの提供などを担う。本セミナーでは、HDIの知見に基づくCXの向上とAI導入を成功させる「KCS」の手法について解説。

モビルス株式会社 Product Strategy Civison PMM 長谷川 健
新たなナレッジツール「MooA KnowledgeBase®(ムーアナレッジベース)」のPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)としてプロデューサー業務を担当。本製品の開発背景やコンセプトの解説と、コンタクトセンター業務を想定したデモンストレーションを実施。
第1部:顧客体験の向上と付加価値拡大のポイント AI導入を成功させるKCS(HDI-Japan 山下氏)
顧客体験(CX)の定義と、HDIによる格付けのリアルな実態
顧客体験(CX)は人によって感じ方が千差万別であり、人によって感じ方や「良い体験」の基準が異なり、多くの人から共感を得るのは非常に困難です。HDI JAPANは25年にわたり日本でサポート業界を牽引し、年間約250社の問合せ窓口を格付け評価しています。この調査は一般消費者のボランティアによる一般審査員と、HDIの国際認定資格を有する専門審査員によって行われます。一般消費者ボランティアによる調査はスクリプトや日時の制限は一切なく「完全な顧客視点」で行われます。
評価において特筆すべきは、単なるKPIの数値ではなく柔軟な評価が行われる点です。たとえば「平均応答速度」でも、緊急時には3コールでも「遅い」と評価される一方、チケット発売日などの混雑が納得できる状況では「10コール待っても長いとは言われない」というように、顧客の状況や文脈に基づくリアルな体験価値が評価軸となっています。
コスト削減目的のDXがもたらす「ビジネス喪失の罠」
HDIで最高評価の「三つ星」を獲得する企業には、共通する10のポイントが存在します。その中でも特に重要なのが「顧客対応で作成したナレッジやAIは利用価値が高いこと」「顧客体験の向上がビジネスを拡大する」という点、そして「コスト削減のためのDXはビジネスを失うおそれがある」という警鐘です。
コスト削減のみを目的としたDXやツール導入は、往々にして問い合わせ先を分かりにくくさせます。電話線を切るのと同じように強引に問い合わせを減らし、問い合わせ先を分かりにくくさせる手法は顧客の不便を強いるだけです。問題が解決できない顧客は競合他社へと流出してしまうため、結果的に自社のビジネスを失うことに直結します。
従来のナレッジエンジニアリングと「KCS」の決定的な違い
従来のナレッジ管理(FAQ(よくある質問)作成)は、顧客対応をしない専門のエンジニアが作成することが多く、セルフサービスとして機能しにくいという欠点がありました。たとえば、エンジニアが「ディスプレイ」と記述しても、顧客は「モニター」や「画面」といった自身の言葉で検索するためヒットしません。
これに対し「KCS(ナレッジセンターサービス)」は、日々顧客と接するオペレーターが対話記録をそのままナレッジ化し、後続の担当者がブラッシュアップしていく手法です。正解ではなく「顧客が求めている解決策」を顧客の言葉で蓄積するため、検索ヒット率が高まり、センター内で6〜7割を占める「同じ回答を調べる重複作業」が激減し、生産性が飛躍的に向上します。


生成AIのビジネス活用における課題とKCSの親和性
昨今話題の生成AIですが、ビジネスでの実運用に成功している企業はごく僅かです。インターネット上の玉石混交のデータを利用する一般的な生成AIは、ハルシネーション(もっともらしい嘘)や著作権リスクがあり、そのままでは業務に使えないためです。企業がAIを活用するためには、不要な情報を削ぎ落とし、自社の業務に特化した「クローズドで精度の高いデータ」を用意する必要があります。KCSによって蓄積された「実際に顧客の問題を解決したナレッジ」は、まさにこの生成AIの精度を向上させるための最適なデータソースとなります。高精度な専門知識をAIに学習させることで、初めてAIチャットボットやFAQが即戦力として機能するのです。
国内外における生成AI活用の最新事例と評価軸
経済産業省および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する生成AI社会実装に向けたプロジェクト「GENIAC-PRIZE」において、HDIは顧客視点での評価を担当しました。ここでも「人手不足だから人の代わりにAIを使う」という「単純なコスト削減案は、顧客視点が欠如しておりCXが下がる」として評価されませんでした。一方で、「付加価値拡大」や「CX向上」を目的とした提案が高く評価されています。

また、6月に実施されたHDI-Japan グローバル企業のセンター視察ツアーでの、海外の先進的なコンタクトセンターの成功事例も紹介されました。
第2部:暗黙知のハブとなるナレッジマネジメント「MooA KnowledgeBase」(モビルス 長谷川)
ナレッジマネジメントの第4の軸「循環性」
生成AI活用のニーズの高まりも後押しし、コンタクトセンター業務におけるナレッジの重要性は依然高まっています。一方、約半数以上の企業において、ナレッジマネジメントが兼務になっているため、優先度が下がりやすくなるリスクもあります。これまでのコンタクトセンター業務は、業務マニュアルや履歴をアーカイブしつつ、よく利用するものはFAQシステムに登録しておけば問題なく対応できましたが、AIエージェントを始めとする生成AIを活用した業務効率化を実現する場合、すべてのナレッジを検索・利用できる状態にする必要がでてきました。

「生成AI活用」と「ナレッジマネジメント」の課題を解決するため、モビルスでは新たなシステム「MooA KnowledgeBase」を開発しました。
「MooA KnowledgeBase」は、日々蓄積される応対ログやFAQ、マニュアルなどの情報を生成AIが自動で照合し、常に最新状態のナレッジを維持できるAIナレッジシステムです。
モビルスは、多くの企業がFAQシステムを「効率性(探しやすさ)」「有効性(分かりやすさ)」「運用性(更新頻度)」の3軸で運用する中、ここをさらに下支えする第4のコンセプトとして「循環性」を提唱します。

生成AIを最大限に活用し、外部の状況や応対の変化をインプットとして絶えず取り込み、必要な形式で即座にアウトプットし続ける「循環」の仕組みこそが、今後の効率性・有効性・運用性を強力に下支えする基盤になると考えています。
暗黙知を循環させるハブ「MooA KnowledgeBase」
「MooA KnowledgeBase」は、既存のFAQを置き換えるのではなく、点在する情報をつなぐ「ハブ」として機能します。音声認識ツール「MooA CommNavi®(ムーア コミュナビ)」等の応対ログから、生成AIを用いてリーズン毎にFAQドラフトを生成し、既存のナレッジを更新・改善していきます。これにより、最適化されたナレッジを様々なサポートチャネルへ最適な形で出力・提供され、暗黙知の循環を実現します。

モビルス株式会社
生成AIを活用したRAG検索による比較・統合
ロードサービスの現場を想定したデモでは、顧客からの「布チェーンと金属チェーンの違い」という複雑な質問に対し、AIが複数の関連FAQを自動で読み込み、瞬時に一つの分かりやすい文章に要約して提示するRAG※1検索の機能を実演しました。これにより、オペレーターは複数のページを行き来することなく、スピーディかつ正確な回答が可能になります。
※1 RAG(検索拡張生成):大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術。
未知の問い合わせをAIがナレッジ化する「ナレッジエージェント」
FAQが100%全ての質問を網羅することは不可能です。たとえば顧客から「レッカー車の到着時間はどのくらいですか?」という既存のFAQ(ナレッジ)に存在しない「未知の問い合わせ」を受けた場面では、「MooA KnowledgeBase」の「ナレッジエージェント機能」が真価を発揮します。システムの裏側でAIが応対ログから自動的に新しいQAの草案を生成し、オペレーターは既存ナレッジと見比べて登録ボタンを押すだけで、直ちに新しいナレッジが完成します。これはまさに、対応履歴をそのままナレッジに変える「KCS」をAIの力で半自動化・体現する機能です。

質疑応答
セミナー後半の質疑応答では、参加者から寄せられた実践的な疑問に対し、山下氏と長谷川が回答しました。
Q. コスト削減のためのDXが「ビジネスを失う」とは具体的にどのようなリスクでしょうか?
A.(山下氏) 問い合わせ先を隠したり、折り返し電話を待たせたりするような「力任せに問い合わせを減らす手法」は、顧客の不便を強いるだけです。問題が解決できない顧客はそのまま競合他社へと移ってしまいます。本来あるべき姿は、顧客が重宝する「有効なセルフサービス(FAQなど)」を提供し、結果として自然に問い合わせ数が減っていくアプローチです。
Q. 従来のナレッジ管理から「KCS」へスムーズに移行するための意識改革はどこから始めたら良いですか?
A.(山下氏) 会社の文化やルールを根本から変える必要があるため、KCSの導入は容易ではありません。曖昧なまま進めると必ず失敗します。重要なのは、経営層、現場のオペレーター・マネージャー、そして顧客のそれぞれに対して「KCSを行うことでどのような具体的なメリットがあるのか」を導入前に明確にし、合意形成を図ることです。
Q. 既に他のCRMやFAQシステムを導入している企業が「MooA KnowledgeBase」を導入するメリットはありますか?
A.(長谷川) 最大のメリットは「ナレッジエージェント機能」によるナレッジの自動生成と連携です。応対履歴ファイルなどを「MooA KnowledgeBase」に取り込んで高品質なFAQやチャットボットの回答データを生成し、それを既存のシステムに流し込む(システム間連携を行う)ことで、現在お使いのシステムの価値をさらに高め、ナレッジ運用の負担を大幅に軽減することが可能です。
まとめ
AI実運用フェーズにおいて真のCX向上を果たすためには、単に最新のAIツールを導入するだけではなく、そのAIを下支えし育てるための「ナレッジの質と循環サイクル」が不可欠です。 コスト削減のみに偏重したDXはビジネスの機会損失を招きますが、日々の顧客対応から現場のリアルな解決策を生み出し蓄積する「KCS」のアプローチは、CXと従業員体験(EX)の双方を高めます。
そして、このKCSのプロセスを生成AIの力で半自動化し、企業内のあらゆる暗黙知を循環させる「MooA KnowledgeBase」は、コンタクトセンターの生産性を劇的に高めるとともに、顧客に対する付加価値を最大化する強力なソリューションとなります。顧客視点を徹底した「AI×ナレッジ運用」へのパラダイムシフトが、今後のビジネス成長の鍵であることが確認されたセミナーとなりました。
モビルスでは、CRM(顧客管理システム)や有人チャット・生成AIとの連携が可能なAIボイスボットや、コールセンター運用の肝ともなる、ナレッジベースの構築による回答サジェストやマニュアル検索を可能にするオペレーション支援AI「MooA®(ムーア)」をはじめ、コンタクトセンター(コールセンター)のDX推進を通じて企業の競争力を高め、収益を最大化するための総合的な支援を提供しております。
AIボイスボットやAIチャットボット、自己解決を促すビジュアルIVRなど、顧客満足度につながる幅広いニーズに対応できるソリューションを開発提供しています。ぜひご相談ください。
MooA
MooA®(ムーア)は生成AIや独自のAI技術を取り入れて、対話ログからAIがQAドラフトを自動生成し、ナレッジのメンテナンス作業を大幅に効率化するオペレーション支援AIです。高精度な文字起こしで応対中の回答を支援しながら、現場の暗黙知を抽出したナレッジの継続改善を自動化し、属人性に左右されない応対品質を実現します。
また、業務プロセスや専門要件にあわせた出力で後処理時間(ACW)を大幅に削減し、改善に直結するVOC分析でCX向上やリスクマネジメントを強化します。




