顧客接点における「ノンボイス化」「自動化」「問い合わせ導線の改善」など、「問い合わせのエフォートレス化」プロジェクトに取り組む株式会社ベネッセコーポレーション、コンタクトセンターやバックオフィスの設計構築や運営などを行うセコムグループの株式会社TMJ、顧客サポート業務のソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社。今回は3社による対談企画、第二弾です。
第一弾はこちら
ベネッセが描く、お問い合わせのエフォートレス化
<前編>繁閑差のコールボリュームは2.5倍。ノンボイスと導線改善で効率性とエフォートレスの実現へ
<後編>チャットで安全に本人確認ができると何が変わるのか?
今回は、ベネッセコーポレーションの「チャット対応の本人確認プロセスの取り組み」について、株式会社ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー メディア開発部 アプリサービス開発課 課長 萱場成樹氏と、チャット対応のオペレーションを担う株式会社TMJから事業統括本部 Benesse事業企画部 第1セクションCX企画G西原由美氏をゲストに迎え、取り組みの具体的な内容や、運用方法、導入後の効果や課題、今後の展開などについて、モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏がお話をうかがいました。
前編・後編に分けてお届けします。
前編では、2021年9月に実施した「チャット対応の本人確認プロセスの取り組み」プロジェクトの「フェーズ1」について、目的や施策内容、KPI設定や結果、運用の工夫や課題などについてお話いただいています。
第二弾<後編>はこちら
対談メンバー
株式会社ベネッセコーポレーション
校外学習カンパニー メディア開発部 アプリサービス開発課長 萱場成樹氏
株式会社TMJ
事業統括本部 Benesse事業企画部 第1セクションCX企画G 西原由美氏
モデレーター
モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏
目次
- 「お客さまにとって本当にエフォートレスか?」の追求
- お声に「表れる部分」「表れない部分」
- 「利用率」と「業務効率」
- 数値変化を見ながらの取り組み
- お客さまが長く感じる時間=お客さまに価値を提供できていない時間
<はじめに>対談メンバー紹介
石井
それでは初めに、みなさまの担当領域を簡単にご紹介ください。
萱場氏
ベネッセの通信教育「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」のマーケティング部門で主に保護者向けのデジタルサービスの開発を担当しています。
西原氏
ベネッセコーポレーション様の通信教育サービス「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」の保護者向けチャットボットの運用構築、管理をメインで担当しています。
<フェーズ1の施策内容>
「お客さまにとって本当にエフォートレスか?」の追求
石井
今回の「チャット対応の本人確認プロセス」のプロジェクトは、フェーズを区切って行っています。まずは昨年7月~9月に実施頂いたフェーズ1のメインの狙いをどこに定めていたのかをお伺いさせてください。
萱場氏
もともと2017年からLINEでのチャット対応を小学講座から始めていました。
幅広くお問い合わせいただく中で、どうしてもお客さまのご契約やお子さまの情報をお伺いしないと回答できないという領域があります。チャットではお客さまの個人情報をお伺いできず、チャットでお問い合わせ頂いているのにチャット内で完了できず、お電話をご案内していました。お手間をおかけしてしまっている、というのがずっと課題でした。
TMJ様と一緒に、この課題をどうにか解決できないかということを長く検討していました。そのような中でモビルス様から解決にむけた提案を頂き、お客さまの利便性を上げていくことを目的に取り組みたいと思い、実施しました。
石井
とくに第一段階でチェックされていたのが、お客さまが本当にこれで満足いただけるのか?ということかと思いますが、そのためにはまず何を最初に確認しないといけないと思いましたか?
萱場氏
お客さまをLINEで応対している中で、モビルス様の「Secure Path」というLINEとは別のUIでお客さまに個人情報を入力いただくフローとなり、お客さま体験を考えた時に「どれだけお客さまに違和感なく、安心してお手続きできるか」を重要な観点として見ていました。
石井
現場サイドのTMJ様としてはどのように考えて取り組まれましたか?
西原氏
今までお客さまからも、「チャットで手続きまで完了してほしい。個別対応してほしい。」というニーズはありました。現場のオペレータも、「せっかくお問い合わせ頂いたのに、結局電話へのかけ直しのご依頼になってしまう。チャットで解決したい。」という思いがありましたし、何よりお客さまからのがっかりした声を長年ずっと聞いてきました。どうにかしてチャットでお客さまの対応を完結したいという思いはだんだん高くなっていきました。
石井
逆に個人情報を取り扱うことの怖さや、不安感みたいなものはありましたか?
西原氏
お客さまがどう感じられるのかという不安はありましたが、窓口の運営としては普段電話対応の中でお客さまの個人情報は常に扱ってきているオペレータなので、不安は感じていませんでした。
<KPIの設定とその項目を選んだ意図>
お声に「表れる部分」「表れない部分」
石井
このプロジェクトをフェーズ1としてスタートさせて、我々モビルス側で驚かされたのが「ここまで緻密にやるのか」という点です。実施にあたり、どのような項目をKPIとしていたのでしょうか。またどうしてそのKPIを選んだのかを教えてください。
萱場氏
今回の取り組みによってお客さまの利便性が高まることと、お客さまが「Secure Path」を使うことに不安を感じないかを重視しました。ですので、まずはお客さまがお使い頂いた際の定性のお声を注視しました。
お声以外にも「Secure
Pathに入ったあとに手続きを完了してもらえるか?」この指標が大事だと考えました。お声に表れない部分で離脱してしまっているのは不安の表れだと考えているので、そこを数値として見ていきました。
また、ベネッセとしてもこのサービスを広く展開していきたいと考えていますので、今後スケールさせていくにために、運営効率の指標を取得していた点もポイントになります。具体的には、窓口運営の指標であるAHT(平均対応時間)、CPC(1コンタクトあたり単価)、CPH(1時間あたりコンタクト件数)を見ていきました。
< フェーズ1実施効果・課題とその改善方法① >
「利用率」と「業務効率」
石井
「そもそもお客さまに受け入れてもらえるのか?」という満足度と、最初は少し苦戦した利用者数について、「苦労していたけどこうやって改善していった」という点をお伺いさせてください。
まず利用者数をみると、目標値75%となっています。それほど選択してもらえなかった、という状況があったと思いますが、この部分についてのエピソードを教えてください。
萱場氏
目標の作り方については課題があったと思います。
また、お客さまとチャットの応対をしたうえで、最後の選択肢として当時Secure Pathという選択肢以外にも「電話」も案内していました。この点が逆にお客さまを迷わせてしまっていた、というのはあったと思います。
せっかくチャットでやり取りをしているのに、お客さまを迷わせることになってしまったのではないか、と振り返ってみて考えています。
石井
頂いていたデータを見返してみたのですが、明確な変化がありますね。
利用率は当初44%でしたが途中で運用改善を行い、その後は当初より10%以上増加しています。
またCPCについては、このフェーズではお客さま満足度を優先して見られていたのでしょうか?
萱場氏
そうです。
石井
この時点では、最終的には「電話と比較した運用効率」は念頭にあったのでしょうか?
萱場氏
チャットと電話を比較した時、一人のお客さまに対してオペレータが一人と考えると、電話と違い、チャットはお客さま自身がリアルタイムにコミュニケーションしてくださる訳ではありません。またオペレータ自身も「話す」「文字の入力」の違いもあるので、単純なAHTの比較だけで考えてしまうと、チャットは電話に対して伸長すると考えていました。
ですのでAHTの結果よりも、お客さまの利便性として「チャットでお問い合わせ頂いた方がどれだけ満足されるか」を見ていました。ご満足頂けているのであれば、生産性を上げていく、ということを社内で議論していました。
石井
フェーズ1実施時の結果として、CPCは電話と同程度という結果でいらっしゃったということでよいでしょうか?
萱場氏
はい、そうです。
<フェーズ1実施効果・課題とその改善方法②>
数値変化を見ながらの取り組み
石井
また課題として、「Secure Path」内での「途中離脱」もありました。どのような施策を行うことで、これらを改善したのでしょうか?
萱場氏
「途中離脱」については、おそらく「お客さまに手続きをして頂く」ということについて、私たちがいかにして解像度を上げて、改善を行っていったかの成果の表れだと考えています。
お客さまの離脱理由について「おそらくここで離脱してしまっているのではないか」という箇所を数値から考え、手を打ったことが成果として表れたと思います。
当たり前のことなのですが、こういった改善結果を数値として提供頂きながら取り組む事ができたのが、今回モビルス様との取り組みの意味として大きかったと思っています。
<運用効率としての課題>
お客さまが長く感じる時間=お客さまに価値を提供できていない時間
石井
あくまで優先順位が高いのはお客さま満足度で、これが通用するかどうかを注視していたとのことでしたが、将来的には効率指標も見ていかなければいけない中で、フェーズ1時点での効率面での課題点は何と捉えていましたか?
萱場氏
「お客さまに価値を出せていない部分で時間を使うことは良くない」と考えていました。そのため、お客さまとオペレータが応対している時間は「人の価値」を出せていると思います。一方でオペレータとの応対がなく、お客さまが体感として長く感じている部分には改善余地があると考えていました。これは、この後のフェーズ2に繋がる「本人確認」の部分となります。
石井
西原様としてはこのフェーズ1で、現場の運営で苦労した部分はありますか?
西原氏
複数件同時対応は以前から行っていました。しかしそこに個人情報を取り扱うとなると「仕組みとしてミスや事故が起きない対策」が必要になります。そこで現場としては、窓口のオペレータに複数台の端末を用意し慣れてもらう、ということを最初に取り組みました。
フェーズ1が終了した段階で個人情報を取り扱いながらお客さまの課題解決ができ、かつ現場のオペレーションとしても実装できる、ということが見えてきたのは良かったと思います。
また拡大させていく可能性も、フェーズ1の段階で見えてきました。
石井
なるほど。結果として2021年9月末には同時対応数1.1になりました。これこそ複数台端末の運用だからかと思いますが、もし端末が2台あってフルでとれれば、これは2に近づいていくと考えられると思いますが、1.1になったのは背景としては何があるのでしょうか?
西原氏
9月の段階では、どの程度生産性が悪化するのかはみえていませんでした。お客さまへ影響を出さないためにも、ブース数が多くなっていました。 現在は1.1以上の対応数になっています。
石井
9月時点には安全策をとったということですね。
後編につづきます
ベネッセが描く、問い合わせのエフォートレス化:第一弾<後編>~チャットで安全に本人確認ができると何が変わるのか?~