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エンドユーザーの行動や価値観の多様化が新型コロナウイルス禍で加速する中、企業と顧客のコミュニケーションの在り方も見直しが必要となっています。

顧客サポートを担うコンタクトセンターでは、サービスレベルの設定、BCPの観点、チャネルの最適化など多くの課題に直面しています。

これからの顧客サポート、企業と顧客のコミュニケーションデザインは、どう在るべきか?

コンタクトセンターやバックオフィスの設計、構築や運営などを行う、セコムグループの株式会社TMJ 営業統括本部 サービス推進本部 本部長 島田將英氏と、顧客サポート業務のソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社 代表取締役社長 石井智宏による対談企画、第二弾です。

今回は、「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」といった通信教育を始めとした教育・生活事業を展開する、株式会社ベネッセコーポレーションにて、コンタクトセンターのマネジメントや営業開発などを担う マーケティング開発セクター エリアマーケティング部 部長 境 和輝 氏をゲストに迎え、事業会社、ベンダーそれぞれの立場からディスカッションを行いました。

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細川
ベネッセコーポレーションは、顧客サポートでチャットボットや有人チャット対応などノンボイス導入や、テキストマイニングの活用などテクノロジーを活用した先進的な取り組みを行う企業です。

「コロナ禍での変化は?」「コンタクトセンターの役割が拡張?」「在宅オペレーションの取り組みはこれからどうなる?」「ノンボイス・デジタルシフトはどのくらい進んでいる?課題は?」などについてディスカッションした模様をお届けします。

TMJとモビルスによる対談はこちら!!
【前編】https://mobilus.co.jp/lab/chat-support/tmj-mobilus/
【後編】https://mobilus.co.jp/lab/chat-support/tmj-mobilus-2/

(左から)TMJ 島田氏、ベネッセコーポレーション 境氏、モビルス 石井

【ディスカッションメンバー】

株式会社ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー マーケティング開発セクター エリアマーケティング部 部長  境 和輝 氏

株式会社TMJ 営業統括本部 サービス推進本部 本部長 島田將英

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井智宏

【モデレーター】
株式会社TMJ 営業統括本部 サービス推進本部 プロジェクトマネージャー 川野克俊

対面からオンラインへ急激なシフト。コンタクトセンターの役割が広がる。

―コロナ禍での変化を踏まえ、これからの顧客接点はどうなっていくでしょうか?

境氏
今、私はエリアマーケティング、通信教育や塾に関するマーケティングや、産科でのリード作り、電話窓口での顧客接点構築を担当しています。この一年急激な変化がありました。

一番の変化は、対面での対応が極小化し、電話だけでなくオンライン上でのコミュニケーションが増えました。

今後の顧客接点を考えるときオンライン上での顧客との接点、その過程での様々なデジタル技術やAI活用は避けて通れなくなるだろうなと思います。

石井
対面営業が制限される中でコンタクトセンターの役割が拡張している印象です。チャンネルやインターフェースの多様化や、マーケティング要素との融合、アクティブなサポートなど、今後必要になるのではないでしょうか。

境氏
デジタルを活用したバーチャル接点とリアル接点の融合が必要になっていくと考えています。コロナ発生直後、塾事業は営業停止しました。その中で、お子さまの学習を止めないために遠隔で対応できることを考えたとき、人とデジタルでのサービス接点を描く必要がありました。そういった活動が今後のヒントにもなると思っています。

島田
既存の顧客接点がデジタルへと急激にシフトした中で、顧客体験価値をどのように向上していくか、検討がより深まっていると感じます。バーチャル接点とリアル接点による新たなカスタマージャーニーマップを描き、顧客対応を考えていくことが必要な時期にきているのではないでしょうか。

在宅でのノンボイス対応、アバターを介した遠隔サポートも視野に。

石井
コロナ禍でBCP対策として在宅でのオペレーション対応をしたセンターもありますが、思ったより導入が進まなかった印象です。ですが、今後はBCP対策だけでなく、時間や場所を選ばない働き方の多様化や専門資格を持つ人の活躍など、オペレーター採用の可能性を広げるのではと思っています。

また、これまで人がその場にいなければいけなかった業務、例えばチケットカウンターや店員など、アバターを介しての遠隔でのオペレーター対応や自動化なども可能になるのではないでしょうか。

ベネッセコーポレーション 境氏

境氏
サービス的な側面でも、これまで塾や教室で、対面でやってきたことがオンライン化されましたし、オンライン自習室、オンライン授業、オンライン指導などこの一年で実施しています。これがサービス面だけでなく、サポートの現場でも実現してくるのではと考えています。

チャットボットはすでに年間数十万件対応しているのですが、さらに擬人化を進めたボイスボットへ進化していくでしょう。

ただ、自動化だけでは100%の正答率は難しいので、ボットと人の融合で加速させることが必要だと思っています。オンラインのやり取りが一般化し、この先の有人対応は顔が見えるテレビ電話ベースになったり、アバターを介してのやりとりもニーズが出てくると思います。

また、コンタクトセンターとしてどこにROIを見出すかも重要なので、在宅オペレーションのノンボイス対応はROI観点でも良いかと思います。また、サポートとセールスの融合もポイントの一つかもしれません。

石井
塾などはオンラインで常に先生がそばにいてサポートしてくれると、プラスのサービスになりますね。

エフォートレス体験を追求する上で、ボイスボットへの期待と導線設計の重要性。

―ボイスボットの話が出ましたが、顧客サポートやサービス面でデジタル化を加速する中、ボイスボットを使うことでどのような利点があると考えますか?

境氏
我々が追い求めてきたのは、エフォートレスな体験です。比較的年齢が若い保護者の方は、スマホから問い合わせをする比率が高いです。スマホから電話をかけて必要事項の入力になった瞬間、画面を切り替えて入力するというこれまでの音声IVRのようなやり方だと切り替えの手間が発生します。

それがボイスボットの活用だと、ワンストップででき、操作の手間もひとつなくなる。小さいことですが、そういうことでお客様のエフォートが下がり離脱も下がる、といったことを積み重ねたいです。

石井
理想は問い合わせが来た最初に、知りたい内容のチャネルへ案内することではないでしょうか。最初に困っていることをヒアリングし、そこから最適解に誘導できるのが理想です。そこにビジュアルIVRが使えるのではないかと。

境氏
おっしゃる通りです。
チャットボットやボイスボット、ビジュアルIVRなどを導入する目的がノンボイスやFAQでの自己解決を目的に置いてしまうと、電話→ビジュアルIVR→チャット→電話…と何度も行き来させてしまうことにもなりかねません。

企業側が指標を自己解決にもっていくから、チャネルを単に増やしてしまうことがあるのではと思います。

基本的には、いかにお客さまの疑問や悩みをすぐ解消できるかが第一優先です。お客さまの困っていること、解決したいことを一次対応でヒアリングをして最適な窓口へ案内するなどできれば良いなと。

そこにボイスボットなどを活用できれば確かにベストですね。お客さまにとって動作の手間をなるべくないようにもっていきたいです。

TMJ 島田氏

島田氏
日本人は音声を左脳で言語処理することに優れていて、テキストより音声での解決の方が適しているという話もあります。エフォートレス、パーソナライズ、驚きのキーワードでも、ボイスボットの可能性は広がるのではないかと弊社でも考えています。

また、顧客層を想定した時に、サポートを受けるチャネルとして電話を使うことがまだまだ多かったり、内容によってはその方が安心するということも少なくないと思いますので、そのような実態を考えてもボイスボットへの期待はあると認識しています。

自然言語処理技術の進化は、人とAIの役割を明確にする。

境氏
技術的な面で生産性や効率化を追求しても最後に残るのは人が対応することの価値だと思っています。人だから提供できるものは何か。そこにリソースを注ぎ込むための「技術」ではないでしょうか

弊社は「赤ペン先生」やキャラクターなどお客さまに寄り添う存在を価値として大事にしています。ボイスボットを導入したとしてもそれだけで、人が対応したときと同じような満足度を得られるか・・・というと疑問はあります。

石井
これまでのテクノロジートレンドを見ると、アカデミックから商用化されるまで6、7年かかっています。最近、自然言語処理技術が進化していて回答精度が大幅に高まっているので、今後5~10年スパンでは正解がある回答精度は人間を超える可能性もあります。

そうなったとき人の役割は何か?どんなにAIが賢くなっても、明確な正解がない、正解を求められない回答などは、AIではできません。技術が進化することで、AIと人の役割が明確になってくると思います。

境氏
そうですね。AIやボットを活用する場面として、一番適しているのは選択肢と答えが明確な手続き系でしょうね。

島田
前回の石井社長との対談でも、境さんがおっしゃったように、どのような課題を何のチャネルで解決するかの見極めとしてコールリーズン分析と導線の設計は大事だと話していたところです。改めてその重要性を感じます。

セールス、サポートも含めた価値がサービスの価値になる

―サポートとセールスの境界がなくなっているという話が出ました。サポートとセールス領域の境目は今後どのようになっていくでしょうか?

境氏
営業管轄でデジタルマーケティングやリード作りの話をする際、納得度の高い意思決定を考えたとき、その接点でのサービス満足度が必要だという話に行きつきます。例えば無料でもらえる物があるから申し込むという物の価値ではなく、そこでのサービス・体験を通じてお客さまがご納得するかどうかです。

セールスもサポートもサービスの一環にならないと納得度の高い実感は得られないと考えます。

例えば、サポートにおいてもお客さまの課題をヒアリングし、お困りごとをいただいたうえで何を解決性として提供できるか。その価値を実感いただいた上で意思決定をしてもらう。

セールスにおいても同様で、エンゲージメントを高めながらナーチャリングをしていく。お客さまに寄り添いながら満足度を高め、意思決定をしていく形に変わっていかいないといけません。

島田氏
ほかの企業でも商品サービスをカタログ的に提供するのではなく、アフターサポートの価値も感じていただいた上で納得いただくのが必要だと感じています。顧客視点に立てば、商品やサービスを購入・利用するときはもちろん、その前後を含めてその全てがサービスと捉えること(サービス・ドミナント・ロジックの考え方)が自然です。

それらを点ではなく線として捉えて、どのような体験価値を提供できるかが重要なのだと思います。

オペレーターの習熟度を高め安定稼働するためにも、繁忙期の手続き自動化対応は有効。

―これから人が関わる接点はどうあるべきなのか。いかに仕組みやソリューションに置き換えられるか。今後を見据えたとき、今取り組んでいることとのギャップをどうステップを踏んで進めていくべきでしょうか?

モビルス 石井

石井
塾や窓口など対面でやっていたところは、コロナ禍でオンライン化が進み、今後はリモート対応とリアルのハイブリッド体制が続くのではないでしょうか。コンタクトセンターでも、サポートだけでなく営業的なサポートなどこれまでと違うオペレーションの形が付加されると考えたとき、今の運用では厳しい面もあると思います。

一カ所に集約したセンターではなく、在宅オペレーションや情報セキュリティなど課題がある中、この辺りはどうお考えでしょうか?

境氏
在宅であれセンターであれ、前提としておさえておかないといけないのは、オペレーターがお客さまに向き合う習熟度をどれだけ高めれられるかです。テクノロジーが進化してもやはり人でしかできないことがあります。

例えば、対話中に背後の音からその方の状況を想像する。お子さんの声が遠くで聞こえたら「お子さまの様子、大丈夫ですか」と一言声かけると、気遣いを感じて心を開かれるのが早まるのではないでしょうか。

教育への興味・関心があり、知識や経験を積み重ねたオペレーターに安定的に続けてもらうことが重要です。そのために安心して働き続ける環境をつくることです。

弊社では山谷、繁閑が非常にあります。安定的に習熟したオペレーターがいると、人が出せる価値がすごくでてきます。そうなると、在宅であろうと、チャット対応であろうと、対応できるツールが増えていく、まずはそれが前提だと思っています。

島田
確かにそうですね。 この対話の行間にある様子を捉えることは人でないとできませんし、共感を生む。まさに体験価値ですね。

境氏
弊社の場合、繁閑差がとてもあります。繁忙期は2~4月です。この時期での問い合わせが閑散期8~9月と比べると2.5倍くらいあります。

繁忙期に採用をかけ、入社後2~3週間で着台できるのはある程度限定された手続き対応などに限られます。

そういう手続き系はボットで自動化していくことで、稼働における新人比率を下げる=習熟度の高いオペレーターが人に寄り添う対応に集中できる、そうした活用を捉えていきたいです。

石井
季節要因による負荷の増加をうまく分散させることで、現行オペレーションを守る発想は重要ですね。予測可能な呼量増加であれば、ボットをうまく活用することも可能です。

電力会社も引っ越しシーズンの3~4月の繁忙期対策として、「引っ越し受付ボット」と割り切った手続きのボット対応を行っていて、役割が明確なので効果が分かりやすいです。

個人情報取り扱いのセキュリティ対策ができると、ノンボイス活用も一気に進む。

―ノンボイス活用や在宅オペレーションなど、これからの顧客対応・コミュニケーションに必要な要素を進める上で課題となることは何でしょうか?

境氏
個人情報取り扱いセキュリティレベルの高さです。手続き自動化など、会社のセキュリティレベルが高く、既存のシステムで実現できるものがありません。ボット上で手続きを完了できるようにしたく、セキュリティレベルをクリアできるシステムを期待しています。

石井
テキストベースに個人情報があることがセキュリティレベル上のネックです。例えば、個人情報のやり取りだけ、特定のオペレーターだけに見せる。個人情報のテキストはAIが判別し自動でマスキングをかける。などが考えられます。

境氏
そうなのですね。個人情報取り扱いのセキュリティ面をクリアできれば在宅オペレーションも形ばかりではなく、ノンボイス対応含めて一気に進みますね。この対談をきっかけにソリューション開発していきたいですね!

「お客さまの使いやすさ」を追求するために、テクノロジーの活用で変革を続ける。

―今後の取り組みについて展望を教えてください

境氏
今、新たに取り組んでいるのは音声認識AIのトライアルです。認識された音声のテキストを何に使うか。コールリーズンを分析し、効果が大きそうなものからトライアルをしていきます。

音声認識AIは活用の幅がありすぎて、お客さまにとって良そうそうなものはいくつか考えられるし、センターにとって利便性が高そうなものもいくつかありますがROI視点だと選択肢が狭まります。何かと組み合わせてソリューション化しないといけない。

あとは、テレビ電話を通じたお客さまのテクニカルサポートも実施予定です。ただ、通信環境などお客さま環境の事情もあるので、チャットと並行して運用する必要があると思っています。

石井
ノンボイス化のターゲットはどのようにお考えですか?

境氏
ノンボイス化の目標比率は明確に定めているわけではありません。今、サービスとしては顧客接点の在り方を単発で終わらせるのではなく継続的な関係を作るべく、会員向けのアプリ「まなびの手帳」をリリースしました。

アプリ接点から顧客接点を広げていった先に、問題解決や手続き自動化など施策をどれだけ増やしていけるか。いかにお客さまにとって使いやすく、使いたいと思えるものにしていけるかを考えて作っていきます。

これから商品やサービスがどんどんデジタル化していくので、特にテクニカルサポートなどにおいては、お客さまにとって身近なツールで解決できるようにしていきたいです。

石井
弊社のお客さまでは有人チャットを主体にし、問い合わせ対応全体の5割をノンボイス化し、効率化している事例もあります。

境氏
弊社の場合、メール対応が極端に少ないです。会員情報をベースにしたコミュニケーションが必要なので、日をまたぐメール対応というノンボイス対応はこれまで避けてきました。電話の方が、即時性があるので適していました。即時性も満たしたノンボイス対応がチャットなので、チャット対応は増やしていきたいと考えています。

石井
そうなると本人確認でセキュリティ対策が必要になるのですね。

境氏
個人情報の基盤ができると在宅オペレーションも実現できます。働き方の面でもオペレーターにとって選択肢が広がり、センターの安定稼働にもなり、お客さまをお待たせしないことに繋がります。テクノロジーを活用し、今後も変革し続けていきます。

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細川
お話の中で出てきたボイスボットについて、使い方や導入事例など気になる方は、下記より資料をダウンロードできます!ぜひお気軽にお問合せください。
https://mobilus.co.jp/lab/report/mobivoice/