日本におけるメッセージングアプリの代表格といえば、「LINE」でしょう。
月に1回以上利用のあるMAU(Monthly Active User)は9,500万人(2023年3月末時点)。日本の総人口(1億2450万人)の約75%をカバーしています。さらに、1日に1回以上利用のあるDAU(Daily Active User)でも86%※1という割合に達します。
利用年代も10代〜70歳以上までと幅広く、日本のコミュニケーションアプリとして圧倒的なトップシェアを誇ります。
※1 出典 https://www.linebiz.com/jp/service/line-ads/2/
さらに現在は、個人利用の域を超えて、ビジネスシーンでも社内・社外のコミュニケーションツールや自治体から住民、お店から消費者への情報発信や、消費者から企業への問い合わせ用チャネルとしても活用されています。まさに「インフラ」として我々の日々の生活に浸透しています。
ところで、メッセージングアプリにはLINE以外にもさまざまなサービスがあります。
国内でみても、Meta(元Facebook)が提供する「Facebook Messenger」などはよく耳にすると思いますが、これをさらにグローバルまで目を転じると、メッセージングアプリの勢力図は様変わりします。
本記事では、グローバル視点でのメッセージングアプリの動向と、いくつかのアプリについては「顧客サポートシーンでの活用のされ方」も少しだけ見ていきたいと思います。
【最新ランキング】2023年版 メッセージングアプリのグローバル勢力図
2023年、メッセージングアプリの市場はますます競争が激化しています。
スマートフォンの一層の普及やテクノロジーの進化により、巨大プレーヤーがそのシェアを堅調に伸ばしている一方、ニッチなターゲットに向けた独自のサービスを展開する新興プレーヤーの台頭も目立ってきました(Discord、slack等)。
ここでは、2023年版のメッセージングアプリのグローバルな勢力図をみてみたいと思います。
トップは「WhatsApp」の20億人
2023年現在の、 MAU(月間アクティブユーザー)最新ランキングをまとめてみました。以下の通りです。
シェアトップは、イスラエル発の「WhatsApp」。
2023年2月時点で、世界中で20億人ものユーザーがいます。世界人口の30%以上が日常的に使用していることになりますので、これは驚異的な数値です。シンプルな使い勝手が評価されているようです。
第2位は「WeChat」の13億1900万人です。第6位の「QQ Mobile」の7億人と併せて、約20億人となりますが、いずれも中国のテンセントが提供しているサービスです。
中国は規制の問題で、GoogleやMetaなど外資系企業のアプリケーションは中国内で使用できないため、中国の国産アプリが普及しています。つまり、WeChatとQQを合わせた20億という数値は、中国国内のみの数値ということになります。改めて中国の大きさを実感します。
第3位は「Facebook Messenger」の9億3000万人です。Facebook Messengerは、母体のSNS「Facebook」こそ29億人のユーザーがいますが、メッセージングアプリの「Messenger」単体で見ると、利用者数はこの人数まで落ち込んでいます。
尚、トップシェアの「WhatsApp」と第3位の「Messenger」の運営企業は「Meta(元Facebook)」です。WeChatが中国のみでの利用という特殊事情を鑑みると、多様な国や地域で利用されているメッセージングアプリのトッププレイヤーは、Metaということです。
プライバシー情報の漏洩や個人データの収集など、批判意見は多々あれど、やはりMetaは、世界のコミュニケーションの在り方を変えてきた先駆者であり、今なお牽引している「時代の革命的存在」だといえます。
顧客サポートという意味では少し視点が広がりますが、特定のサービスや製品についての「コミュニティ」もFacebook上には存在し、会員専用サイトほどのクローズドな雰囲気ではないものの知見やノウハウのシェア、ユーザー同士のつながりの場として活用されているようです。
第4位は欧米の若者を中心に人気の「Snapchat」が7億5000万人、第5位はロシア発の「Telegram」が7億人と、数年前と比較し、いずれもユーザー数を伸ばしています。
以降、楽天が運営する「Viber」、日本シェアトップの「LINE」と続きます。日本では圧倒的なシェアを誇るLINEですが、グローバルにおいては一部の国でのみ普及しているマイナーアプリと言わざるを得ません。
先に示したグラフを表でもまとめておきます。(各リンク先を元にモビルス作成)
サービス名 | MAU (百万人) | 主な利用国 | 更新日 (リンク先=出典) |
2000 | 欧州、南米、インド等を中心としたワールドワイド | 2023年2月 | |
1319 | 中国 | 2023年5月 | |
Messenger | 931 | アメリカ、カナダ、オーストラリアなどを中心としたワールドワイド | 2023年5月 |
Snapchat | 750 | 欧米 | 2023年2月 |
Telegram | 700 | ウクライナ、イラン、カザフスタンなど中東地域、ロシア | 2022年6月 |
QQ Mobile | 597 | 中国 | 2023年5月 |
Viber | 260 | ギリシャ、ベラルーシ等 | 2021年 |
LINE | 198 | 日本、台湾、タイ、インドネシア | 2023年3月 |
KakaoTalk | 53 | 韓国 | 2023年3月 |
世界地図でみる勢力分布
次に世界地図で勢力分布を見てみましょう。国ごとに最も人気のあるメッセージングアプリで色分けがされています。
メッセージングアプリの勢力分布は、地域によって特色がありますが、一般的な傾向をアプリ毎に簡単に以下に示します。
Metaが買収したメッセージングアプリです。世界180カ国以上で利用されており、ユーザー数は20億人を超えます。無料で利用できるだけでなく、機能も充実しているため、ビジネスからプライベートまで、さまざまなシーンで利用されています。
WeChat(ウィーチャット)
WeChatは中国の国産アプリです。中国では規制により外資のアプリが使えないため、中国国民は国産アプリを使うしかないとはいえ、それだけで13億人のユーザーを抱え、圧倒的な存在感を持ちます。逆に、中国以外の地域では利用者数は限られています。
LINE
LINEは、グローバルでのMAU1億9800万人のうち、日本、台湾、タイ、インドネシアの主要4カ国で1億7800万人の割合を占めます。この4カ国ではいずれも圧倒的トップシェアを誇ります。日本語がもっともわかりやすいですが、曖昧な感情表現を多用するノンバーバルなコミュニケーションとLINEの大きな特徴でもある「スタンプ」との相性が合っていること、そして、アプリを各国仕様に徹底的にローカライゼーションしていることが、強さの理由です。ちなみに韓国初のアプリですが、韓国でのトップシェアは次に紹介するKakaoTalkというのが面白いところです。
KakaoTalk
KakaoTalkは韓国市場で非常に強い勢力を持ち、韓国の人口の9割をカバーしています。他の地域では利用者数が限られています。
Telegram
Telegramはロシア発のメッセージングアプリで、特にロシア、イラン、中東地域で人気があります。セキュリティとプライバシーに徹底的にこだわっているのが特徴で、表現の自由があまり保証されていない国や地域、アンダーグラウンドな世界でこれまで根強い人気を誇っていました。昨今のウクライナ情勢もあり、一般への認知も広がりつつあります。
Viber
楽天が買収したメッセージングアプリです。日本国内においては、LINEがサービスを開始する数ヶ月前に発生した2011年3月の東日本大震災で、Viberを入れておけば連絡がつながるとして、緊急時の連絡手段として一時的に認知度が高まりました。当時のその関連のニュースが記憶にある人もいるのではないでしょうか。その後もサービスは継続されており、ユーザー数も微増ではありますが、伸びているようです。
Discord
グラフや表からは除外していますが、新興プレーヤーとしての注目株は「Discord」でしょう。2015年にアメリカでリリースされたアプリです。現在1億5000万人のユーザーを抱えています。元々はゲーム中のコミュニケーションをスムーズにするために開発されたツールで、ユーザーの多くはゲーム愛好家で占められていましたが、近年では、Discordのチャットサービスとしての優秀さが評価され、ゲームコミュニティ以外のユーザーも増加中しています。
このDiscordも顧客サポートという意味では少し視点が広がるものの、特定のサービスや製品のユーザーにとっての「コミュニティ」や「サポートの場」として活用されているようです。企業発信やユーザー発信での知見やノウハウのシェア、ユーザー同士のつながりの場として活用されている点ではFacebookやSlackとも類似しています。
以上、テクノロジーの日進月歩での進化と、ユーザーの嗜好の多様化に伴い、さまざまなサービスが生み出されては消えていきますが、コミュニケーションアプリは「面取り合戦」という側面も強いため、現在の巨大プレーヤーがマイナープレーヤーを買収しながら、さらに巨大化していく、という流れが当面トレンドとして続きそうです。
【歴史】SMSからIM(インスタントメッセンジャー)、そしてクロスプラットフォームなアプリへの進化
メッセージングアプリの歴史を振り返ると、SMS(ショートメッセージサービス)→IM(インスタントメッセンジャー)→スマホアプリという具合に、インターネットとモバイル技術の進歩に密接に関連しながら、ここまで発展してきました。
SMS(ショートメッセージサービス)
1990年代にSMSが登場し、モバイル端末間でのテキストメッセージの送受信が可能になりました。SMSは、ユーザーが通信事業者を介してテキストメッセージの送信をすることができるシンプルなメッセージ形式ですが、携帯電話の普及とともに急速に成長し、現在では世界中で1日あたり数十億件のSMSが送信されています。
IM(インスタントメッセンジャー)
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネット接続を利用したIM(インスタントメッセンジャー)が登場しました。AIM(AOLインスタントメッセンジャー)、MSN Messenger(後のWindows Live Messenger)、Yahoo! Messengerなどが有名どころです。これらのアプリは、パソコン間でリアルタイムにテキストチャットやファイル共有を可能にしました。
スマートフォンの普及とWhatsAppの台頭
スマートフォンの普及とデータ通信の高速化により、新たなメッセージングアプリの時代が始まります。2009年にWhatsAppがリリースされると、Android、iOS、Windows Phone、BlackBerryなど、さまざまなプラットフォームに対応した利便性もあり、SMSの代替手段として急速に普及していきました。
プライバシー保護やセキュリティに焦点を当てたアプリ
スマートフォン、タブレット、パソコンなど、さまざまなデバイスで使えるクロスプラットフォームなアプリが普及していく反面、ユーザーのプライバシーやデータセキュリティへの関心が高まっていきます。そこで2013年にリリースされたのが、セキュリティに焦点を当てた設計が特徴である「Telegram」です。その翌年にリリースされた「Signal」もセキュアなアプリとして知られています。
(現在)モバイルアプリの統合
現在、多くのメッセージングアプリは、単なるテキストメッセージングの範囲を超え、写真やビデオの共有、音声通話、ビデオ通話、グループチャットなど、さまざまな機能を有するようになっています。また、ビジネス向けにも機能を拡充するなど、利用用途を広げています。今後はこれにAIが搭載されることによりさらに利便性が上がり、私たちの生活とは切っても切れない密接な関係になっていくことでしょう。
【欠かせない理由】メッセージングアプリはなぜこれほどまでに普及したのか?
メッセージングアプリは、もはや人々の生活インフラにまで育っていますが、なぜこれほどまでに普及したのでしょうか?改めて、ということになるかもしれませんが、以下5つの切り口をご紹介します。
即時性とリアルタイム性
メッセージングアプリは、リアルタイムコミュニケーションツールです。テキストメッセージやチャットを通じて、相手との対話がリアルタイムで行われます。緊急の連絡や迅速な情報共有が可能になり、個人間やビジネス間のコミュニケーションスピードが大幅に向上しました。
顧客サポートのシーンでも「待たされずに・すぐに」問合せ内容が解決されたい、というニーズにこれらの特性が貢献しています。
クロスプラットフォームの利便性
メッセージングアプリは、スマートフォン、タブレット、パソコンなど、さまざまなデバイスで利用できます。そのため、ユーザーは自分の好きなデバイスでメッセージを送受信することができ、常につながっている状態を維持することができます。
通信コストの削減
メッセージングアプリを使用してメッセージを送信する場合、通信事業者のSMS料金を支払う必要がありません。特に、国際的なコミュニケーションでは、メッセージングアプリを利用することで通信コストを大幅に削減することができます。
たとえば、従来では電話でされていたコミュニケーションでは距離によって数十円~数百円といったコストを要しますが、顧客サポートのシーンでも通信コストを抑えたコミュニケーションがユーザー・企業の双方に受け入れられていると考えられます。
さまざまなメディアの共有
メッセージングアプリは、テキストメッセージだけでなく、写真、ビデオ、音声メッセージ、ドキュメントなど、さまざまなメディアの共有が可能です。昔はメールソフトで行っていたメディアの共有を、より簡単にできるようになりました。テキストのみや、音声のみでは伝えにくかった視覚情報をやりとりできるため、より相手にイメージしてもらいやすいと言えます。顧客サポートの具体例で言うと、OA機器などの故障個所をユーザーが写真で撮ってサポートに送ることで状況チェックがスムーズになるなどのシーンで活用されています。
グループチャット機能
メッセージングアプリには、複数の人々が同時に参加できる「グループチャット機能」があります。これにより、友人や家族、同僚などとのグループでのコミュニケーションが簡単になりました。イベントの計画や情報共有などが円滑に行えるため、プライベートはもとより、ビジネスシーンにおいても活用されるようになりました。
【今後の展望】AIやIoTとの接続により、より生活に密着した「インフラ」としての存在に。
メッセージングアプリは、今後も人々のコミュニケーションツールとして欠かせない存在であり続けることは間違いありません。
一方で、AIやIoTなどによって、メッセージングアプリの機能や利用方法は大きく変化していくと考えられます。
端的にいうと、これまでは「人対人」を結ぶものであったのが、これからは「人対AI」という構図が生まれてきます。
昨年12月のchatGPTのリリース以降、たった半年足らずで「生成型AI」が一気に私たちの身近な存在になってきており、その自然なやり取りに、誰もが驚きを隠せずにいます。
今後、この大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の領域は加速度的に能力がアップしていくはずですので、これを搭載したメッセージングアプリは、活用方法がどんどん広がっていくでしょう。
例えば、AIを活用することで、メッセージングアプリはより自然で人間らしいコミュニケーションを実現できるようになります。また、IoTデバイスとの連携により、メッセージングアプリは生活のあらゆる場面で活用されるようになるでしょう。
具体的には、以下のようなことが考えられます。
- AIを活用した自動翻訳機能により、世界中の人々と簡単にコミュニケーションをとることができるようになる。
- IoTデバイスとの連携により、家電の操作やタクシーの呼び出しなど、生活のさまざまな場面で、メッセージングアプリを活用することができるようになる。
- メッセージングアプリを活用した遠隔医療や教育などのサービスが普及する。
- お店や役所への問い合わせや相談時に、対面や電話だけでなく、メッセージングアプリを利用した対応がさらに広がる
メッセージングアプリは、対話というかたちで最もAIと身近に接するインターフェースになっていき、今後も人々の生活を、より便利で豊かにしてくれるツールとして進化していくでしょう。
さらに当然ながら、ユーザーの趣味や家族構成などの情報、これまでの対話内容などから、パーソナライズドされていきます。
今後、メッセージングアプリは、単なるコミュニケーションツールの枠を超え、アプリ上での顧客サポートや購買のシーンを含めて人々の生活とますます密着した生活インフラになっていきます。メッセージングアプリが今後どのような機能をもち、進化を遂げていくか、目が離せません。
モビルスでは、LINE, Facebook Messengerのチャットボットの開発実績が多くあります。顧客サポートでのLINE・Messenger利用をお考えでしたら、一度ご相談ください。
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