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コロナ禍において様々な業務の急速なオンラインシフトが進み、それに比例するかたちで様々な事業領域でSaaSサービスを導入する企業が増えています。

今回は私たちの日常にあふれている「ボイス」や「会話」を軸に、成長を遂げているSaaS業界のスタートアップ2社が、それぞれの会社が展開するサービスの現状と、今後目指す社会の姿について対談を行いました。

セールステック業界でIP電話とオンライン商談の自動書き起こし・解析ツールを提供するamptalk株式会社 代表取締役社長 猪瀬 竜馬氏と、顧客サポート業務のソリューション開発・提供を行うモビルス株式会社 執行役員 セールス&マーケティングディビジョン長 柏原 学による本対談では、

アメリカでの就業経験があるからこそ感じる日本の「セールステック業界」や「カスタマーサポート業界」の課題、日本で起こしたいイノベーション、これからの3年後、5年後に目指したい姿についてディスカッションした様子を「前編」「後編」2回に分けてお届けします。

対談メンバー

amptalk株式会社 代表取締役社長  猪瀬 竜馬 氏

モビルス株式会社 執行役員 セールス&マーケティングディビジョン長 柏原 学


『amptalk』製品について
『amptalk』は、IP電話とオンライン商談を書き起こし・解析することができるSaaSソリューションです。Salesforceなどのさまざまなツールと連携して書き起こし・解析結果の反映が可能なため、営業現場での情報伝達を効率化させ、生産性を向上します。


大企業になるほど進む業務の分業。「効率化のための分業」を推進するため、
情報伝達や自動化、その先にある顧客満足度向上を目指す。

ー2社それぞれの事業概要や目指すイノベーションについて教えてください。

amptalk株式会社 猪瀬氏

猪瀬氏
当社は「セールスイネーブルメント」、つまりは非効率的な営業活動を克服させていくということをミッションに事業展開を行っています。「The Model」で言われるように、現在、インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスというように営業のなかでも様々な分業が起きていて、分業化することによって効率化するということを各社目指していますが、逆に「分業化によって情報伝達や効率化ということができていない」という問題が起こっています。これを解決するための製品として社名と同じ『amptalk』を開発・提供しています。

柏原
「セールスイネーブルメント」に着目したきっかけはどのようなことからでしょうか?

猪瀬氏
私自身、もともとは日系の大企業で働いていました。業務を行う上で人数が多いことによりシステムやプロセスが確立しておらず、その会社のみではなく日本全体を見ても、まだ改善の余地があるなと感じていました。

そのような課題を感じながら数年間アメリカに滞在していた際に、仕事を合理的に進めていくことやそのメリットを体感し、このノウハウを日本で再現し、日本社会を前に進めていきたい、と考えるようになりました。

柏原
もしかすると、目指す姿で通じる部分があるかもしれません。私たちモビルスはカスタマーサポート領域で、コンタクトセンターのデザイン設計提案を行っています。コールセンター全体での問い合わせ導線設計を提案し、ボイスボットやチャットボット等のツールの導入・改善の支援をしています。

企業の中にある定型業務をノンボイス化・自動化し、 業務効率化のサポートを行うことで、その先のエンドユーザーとなる消費者がエフォートレスな課題解決ができることを目指しています。


業務のデジタル化や効率化などの抜本的な変化を目指す中で、内外の様々な要因により、考え方が広がらないケースも。

ー2社それぞれの業界で、2022年現在の市場環境はどうなっていますか?また「課題」となっていることがあれば教えてください

猪瀬氏
当社の属するセグメントは大きく分けて2つあると考えています。一つはセールスイネーブルメントを含む「セールステック」、もうひとつは「音声認識」です。 

「セールステック」業界では「The Model」という考え方が広まってきていますが、フィールドセールスの商談やインサイドセールスの架電内容の社内共有など「情報の橋渡し」に課題があります。そのため、まずこの「The Model」を普及していくプロセスにも当社ができる部分があると感じています。
普及にあたって障害になるのが情報の橋渡しで、Salesforceなどを使えば解決することも多いですが、全て解決しないケースもあります。コミュニケーションコストに着目されすぎてうまくいかないケースも多いので、しっかりメリットを伝えながら普及していきたいと考えています。

もう一つの「音声認識」業界では、現在のコロナ禍の影響もありプレイヤーがとても多くなっています。そこで勝ち抜くためには音声認識技術が一番の課題です。「The Model」型での情報の橋渡しの解決の為に音声や動画などのメディアを使うことは今後主流の考え方になっていくと考えられますが、メディアそのものはやはり視聴するには重い性質があり、音声認識による書き起こしが不可欠になっていくと考えられます。
amptalkでは商談特化ということで他社との差別化のために、AIも含めて音声認識技術は自社開発をしています。認識精度は現状では70%~80%程度となっており、その精度をあげるためには、単純に技術課題が存在しています。


モビルス株式会社 柏原

柏原
モビルスは「チャットボット」や「ボイスボット」等の提供を行っていますが、まず「チャットボット」は2016年~2017年ごろに一足先にブームが来たように感じています。現在は多くの企業様はチャットボットを既に活用している状態で、2022年現在では精度の改善や見直しというステージに入ってきています。そのため、多くの企業様には「チャットボットはこの部分では有効ではない」というイメージが浸透してきていて、そこにいかにもっと介入できるか、ということを目指す段階に来ています。もう一方の「ボイスボット」は、一昨年、昨年のコロナ禍になってから電話対応ができないという課題が企業様の中で浮上し、一気にニーズが増加しました。

現状、様々な企業様からご相談を頂いています。しかし、そのようなツール導入を行っても、抜本的に電話対応が減ってきてはいない、というのが現状だと感じています。というのも、コロナ禍で飲食業界や旅行業界等人材流出が起こった業界からコールセンターに人材が流入してきたことが一因です。
今時点では採用がしやすくなっているため、「無理にデジタル化しなくても運用できる」というのが現在のコールセンターの状況です。ただ、この先に改めて人手不足が課題となってくる可能性は十分にあり、そのときにデジタル化や今後のコールセンター運用をどうしていくかという話になっていくだろうと予測しています。

「使ったほうが良い」と体感してもらうこと。また顧客がやりたいことを達成するために俯瞰的に考えることが重要。

ー2社それぞれの「顧客のやりたいことの実現」のためには、どのようなことを実施するのが優先度が高いのでしょうか?

猪瀬氏
「The Model」のように営業がプロセス化されて効率よく働いて頂く、ということをミッションとしているため、細かい部分で言えば、Salesforce等への商談ログ付けを自動化するなど利用者の負荷を軽減し、「amptalkを使ったほうがいい」と体感してもらうことが重要となってきます。そこに加えて、課題でもあった音声認識の精度向上についても、私たちが取り組んでいかないといけない部分だと考えています。

柏原
私たちはカスタマーサポートの領域に特化して、企業様のサポートを行っています。そのため顧客となる企業様が課題にぶつかった際に「いかに効率的に解決していくか」というのが最初に立つポイントとなっています。
ですので、チャットボットや有人チャットは手段でしかなく、企業様が本当にやりたいことを達成するために、もう少し俯瞰的に考える必要があると感じています。その課題解決のためには電話がいいのか、あるいはチャットボット、ボイスで自動応答がいいのか、企業様ごとに最適なチャネル設計を行うなど、消費者からの問い合わせ導線の全体設計という視点で提案をするべきだと考えています。

そのようにして消費者の都合やタイミングに合わせて、エフォートレスな解決を目指していく。そして消費者がその企業様のサービスを利用していく、ということにつなげていきたいと考えています。

猪瀬氏
カスタマイズは企業様にとってどうしても必要なものなのでしょうか?

柏原
全てのサービスを自社で開発することはできません。また企業様も既に自社でサービスを導入していたり、別のメーカーのシステムを導入しているというケースがほぼ100%あるので、そこに私たちのサービスを連携するためにはカスタマイズが発生してきます。それに対応していくことは大変な労力はかかりますが、とても重要なことです。そうすることで運用にも入り込んでいけるので、結果的に長く製品をご利用頂けることに繋がると考えています。



後編では、
実際の導入事例や3年後/5年後のためにいま必要なこと、目指す「より良い社会」についてを中心とした内容をお届けします。ぜひご覧ください!