コストセンターとなりがちなコンタクトセンターをプロフィットセンター化するためのAI活用方法や、日本企業のCX向上に対する意識改革などについて、両社の意見を熱く語っていただきました。

CX(Customer Experience、顧客体験)をめぐる取り組みや支援サービスは日々進化しており、特に海外企業の成功事例が目立ちつつある昨今。さらには生成AIがより身近になったことで、CX施策にどう取り込んでいけるか、新たに試行錯誤すべき議題まで登場しています。

このたび、カスタマーエクスペリエンス・ソリューションのグローバルリーダーであるAvayaの日本法人、日本アバイア株式会社 代表取締役社長 内山 知之氏と、モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏による対談が実現。

日本は世界からもサービス品質の高さが評価されていますが、企業としてCX向上のテーマに取り組む上ではどのような意識や議論が必要で、運用するシステムにどう反映していくべきか、徹底的に話し合っていただきました。前編、後編の2回にわたってお届けします。前編はこちら

【前編】

【後編】

CXプラットフォームを選ぶ上で、まずは自社の意思や方針を明確にすることが大事

―企業が自社に最適なCXプラットフォームやコールセンターシステムをどう選ぶべきか、ポイントをお教えください。

内山氏:大前提として、当社はお客さまごとに目指すことや実現したいことが違っていて当然だと考えています。違うからこそそれぞれに解があるわけで、出来合いのものを持ってくればそれで解決するとは決して思っていません。ゴールに向けて、何をどういう形態で提供すべきか、オンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウドのどれが適切なのか、はたまた「ここの部分はモビルスさんと組み合わせよう。ここはA社のAIと組み合わせよう」――などの議論を徹底しておくことが、成功への一つのカギになるだろうと思います。

中には「パブリッククラウドを選んでおけばよい」と、安易に答えを求めてしまう企業もあるのですが、導入してみたら理想と違ったという声も珍しくありません。ベンダー側に丸投げするのではなく、自社が実現したいことを明確にして、ベンダーと一緒に考えていくことが大切です。

石井:システムを選定・導入する前に、まずは自社が何を実現したいのか、そこが大事なはずですが、丸投げする企業は意外と多いですよね。

内山氏:Avayaのグローバルでもよく「AvayaとB社(他のコンタクトセンターシステム会社)はどちらがいいのか?」と端的に聞かれることがあるのですが、その前に自社が業界でどんな差別化を図りたいのかを決めていないと、最適な回答は出せません。加えて、コストを下げることだけを目的にシステムを選んでしまうと、本質のゴールにたどり着けないどころか、サービスレベルの低下につながる懸念すらあります。

実現したいことに向けてシステムの選定・構築の議論をすることが当たり前に行われるべきなのに、そこが抜け落ちてしまって、基盤を選ぶことが目的化してしまい、良い結果を生んでいないパターンは少なくないように思います。

ただ、海外ではこのところ、ユーザー企業さま側である程度テクノロジーに明るく、自身で情報を見聞きしたり判断したりできる人材を意図的に採用する動きが見られています。また、国内のユーザー企業さまでも、自社内にCXやテクノロジーに長けた人がいなくとも、CX支援会社と共同でプロジェクトを立ち上げ、明確に方針を決めてCX向上に取り組んでいるところも現れているので、ベンダーに丸投げしない意識は高まりつつあると感じます。

石井:プラットフォームやシステムを選ぶ上でも、企業としてどうCXを組み立てるべきか、そこから考えなければいけませんから、豊富な知見を持つCX支援会社の手を借りながら、自社の意思を方針や施策に反映するのは良い手段になりそうです。

内山氏:プラットフォーム選びの歴史を遡ると、2000年~2010年代は音声のためのコールセンターシステムをどこにするかという程度で済んでいました。ですが、今やツールやチャネルが多様化し、さらにはAIなどの最新技術との組み合わせも問題になっているので、簡単に選んでどうにかなる話ではなくなっています。昔に比べて今は複雑さが格段に増しているからこそ、ユーザー企業さま側がしっかり意思を持って方針を考えていただく必要があるのだろうと思います。

―今、国内のCXソリューションベンダーやBPO各社でも、生成AIの活用を進める動きがありますが、Avayaさんでも生成AIを使った機能の開発・提供などは考えているのでしょうか?

内山氏:はい、今まさに取り組んでいるところです。方法としては、Avaya自身でAIを開発するというより、ユーザー企業さまはすでにMicrosoftやAmazon、GoogleなどでAI機能を利用していらっしゃるので、それらとつなげられるCXプラットフォームになろうとしています。もちろん、最初からGoogleなどのAIを組み込んだ形で提供してほしいという企業さまには、それも可能です。

Avayaだけを使ってもらうようにするのではなく、お客さまの方針で利用されているものとつながるようにすることで、冒頭に申し上げた「選択肢を提供する」を、AI活用の面でも重視しています。

石井:生成AI活用のトレンドは、これからどうなっていくと思われますか?

内山氏:今の日本の雰囲気を見ていると、どこか1社の生成AIを選ぼうとしている傾向にありますが、私は本当にそれがベストなのだろうかと思うんです。当然、コストはかかるので、あれもこれも手を出すべきとは言いませんが、それぞれのAIにだんだんと適材適所が見出されてくるのではないかと考えるからです。

例えば、「要約ならこのAI、FAQならこのAIが組み込みやすい、メッセージングと組み合わせるならこの会話型生成AIがいい」といった具合に、徐々に選び方も変わってきそうだと予想しています。

石井:私も同じ考えです。当社製品も生成AIの活用を進めていますが、一つの生成AIエンジンだけに固執していません。新しいバージョンが複数出てきますし、コストと性能のバランスでどこを選ぶと今最善なのか、それすらも大きく変わるため、当社も貴社と同様に、いろいろなAIとつながるシステム構成で開発を進めています。

内山氏:今は生成AIの過渡期にあるでしょうからね。過去のITの歴史でも、新しいテクノロジーの登場に伴って一斉にいろんな製品やサービスが出てきては、さまざまな成功と失敗を経ながら徐々に収縮されていきました。今の生成AIの状況も、一気に話題が大きくなった昨年頃から、現在はだんだんと「どれが自社に合うのだろう?」と現実的に考えながら、最適解を求めて各社とも静かに取り組む時期になっていると見ています。数年を要するかもしれませんが、各社の取り組みの積み重ねで「この分野ならこのAI」といった傾向が、ある程度出てきそうに思われます。

そう考えても、特定の生成AIだけを当社製品に組み込もうとは考えられず、お客さまに対しても「使ってみて違ったら、取り替えましょう」と提案できるようにしておくほうが堅実ですよね。石井さんのおっしゃる通り、一つに固執しないことが、私たちのようなプラットフォームに求められる大事なポイントなのだろうなと思います。

石井:ユーザー企業さま側も、一つのシステムだけに気を取られずに、「AでうまくいかなければBに替えてみよう」という風にフレキシブルな考えを持っていただくことが、今後前進していくためには必要そうですね。

内山氏:そう思います。Gartner社とAvayaが共同で出した海外レポートでも、フレキシブルに動くためには最初から一つのAIシステムに絞って大規模に始めるのではなく、小さなプロジェクトから始めて、良いものを取捨選択しながら広げていくことを推奨しています。そうして各社が試していくうちに、おそらくこの先は性能が良くてもコストも非常に高いものは市場に残りにくくなり、各社が導入しやすいような性能とコストのバランスが適したものに重心は移っていくことと思われます。

だからと言って、「それが出てくるまで待とう」とするのは違うのだろうなと。日本企業はまず誰かが成功した事例を聞きたがる傾向が比較的強いですが、自社のサービスに本当に合っているか否かは、自分の意思を持って自らで体験していただかないとわからないものです。最初は部門の予算内で小さく始めてみて、自社に合うものを選り抜きながら予算と範囲を拡大していくこと。今求められているのは、こうしたチャレンジの積み重ねだと思います。

生成AIの活用で、ユーザー企業のオペレーション向上に効果を見せるAvayaとモビルス

―コンタクトセンターシステムでの生成AI活用が試行錯誤されていますが、生成AIに任せたほうが効率の良い領域や、活用する上での課題などは見えてきているのでしょうか?

石井:POCを通して、生成AIの活用のし方が見えてきました。将来的に対エンドユーザーのAI対応の実施を目指して、当社とともに取り組んでいるユーザー企業さまもいますが、現時点では、アフターコールワークや後処理の自動化といった、オペレーター支援やバックエンドの業務支援が最も効果を出しやすい領域となっています。

ただ、生成AIをオペレーション支援に活用するためにも、まずナレッジの整備が不可欠です。整備されたナレッジを持っている企業はほぼなく、整備には膨大な労力が必要となるため、当面はナレッジを作り上げることが課題であり、事業の大半になると予測しています。Avayaさんはいかがですか?

内山氏:当社もモビルスさんと同じく、内部の生産性を向上させる領域で活用することが、今の生成AIの現実的な適用場所だろうと考えています。グローバルの状況を見ていても、生成AIはまだハルシネーションなどの課題が懸念される状況ではあるので、エンドユーザーに直接触れるところだと、もし間違った応対をしてしまえばブランドイメージを棄損しかねないといった心配があるようです。

その中で、Avayaではレポートの分析や、コールフロー/ワークフローの自動生成などに生成AIを活用するよう、プロダクトの開発を進めています。モビルスさんと同様、当社もまずはコンタクトセンター内の生産性やオペレーションの向上に寄与したい考えです。

石井:そうなんですね。対エンドユーザーでの生成AI活用は時期尚早でありつつも、当社でもオペレーション支援での効果は出始めていますし、費用も従来のAIに比べて初期コストが少なく始められるようになってきたので、ここから加速度的に活用の幅が広がってくだろうと期待しています。

ただ、AI活用にしても、日本企業はどうしてもコストダウンのほうに話が寄ってしまいがちだと感じています。当社の希望としては、それでコストが浮いたのなら、「次はサイレントカスタマーを救う施策を立てよう」などと、もっとプラスの方向に皆さんが意識を向けてくださればいいなと。引き続き熱心に働きかけていきたいと思っています。

内山氏:AIのコストがどの企業も着手しやすい程度になってきているのは良い傾向で、あとは企業が予算を確保するための理由付けとなるわかりやすい効果が提示できれば、またさらに広がっていくでしょうね。

当社がワークフローやレポートに生成AIを活用しようと試みているのも、実はこれらの業務が軽視できないほど相当な工数を要しているからです。ここの業務でAI活用のメリットを体感していただければ、「ほかにも拡大してみよう」と考えていただきやすくなるとだろうなと思うんですよね。ただし、技術が優れているだけでは予算を立てる最初の一歩の後押しができないと思うので、関心を向けてもらえるようなメッセージの出し方にも工夫しているところです。

石井:レポートなどでのAI活用はすごく良さそうですね。特にAvayaさんのプロダクトは、インタラクションの記録やパフォーマンス管理などが細部まで徹底していらっしゃいますから。

内山氏:ありがとうございます。これはすでに発表していることですが、直近では「Avaya Experience Platform (AXP)パブリッククラウド」のエンジンに、高度なAI機能が搭載されたMicrosoftのデータ分析・視覚化ソフトウェア「Power BI」を連携させる予定です。これにより、「AXPパブリッククラウド」で収集したデータの分析はもちろん、既存のオンプレミス側にあるCMSデータを取り込んで分析ツールとして利用することも可能になります。

今までもレポーティング機能をより使いやすくするために、情報の可視化・分析パッケージ「CC-One Portal」を提供していましたが、導入するにはある程度の費用が必要でした。データ分析や視覚化を実現するための機能が「AXPパブリッククラウド」には予め準備された状態になるということです。

Avayaはコンタクトセンターで必要となるルーティングとレポート機能の提供を根幹に、皆さまから長年支持をいただいてきましたから、パブリッククラウドの時代になってもそこは変わらずこだわりながら提供を続けていきたいと思っています。

石井:より分析がしやすく、機能も強化されるとなると、ユーザー企業さまが「AXPパブリッククラウド」を選ぶ大きな理由の一つになりそうですね。

内山氏:いろんな企業さまから評価いただけると嬉しいです。

なぜ「AXPパブリッククラウド」に「Power BI」を入れるのかと言うと、Avayaのシステムの中には細かなデータがたくさん取れているにも関わらず、やはりどうしてもメーカー固有の分析ツールであるため、独自の専門性がなければデータが十分に使いこなせません。ですが、データのKPIはメーカー固有の指標になってしまうわけです。そこで、一番わかりやすく合理的に分析する方法として、メーカー固有のデータ(=Avayaのデータ)を、汎用的なツール(=Power BI)を使って分析していただこうと考えました。

さらに次は、汎用的なツールを使った分析スキルすらも、Microsoftの生成AIサービス「Copilot」で補助し、データのグラフ化などもサポートしていく計画です。グラフやレポートをどのように見て、どう改善していくのかは人間の仕事となりますが、分析からレポート生成までの自動化・効率化を、「AXPパブリッククラウド」で全てつなげて実現しようとしています。

そしてゆくゆくは、オンプレミスからクラウドまで全てのデータを取りまとめて、分析やレポート生成などをAIで自動化していこう――と、そんな将来像を描いています。AvayaはCXとEX(Employee Experience、従業員体験)の両方を深く考えながらそこまで成し遂げようとしているので、ぜひ今後の動きにも注目していただきたいです。

顧客ニーズの本質を捉えたCXを実現できるよう、私たちが“選択肢”を揃えていく

内山氏:AIボットの使い方について、私からぜひ石井さんに伺いたかったことがあります。国内では、ユーザーからの問い合わせにまずAIボットが対応して、解決しなければ有人のオペレーターにつなぐ流れが多いと思います。しかし、海外では先に有人で用件や相談内容を確認して、後の手続きは自動ガイダンスに受け渡すという、逆の流れで運営している企業もあるんです。

まずは有人で対応し、ユーザーを納得させてから自動ガイダンスやAIボットにパスするほうがいいケースは多々ありそうに思いませんか?

石井:確かにそれは思いますね。日本では、最後は人が対応するパターンが多く、あまり見かけない方法ですが、ユーザー本人も何の手続きを取るべきかわかっていない場合がきっとあるはずなので、最初の仕分け段階で有人のオペレーターが的確に誘導してあげる流れは、かえって効率化が図れるケースもありそうです。

内山氏:今までの日本は、「人手不足だから」「有人の電話対応に極力行かせたくないから」といった理由で、「チャットボットやボイスボットにつなげよう」という発想から物事を考えてきたと思います。ですが、結局は人が大事であるなら、人の生産性を高めるための発想から考えるべきではないかと思うのです。

どんな手続きをすべきかわからないエンドユーザーの相談をAIボットが解決できなければ、結局は人が同じオペレーションをすることになってしまいます。けれども、AIは定型の仕事や応対が得意なわけですから、先に有人で仕分けて、定型通りにAIが処理するのも良さそうだなと。そういう方法も、思っている以上に皆さんが受け入れられるくらいの世界になっているのではないでしょうか。

「人を補助する生成AI」という考え方から発想すれば、現段階の生成AIにどの領域を任せられるのか、活用シーンをイメージしながら落とし込みやすいのではないかと思います。

石井:おっしゃる通りですね。当社のチャットツールのユーザー企業さまで生成AIを上手に活用している方々も、内山さんと同じ考えをお持ちで、人による対応をベースに置きつつ自動化を推進されています。今教えていただいた海外企業とは違う運用のし方ではありますが、当社のユーザー企業さまは、有人チャットにつながる手前の入り口となるウェブの導線上で、自動的にヒアリングを行い、自動回答による自己解決を促すことで、有人チャットも混乱なく対応し続けられています。

最初に有人で仕分けする方法も有効でしょうし、いずれにしても、イレギュラーなケースも含め、一つ一つのコールリーズンごとにどんな導線を設計すればコンタクトセンターの生産性、EX、そしてエンドユーザーのCXが向上するのか、しっかり考えていくべきだと思うんです。

内山氏: AIの活用にせよ、ボイス/ノンボイスの取り組みにせよ、結局はCX向上を実現するための議論に立ち戻るんですよね。

ボイス/ノンボイスにおいては、緊急性や重要度の高い困りごとがあるときは、やはり人と直接話したいものです。例えば航空会社での問い合わせで考えると、予約の確認やマイル残高を知りたいときと、悪天候で欠航しそうなときとでは、お客さまの置かれている状況は全然違うわけです。「音声につなげたくないから」といった企業側の都合が優先されると、顧客ニーズとマッチしない準備しかできなくなってしまいます。

生成AIにおいても、AIが完全に人に取って代わることはまだ現実的でないとユーザー企業さまも認識し始めている状況なので、AIの得意な領域を探してあげて、人とAIの適切なハイブリッドモデルで最良のEX、CXを作るよう努めることが、今はとても重要ですね。

―最後に、ユーザー企業さまやCX向上を目指す企業の皆さまに向けて、お二人からメッセージをお願いします。

石井:本日の対談は、「お客さまそれぞれのニーズにしっかり対応していこう」というメッセージが常にベースにありました。電話による応対のニーズが高いシーンでボイス/ノンボイス議論に執着するのも違うと思いますし、企業がオンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウドのどれを使おうとも、お客さまにとってはそれ自体がニーズの本質ではありません。

企業の皆さまには、最高のCXを実現するための選択を続けていっていただきたいですし、モビルスもそのための選択肢を揃えて、「できないこと」を減らすお手伝いに引き続き尽力していきたいと考えています。

また、Avayaさんともこれから一緒に良い事例を作っていければと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

内山氏:ぜひよろしくお願いいたします。

Avayaもグローバルの全社をあげて、ユーザー企業さまに最適な選択肢と、最良のカスタムを提供していく考えです。前述の通り、Avayaは「何か一つに固執せず、柔軟にいろんなものとつないでいきましょう」という思想ですので、モビルスさんのこれまでの実績と組み合わせれば、CX向上に役立つ新たなサービスが創出できるだろうと期待が膨らんでいます。

今後もユーザー企業さまのCX向上に貢献するようまい進し、さまざまな企業に影響を与えられるようなメッセージを発信し続けていきましょう。

海外と日本のDX、CX、生成AIのトレンドと将来像とは?CXソリューションのグローバルリーダー・Avayaとモビルスが対談【前編】へ戻る