【「金融機関のカスタマーセンターサポートにおける顧客満足度」の年代別および日米間の違い】をテーマに、各業界での様々な商品やサービスに関する顧客満足度調査を行っている株式会社J.D. パワー ジャパン 常務執行役員兼 Global Business Intelligence 部門長の梅澤 希一氏と、サポート業務のソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社 代表取締役社長の石井 智宏が対談を行いました。
株式会社J. D. パワー ジャパンでは、2022年に『J.D. パワー 2022年カスタマーセンターサポート満足度調査SM<金融業界編>』を実施しました。この調査は2021年の同調査に続く、2年目の調査となります。
1年目(2021年実施)と2年目(2022年実施)の調査結果から見えてきた、金融機関のカスタマーサポートの年代別傾向や、日米でのカスタマーサポートの位置づけの違い、またChatGPTなどのイノベーションを経て、日本のカスタマーサポートの未来像など、多岐にわたる内容について対談した様子を、前編・後編に分けてお届けします。
前編では、J.D. パワーが調査を行う背景、全体の満足度に影響が大きい項目、サポート業界の人手不足から見えてくることなどについて、お話しています。
後編はこちらからご覧ください
『J.D. パワー 2022年カスタマーセンターサポート満足度調査SM<金融業界編>』の調査結果から見る、日本のカスタマーサポートの未来像とそれに必要なこと
はじめに、事業概要および「J.D. パワー 2022年カスタマーセンターサポート満足度調査SM<金融業界編>」を実施した背景について教えてください。
梅澤氏:
J.D. パワーは、顧客満足度に特化した調査・コンサルティング会社です。アメリカで1968年に創業して以来、50年以上に渡って世界各地で顧客満足度に関する調査を実施してきました。金融業界、自動車業界、通信業界をはじめ、様々な業界で顧客満足度調査を実施し、業界全体の顧客満足度を向上させる活動をサポートさせて頂いております。
今回金融業界についてのカスタマーセンターサポート顧客満足度調査を行った背景には、2020年の新型コロナウィルス感染拡大により対面による接触機会が減ったため、「問い合わせの際にコンタクトセンターを利用する割合が増えてきた」ということが大きな要因としてあります。
実は過去にも、当社ではコールセンターの満足度調査を実施したことがあります。ただ、その調査をそのままの形で復活するのではなく、チャットボットや有人チャットというようなチャネルも含めた「コンタクトセンター」という形で新たに調査を立ち上げました。
その理由は、デジタル化の進展に伴ってチャットボットや有人チャットのプレゼンスが大きくなってきている中で、有人のコールだけではなく包括的にコンタクトセンターの満足度を見たいという事業者様のニーズがあったためです。また、一般消費者から「実際どの会社のサポートがいいの?」ということを 知りたいというニーズが予想されました。そのため、「チャットボット等を含めたカスタマーセンターサポート」の満足度調査という形で開始することに致しました。
金融業界におけるコンタクトセンターの重要性は、どのようにお考えでしょうか?
梅澤氏:
現在、金融業界では対面ツールをもたないネット業界の方が、成長性が高くなっています。具体的に言えば、ネット銀行やネット証券、もしくはダイレクト系の生損保のプレゼンスが益々大きくなっています。このような業界では、対面のチャネルが基本的に存在せず、「消費者との唯一の接点」となることの多いコンタクトセンターの役割が非常に大きいと考えています。また、店舗など従来型チャネルが顧客接点の中心である企業やブランドにおいても、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、従来の対面チャネルの維持が難しくなったため、コンタクトセンターの重要性が非常に高まったと考えています。
このような背景に加え、中長期的なデジタル化の流れによる非対面チャネルを合わせた「オムニチャネル化」も金融業界におけるコンタクトセンターの重要性が高まっている背景としてあるのではないかと、我々は考えています。
この調査では生損保、銀行、証券、クレジットカード会社といった金融業界の8業態の顧客満足度について共通の内容で調査を行っています。この調査の結果を見ると、生損保のコンタクトセンターの顧客満足度レベルが、他と比べ相対的に高いということが見て取れます。
こうした背景にはコンタクトセンターが保険金請求という中核的な業務において非常に重要な役割を果たしているということがあるのではないかと考えております。
石井:
ネット銀行の方のお話では、金融商品はなかなか差別化が難しいため、究極の差別化ポイントが顧客満足度というようにとらえられており、J.D. パワー 様の調査結果を非常に重要視していると伺いました。
梅澤氏:
ありがとうございます。そういう意味では、金融業界のビジネスは「料理」を提供する「レストラン」と似ていると考えています。というのも、昔は一部外資系金融機関の外貨預金のように、「この銀行やこの証券会社に行かないと買えない商品やサービス」がありましたが、規制が緩和されてきた結果、地方銀行や信用金庫などでも外貨預金など取引可能な金融商品が増えてきました。そうなると今度は「そのような素材(商品)を使ってどういう料理(ソリューション)を出せるか?」という、まさに料理人の腕が勝負になってくるので、どれだけお客さまのニーズに合った提案や対応ができるかが重要になり、顧客接点としてのコンタクトセンターの役割が大きくなっていると思います。
日本のコンタクトセンターでは人手不足が大変深刻化していますが、アメリカのコンタクトセンターにおける新型コロナウィルス感染症拡大のビフォーアフター変化について教えてください。
梅澤氏:
J.D. パワー は本社がアメリカですので、アメリカでも調査を行っています。
そういう意味では、日米の比較ができることは我々の大きい強みのひとつだと思っています。
アメリカにおけるコロナ前とコロナ後のトレンド変化として、大きく3点挙げられると思います。
まず1点目は在宅勤務の定着化、2点目が人手不足、3点目が難易度の上昇です。
まず1点目の在宅勤務の定着化についてです。コロナ以前、米国では日本と同様、ほとんどのコールセンターのオペレータはセンター勤務というのが当たり前でしたが、現在はほとんどのオペレータが、フルタイムでの在宅か、もしくはセンター勤務と在宅勤務のハイブリッドという形で、ワークスタイルが大きく変わっているということがあります。
今後、アメリカではハイブリッド比率が上がってくことがトレンドとしてはあるのではないかと考えています。
続いて2点目の人手不足です。離職率の高さが全体的なオペレーションにも影響を及ぼしています。特にオペレータが職に就いて最初の90日間の離職率が高いのですが、この期間は仕事自体に慣れるための必要最低限の期間なので、こういったタイミングで比較的知識が浅く、高いパフォーマンスを発揮できない新しいオペレータが電話対応や有人対応をしなければならないという点が、課題として挙げられると思います。
最後に、3点目の難易度の上昇です。これに関しては、様々なオンラインツールが企業に採用されてきたことによって、コロナ以前に比べて、最終的にコールセンターに電話をする人が抱える問題の難易度が高くなっていることが挙げられます。
これら3点がコロナ以前と比べて相対的に大きい変化です。このような状況で、オペレータを維持して、難しい問い合わせを解決するのに役立つオペレータ支援ツールにどうやって投資をし、それをサポートしていくかということが重要になってきています。オペレータがより良い情報にアクセスできて、きちんとしたサポートをお客さまに提供できている企業は顧客満足度が高いという傾向にあります。これまで以上に「どのように上手く投資をしていくのか」、「どのように上手くサポートシステムを揃えていくのか」が、今後の大きい差に繋がっていくのではないかと考えています。
モビルス様でも、そのためのサポートや工夫を行っているのではないでしょうか?
石井:
そうですね。我々はお客さまの「自己解決を促す」ツール、いわゆるチャットボットもやっています。我々のポリシーは、どちらかと言うとオペレータやスーパーバイザーなどオペレーション側の人たちへの支援機能を充実させるということです。ですので、たとえばオリジナルのアルゴリズムとして、個人情報が入ってきたときに事前検知して、そこでブロックをかけて流さないようにする支援機能もあります。
また、お客さまとオペレータとのやりとりで、会話がどんどんネガティブスパイラルに入っていくのをAIが早めに感知しフラグを上げることによって、スーパーバイザーがモニタリングを開始し、場合によってはオペレータから対応を引き取るなどの支援機能もあります。オペレータの負荷を下げるための支援機能は様々な種類を実装しています。
梅澤氏:
なるほど。おっしゃるように、そのような機能はチャットの特性を活かすことができますね。
石井:
我々も、「対応の難易度が上がっている」ということをよく耳にします。金融以外の業界の会社の例ですが、LINEにチャットボットを導入して、コール数が半減した例があります。一方入ってくるコールは対応難易度が高いものが多く、AHT※が倍増したらしいのです。オペレータにはそのようなコールを処理できるスキルセットが必要なので、オペレータの高齢化に直結しているようです。
※Average Handing Timeの略。コンタクトセンターの1応対にかかる平均処理時間のこと
梅澤氏:
確かに、定型業務をチャットで受けるがゆえに、コールは難易度が高まっていきますね。そのようなコールで受けているものをいかに定型化し、チャット対応エリアをどう増やすかという点も、大きいポイントですね。
石井:
そうですね。難易度が高いコールリーズンには有人対応が必要ですが、それをボイスで受けるのかノンボイスで受けるのかというところも重要になります。やはりノンボイスの方が対応効率は高いですし、支援機能も付けやすいというメリットもあり、そのような意味ではこの検討が課題かと思います。
梅澤氏:
最近だと、お客さまにコールについて、事前に「どういうスタイルの話し方がいいですか?」と聞いて、性格をマッチングする機能もありますよね。
「とにかく早く答えてほしい」、「ちゃんと話を聞いてほしい」といったように、お客さまのニーズや性格に応じて、オペレータ対応を変えるという取り組みです。これはチャットでも同じようにできるのでしょうか?
石井:
チャットの場合は全体傾向として「短文でスピーディーに」ということがあります。一方で、例えば言葉で伝えにくい、伝わりにくい人の場合は、先に写真や動画を見て頂いた後にチャットに入ってきてもらうなど、人に応じた対応策もあります。そうすることにより、質問事項も明確になります。
例えばパソコン設定等の場合、「この画面のここのボタンを押してください」ということでは高年層には伝わりづらいので、押すべきボタンが映っている画像を送る、という対応もあります。
「3分」の分かれ道
調査結果について、どのような項目が全体的な満足度に影響していますか?
梅澤氏:
当社では顧客満足度スコアを算出する際に、「どういった評価項目がどのくらい顧客満足度に影響を与えているか」という影響度を、調査の回答結果を踏まえて算出しています。
カスタマーセンターサポート調査では、4つの評価項目にて満足度を聴取しました。1つ目は「利用のしやすさ」、2つ目は「用件に対し提供された情報や回答内容の適切さ」、そして3つ目は「説明の丁寧さ/応対の丁寧さ」、そして4つ目が「問題の解決や対応に要した時間」です。
最も評価の影響度が高かったのは「利用のしやすさ」(28%)でした。「利用のしやすさ」とは、例えば「問い合わせ先の見つけやすさ」、「利用できる時間帯」、「待ち時間」、「使いやすさ」といったことを指します。
その他の評価項目の影響度は、「用件に対し提供された情報や回答内容の適切さ」が25%、「説明の丁寧さ/応対の丁寧さ」が24%、「問題の解決や対応に要した時間」が22%となっており、当社が実施している他業種の満足度調査と比較すると、各評価項目がほぼ均等に影響度を持っていることが特徴です。
石井:
「コールセンターに連絡をして出てもらえるまでの時間」は、この「利用のしやすさ」に含まれるのでしょうか?
梅澤氏:
はい、「利用のしやすさ」に含まれます。2022年の調査結果に関するプレスリリース※に記載しましたが、待ち時間が3分を超えると満足度が大きく低下するということがありますので3分以内に取れるかというところは、一つ大きいポイントかと思います。
ただ一方、先程ありました人手不足の課題があるなかで3分にこだわると「チャットでどれだけ取れるか」となります。例えば有人チャットで取るにしても、一人が一つのチャットを取っていたのでは効率が悪く、一人が複数のチャットを取れることを可能とするシステムによるサポートは、おそらく事業者様からのニーズが高いのではないかと考えています。
※2022年10月12日 株式会社J.D. パワー ジャパン ジャパン プレスリリース「J.D. パワー 2022年カスタマーセンターサポート満足度調査℠<金融業界編>」https://japan.jdpower.com/ja/press-releases/2022_Japan_Customer_Center_Support_Satisfaction_Study_Financial_Industry
石井:
モビルスをご利用頂いている企業様では、チャットの平均同時対応数は約3.4です。お客さまが回答するのを待つ時間があるので、チャットは電話に比べてAHTが倍ぐらいになります。
CPC※に関しては基本的に、平均対応数が2以上となれば1対応効率は下がっていくと思います。しかし支援機能無しで有人対応を行った場合、電話とチャットのCPCは同値となります。
チャットの場合は、プリヒアリングをボットが聞き取った上でオペレータにエスカレーションするハイブリッドな運用ができるので、この有人対応部分が減っていき、最終的に電話よりも対応効率がいい、となります。これはボットと有人のハイブリッドで、一連で行わないと逆効果になります。
※Cost Per Call(コスト パー コール) の略。電話応対1通話にかかるコストのこと。(全体コスト÷通話数=CPC)
梅澤氏:
どうしても日本人の経営者は「チャットボットはまだ完璧じゃないからだめだ」と考えているところもあるように思います。逆に言うとハイブリッドで、チャットボットと有人を上手く絡めることによってその効率性を高めるなど、全体の満足度を上げていくような戦略は非常に大事になってくるのではないかと思いますね。
石井:
そうですよね。特にアメリカはそのような組み合わせの使い方が多いです。
「これが便利なんだ」の誘発
各年代それぞれで、「コールセンター」、「オペレータによるチャットサポート(有人チャット)」、「自動応答によるチャットサポート(AIチャットボット)」、「メール問い合わせ/問い合わせフォーム」、「FAQ(よくある質問)ページ)」などのツールの利用率構成比の違いはあるのでしょうか。
またそれらの米国と日本の傾向の差についても教えてください。
梅澤氏:
まず日本での調査結果を見ると、年代別には、やはり若年層(20代・30代)はオンライン系チャネルの利用率が高いです。若年層の約6割がオンライン系チャネルを利用しています。一方で高年層(60代・70代)はコールセンターの利用率の方が高く、6割半ばがコールセンターを利用しており、明らかに年代によって傾向が出ています。
一方でアメリカのコールセンター利用率は、商品・サービスによって異なります。チャットの利用率は若年層の方が高いというのは、アメリカも同じです。そのため、「どのように高年層の人にチャットに慣れてもらうか」が、非常に大事になってくると思います。
そういう意味では先程お話にありましたように、高年層の方は例えば1回チャットボットをやって上手くいかなかったら「チャットは嫌だ、すぐ電話しよう」となりがちなところを、「ちゃんとチャットでも上手く対応してもらえる」、「電話で待つよりもいい」と思ってもらえる体験をどうつくるかが、今後のポイントだと考えます。
石井:
ちょうど先週、「シニア対応をどう考えるか」というメディア取材を受けました。
シニア対応については顧客企業様にもヒアリングをしたのですが、確かに高年層の60代・70代の方はどちらかと言うと電話に振れる傾向がありますが、ただそれは「シチュエーションとコールリーズンによる」ということが分かりました。「高年層の方は電話のボイスボットも苦手」、「自動化だと切ってしまう」ということはよく言われます。しかしコールの85%を減らした企業の例では、有人対応をしている残りの15%のほとんどが高年層かというと、全くそんなことはないそうです。きちんと設定して使えるチャネルにしてあれば、高年層の方でも使う時は使うということだと思います。
梅澤氏:
そういう意味では、高年層の方には「やってみたら便利じゃないか」というような成功体験をどう上手く積んでもらえるかが重要だと思います。その辺りの取り組みは、どのようなことを行っていらっしゃいますか?
石井:
我々のシステムもそうですし、顧客企業様も高年層というよりは年齢などを問わない「ユニバーサル」の観点になります。
チャットの例としては、高年層の方に限らず「フリックで打てない、文字打つのがいや」という特性があるので、できるだけ打ち込みをさせずに「選択タップ式を使用」、「図で見せる」、「選択肢も字ではなく図で載せる」などという工夫は顧客企業様の各社が行っています。
とはいえ、高年層の方が客層に多い通販系会社の場合は「ボイスボットもゆっくり喋らせる」、「最初の間合いを長くする」などの取り組みで離脱率を下げるなど、PDCAを回しながら運用しているようです。
梅澤氏:
なるほど。確かに高年層の方は音声入力と親和性が高いはずだけれども、実は「まだやったことがないからやらない」という人は結構多いのでは、と思います。そのハードルをひとつ下げてあげることもポイントかと思います。
高年層の方が音声入力でチャットをしたら、「今電話でやっていることと同じじゃない?」ということが分かり、しかも早く反応してくれるとなると、メリットを感じてくれることもあるかもしれないと思います。
そこはまさに、顧客満足度と生産性をどう両立させるかという大変重要なことです。どのように生産性を上げていくかについては、導入する企業側やそのようなサポート支援ツールを作る側も、生産性を上げると同時に顧客満足度を維持できれば、全体的にハッピーになっていくと思います。
石井:
確かにそうです。そのような意味ではLINEというチャネルは、ほとんどの高年層の方は家族とのコミュニケーションに使っていますが、Webブラウザ上のチャットを使うことは難しいです。LINEで音声入力もできるのにやらないのですよね。「これが便利だ」という体験をさせなければいけないですね。
梅澤氏:
やはりゼロイチがあるかないかが違っていて、どのように成功体験とインセンティブを提供できるかというのはすごく大事かと思います。
人手不足での対応力の差
今回の調査では昨年に比べ、コールセンターとオペレータのチャットサポートの満足度が、大きく下がりました。
これについて、待ち時間が影響していると思われていますが、年代別のコールセンターとチャットサポートの満足度が大きく下がった年代に関して、教えてください。また、下がった年代の中で大きく上がったもの、下がったもの、全体満足度の推移が下がっている要因についてもお伺いさせてください。
梅澤氏:
2022年は、2021年の調査からコールセンターとオペレータによるチャットサポートの満足度が大きく低下した結果となりました。
この要因には「繋がるまでの待ち時間」が大きく影響しています。「コールセンター」の満足度は年代別での下がり幅に大きな違いはなく、各年代それぞれ一様に下がっています。
一方で「オペレータによるチャットサポート」は、年代が高くなるほど2021年の調査から2022年の下がり幅が大きくなっています。特に60代・70代の高年層に評価が低い点は「利用のしやすさ」と「問題の解決や対応に要した時間」です。具体的にはオペレータに繋がるまでの待ち時間などを含みますが、このような点は評価が低くなっています。
満足度低下の主な要因の一つは、やはり「待ち時間の増加」です。コールセンター利用を基本としてきた高年層は、電話と同じで早く対応してもらえるのではないかと考え、要求や期待値が高いと推測できます。加えてチャットは比較的待ち時間がなく利用できるといっているのに、「あれ?実際には待ち時間がある」というように、期待値との差で満足度に大きい影響が出てきてしまっている部分もあると思います。
そのような意味では、若年層は以前に利用経験もあるので「チャットはこういうものなんだ」という耐性があるという点が、年代間の違いにあるのではないかと思います。モビルス様では、こういったお客さまの満足度の差について、何か対応して考えられているところはありますか?
石井:
初期対応時間までの時間が長くなってしまうことは、如実に表れていると顧客企業様からも聞いています。そのため、有人チャットに対する人数配分を変えていくという策を取りはじめている会社が増えています。どちらかというとチャット対応はまだ電話の脇役として行っている会社が多いので、ここの拡充を図るということです。
また、例えば無応答で時間だけ過ぎていくとお客さまも不満足となるので、初期ヒアリングだけ始めるという方法や、ボイスボットの場合に滞留呼がPBXに入った後にずっと待ち呼状態となり、放棄呼となってしまうことを回避するために、一度退避させるという仕組みもあります。一次対応を行い、後で折り返しのご連絡をするという仕組みです。
具体的には、問い合わせ内容を伺い、コールリーズンに対してチャットセンターがSMSを飛ばして回答するなどして、一度回答する方法です。それで解決すればそこで対応完了ですが、解決しない場合はそのままチャットに遷移してもらうか、元々お電話で頂いているので折り返し対応をかけていくということも出来ます。
昨年から今までにない深刻な人手不足の状況なので、BPO企業もかなりシビアに取り組んでいらっしゃいます。
梅澤氏:
深刻な人手不足に対応するために、これまでマーケットに入ってくることが出来なかった人をオペレータとして雇い入れるようにすることも必要かもしれません。例えば在宅でのチャットなどを行うことで、採用対象に広がりは出てきているのでしょうか?
石井:
残念ながらまだ日本では、在宅対応は広がっていません。一時期新型コロナウィルス感染症が始まったころの2020年は各企業も対策を行い、50%が在宅対応となりましたが、実態は正社員だけでした。席数ベースでいくと、ピーク時でも日本の在宅比率は20%もないと思います。
それがおそらく現在は揺り戻しとなり、10%を切っていると考えています。海外の場合はおそらく在宅比率は30%、40%で定着したと思いますが、日本は全然できていません。
これは個人情報の問題、情報セキュリティリスク、あと対応品質など様々な理由があります。しかし、この人手不足を考えると、やらざるを得ないと舵を切る企業が出てくるのではないかと期待しています。
梅澤氏:
コールはなかなか在宅ではやりにくいところがあると思いますが、相対的にはまだ有人チャットはやりやすいところもあるのかと思います。その辺りはいかがですか?
石井:
そうですね。日本の住居環境上の理由や家族に「謝っている姿」を見せたくないなどの理由で、コールを在宅で行うことはなかなか難しいところもあります。
オペレータも家でコール業務をやりたがらないというのもありますが、チャットであれば環境を選ばず、通信回線も少なくて良いという利点もあるので、非常にフィットしていると思います。
例えば本人認証などは自動で行い、オペレータには契約情報は見せるが個人情報は見せないというようなオペレーションが組めれば、一番のボトルネックになっている情報セキュリティリスクが回避されると考えており、我々でシステム的な対応を検討しています。
梅澤氏:
おっしゃるように、日本では個人情報保護の取り扱いに関して非常に厳しいので、特にどうしても金融関係ではハードルが高いというのはありますね。
石井:
そうなのです。そのため当社でも金融向けの個人情報を取り扱う時は、PCI DSS認証レベルの環境下に迂回させて暗号化して行う、という機能をリリースさせて頂いています。このような取り組みを行い、ようやくチャットに一歩踏み出し始めたというのが金融の現状だと思います。
要因から考える「チャンス」
待ち時間が増加した背景について、これまでお話頂いたこと以外にも何かあれば教えてください。
梅澤氏:
J.D. パワー でもオペレータの人手不足や離職率上昇がコンタクトセンター業界全体でも課題となっているということは認識しています。これを起点として、待ち時間の増加といった様々な問題が起きていると理解しています。そういう意味では、今までできなかった人をどのように戦力化していくかというために、チャット、有人チャットを一つの取っ掛かりとして在宅を活用することだと思いますが、それをどう出していけるのかが大きなポイントなのではないかと考えています。
石井:
最初の方の質問にも関連しますが、有人対応のコールリーズン難易度がますます上がっていきます。おそらくこの傾向はずっと続くでしょうし、良くなるとも思えないですよね。
例えば昔、地方銀行などの金融機関にいたOGの方などで、現在は家庭に入られていて、職場に行くのはむずかしいが、在宅で業務ができ、また証券外務2種の資格を保有されているなど、このような特殊技能を持った方のプールを作ることが出来れば、大変付加価値が高いのではないかと考えています。現在オペレータの時給は高い場合でも1,500円前後ですが、このような方に一対応2,500円お支払いしたとしても、ペイが可能なコールリーズンに対応出来るかもしれないと思うと、大変ポテンシャルのある領域ではないかと考えています。
梅澤氏:
そうですね。今まで戦力化できなかった方をどう取り込んでいくかは、おっしゃる通り重要だと思います。 そこがおそらく今の日本の大きい課題ですね。銀行や証券会社で働いていて金融知識があるのに今は働いていない、もしくは、扶養者控除の上限など社会保険料の関係で、103万円の壁などで止めている方が働ける環境をどのように作っていけるかが、政府の政策対応も含めて重要なポイントであると言えます。そうした環境整備が進めば、在宅で業務を行いたいというニーズも出てくるのではないでしょうか。
後編はこちらからご覧ください
『J.D. パワー 2022年カスタマーセンターサポート満足度調査SM<金融業界編>』の調査結果から見る、日本のカスタマーサポートの未来像とそれに必要なこと