「2024年のコンタクトセンターにおけるCXの在り方とは?」をテーマに、コンタクトセンターをはじめとしたさまざまな顧客接点で培ったノウハウと、最新技術を活用したデジタルソリューションで顧客体験(CX)をデザインする 株式会社NTTマーケティングアクトProCX CXソリューション部 西日本事業部長 新谷 宜彦 氏と、顧客サポート業務のソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏が対談を行いました。

GPTをはじめとした生成AIがコンタクトセンターに与える影響やこれからのコンタクトセンターの在り方、コンタクトセンターが直面する課題や解決策、今後の展望などについて対談した模様を前編・後編に分けてお届けします。

前編では、2022年~2023年のコンタクトセンター業界動向、ノンボイスシフトや生成AI導入のために必要な視点などについてお話しました。

後編では、チャットボットの現在地から生成AIを使う業務領域、そのために必要な取り組みなど多岐にわたる内容についてお伝えします。

チャットボットの現在地とこれから

従来のチャットボットはどうなっていくでしょうか?

新谷氏:

当社ではボイスボットの方は、自治体様に具体的な提案をしていますが、どこかで良い事例ができれば、水平展開できると考えています。先程から話題の生成AIも、市民権を得る日は恐らくそれほど遠くないと思っているので、まだ連携の幅は広がるだろうと感じます。

ただし、チャットボットに関しては各企業様・自治体様で大体の検討はすでに終わっているのではないかと予想しています。モビルスさんからすると今のチャットボット市場で、これからまた動きが出てくるのか、一旦は飽和した形になるのか、どのような見方をされていらっしゃいますか?

石井:

「従来のAI型チャットボット」について、当社は様子を見ている状態です。なぜかと言うと、絶対に生成系AIを活用したものに置き換わると予想しているからです。その中でシナリオ型チャットボットは今後も残ると思います。生成系のチャットボットが進化するとしても、CRM等との連携による自動手続きなどシナリオ型チャットボットが得意とする領域においてニーズは残ると考えます。

逆に今まであった従来のAIチャットボット、QとAがあるといった形のものは、恐らく管理場面から全て置き換わっていくと思います。チャットボット市場に関しては、特に大企業ではある程度飽和した印象があります。実際にチャットボットが現場で使いこなせているかどうかは別として、一度は導入を済ませたという形になっています。そのため、これから新たに全面的にチャットボットを導入して、FAQから作っていこうという企業はゼロではないと思いますが、以前よりも相当数は減っていくのではないでしょうか。チャットボットのベンダー企業様と話していても、そのような傾向を感じます。実際にまだ動いているのは、高価なチャットボットです。価格帯が色々とある中で、高価なチャットボットはFAQなどと共に置き換わっているという傾向は感じています。

新谷氏:

しかし、結局は各社でのチャットボットの使い方次第となりますよね。

石井:

はい、おっしゃる通りだと思います。チャットボットを有効に使いこなせていて、コントロールできている企業は、導入している企業の半数にも満たないのではないかと思います。

新谷氏:

理由は各社様で色々とありますが、私もそう思います。

石井:

今のチャットボットでも、きちんと使えば非常にパワフルな効果を出すことはできます。ただ、更にパワフルな生成系のチャットボットが数年以内には出てくると予想しているので、その段階を待っているところです。当社としては、どこまでそこに踏み込んで製品を作り込んでいくのかを現在検討しているところです。

コンタクトセンターで生成AIを使うとき、どの領域に使う?

新谷氏:

実は、この対談を始める前に「生成AIに投げかけるプロンプト(=システムの操作時に入力や処理などを促す文字列、命令文のこと)を作る時に、コンタクトセンターの業務運営の方法やナレッジを整理しなければならない」という話をしていましたよね。

当社はどちらかと言うと、「コンタクトセンターで使う生成AIにはどういう使い方があるのか」というところに特化しようと検討しており、それには三つの領域がありうると考えています

一つ目は、アフターコールワークなどの作業領域を可能な限り自動化して生産性を上げるという使い方です。二つ目は、内外のチャネルとしての使い方です。FAQとして、外部チャットボットとして、外部FAQとして、ということです。

そして三つ目が、我々としては面白いと思っていることで、マネジメント部分への活用です。コールセンター、コンタクトセンターには、平均通話時間やオペレータごとのAHTやCPHなど、様々なデータがあります。それらを組み合わせると、大体の生産性が分かります。優秀なジョブマネージャーになると、それらを眺めていれば「生産性を上げるためにはどうすれば良いのか」ということまで分かるのです。研修という形で対応するのか、AHTを抜本的に短縮する仕組みを作るのか、特定した人のスキルアップを考えるのか、様々なことを考えて実行して、全体の生産性を上げていきます。ただ、それは誰かに教わることではなく、ジョブマネージャー自身がそれまでに培ってきた経験に基づいて、データを見て判断しているのですよね。私としては、一定量のデータを収集して、次にやるべきことはこれだと指示するような、マネジメントの部分に活用していきたいと考えています

石井:

つまり、「優秀なジョブマネージャー」という職人の頭の中にあったものをデータとして引き出すということですね。その方法は、人によって全く違うのですか?

新谷氏:

はい、そのためにはいくつかの手法を用います。ただ、あの人たちの場合は逆なのです。「優秀なジョブマネージャー」は頭の中にあったものをデータとして引き出す、のではなく、肌で感じたことをデータで見直して裏付けを取っています。
この辺りだろう、と見当を付けた上でデータを確認し、予想通りだったと言うわけです。

石井:

なるほど。データから読み取るわけではなく「仮説思考」を行っているということですね。

新谷氏:

はい、そうです。例えば手挙げが多い人がこのグループに固まっていると考えて、データを確認すると数字でもそのように出ていて、そこからどういうアクションをするかという流れです。つまり、データで裏付けを取ることができるのであれば、データをしっかりと分析すれば何をすれば良いのか分かるということだと思います。その方向に進めたいと思っているのです。

このことには色々なハードルがあると考えています。
運営の方法も、精緻にルール化していかなければならない部分があります。当社は業務運営などのフローが分かっているからこそ、そういう使い方を思い付くところはあると考えています。

石井:

それは面白いと思いますね。KPIのデータは別にあるわけで、取るアクション、例えばトレーニングなど打ち手のアクションをカテゴリー化してそれらと紐付けていくと、なんらかの相関値は出るかもしれませんね。

新谷氏:

KPI(キーパフォーマンスインジゲーター)と言う割に、意外とそのKPI自体がゴール(KGI)になってしまっているところがあります。KPI自体はゴールではなく、その手前の段階で何の対策を講じることでKPIがどう変化するかがを特定することが重要です。ジョブの特性によって見るべきところの重み付けは変えた方が良いと思いますが、やること自体はそこまで変わりません。この辺りについて、例えば本社が一括管理するといったマネジメント形態を取っているところは、本社がデータを眺めて、異常があるかもしれないジョブをピックアップして、特化的に対策を講じることもできると思います。

それだけを全てカバーするというよりも、全体を把握した上で異常があるかもしれないものを検知して、その部分の詳細を見るためにKPIを利用することは、十分にあり得ると思うのです。

石井:

その意味では、監査法人や公認会計士の領域で進められているAIによるコンプライアンスチェックも参考になりますね。会計の世界にはファイナンシャルデータが膨大にあり、そこから何らかのコンプライアンス上の問題を検知する際にAIとの親和性が高いと言われています。コンタクトセンターの豊富なオペレーションデータから何らかのアクションを導き出すことと、近い話だと思います。

新谷氏:

はい、その通りだと思います。どちらかと言うと、この事はバックオフィス業務を効率化する話と似ているのではないでしょうか。

データからアクションの先読み。そのために必要なこと

両社が考える今後の事業展望をお教えください

石井:

今後共同で象徴的な成功事例を作らせて頂きたいと考えています。その時に目指すのは、「効率化とは違う付加価値を提供できるようにすること」です。

これだけAIが発達していて、CXにも「プロアクティブCX」や「プリディクティブCX」などの新しい波が来ているので、そのタッチポイントを整理して入ってきたデータを用いて、先読みしたアクションをするというレベルまでやり切りたいと考えています。受け身のCXは当然しっかりと行いますが、そうしたタッチポイントまで触りにいく成功事例を、まずは作りたいと考えています

新谷氏:

確かに、そのようなことに取り組んでいくのが良いかもしれません。よく言われている通り、コンタクトセンターだけでできることは実はそこまで多くありません。ただ、コンタクトセンターには他のタッチポイントを動かせるだけの情報が集まります。縦割りの企業組織だと、こういうことはあまり上手くいかないと思いますが。

石井:

コンタクトセンター管轄の本部長などからエスカレーションしてもらい、トップマネジメントとして、タッチポイント整理から入っていくといったところに取り組んでみたいと思いました。

新谷氏:

CXという言葉を使いつつ、「自動化領域が増えればそれで良い」と、そこにこだわる人もいらっしゃるのですが、実際は少し違いますよね。

石井:

おっしゃる通りです。人がやるべき部分は、プロアクティブな業務など、まだ多く残っていると思います。壮大な話になりそうですが、恐らく最初はアセスメントのところからスタートして、当社にはナレッジの機能もないので、そこは御社にお力を貸していただいた上で整理をして、確認できたタッチポイントから始めていくという流れになると考えています。

ただ、そこでありがちなのは、タッチポイントごとにCRMが別々であったり、データがまとまっていなかったりということですよね。そのため、データインフラからまず作っていくということが大切だと考えています。この部分を掌握できれば、その後は基本的に様々なことが可能になると思うのです。

新谷氏:

そのような話は、やはりコンサルティングファームが強いです。基本的にトップオーダーでコンサルティングファームとして動いて、顧客接点レイヤーに至っては我々で受けるといった連携が可能だと思います。コンサルティングファームは「各顧客接点レイヤーの連携はこうして、データはこういう形で共通化しよう」というような方向性は提示するのですが、実際の実践となる「出口」の話は伴っていません。コンサルティングファームとしっかりと連携する時には、顧客接点全般に対する話の「出口」のところに我々が積極的に入るという方法は良いかもしれません。

いずれにしても、上位レイヤーの人に率先して動いてもらう必要があります。例えばマーケティングとCSは、コンタクトセンターも含めて、意外と融合する部分が多いです。ただし、販売側面では業種にもよりますが、店舗も含めて考える必要があります。店舗はデータも少なくなかなか取り込みが難しいチャネルになります。一方でWebを主体にしているところは、その領域について意外と一気通貫で見ることのできる人がいるので、やりやすいのです。

かなり大変かもしれませんが、俯瞰をしながらその中でどう顧客接点をまとめ上げていくかという話は、トライすると面白いと思います。

石井:

当社の顧客で、コンタクトセンターの予算作成を担当している方がいました。その方が『お客様がコンタクトセンターに連絡した方か否か』を分類したところ、連絡をした方のNPSとLTVに相関性が出たとおっしゃっていたのです。
この結果『NPSが1ポイント上がることでLTVはこのくらい上がる』、『全体顧客のNPSがこれだけ上がると、このくらい収益インパクトがある』ということが分かり、それを元に予算作成をされたそうです。『このくらい投資すればこのくらいNPSが上がる』ということも分かったので、『コンタクトセンター=コストセンター』という観点のみだった現状が変わりました。「これだけ売り上げを出すために、これだけコンタクトセンターに投資する」という予算案の作成までをやり遂げられたのです。これはすごいと思いました。

今お話したのは一つの例でしたが、今度はこのNPSと他のKPIとの相関性を出して「やはりAHTなのか」「それとも問い合わせの電話やチャットを取るまでに待たせた時間なのか」「その場合にはオペレータを何人増やせばどうなるのか」ということも分かるようになると思います。このようなことを実現したいと考えています。

新谷氏:

アメリカなどでは、NPSの数値自体が、先程おっしゃった通り金額に換算できるようにしてあるので、ボードメンバーの評価項目にも入っています。同様の考え方で、「1ポイント上がることで売上がどの程度上がるか」という話を数値化しているのです。それゆえやりやすいと言いますか、そこがCSとの違いだという言い方をする方も多いです。
ただ、日本の企業でそこまでのことを行っているところはまだあまり多くはないと思います。

石井:

私もロジックとしては理解していましたが、実践している企業を見たことがなかったので、それはすごいと感じています。このコンセプトを導入したいという企業さんがいらっしゃるので、当社で上手く手伝うことができれば、考えています

新谷氏:

そうですね、まさにそのような成功事例にモビルスさんと当社で取り組んでいければ良いと思っています。
本日は2人で有意義なお話をさせていただき、ありがとうございました。