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前編では、生成AIとカスタマーサポートの関係についてみてきました。

<前編はこちら!>

【前編】GPT等生成AIを使ったコールセンターでの具体的な活用事例大集合!>

後編では、生成AIがカスタマーサポートにどのように実際に活用されているのか、その具体的な事例をいくつか紹介します。

KARAKURI

カラクリ株式会社は、カスタマーサポート向けchatbot「KARAKURI chatbot」の提供・運営を中心にAIソリューションを展開しています。

カラクリは2022年ごろから大規模言語モデルの研究を行っており、カスタマーサポートへの活用を検討してきました。2023年にGPTシリーズなど大規模言語モデルの実用化を目的とした「カラクリGPTラボ」を発足し、新しい製品の開発・発表に取り組んでいます。

その活動の中で生まれた製品が「チャットボットメーカー」です。このツールは、GPTを使ってオリジナルのバーチャルチャットボットを生成するためのものです。特定のFAQページのURLを入力するだけで、GPTがそのページを探索しチャットボットを生成します。さらに、「性格」や「語尾」の設定を通じて、好みのキャラクターにカスタマイズすることも可能です。

また、GPTモデルと連携しFAQを自動生成する新機能を「KARAKURI chatbot」に追加しました。この機能は、「曖昧な表現」の問いに対しても適切な回答ができるようになり、従来手作業で行われていたチャットボットの学習作業を簡素化し、運用負担を大幅に軽減します。

このFAQの自動生成機能はすでに通販ブランドの「ディノス」にて活用されており、FAQの作成を自動化することで、チャットボットの更新をスピーディーに実施することを可能にしています。

Helpfeel

株式会社Helpfeelは、検索型FAQシステム「Helpfeel」を展開しています。

Helpfeelでは2023年5月にGPT-3.5 turboをベースとしたFAQコンテンツ作成支援機能「Helpfeel Generative Writer」を発表しました。これは、メールやチャットなどの履歴から質問と回答をコピー&ペーストすると、FAQのタイトルと本文が自動生成されるツールで記事作成時間を50%削減できます。Helpfeelをすでに導入されている企業には無料提供されています。
Helpfeelのwebサイトでは詳細の使い方やデモ動画が公開されています。

PKSHA technology

株式会社PKSHA technology(旧:BEDORE)は「PKSHA Chatbot」をはじめとするAISaaSを展開しています。

PKSHA technologyは2023年3月に「PKSHA LLMS(パークシャ エルエルエムズ)」を発表しました。これは、複数の大規模言語モデルを統合的にカスタマイズできる環境を提供するソリューションです。

PKSHA LLMSの取り組みとして、東京海上日動火災保険と日本マイクロソフトとともに、保険業界に特化した大規模言語モデルを活用した対話型AIの開発に着手することを発表し、2023年6月から試験適用が開始されます。この取り組みは、東京海上日動とPKSHAの合弁会社AlgoNautとの連携のもと行われ、業務効率化を目指す照会対応業務のプロトタイプ開発も含まれています。

メディアリンク

メディアリンク株式会社はコールセンターシステムやチャットサポートツールなどを提供しています。

メディアリンクでは、2023年4月にGPT-3.5を活用したカスタマーサポート向けのAIチャットボットの「MediaTalkGAI」をリリースしました。これは従来のAIチャットボットのような高コストや専門スタッフが不要で、回答させたいデータをアップロードするだけで利用できます。生成される回答はアップロードしたファイルを元にするため、誤った情報の発生が抑制され、安心して導入することができるのが特徴です。

MediaTalkGAIはすでに株式会社マザー牧場にて4月〜6月で実証実験を行い、一定の成果が認められ、8月上旬には本格稼働する予定となっています。

また、同年3月にはGPTベースを利用した電話で会話できる「DXでんわGAI」も無料デモを公開しており、テキストだけではなく、ボイスへの活用も進めています。

ELYZA

株式会社ELYZAは、東京大学松尾研発AIスタートアップとして、日本語の大規模言語AIに焦点を当てて企業との共同研究やクラウドサービスの開発を行っています。

ELYZAは2018年の創業より一貫して大規模言語モデルを中心に事業を展開しており、2020年には日本語で初めて人間を超える精度を持つ大規模言語モデルの開発に成功しています。日本の大手企業と共同開発を行うことも多く、現場課題に合わせてどのように大規模言語モデルを活用するかをコンサルティングから取り組んでいます。

その中で、2023年3月にはJR西日本カスタマーリレーションズのコールセンターへのGPT系統モデルと日本語に特化した国産AIの組み合わせによる実装を成果として公表しています。具体的にはJR西日本お客様センターに届く1日あたり約6,000件のお問合せ内容を要約し、各部署に連携するメール作成までを行い対応時間の約34%の削減に成功しています。

ギブリー

株式会社ギブリーは、組織内外のコミュニケーションの生産性向上を図るAIチャットボット作成ツール「PEP」を展開しています。

ギブリーでは2023年4月から自社専用の「ChatGPT」環境を構築できるサービス「法人GAI」を展開しています。ChatGPTは会話したデータをOpenAIの学習に利用されるなど、法人で利用するには課題がありました。これらの問題を解消できるのが法人GAIです。また、個人情報のマスキング機能やカスタマーサポートや営業等で使える100個以上のテンプレートが用意されており、法人で活用するためのサポートが充実しています。

また、同年6月にはカスタマーサポート職向けの新機能である「顧客対応アシスタント」「トークスクリプト生成アシスタント」を追加しています。「顧客対応アシスタント」は顧客との会話履歴やメモからCRMに入力する要約を作成したり、トークスクリプトの作成、メール文の作成を行うことができる機能です。「トークスクリプト生成アシスタント」はカスタマーサポートの育成やロールプレイングを目的として、顧客の類型別にトークスクリプトを生成する機能です。

これらの機能をコールセンター現場で活用すべく大手BPOである株式会社TMJと実証実験を実施しています。

AI Shift

株式会社AI Shiftは、サイバーエージェントの子会社であり、「AI Messenger」というchatbotおよびvoicebotサービスを展開しています。

AI Shiftは親会社であるサイバーエージェントが独自開発した日本語大規模言語モデルを活用し、カスタマーサポートに特化した各企業専用LLM構築サービスを2023年5月より提供しています。GPTシリーズを利用したサービスとは違い、各企業専用大規模言語モデルを構築して企業毎に学習を行うことができるため、第三者の学習にデータを利用される懸念はなく、専門用語への対応や、企業特有の言い回し・フォーマットに合わせた受け答えが可能です。

同年6月には東北大学との共同研究を発表し、カスタマーサポート領域においてサイバーエージェント独自の日本語大規模言語モデルの活用の研究を進めることで、チャットボットにおける有人対応の自動化を目指しています。

モビルス(MooA)

最後に弊社モビルスの生成AIの取り組みについてもご紹介します。

ムーア(MooA)はモビルスが独自開発するオペレーション支援AIで、コンタクトセンターのオペレータやスーパーバイザーの業務をサポートするAIシステムです。当社SaaS製品であるMOBI AGENTを介して、オペレータ向けに顧客からの質問の回答候補を提示する、意図せず入力された個人情報を自動でハイライトする、といったコンタクトセンターの業務に特化した支援機能を提供しています。

今回、そのムーア(MooA)にGPT-3を活用したオペレータおよびスーパーバイザー向けの「対話要約機能」「対話意図抽出機能」のβ版をリリースしました。既に一部クライアント企業と2月20日より実証実験を開始しています。

新たに実装された新機能では、いわゆるアフターコールワークやFAQ作成の業務効率化を目指しており、オペレータとユーザーの対話内容から要点を自動でまとめ、文章化することができたり、ユーザーからの問い合わせおよびオペレータ回答ログから、FAQを自動生成することができます。

生成AIの限界と今後の展望

生成AIは確かにカスタマーサポートの効率化を助けますが、一方でいくつかの限界も明らかになっています。

現状では、FAQ作成やメール作成など、テキスト生成のタスクが中心であり、リアルタイム対応よりも非同期処理で人間がチェックできる内容の生成が主流になっており、用途が限定的です。これは「ハルシネーション」と呼ばれる、AIが存在しない情報を生成してしまう問題があり、そのため信頼性や正確性を確保するには人間のチェックが必要となっているためです。

また、ボイスボット等への対応も期待されていますが、反応速度などの問題もあるため、レスポンスタイムの改善も必要です。

しかし、これらの問題は解決できる糸口が見えつつあります。Langchain等呼ばれる開発ツールが充実してきており、回答生成時に参照するデータを限定することで大規模言語モデルの回答を制御する方法や、企業ごとのファインチューニングが可能になってきています。また、蒸留と呼ばれる技術でモデルを性能を保ったまま圧縮することで、処理を高速化する取り組みなども進んでいます。

まとめ

本記事では、生成AIとそのコールセンターでの活用事例について詳しく解説しました。

生成AIは実証実験を経てすでにいくつかの企業で現場への導入が進んでおり、効果を発揮しております。

また、生成AIの進化は止まらず、その応用範囲は拡大しています。現在、課題とされていることもそう遠くない未来に解決されていくことが予測されます。そうなると、カスタマーサポートを担当する皆様にとってAIの活用はもはや選択肢の一つではなく、必然となってくるでしょう。

まずはこれらの流れに乗り遅れないように、担当者レベルでの情報収集や実際に世に出ている生成AIを利用してみることが大切です。また、企業としてもまずは導入しやすいところから始めてみることが重要です。