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実は10~20年前からあった概念ですが 「プロアクティブサポート」という言葉が近年また注目を浴びています。

「プロアクティブ」とは「先々を見越したor事前に行動を予測した」という意味なので『先々を見越した顧客サポート』が文字通りプロアクティブサポートの意味するところでしょう。「顧客がサポート窓口に問い合わせをするきっかけになる可能性のある問題を事前に見越して、顧客に事前説明や働きかけをしたり、問題自体を事前に解決したりすること」が、ひとことで言うプロアクティブサポートの目指す姿です。

逆の意味の「リアクティブ」という言葉も考えてみましょう。 「リアクティブ」=「反応的な」( 顧客からの問い合わせ発生後にサポートを行う反応)というニュアンスがあり、従来のサポートは依然このイメージが強いと思います。一見「当たり前」のようなスタンスに思えますが、実はそうではありません。それは、自社が提供するサービスから競合への乗り換えが購入後も簡単に行えるような状況、買い切り型ではなくサブスク型への消費モデルの変化によってLTV(顧客生涯価値)を最大化するためには継続的なコミュニケーションが必要になったりするような状況が、今後ますます加速していくからです。

そのような状況で「顧客との関係性を築く」「顧客に自社を信頼し続けてもらう」ためにも先々を見越したサポートは 「長期的な購買行動」にとって必要になってきます。「リアクティブ」に対応する問い合わせでは発生時点ですでに「問題が発生している」ことが多く、『一度発生した問題を対応して解決すること』と『問題が発生しないようにしておくこと』(あるいは問題を事前に察知して対策を伝えておく)とでは全く違うCX(顧客体験)の印象となってしまうからです。後者の方が顧客にとってより「嬉しい!」ことは言うまでもないでしょう。

最近ではデータの活用やAIによる処理の進化によって、これからの「プロアクティブサポート」の可能性を広げる動きが起こってきています。今回の記事では実例を交えて考察していきたいと思います。

実は、カスタマーサポートフェーズより購買促進フェーズの方での活用が進んでいる?

CX(顧客体験)においても、後半のカスタマーサポートのフェーズの前、購買促進フェーズにおいて「プロアクティブ」な取り組みは先行しています。

例えば、よくネットショッピングをする時にECサイトを眺めていると『今見ている商品と似ている商品はこちら』とか『この商品を見た後によく買われている関連商品はこちら』もしくは『あなたと似た好みの人はこんな類似商品も買っています』のような購入を促進する「パーソナライズ」された「リコメンド(推奨)」のメッセージを見る事があると思います。これらはWEB上での購入データや行動ログ、あるいは顧客の属性データを元にAIで解析された結果が表示されている場合がありあす。

場合によっては<WEB接客ツール>を使って特に購入体験を伴うWEBサイト上にチャット画面が立ち上がり、商品のサイズや在庫について確認をするような丁寧な「接客」をしてくれる、などという事もあるかもしれません。また、視野を広げてみると、<MA(マーケティングオートメーション)ツール>の普及が2010年代半ばから広がってきて、顧客に応じたOne To OneのコミュニケーションはBtoBでもBtoCでも先んじて当たり前にはなってきていた気がします。

これらによって顧客の購買行動が促進される背景には、まず顧客が「自分のことを理解してくれている」と感じ「実際の提案も顧客にフィットしていること」が前提としてあります。

カスタマーサポートにおけるプロアクティブな取り組みの例はまだ少ない?

対して、カスタマーサポートフェーズにおけるプロアクティブな取組の例はまだまだ一般化しているほど多いとは言えないのかもしれません。

具体的な例を挙げると、

  • 「商品が届く前に、届け先住所や時間の事前確認メールを送ることで事後の配送トラブルを回避する」
  • 「機能アップデートやキャンペーンで、問い合わせ呼量が増えることが予想される時には、WEBのトップページにお問い合わせの導線や説明書きを目立つようにしておく」
  • 「リスティング広告で特定のキーワードを購入して上位表示し、検索結果上からでさえ問い合わせがしやすくする」 (例:「XXX株式会社 問い合わせ」というキーワード検索をした人に広告表示) 」

などの取り組みまでも行っている例はありますが、まだまだ限定的かもしれません。さらに、

  • 「解約方法を調べているユーザーには、有人で丁寧なリテンションのコミュニケーションを行うタイミングを見定める」

という手法もあるようですが、ここまで行えている企業はさらに稀有です。そもそも、

  • 「製品の導入時の説明やオンボーディングをカスタマーサクセス部門が予めしっかりしておく」
  • 「機能のアップデートや新登場、廃止などをユーザー宛にメールで定期的に教え続ける」

など総じて何かカスタマーサポートが必要な問題自体をなくす、あるいはカスタマーサポートへの問い合わせをしなくても良いように事前に手を打っておくアクションも広く捉えるとプロアクティブとして現状行われているようです。

これら以外にも、ややリアクティブな要素も含んでいますが、現代においては製品やサービスの使いにくさや問題に際してCGC(カスタマージェネレイテッドコンテンツ)、簡単にいうと「クチコミ」での意見に対してサポートやケアをするコミュニケーションを企業のカスタマーサポート部門が行ったり、Twitter上で自社についてのお困り事のTweetに対してもサポート窓口に意見が寄せられる前にDMでメッセージを送るなどをしている例もあります。特にSNSや購入サイト上での『炎上』を配慮してのアクションとも取れます。

ただし、これらだけではまだまだ十分に「プロアクティブ」だとは言えないのかもしれません。

真にプロアクティブなアクションのベースとなるのは過去の膨大なデータの解析と問題発生前のサポートアクションへの転用

顧客にとって必要なサポートだけをピンポイントで行うためには、まず「その人のことを知る」必要があります。その意味で十分なCRM(顧客関係管理)の体制やしくみ作りは前提となり、属性や行動ログ、あるいは契約形態や購買履歴などその顧客のことを詳しく知っておく必要があります。

それだけではなく、過去の膨大なデータから「傾向」を解析することで、その顧客自身はまだ問題には直面していないものの、過去に特定の行動をした顧客群を見ていると 「同じ行動をしているこの顧客自身にも同じ問題が起こる可能性があるかもしれない」と、先手を打つことはできるでしょう。冒頭の例で購買促進フェーズにおけるECサイトが行っているような取り組みをカスタマーサポート領域でも実施して強めていく必要があります。

前述した 「サービスにおいて言葉だけでは自己解決に至りづらい複雑な事象の説明ぺージやFAQなど『つまづきやすいポイント』を見ている人にだけ『お困りですか?』とメッセージを送ってみる」のようなコミュニケーションを、さらに精緻なデータ解析を元に行っていけば、このようなコミュニケーション設計に至ることは可能かもしれません。

ただし、その際はCRMでデータを取り溜めるだけではなく、データを解析して傾向を掴む情報処理が必要となり、これを処理してコミュニケーションを設計する人の解析力や仮説思考に加えて、AIの処理力で解析を効率化することがより必要になってくるでしょう。そして「実際にアクションへの反映」がなければ『絵に描いた餅』になってしまいます。

特定のページのアクセス数、そこでのページ離脱数、アクセスに紐づくユーザー個人のWEB上での行動ログや解約などの手続ログ、さらにはこれらの顧客行動の間に挟まれたサポートアクション(オペレータチャットやチャットボットなどの各種KPI)など、実に多様な変数(パラメータ)を網羅し、解析しながら、アクションに落とし込んでいくことがこれから真の「プロアクティブサポート」を実現していくためには必要なのではないでしょうか。そして、まだまだこの取り組みは発展途上だと言えます。

プロアクティブサポートの検討のベースは「コンタクトセンターの全体設計」から

プロアクティブサポートを将来的に設計して、CXを向上させるようなサポートを実施したい、と考えていても一朝一夕での実現は困難を極めるでしょう。プロアクティブサポートまで実現できている企業はごくわずかであり、UIUXの設計にまで渡るとカスタマーサクセスの領域だけでは実現不可能な分野であることもあるでしょう。将来的にはそこに至るためにも、現状のリアクティブサポートの全体設計に必要なKPI分析やコミュニケーションの改善などと踏まえた「コンタクトセンターの全体設計」が第一ステップとしては欠かせません。

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