【招待講演】

コンタクトセンターにおけるAI活用の現実と可能性

所 年雄

トランスコスモス株式会社 理事 / DEC統括 DX本部担当

進んでいるコンタクトセンターのノンボイス化

20年ほど前からデジタルマーケティングの分野に関わっており、近年ではLINE ビジネスコネクトの活用によるコンタクトセンターのノンボイス化に取り組んでいます。

いろいろなクライアント様から「実際のところコンタクトセンターのAIによる自動化はどうなんですか?10年後にはオペレーターはいなくなってしまうんですか?」ということをよく訊かれます

「コンタクトセンターの自動化は非常に進んでいます」と所氏は語る。ただし、電話というメインチャネルを自動化してきたのではなく、あるサービスによって一気に自動化が進んだのだという。そのきっかけになったサービスがLINEだと主張し、2014年に発表されたLINE ビジネスコネクトと呼ばれるLINEのAPIを使ったサービスの出現で大きく変わったと述べた。

それまでもコンタクトセンターでチャットを使おうとはしていましたが、米国などと比較して導入率は上がりませんでした。私の感覚では2014年の、チャット導入率は5%程度、多くても10%でした。しかし、LINE ビジネスコネクトによるノンボイスサポートによって著しく変化したのです。

日本のコンタクトセンターもボイスサポートからテキストによるサポートにシフトしていきました。音声による問い合わせを自動化することは手間がかかりますが、チャットは最初からテキストデータのため、自動応答化しやすかったことから、問い合わせが増え、自動化する技術も進展したという印象です。

さらに消費者側もLINEの普及によりチャットで問い合わせることに慣れてきました。2015年に日本マイクロソフトが「りんな」を使ったチャットサポートを発表しました。しかし、彼女は何も解決してくれません。雑談が得意です。そこで、問い合わせのあったお客さまと会話を楽しんでもらうことにりんな(AI)を活用し、売上や顧客の獲得につながる重要なキーワードがあったときにテイクオーバーして有人オペレーターにつなげる仕組みとしたのです。

以前イベントで、ある不動産会社様のLINEを活用したサポートを発表したのですが、この後にTwitterやブログをみると「これ気持ち悪いですね」という感想が多くありました。「AIだと思って話しかけていたら急に営業の人が出てきて刈り取られてしまうのか」というイメージで受け取られたようです(苦笑)

ところが2018年の現時点では、チャットに慣れた消費者により、チャットとオペレーターによるチャネルが一般化した。

あるガス会社様の事例ですが、配達のような定形業務は人間が行う必要はありません。ルールベースで配達先の住所や時間をLINE上でやり取りし、オペレーターにつなぎます。このLPガスや灯油の問い合わせを自動化したサービスが非常に好評で、全問い合わせの3分の1を自動化することに成功しました。

チャットサポートが当たり前になってくると大企業でも導入されるようになり、とある大手ネットショッピングサイトでも活用されています。大手企業によるAI導入は、消費者の目につくことも多くなるので、チャットによるコミュニケーションの発展では重要です。

コンタクトセンターの事例としては意外かもしないが、地域住民から年間何十万件も問い合わせがある自治体の粗大ごみのコンタクトセンターは、大きなマーケットになる、と所氏は事例を交えて説明した。

福岡市では粗大ゴミの受付をLINEで行い、引き取りまで自動化しています。もう一歩進めると、スマートフォンで写真を撮ると画像認識AIで、廃棄費用や、いつ回収できるか判別をするシステムも技術的には可能になっています。

B to B 向けの受発注センターもコンタクトセンターの大きなマーケットのひとつである。ある飲食店向けの商社ではこれまで、居酒屋やレストランから翌日の食材などの発注をFAXや電話で受けていたが、それを全てLINEに置き換えるシステムを稼働させている。

FAXや電話の場合、オペレーターが入力するため誤入力や時間がかかっていましたが、LINEで応対にすることで入力ミスを防ぎ省力化しています。さらに各店長が管理画面から注文セットを登録しておけば、毎回商品を選択することなく、「いつもの注文」というボタンを押すだけで発注可能になります。この場合、発注する企業側も忙しい時間の合間にLINEでポチっと操作するだけで済みます。いわゆるAmazonダッシュボタンと同じです。

これまでお話ししたようにコンタクトセンターの効率化は、このような段階まで進んでいます。

音声系コンタクトセンター、6つのレベル

コンタクトセンターの会社から「上層部からAIを入れなさいと言われたのですが、どうすればいいんですか?」とよく相談されます。コンタクトセンターの自動化、AI化は進んできましたが、実際にはあまり詳細に定義されていません

これは所氏の考えとなる、現時点の音声系コンタクトセンターは6つのレベルに分けることができるという。

まずレベル0。これはレガシーなコンタクトセンターを指す。チャネルはWeb、電話、メールで、業務で蓄積されたナレッジベースを利用してオペレーターが回答をする。あくまでも電話ベースで、サブとしてFAQを設置するタイプである。

次にレベル1。現在チャットボットなどをやろうとしているコンタクトセンターで実装されている機能である。チャットボットの対応後テイクオーバーして、有人オペレーターに引き継ぐ。ただし、あくまでもルールベースによる対応で、決められたシナリオに沿って、内容を切り分けて回答するレベルとなる。

チャットボットといっても導入して終わりということはありません。ボットの改良支援としとして、いわゆるアノテーションを行うことが必要です。アノテーションをきちんと行っていくことは、日々のオペレーションをどれだけ楽にできるかと深く関わってくるため非常に重要です。

レベル2になると、リアルタイムで音声認識に対応する。オペレーターが応対している最中にFAQを表示させるシステムである。3つほど回答候補を出し、最終選択肢は、有人オペレーターが選択してお客さまに伝えます。何年か前にIBMのワトソンがメガバンクのオペレーター対応支援として提供されましたが、直接ワトソンが電話応対するわけではありません。オペレーターが高い精度の内容を迅速にお客さまに回答するためにワトソンが支援するのである。所氏いわく現場の感覚では、ここまでが現在のレベルといえる。

では、それ以上のレベルではどうなるのか。

レベル3ではボット、チャット、メールが完全自動応答である。メールを完全自動応答にしたいという話が少しずつ出てきている。所氏は、それができるようになったのは音声認識のレベルが上がり、テキスト化が向上したことにあると述べた。テキストデータを使ってメールの意図を解釈し、あらかじめ用意した回答を返信することができないか、というソリューションが求められつつある。

レベル4になると、簡易的な対応は、回答の自動生成と音声の自動化によるノンボイス、そして有人オペレーターのハイブリット型である。

このレベルでも、やはり有人のオペレーターは必要なのです。おそらくプレミアサポートとしてボットではないコンタクトセンターが重宝されるようになるかもしれません。ビジネスモデルが従来とは変化することも考えられ「オペレーターがAIに駆逐される」ということは、レベル4まではあり得ないのではないでしょうか。

最後にレベル5。ここでは完全に無人となる。よく言われているようにオペレーター業務は人工知能によって効率化され、駆逐されてしまうかもしれない。さらに、対話型AIを搭載したスマートスピーカーなどにより、デバイスフリーの状態になる。無人化していく上で重要なことは、「サポート形態の変化」だと所氏は主張した。このトリガーになるデバイスが、対話型AIによるスマートスピーカーになるのではないかと見解を述べた。

「問い合わせの概念をなくすこと」が最終的な理想形

所氏は、コンタクトセンターによるサポートの最終形を次のように述べた。

サポート形態の理想形は「問い合わせ」という概念がなくなることです

レベル0やレベル2の段階では、まだ完全に「お問い合わせ」である。ところが、レベル5になると、いつもそこにあるスマートスピーカーに分からないことがあると質問をする。むしろ問い合わせるというより、習慣的に「話しかける」ことが主体となる。つまり、お客様の心の中から「問い合わせる」という概念がなくなっていく可能性もあるのではないか、と考えを述べた。

先週、子供と公園にいってテントを広げたのですが「たたみ方」が分からず車に押し込んで帰ってきました(笑)。
そこで、テントのたたみ方を教えてくれるAIがあればと思い、実際に作ってみました。早速、Clova Friends で実現します。

そう言うと、壇上で所氏はClova Friendsを音声で操作し始めた。

所氏(以下、T)「Clova、コンタクトセンターを開いて」
Clova(以下、C)「トランスコスモスのコンタクトセンターを開きます。何の製品について質問しますか」

T「サンシェードテント」
C「サンシェードテントについての質問ですね?どのような質問ですか?」

T「たたみ方が分からない」
C「たたみ方が分からないですね。サンシェードテントの製品名か、型番は分かりますか?」

T「ワンタッチサンシェードテント」
C「質問方法を受け付けました。回答方法を読み上げますか?」

T「私のLINEに送って」
C「ワンタッチサンシェードテントのたたみ方の動画をお客さまのLINEアカウントに送信します」

このようにWebでFAQを検索してもらうのではなく、チャネルをスマートスピーカーに変えて対応することにより、CX(カスタマー・エクスペリエンス)を向上させることと、お問い合わせの概念をなくすことが、この程度まで可能になっている。200~300の回答をスマートスピーカーに対応させることは、すぐにでもできることだと所氏は述べた。このようなことができるようになると、住民票が必要なときにWebで検索しなくても、スマートスピーカーに住民票のとり方をLINEに送ってもらうよう話しかけるだけで済む。さらに所氏はLINEからの事前申請や、印紙をLINE Payで支払うようにできればもっと便利になると可能性を示した。マイナンバーカードで対応することも考えられるが、LINEの方が普及しているといえるだろうと添えた。

所氏によるとレベル5の最終形は、何も問い合わせしないことだという。スマートスピーカーにも話しかけない。エアコンなどが故障したときに消費者が電話やメールをするのではなく、センシングの技術によって故障情報が自動的にメーカーに伝達され、修理をするという形になる。あるいは壊れそうな時期に修理のフォームが届くなど、先回りしてサポートを行う。

コンタクトセンターに電話をすることは、嫌いな人にとっては苦痛であり、できれば体験したくないことです。今後は、画面の付いたスマートディスプレイも販売されます。したがって、音声だけではなく動画による情報提供もできるわけです。日々一緒にいる、言ってみれば家族のような存在の端末に、話しかけて回答を得るようになることが、コンタクトセンターを変えていくきっかけになるのではないかと考えています。

コンタクトセンターの自動化とは、本当の意味では「AIでオペレーターを削減して効率化すること」ではありません。もっと先を見据えると、そもそも消費者が問い合わせをしなくて済むような仕組みを作ることです。「コンタクトセンターの会社がコンタクトセンターをなくすとはどういうことだ」と社内では、不評ですが(苦笑)世の中をどれだけ便利にしていくかということで、企業価値は決まります。今後はこのような分野にもチャレンジしたいですね

最後に所氏はこう締め括った。

近い将来、あらゆる回答に答えられるスマートスピーカーが生活に浸透した時、もはや「問い合わせ」という概念はなくなっているのかもしれません。

PROFILE

Toshio Tokoro

トランスコスモス株式会社

理事

1999年にトランスコスモス株式会社入社後、コールセンターのログから、カスタマーコミュニケーションの最適化を実現するサービスの開発を担当。

2012年よりカスタマー・エクスペリエンス向上を目指し、ソーシャルメディアを通じた 感動体験を提供する顧客サポートサービスの開発を推進。

各種メッセンジャープラットフォームを利用したコミュニケーションサービスや、 顧客コミュニケーションの自動化を目指した bot/AI を利用したサービスの導入が好評を得ており、特にLINEビジネスコネクトを利用したサービスでは、マーケティング領域からカスタマーコミュニケーションまでフルファネルに対してそれぞれのステージで必要な機能を提供。

現在ではそれらに加え、デジタルマーケティングの制作・開発部門も統括し、これまで培ってきたコミュニケーションサービスとWeb制作サービスを融合した「感情を感じられる」情報提供サービスの開発を目指している。