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「溜まった声」を「動かす力」に変えていくために ―― なぜ昨今のVoC活動は経営を動かすのが難しいのか?

投稿日:2026年5月29日 | 更新日:2026年5月29日

執筆者
株式会社ラーニングイット 執行役員 CMO井上 雅博

本コラムでは、コンタクトセンターに集まる「顧客の声(VoC)」を、単なる苦情処理の材料から企業の未来を創る「経営資源」へと昇華させる道筋を、前編と後編の全2回で紐解きます。さまざまな企業の顧客接点を伴走支援する最前線で培った知見と、最新のVoC利活用実態調査から明らかになった「ハイパフォーマンス企業」の共通項をお届けできればと思います。

前編は、昨今VoCが再注目されている中で多くの企業が陥っている「可視化しただけで満足」という罠について、コールセンター/コンタクトセンター業界での15年の経験もふまえて、日本企業が直面する「目詰まり」の正体を探りながら解決に向けたヒントを紐解いていきたいと思います。

1. 「15年前と変わらぬ悩み」に終止符を

「お客さまの声は宝の山です」 私がコンタクトセンター業界でお仕事を始めた15年以上前から、この言葉は業界の中である意味、鉄則のように語られてきました。とくにテキストマイニングのツールが世に広まりだした2010年頃は、展示会に行けばどのブースでも「VoCを活かして経営に貢献しよう」というスローガンが躍り、多くのセンター長がその志を持って業務に励んでいたのを今でも鮮明に覚えています。なんだか、最近のAIやAIエージェントにも近い雰囲気を感じますね。

さて、コンタクトセンターの現実はどうでしょうか。15年経った今、現場を歩いて聞こえてくるのは、当時と驚くほど似通った溜息です。「毎週、必死にレポートを作っているけれど、経営層はさらっと数字を見るだけ」「商品開発部に声を届けても、『それは一部のノイジーマイノリティだろう』と一蹴されてしまう」――。昨今、テクノロジーは飛躍的に進化し、かつては手作業だった集計も、今は安価で高性能なSaaSツールが瞬時にグラフ化してくれます。なんなら、少し前までは取得できなかったデータやサンプリング収集だったものも解決し、データ量や幅は飛躍的に進化していますよね。コンタクトセンターがコストセンターからプロフィットセンターになるのでは、そういった期待感こそが昨今VoCが再注目されている理由だと思います。私は、この期待感自体は正しいと思っていますし、コンタクトセンターこそ企業の収益強化の柱だと心から思っています。しかし実態はなかなか伴っていない姿も多く目にします。なぜ私たちの悩みは解決しないのでしょうか?

それは、多くの企業がVoCを「守り(苦情処理)」の道具として捉えたまま、分析を「終わらせるべき作業」にしてしまっているから、なんじゃないかと思っています。ツールによって「何が起きているか(What)」の可視化は非常に便利になった一方で、取得できるようになった幅や量が増えたが故に「何を対象とするべきなのか」、それを「なぜ解決すべきか(Why)」、そして「解決することにどれほどの価値があるのか」という、経営の意思決定に直結するレベルまで活動が深化していない。これが、15年前から続く「宝の山」が、「手付かずの原石の山」のまま放置されている理由なのです。

2. 「エコシステム」で描く、VoC活動の新しい地図

今回、私がコンタクトセンターを含む顧客接点(タッチポイント)の各所や顧客体験(CX)/カスタマーサクセス(CS)推進部に対してCX向上の実践を伴走する者として提唱したいのは、VoCを単発の調査や「点」の活動として捉えるのではなく、組織全体を巡る「循環(エコシステム)」として再定義することです。このVoCを取り巻く現在の課題感や解決の方向性を見定めるべく、企業のVoCに関する認識や活動の実態を調査しました。

本来、VoC活動とは、アンケートを回収したり電話の内容を記録したりすることのみではありません。端的に言ってしまうと、VoC活動とは「収集→分析→共有→改善→検証」という一連のプロセスが、データ・部門の壁を超えて滑らかに回り続けている状態を指します。もう少し踏み込んでお伝えすると、このプロセスはもはや一企業だけで完結すること自体も難しいと思っています。世の中には多くの側面で専門特化した企業がサービスやソリューションを提供していて、上手に組み合わせることが大切だと思うのです。ですが、ITメーカー、SIer(エスアイアー)、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、コンサルティング事業者が個々にユーザー企業をサポートしていても、なかなかめざす世界観を作り上げていくのは難しいな、と感じます。各側面のサポート企業とユーザー企業が一体となって取り組むことが近道なのではないか、と強く感じています。

話を戻すと、日本企業の多くはVoC活動におけるこの一連のプロセスやサイクルのどこかで致命的な「目詰まり」を起こしていることが多いです。この「目詰まり」がどこで起きるかは企業によってさまざまですが、例えば、センター内だけでデータが完結し、他部門へはPDFのレポートを送っておしまい、情報過多で自分たちに必要なデータがどれか分からない、などの「共有の壁」。あるいは、課題は見つかったが、誰が予算を持って改善するのかが決まらない「責任の壁」。
今回の調査によると、VoCを収集・蓄積している企業は全体の8割を超えます。しかし、「収集した声を経営改善や商品開発に十分に活用できている」と回答した企業は、その半分にも満たないのが現実です。

高度な分析ツールを導入しても、効果的に活用できなければVoCは組織の片隅で眠る「手付かずの原石の山」のまま、になってしまいます。こうした「目詰まり」を突破する手段としてITを導入することは、間違いなく解決策の一つとなる一方で、ITを導入する前の段階で、誰が、どのタイミングで、どの声に責任を持つのかという「マネジメントシステム」の設計が不可欠なのです。

3. 期待と不安が入り混じる「VoC活動行動化」へのチャレンジ

VoC活動において、長年の停滞を打ち破るひとつの「希望」として注目されている生成AIですが、世の中では多くのチャレンジが日々なされていますね。 今回私たちが実施したVoC利活用実態調査でも、VoC活動で一定の効果を出しているハイパフォーマンス企業の多くは、AIを単なる「効率化のツール」としてだけでなく、これまで人手では到底不可能だった「全件の背景理解」や「見えない予兆の特定」を可能にする、『補助機能』として位置づけられていることが読み取れました。

かつて、テキストマイニングを導入したものの、辞書登録の煩雑さに挫折した企業は少なくないと思います。しかし生成AIは、文脈を読み、顧客の「行間の感情」すらも要約してくれる可能性を秘めています。これは単に作業時間が短くなるという話ではありません。AIが膨大なデータから微かな変化(予兆)を掴み、人間がその背景にある顧客の真意を深く読み解く。テクノロジーに「作業」を任せ、人間が「洞察と対話」に集中する――。そんな「人とテクノロジーの共創」へのチャレンジが、今まさに始まっています。

ハイパフォーマンス企業は、VoCを「コスト(苦情)」ではなく「未来への投資判断の材料」に変えるべく、新たなテクノロジーと共に一歩踏み出しています。本連載の後編では、この「負の声を富に変える」ために何をすべきか、最新の知見と共にご紹介していきます。まずは、自分たちの立ち位置が「可視化」で止まっていないか、冷静に見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール

株式会社ラーニングイット 執行役員 CMO 井上 雅博

西南学院大学 経済学部 卒業。
2011年より大手BPO企業にて、コンタクトセンター事業の立上げからマネジメント、新規事業開発、デジタルマーケティング、ブランディングを推進。2023年より株式会社ラーニングイットへCMOとして参画。イベント運営や業界調査などの啓蒙・マーケティング活動に並行して通信、インフラ、SaaS、不動産等のCX活動を伴走支援。

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