コストセンターとなりがちなコンタクトセンターをプロフィットセンター化するためのAI活用方法や、日本企業のCX向上に対する意識改革などについて、両社の意見を熱く語っていただきました。

CX(Customer Experience、顧客体験)をめぐる取り組みや支援サービスは日々進化しており、特に海外企業の成功事例が目立ちつつある昨今。さらには生成AIがより身近になったことで、CX施策にどう取り込んでいけるか、新たに試行錯誤すべき議題まで登場しています。

このたび、カスタマーエクスペリエンス・ソリューションのグローバルリーダーであるAvayaの日本法人、日本アバイア株式会社 代表取締役社長 内山 知之氏と、モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏による対談が実現。

日本は世界からもサービス品質の高さが評価されていますが、企業としてCX向上のテーマに取り組む上ではどのような意識や議論が必要で、運用するシステムにどう反映していくべきか、徹底的に話し合っていただきました。前編、後編の2回にわたってお届けします。後編はこちら

【前編】

【後編】

■対談メンバー

日本アバイア株式会社 代表取締役社長 内山 知之
1999年 東北大学工学部卒、2001年 東北大学大学院情報科学研究科修了。日本ヒューレット・パッカード株式会社でキャリアをスタートし、11年に渡り、通信事業者向けのシステム構築やソリューションのプロダクトマーケティング、プリセールスなどに従事。 2012年より、アクセンチュア株式会社にて、通信事業者向けのコンサルティングやアライアンスビジネス企画、ソリューション提案・導入を経験。2015年より日本アバイア株式会社に参画後は、サービスセールスとして、保守サービスの拡充、プライベートクラウドサービスやサブスクリプションサービスの企画・導入を推進。2023年5月より現職。

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏
1998年 早稲田大学卒、2009年 ペンシルバニア大学ウォートンMBA取得。ソニー株式会社にて11年間ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。MBA取得後、国内投資ファンドにて執行役員。その後ソニー会長率いるクオンタムリープ株式会社のエグゼクティブパートナーとして多数の日本企業の海外進出を実行支援。2014年モビルスに参画。受託開発中心のビジネスから業態チェンジをし、主力製品「MOBI AGENT(モビエージェント®)」や「MOBI BOT(モビボット®)」「MOBI VOICE(モビボイス®)」などをリリース。企業のコンタクトセンターや自治体向けに製品の提供、導入支援を行っている。


 

ボイス/ノンボイスは適切なバランスが当たり前な時代に。今、話題の中心は生成AI

―最初に、2024年上半期を振り返った所感をお二人からお聞かせください。

石井:ノンボイスへのシフトなど、ボイス/ノンボイスのテーマは変わらず至る所で聞かれますが、昨年からはどちらかというと皆さんの関心が「生成AIを使って何をするのか?」といった話題に集中しており、ボイス/ノンボイス議論はその付属品のようになっていると感じています。

ただ、現状はまだ音声で生成AIを活用するには難易度が高く、POC(Proof Of Concept、概念実証)のスタートとしては、メールの文章の生成やチャット対応のサジェスト機能など、ノンボイスでの活用に注目が集まっている状況です。

その状況下でモビルスでの開発も、今は生成AIに関連する機能開発にリソースを投下するよう方針をシフトしています。ただ、生成AIと言ってもあまり飛躍しすぎたものではなく、現場で使えるものを開発することにフォーカスしており、ユーザー企業の皆さまと一緒に「これができれば助かるね」となる役立つ機能を作り出して製品に搭載していっているところです。

内山氏:私も石井さんと同じく、ボイス/ノンボイス議論は一時期ほどの議題の中心ではなくなってきていると思います。ノンボイスが進んできたことは確かですが、やはり人と会話しないと解決できない領域があると各社が気づいたわけで、ボイス/ノンボイスが適切なバランスを取ることが当たり前になってきたように感じています。

その中で、もともと音声を中心に事業を展開してきた当社にも、「生成AIをどう絡ませられるのか?」といった問い合わせが日ごとに増えている状況です。私たちは“安定と革新”と言っているのですが、「(お客さまからの電話など)音声は今まで通り安定して取りたい。しかし、そこに革新として、生成AIの活用で省人・省力化できるようなものがほしい」というニーズが高まっているのです。

こうした要望を受けて、2024年春に、既存のオンプレミス環境とクラウドベースのソリューションがシームレスに連携した、ハイブリッド型の統合プラットフォーム「Avaya Experience Platform(AXP) パブリッククラウド」の提供を開始しました。

 

―改めて、「AXPパブリッククラウド」をリリースした背景や、日本市場での戦略についてお教えいただけますか?

内山氏:Avayaのグローバル製品は現在、お客さま企業に必要な選択肢を提供していくことを大きな目標に掲げています。従来のAvayaは、市場からはオンプレミスやプライベートクラウドに強いという認識が持たれていたと思いますが、パブリッククラウドで運用したいというニーズも増えてきたため、それにもしっかりと対応した形です。お客さまの必要な選択肢を全て用意し、適切なタイミングでサービスを選んでいただけるような状態を確立しておくこと、そして、最適な組み合わせで適材適所に提供できるようにしておくことが、今のプロダクトの戦略となっています。言うならば、“全方位戦略”ですね。

日本市場ではやはり、海外のデータセンターを使うより国内で完結したいといったニーズが高い傾向にあります。Avayaとしても日本市場をとても重要なマーケットとして捉えているので、日本に向けた投資をますます進めている最中です。

石井:現状では、オンプレミスやプライベートクラウドを利用されているユーザー企業さまはまだ多いですか?

内山氏:多いですし、引き続きオンプレミスの提供をやめないでほしいという声も寄せられています。ユーザー企業さまにとって音声はエンドユーザーとつながる重要な顧客接点になるほか、業種によっては24時間365日つながっていないといけないケースもあるので、そこに対する品質の維持・向上などを考えた結果、従来から取り組んできたオンプレミスやプライベートクラウドを続けたいという判断がされているようです。

石井:パブリッククラウドだけの一辺倒にならず、そういったユーザー企業さまの幅広いニーズをくみ取っているところが、貴社の強みの一つだと思いますね。ちなみに、オンプレミスを好む企業は、オンプレミスならではの安定性とセキュリティが主な理由となっているのでしょうか?

内山氏:確かに、セキュリティや安定性も話題になります。他社のパブリッククラウドでは、データセンターを置く西日本と東日本でデータ同期がされていないこともあるため、東西冗長を懸念する方が少なくないからなのでしょう。ただその点、当社の従来からの仕組みではデータ同期がしっかりできているほか、長年の技術により、仮に途中のネットワークが切れた場合も電話を取り続けられるような冗長機能が十分備わっているため、クラウドの安定性はむしろユーザー企業さまから評価をいただいているくらいです。

オンプレミスを選ぶ要因にはまず、コストを挙げられる傾向があります。オンプレミスやプライベートクラウドのほうが適しているはずの企業が、試しにパブリッククラウドを使ってみたいと何年か運用した結果、思ったほどコスト面の効果が上がらなかったため、オンプレミスに回帰するようなケースが見られます。

なので、オンプレミスを使っている企業も、単に「パブリッククラウドに変えたくないから」といった消極的な理由ではなく、しっかり議論を行った結果として、必要な方法を選んでいただけているように感じます。当社としても、「AXPパブリッククラウド」をリリースしたからと言って、必ずしもオンプレミスを利用中のユーザー企業さまを移行させるのではなく、ニーズに合わせて最適な方法を提供していきたいと考えています。


 

DXやCXはトップマネージメントで進めるべきテーマ。海外では先行する成功事例も

―米国の記事で、一旦はパブリッククラウドに移行する動きが強かったものの、昨今はまたオンプレミスに戻すトレンドがあると拝見し、オンプレミスを求める企業も多そうだと感じました。

内山氏:おっしゃる通り、2022~2023年頃にかけて、米国でそういった事象が頻繁に見られましたね。コンタクトセンターに限らず、インフラをどう持つのかという議論の中で、一時はAWS(Amazon Web Services)やAzureなどに多くの企業が一斉に流れていきました。しかし、だんだんと膨大になってきたデータをクラウドストレージだけで賄おうとすると、費用も膨れ上がってしまったため、ここに来て再度オンプレミスが見直されたようです。

また、世界的に見ても、データ保護に関する各国の規制を考慮した上で、オンプレミスが現実的だと判断する企業も少なくないと思います。

当社がオンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウドの全方位戦略をとっているのも、クラウド化を進めたい企業はその企業に合ったペースで徐々に移行できるようにするためでもあります。特にコンタクトセンターは日々の運用で非常に重要なツールがさまざまあるため、一気に移行してしまうと混乱を招きかねません。英語では「クラウドジャーニー」や「クラウドパス」などと言われますが、徐々に移行する準備と道筋を当社がしっかりと提供し、ユーザー企業さまと一緒に歩んでいくというメッセージが、全方位戦略の根底にあります。

石井:クラウドでないとできないことが多いというイメージが持たれる風潮になったために、皆がクラウドに移行していった様相でしたよね。オンプレミスでも最新の技術や機能が使えるか否かが、一つのポイントになるだろうと私は思っているのですが。

内山氏:その辺は昔から海外と日本で顕著に違いが出るところなのですが、日本はオンプレミスでパッケージを導入するとなると、ものすごく長い期間をかけて要件定義や設計をして、一度導入すると一切触らないようにしていたと思うんです。それはそれで良い時代もありましたが、やはり「変化したい、新しいことをしたい」となったときは足を引っ張ってしまっていました。当社も新しいバッチや機能を次々とリリースしては提案しているものの、万全を期して作った最初の形に手を入れたくない意識が働いて、結局塩漬けになってしまうことは珍しくありません。

一方の欧米は、Avayaがマネージドサービスしている部分もあって、オンプレミスであっても定期的にアップグレードさせていくカルチャーがうまく創り上げられています。何年も塩漬けにしてしまうと、その分最先端からの時差が生じますから、そうならないようにユーザー企業さまが判断している点に、海外と日本の展開スピードの差が生まれる一つの要因があるように思います。

―海外と日本では、DXのトレンドや投資、考え方にも違いがあるのでしょうか?諸外国はDXによる製品・サービス開発強化、売り上げ、利益への意識が高い一方で、日本では業務効率・コスト削減の意識が優先される傾向にあると感じるのですが。

石井:DXはトップマネージメントで進めていくべきテーマですが、日本企業はトップマネージメントの事案だとまだあまり捉えられておらず、なおかつ上から下へのトップダウンも起きにくいところに、課題があるだろうと思っています。仮にトップマネージメントで方針を立てられても、下層部のメンバーが目の前の業務に手一杯だと、先のことより今現在のことしか見られないものです。

トップの力でしか動かせず、なおかつ全社で取り組まなければなければならないプロジェクトとなると、日本では進めにくいのだろうなと思います。

内山氏:そうですね。海外だから必ずしも全ての企業がうまくいっているとは限りませんが、成果を出している企業はやはり、トップマネージメントがきちんと関与して、適切な方向性を示しながら運営している印象です。

なぜ日本と海外に違いが生じてしまうのかというと、日本企業は比較的、組織が細分化していることが背景にあるだろうと私たちは見立てています。例えば、製品部門とサービス部門があって、それぞれに違うコンタクトセンターを所管していれば、皆に違うマネージメントが入っているわけです。そうすると、相互の理解や取り組みの進め方がなかなかうまく落とし込めなくても仕方ありません。

逆に、どういう企業が国内でうまく進もうとされているのかというと、オーナー企業などがわかりやすい事例になると思います。「これで行くぞ!」というトップの決断が社内全体に行きわたる企業は、早くに取り掛かれる傾向にあるなと。決して大企業が後れを取りやすいというわけではありませんが、判断、意思決定、落とし込みがシンプルにできる企業のほうが、取り組みは進みやすいように見えますね。

石井:企業にとってはトップマネージメントで進めていける力が必要ですし、片や私たちのような企業を支援する立場にとっては、「それに取り組むことでどんなメリットがあるのか」を明確に示す働きかけが必要だと感じています。

これはCXでの話ですが、先日、米国に本社を置く外資系BPOの方と企業のCX推進に関する意見交換をした際に、米国企業のCXに対するトップマネージメントの意識は日本企業より高いものの、トップの意識だけでスムーズにいくとは限らないと聞きました。CX向上への取り組みがもたらすのはコストダウンメリットなのか、レベニューアップメリットなのか、その辺を私たちがしっかり説明できないと、いくら上層部が「CXは大事だ」と思っていても、そこへの投資にはつながらないのだそうです。それを聞いて、確かにそうだと思いましたね。

レベニューアップに結び付く理由や、投資対効果への理解は、日本より米国のほうが多少有利な気はしますが、いずれにしてもDXやCXがどう効果をもたらすのか、私たちも説得できるようにしておかなければいけません。

内山氏:そう思います。ましてやコンタクトセンター部門の担当者だけで考えようとすると、どうしてもコストダウンの方向にばかり目が行きがちですが、それだけだと議論が小さくなってしまって、全体を良くしていこうという方向性になかなかなりづらいですから、こちらからの説得と働きかけは大事ですね。


 

世界の先端を行く日本のサービス品質。次に求められるのはCXを強力に推進するリーダー

―今まさにCXが話題にあがりましたが、CXを向上させると企業価値は向上し、利益も改善できることは明らかでありながら、取り組みがなかなか促進できずにいる企業も少なくありません。日本の特徴や課題など、グローバルリーダーのAvayaさんから見解をお聞かせいただけますか?

内山氏:先ほどのDX推進にも通じるのですが、日本は「CX向上」のようなお題を作ると、「何を導入した」「組織を変えた」といったわかりやすい変化で結果を求めてしまいがちです。しかし、当然それでは不十分で、実際は企業文化やブランドイメージまで踏まえて考えなければいけない領域だと思うのです。

エンドユーザーのためのCXですから、単にチャットの窓口を設けたり、ウェブサイトの見た目をきれいにしたりと表面的に取り組むのではなく、ブランドやメッセージを生み出す社内の従業員にまで作用しないと変わっていけないはず。今はまだ、そこまでの動きが国内であまり多くは起きていないのではないでしょうか。

実は今、Avayaも構造改革の最中にあり、CEOがしきりに「カルチャーを変える」と言っています。ユーザー企業さまの要望に傾聴し、サービスに反映させてリリースするというサイクルを改めて作り直すよう動き始めているところです。当社の実体験からも、CX向上には企業文化からアプローチする必要性があるなと私も感じていますね。

石井:まさしくトップマネージメントでCX向上に取り組まれているのですね。その点、日本はまだ「CX=トップマネージメントが考えるべきテーマ」という意識が根付いていないように思います。

内山氏:確かに、CX向上に成果を出せている海外企業では、いち早くCXO(Chief Experience Officer)の役職を設け、トップマネージメント事案として大きな役割と権限を持たせて推し進めているような事例をよく見かけます。

最近は日本でもCX担当を置く企業が少しずつ見られるようになりましたが、役割の範囲や権限がさほど大きくないように思います。海外企業の場合は権限が大きい分、効果が出なければ解雇されかねませんし、逆に効果が出ればしっかり給与に反映される。そういった大きな責任感と強い実行力で企業を動かしていく文化が馴染んでいますよね。

ただ、日本の大企業でもCXが推進できている事例はあり、そこもやはり役員クラスのリードする人が大きな権限のもと、横串を刺して全社的に動かしています。日本企業でよくある縦割りやサイロ化が根強い場合は、どうしても進みが遅くなりがちだと感じます。

石井:日本企業のCX向上は、部門責任者の管轄にとどまったサイロ化状態が多いからこそ、成果が出ている企業のようにCXOなどの役職があればと思うのですが、日本ではまだあまり見かけません。それにはどういった理由があると思いますか?

内山氏:これは個人的な見解ですが、日本はすでに顧客サービスの質やレベルが海外に比べて圧倒的に高いことが、CXOなどの設置が進まない背景の一つにあると思います。従業員各々が勝手に動いてサービス品質が落ちているようであれば、誰かが積極的に管理をしなければサービスがまとまりません。しかし、日本は“おもてなし”の言葉があるように、従来から顧客サービスに重きを置いてきたので、CXOの必要性を感じるまでに時間がかかっても仕方ないと思うのです。

ただ、顧客サービスがしっかりしているばかりに現状のサイロ型になっているので、それぞれの部門をまとめようとする取り組みが、今起きつつある新しい段階なのだろうなと。CXOのポストを明確に設けている海外のほうが進んでいるように見えてしまいますが、日本はサービス品質自体が先端を行っているので、もっと自信を持っていいのではないかと思っています。

石井:ポジティブなご見解が伺えて嬉しく思いますし、すごく納得しました。いろいろな方に話を聞くと、バブル崩壊からずっと日本の大企業の思考回路がコストダウンばかりになってしまったために、CXの向上で収益を拡大させる意識が持ちにくく、投資もできないなど、ネガティブな意見を多く耳にしていましたから。日本も自信を持つべきところは、もっと前面に押し出していきたいですね。

内山氏:おっしゃる通りで、Avayaのグローバルでは金融機関、航空会社、ホテル、病院など、多様なエンドユーザーがいらっしゃってコミュニケーションの重要性が特に高い企業を数多く支援しているのですが、サービス品質は日本も決して負けていません。例えば航空会社の場合だと、日本も海外も①飛行機の予約時②搭乗時③搭乗後のアフターサポート④トラブル発生時――など、それぞれの顧客接点やイベントごとに何をすべきか分析し、改善していますよね。海外ではそれがCXOのようなリーダーのもとで施策が組み込まれ、オペレーションやシステムに落とし込んでいる企業が総じて成功しているということです。

一方で、今当社の基盤を使っていただいている国内企業の中にも、エンドユーザー視点でサービス価値を見つめ直して導線を再構築している大手金融グループがあるのですが、そこも強力なリーダーシップでグループ各社を横串に刺してCX向上を推進している方がいらっしゃいます。先ほど石井さんがおっしゃった「バブル崩壊後の思考回路の停止」とは真逆なリーダーで、影響力を持ってグループを動かしている。このように、リスクを恐れすぎない気概のあるリーダーがいると、一緒に仕事をしていて面白いですし、物事がより動かしやすいのだろうなと思います。

コンタクトセンターの生産性・EX・CX向上で生成AIが活路に。CXソリューションのグローバルリーダー・Avayaとモビルスが対談【後編】へ続く