顧客接点における「ノンボイス化」「自動化」「お問い合わせ導線の改善」など、「お問い合わせのエフォートレス化」プロジェクトに取り組む、株式会社ベネッセコーポレーションと、顧客業務のサポートソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社の対談企画、第一弾です。

ベネッセコーポレーションにて、コンタクトセンターを始め顧客接点全般を横断的に担う、校外学習カンパニー マーケティング開発本部 副本部長 境 和輝 氏をゲストに迎え、プロジェクトの背景や狙い、顧客接点における課題や取り組み、今後の展望などについて、モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏が聞きました。

前編・後編に分けてお届けします。

前編では、コロナ禍における顧客サポート・顧客接点の変化、直面する顧客接点の課題や取り組み、中長期的に取り組みたい施策についてお話いただいています。

後編はこちら!
ベネッセが描く、問い合わせのエフォートレス化:第一弾<後編>~チャットで安全に本人確認ができると何が変わるのか?~


対談メンバー

株式会社ベネッセコーポレーション
校外学習カンパニー マーケティング開発本部 副本部長 境 和輝 氏

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏


目次


対談動画


<コロナ禍での顧客接点の変化>

大きな変化はない?在宅オペレーションやテクノロジーの活用は進んだのか

石井

2021~2022年におけるコロナ禍では、顧客接点・顧客サポートを取り巻く環境はどのような変化があったでしょうか?ユーザー側の意識やサービス提供側の意識など、2021年と比べてどう変わってきたのでしょうか?

境氏

働く環境においてはオンライン化や、在宅ワークが進んできていますが、顧客接点・サポートにおいては、あまり変わっていないと思います。2020年にコロナで学校が休校になり、その直後にオンライン学習が一気に広がりましたが、その後どこまで拡大したのかと言われると、実はそれほど広がっていない印象です。

顧客接点・サポートとして、映像通話やリアルなタッチポイントでのテクノロジーが進んだ面もありますが、サービスとして、弊社も他社も含めて思っていたより変化はなかったと思います。

石井

他の企業さんの話を聞いても、在宅オペレーション一つとっても障壁があり、そこまで進まなかった印象です。ただ、進んだところは進んだかなと。

ベネッセコーポレーション 境氏。
マーケティング開発本部 副本部長として、入会検討前から入会後のアフターケアまで、カスタマージャーニーの全般における顧客接点について管轄している。

境氏

在宅オペレーションについては、他社の事例も聞きましたが、急ピッチで立ち上げて一年かけてフローを作った事例はありますよね。ただ、コンタクトセンターのオペレータがセンターにいるか在宅でやっているか、お客さま側からするとあまり変わっていません。そういう意味では変化はなく、変わらずできたことはある意味すごいことだと思います。

石井

2020年6月、7月のコロナ初期のパニックのときは、各センターが運営できない状況でセンターを閉じた時期もありました。あのフェーズを乗り越えて、「ここまでなら在宅対応ができる」「電話対応をあきらめてメール対応のみに切り替える」など工夫をして乗り越えて落ち着きましたよね。

境氏

ノンボイス比率は上がっているのかもしれないですね。
在宅対応で、対話オペレーションで対応する難しさはあるので、他社の事例で聞いた中でも、ノンボイス領域が多かった気がします。


<ベネッセが直面する顧客接点の課題>

避けられない繁閑差。2.5倍のコールボリュームの差をどう解消できるか?

石井

今回ご一緒させていただいているプロジェクトでは、「本人確認業務をどうノンボイス化(チャット対応)するか」が、取り組みの中心になっていますが、これも踏まえて、ベネッセさんが直面している顧客接点の課題や取り組んでいきたいポイントはどのあたりですか?

境氏

大きな課題に関して言えば、うちのサービスの大きなボトルネックは、繁閑差です。毎年3月から4月は、お問い合わせや対応件数が爆発的に跳ね上がり、平常時期と比べて2.5倍くらいのコールボリュームになります。

繁忙時に混雑を解消するために、電話以外のチャネルの活用などを、突き詰めていきたいです。

石井

繫閑差は変えられないとすると、「これまで通りの電話を中心に対応するのか?電話以外のチャネルを活用するのか?」とチャネルの検討のほか、「人でやるのか、自動化するのか」の検討があると思います。

境氏

着任した当初、繫閑差を解消するために最初に取り組んだのが自動化でした。「FAQで自己解決してもらう」、「手続きもWebのフォームで完結してもらう」方法を考えていました。

これは、お客さま側からすると、ベネッセが「電話をかけずに自分で解決してください」という受け皿を用意しているようなものです。そのため、「お客さまにとって本当に利便性が高いのか?」「“サービス”という観点ではどうなのか?」と課題も残りました。お客さまにとって利便性の高い、「”繁忙期”など企業側の都合に左右されない安心してご利用いただけるサービス」をどれだけ増やせるかは課題です。

チャットはお客さまも”ほかの事をしながら”お問い合わせができる

モビルス代表取締役社長 石井。
ソニー株式会社にて11年間ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。2014年モビルスに参画。受託開発中心のビジネスから業態チェンジをし、企業のコンタクトセンターや自治体向けに製品の提供、導入支援を行っている。

石井

以前から境さんがおっしゃっている「提供側のロジックではなく、お客さま側が何を求めているか」が肝になりますね。

繁忙期の中でも最初の時期と、新学期がスタートした4月では、お問い合わせで聞かれることが違ってきますよね。お問い合わせの全体ボリュームも多く、問合わせの内容まで変わると大変かと思います。

境氏

コンタクトリーズンの内容によってオペレータのスキルセットも変わります。人員配置の比率も変動させないといけません。繁忙期はオペレータの数を増やしますが、人を集めるのも大変です。習熟度を高めるためどう育てるか、教育面でもコストがかかります。電話だと待ち時間がなく、リアルタイムのコミュニケーションなので新人オペレータにはハードルが高いのです。

石井

その中でノンボイスのチャネルは、繁忙期の対応という意味では効率的なのでしょうか。

境氏

そうです。だから突き詰めたい。一人のお客さまの対応をする際、電話だと1on1だが、チャットだと複数名同時対応ができるので、生産性が上がります。

ノンボイスの対応は電話よりリアルタイム性を求められることが少ないです。内容を調べて返信するまでのタイムラグに余裕があります。チャットの場合は、リアルタイムでの返信が望ましいですが、極端な話、翌日に返事しますと一報をいれて翌日回答でも、内容によってはお待ちいただけます。

石井

お客さまも”ほかの事をしながら”お問い合わせしているので、返事が来るのに時間かかることもありますよね。

境氏

「電話が繋がらないときは、発信したまま繋がるまで置いて待っている」という話を聞いたこともあります。そこまでお待たせするのは申し訳ないです。チャットだと、聞きたいことを送ったら返事が来るまで放置して、ほかのことができる。例えば、小さいお子様の世話をしながら、合間で返信することもできます。チャットは、お客さまの利便性が高まることに繋がると思います。


<中長期に取り組みたいテーマ①>

働き手・お客さま双方にプラスになる「在宅オペレーション」

石井

繁忙期の対応が一つのテーマだと思いますが、中長期的に考えたとき、取り組んでいきたいテーマはありますか?

境氏

ノンボイス化を進めたいもう一つの背景は、在宅オペレーションの観点です。

コロナが始まった直後、ベネッセはセキュリティ基準が高すぎて、お客さま情報を在宅で取り扱うことができず、在宅オペレーションができませんでした。

在宅のオペレーションでもチャットなどのノンボイスだと、返信前の確認もでき、品質も維持しやすいです。お客さま情報の取り扱いについても、セキュリティ上の問題もクリアして実現できそうだと考えています。

コロナは完全に収束していませんが、昨年と比べて人の行動も変わってきています。オペレータの採用についても、一時期、飲食業界から流れてきた求職者も、飲食業界の復活に伴い戻っているので、再び採用が難しくなる予兆があります。採用の難しさは、再び課題になってくると思います。採用の面でも多様な働き方をできることはプラスになるので、在宅オペレーションができることは重要です。そこでノンボイスは活用しやすいチャネルだと思って取り組んでいます。

石井

在宅オペレーションの課題はベネッセさんだけでなく、ほかの企業さんでも非常に多いです。在宅オペレーションのメリットは、働く方の働きやすさ、が一番大きいですか?

境氏

そこが一番大きいです。繫閑差の対応としても、人をどう確保するか、どう長い期間従事してもらえるかでスキルの習熟度も変わってきます。働く人にとっても良い環境になり、高い品質水準でサービスを提供できればお客さまにとっても良い循環になると思います。

石井

在宅オペレーションを進めるにあたり、ボトルネックになっているのは情報セキュリティですか?情報セキュリティ、対応品質の維持、労務管理あたりは他社からも上がってくる三大テーマですね。

境氏

最大のボトルネックは情報セキュリティです。今回、モビルスさんの「Secure Path」導入で、チャットでもセキュアな環境で本人確認対応ができるようになったことは、大きな前進でした。お問い合わせ対応だけでなく手続き対応に進めるかは大きな壁だったのです。そこを突破できました。「Secure Path」のオペレーションを、在宅対応まで広げていけると、在宅オペレーションのやり方がかなり変わると考えています。


<中長期に取り組みたいテーマ②>

お問合わせは手間。しかしゼロにはできない「手間」をどれだけ減らせるか

石井

ほかに中期的に取り組んでいきたいテーマはありますか?

境氏

顧客サービスにおいてずっと根底に掲げてきたテーマが、「エフォートレス」です。いかにお客さまの手間をなくせるか。顧客サービスといってもお問い合わせなので、手続きや質問をしていただくことは、お客さまに手間をかけてしまっているのです。

本当は我々が届けている商品・サービスに何の疑問も質問もなく使っていただき、満足いただければそれが一番です。ですが、「使い方が分からない」、「壊れた」、「教材が届かない」などいろんな質問が出るのでお問い合わせが発生しています。それ自体、手間と捉えるべきだという考え方があります。

そもそもお問い合わせをゼロにできるかでいうと、事業的な命題になります。ゼロにはできないけど、手間をかけさせてしまう部分の手間をどれだけ下げられるか。何か困ったことが起きた、聞きたいことがある、質問したいことがあるときに、迷わずにすぐに聞きたいことが聞ける。知りたいことが知れる。手続きがすぐできる。ということに近づけていけるか、戦略方針としてはずっと変わらず取り組んでいることです。

石井

「エフォートレス」と考えたとき、最初に来るのがお問い合わせをさせないというポイントだとすると、ここの観点ではどういう取り組みをしていますか?

境氏

大きくは二つです。一つは、お客さまが自分で自己解決できるように、FAQを整え分かりやすく、たどり着きやすくし、電話番号にたどり着く前に解決できるようにすることです。

もう一つは、お問い合わせいただかなくても済むようにする観点から、お客さまから一度いただいた質問を二度と発生させないために、商品・サービスの事業改善をしていくこと、VOC(Voice of customer)の活用が大きなテーマです。

「お客さまによってちがうベストな手段」にたどり着く導線設計

石井

問合せが発生するときに一番エフォートレスになることを考えると、「お客さまの状況はどうか」「どんな問合せ内容か」で、電話が良い場合、チャットが良い場合、自動対応が良い場合など変わってくると思います。

お客さまがどうコンタクトしてくるか、導線が非常に重要になると思いますが、このあたりの取り組みはどうお考えですか?

境氏

おっしゃる通り、お客さまによって知りたいことやお問い合わせの際の状況が異なります。例えば、幼児のお母さまが、「小さいお子様の世話をしている最中に困ったことがあり、今すぐ知りたい」という場合と、ある程度学齢が進んで、「来月の定期テストに対してどう教材を使えばいいか」「受験に向けて長期スパンで相談したい」という場合では、状況が全く違います。

家の電話とスマホでは、お問い合わせをする前の行動も変わります。スマホならば電話をかける前に、電話番号を調べるために検索をする場合が多いです。ここにも手間が発生しています。検索のアクションはしてもらわざるを得ないですが、そのときにすぐに解決に導けるような導線をいかに作れるかを考える必要があります。
電話番号を調べる前にFAQで解決できるならその方が良いです。チャット、メール、電話とチャネルが複数あるときに、今、スマホを手にしているお客さまにとって一番良いチャネルは何か、選択肢が分かりやすいことが重要です。そこに「このお問い合わせならこのチャネルがおすすめ、すぐ解決します」と、レコメンドと共に導線を整備できるか。まだまだ改善する余地があるところです。


後編につづきます
ベネッセが描く、問い合わせのエフォートレス化:第一弾<後編>~チャットで安全に本人確認ができると何が変わるのか?~