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様々なSaaSやシステムへの投資が検討される中で、企業がユーザーに提供するサポートチャネルが拡大(マルチチャネル化)してきました。例えば、「よくあるお問い合わせと回答をWEBに集約しFAQシステムを導入、さらにそこで使う内容を教師データとして拡充しチャットボットを設置」。「電話チャネルでの自動化を見越してボイスボットで自動対応をしながら、有人対応でもチャット・メール・電話などいろんな導線を用意する」などなど、コンタクトセンターのマルチチャネル化のバリエーションは多岐に渡っています。

ただし、 「自社にとって適切な問い合わせチャネルは何から整備すればいいのか?」 「チャネルを複数増やしたが十分活用されるのか?」「チャネルを増やして顧客労力の軽減、センターの工数削減になっているのか?」などという疑問を持っている顧客サポートのご担当者の声も少なくはありません。

今日のコラムでは今一度、簡単に「各問い合わせチャネルとその特性の整理」をしつつ、注意したいポイントにも少し触れてみたいと思います。

各チャネルへの問い合わせ傾向と「電話集中」に伴う顧客体験の損失

現在、企業へのお問い合わせはほぼ電話に集中し、8~9割が電話経由という企業もまだまだ多くあります。モビルスが実施した「お客様窓口の利用実態調査2022」では以下グラフのような結果になっており、他のチャネル活用も増えてはいますがやはり電話が多くを占めています。

まずWEBや書類、郵送物に記載のお客さま窓口番号に電話し、一度WEBサイトでFAQなどを調べた際に「自己解決」できない多くの顧客もオペレーターに電話をかけています。顧客の属性や問い合わせ内容次第ですが、一定数の層はそもそもWEBでは調べず、まず電話をしてしまいますし、WEBで事前に調べる顧客層も「分からない」場合はWEBやどこかで電話番号を確認した後にコンタクトセンターに電話します。自己解決に至る層もいますが、解決でなければ結局「電話してオペレータに聞いてしまおう」と電話をかけます。その結果、問い合わせ数は電話チャネルに集中してしまい「電話がつながらない」「待たされる」ため、顧客体験が損なわれてしまうのです。電話の使用比率は高齢層になるほど増加する傾向もあります。

マルチチャネル化への期待と各チャネルの整理

そこで、複数のチャネルを設けてサポート窓口を提供すれば、顧客がより利便性を上げて問い合わせできるようになり、電話への一極集中をおさえながら、顧客体験を損なわないコミュニケーションが期待できます。ここで以下に、各問い合わせチャネルの特徴 を簡単に整理して見ましょう。

顧客サポートにおける各対応チャネル

■ オペレータチャットサポート(有人チャット)
チャットボットでは解決できない時にきめ細やかな顧客対応ができる。Web・LINEによる有人チャットサポート。解決までの所要時間は1日以内が多く、チャットボットよりも正確な回答が可能。オペレータ側でも同時に複数の問い合わせ対応をしながらサポートの費用対効果を上げられる。

■ チャットボット
手続きの自動受付、FAQの自動回答など人が対応しなくてもよい画一的な問い合わせに対応できる。シナリオ型、AI型それぞれの得意不得意に応じて自動応答し、CRMなどと連携することで処理も自動化可能。解決までの所要時間は1日以内が多いが、特定の問い合わせには正確に対応できないケースもあるため、複数回の問いかけなど往復は増える可能性もある。

■ FAQ
よくある質問としての一覧整理が可能。キーワード検索からの条件一致で回答し、ヒットしづらい場合でも類似の質問をサジェストしたりできる。FAQ内では回答だけでなく、製品やサービスのご案内も可能。よくある質問と回答を網羅していればいいが、自己解決しない場合は別チャネルへ移動するか離脱される。
(※ FAQについては こちらの過去記事 もご参考ください)

■ 会員専用ページ
自社サービスに会員IDなどを発行している場合、会員専用ページで契約情報や顧客情報の再確認、変更手続きなどが可能。別途で専用サイトの立ち上げと顧客情報管理が必要だが、パーソナライズされた情報を確認できる点で個々の顧客に沿っている。画一的な情報でも、会員専用のクローズドな場所に情報を載せられるメリットや、場合によってはコミュニティ化してテックタッチなサポート体制を実現できる可能性がある。

■ エントリーフォーム (≒ メールサポート)
問い合わせ専用のメールアドレス通知を伴う、企業のサポートサイト上に記載された問い合わせ用WEBフォーム。メールにコミュニケーションが移ると、電話やチャットよりは往復に時間がかかるため即時性は薄くなる。テキストコミュニケーションのリテラシーは必要になるが、即時性がない回答では在宅サポートにも応用可能。

■ 電話サポート(電話オペレータ)
オペレータとリアルタイムで1:1の対応を音声でできるため、問い合わせチャネルとしてはここに集中する。音声IVRを用いて、製品やサービスなどお問い合わせカテゴリーごとにPUSH番号で対応窓口を分割するケースがある。顧客と直接対峙できるため最も丁寧な対応が可能だが、図や写真を伴う説明の場合はチャットの方が便利なケースもある。

 ボイスボット対応(音声ボット)
電話の自動応答による申込み受付など、または電話注文・申込・依頼・問い合わせなどの自動受付・処理。
(※ ボイスボットについては これらの過去記事 もご参考ください)

以上に加えて、これらのチャネルを顧客側が扱うUI(ユーザーインターフェース)としては、「LINE」などのグローバルSNSアプリ上の場合もあれば、PCあるいはスマホのブラウザやアプリ、電話でも固定電話か携帯電話など組み合わせ上では多岐に渡ります。特に全年代に活用されている「LINE」は意外にも高齢の顧客層に対しても有効であり、日常使いのシーンの延長で双方向のコミュニケーションを設計することができます。

(※ LINEの利用実態については こちらの過去記事 もご参考ください )

各チャネルの整備後は、顧客対応データの共通化と導線設計も大切

必要な各問い合わせチャネルを導入しローンチしたら、チャネルごとに担当者を配置し、対応チャネルを顧客側に周知、そしてセンターの体制を整えながら顧客対応を回していきます。その一方で「用意した新設チャネルに流入が少なく十分活用されない」「用意したチャネルでは対応ができない問い合わせがある(適切な問い合わせチャネルに導けていない)」「一個客が複数のチャネルから問い合わせをしてしまう」などのケースもあります。

その結果、「結局は電話からの問い合わせが多い状況が変わらない」「対応するオペレータを変えざるを得なく、顧客対応を別のチャネル(別のオペレータ)に上手く引き継げず、サポート内容が異なったり再び同じことを説明させたりなどで、顧客に不満を与えてしまう」という事態におちいってしまうこともあるのです。

「チャネル間で顧客情報や対応履歴が一元化」されていないと顧客体験を損なうデメリットにもなるので注意が必要です。例えば「メールで問い合わせをしたが返事が来ない。翌日に電話をかけたが、メールで問い合わせした内容がオペレータ側で把握されておらず適切な回答されなかった」と顧客の不満(場合によってはクレーム)になることもあります。このようにならないように、複数のチャネルを用意する際は、事前にどのチャネルでもできる限り均一な応対ができるように顧客対応データの統一化も事前に整備がなされなければいけません。

また「マルチチャネルの選択肢の整備」と整備した各チャネルが活用されるよう事前の 導線設計 も大切です。Web、LINE、アプリ、電話などから、お問い合わせの内容(顧客が実現したいこと)に応じた各チャネルへの誘導を行うのです。「導線設計」においてはコンタクトリーズン (コールリーズン)に基づいて、的確なチャネルへ顧客を誘導することで顧客側の理解度や利便性も向上しますし、センター側でも呼量変動にも柔軟に対応することができます。それゆえ必ずしも『電話対応の全てをノンボイスへ誘導する事』が正解ではなく、あくまでも顧客体験を向上させること、顧客労力を低減すること、などが目標となると自社事業にとっても良いでしょう。

コンタクトリーズンに応じた各チャネルへの振り分け「どこまでやるべきか」の整理も大切

従来では担当者の現場の「肌感覚」や「ツール単位での導入のしやすさ」から、
問い合わせチャネルの適用範囲を検討する際に『問い合わせの20%をチャットボット、残りの10%をボイスボット』と設計して振り分けがちでした。ただ、大切なのは『センターに寄せられる問い合わせ全体をコンタクトリーズンごとに分解・分析』し、上で説明した顧客体験を損なわないサポートのために『コンタクトリーズン別に最適なチャネルを検討して振り分ける』ことです。

自動化によって人員削減や省力化につながる一方で、顧客体験を重視するならばチャットボットやWEBのみでなく、人のオペレータが丁寧に対応するという電話や有人チャットのチャネルもしっかり残して全体設計すべきでしょう。※ たとえば、損害保険会社の自動車事故の対応受付の場合、事故直後は人がしっかり対応する必要があると思います。

この時に、オペレーションの順番に沿ってやるべきことを考えていくことも大切です。まずは特定コンタクトリーズンまたは複数コンタクトリーズンをグループ化したら、ボイスの自動化はできるか?チャット対応すべきか?対話ボットで対応できるか?という分岐ごとにコンタクトリーズンと対応チャネルを区分けしていくと良いでしょう。

チャネルを増やしても、全てのチャネルから選べると問い合わせ内容にマッチしていないチャネルを選んだ際に顧客側で二度手間になったり、解決までに時間を要することがあるため、マルチチャネル化とは逆行しますが、場合によっては企業側で「増やし過ぎたチャネルを絞りこんでしまう」ことも大切です。また単価の安い製品を提供している企業の場合、顧客対応1件あたりのコストの高い電話応対では利益が割に合わなくなってしまうこともあります。そのため、メールやチャットのみで受け付けて、特定のコンタクトリーズンには電話対応をしないと割り切ることも必要かもしれません。

自社のカスタマーサポートの対応チャネルを整理してみよう

今回の記事では、カスタマーサポートの対応チャネルについて再整理をしてきました。ためしに一度、自社で保有するチャネルに寄せられる問い合わせ数や、その対応内容、対応上の課題やKPIなどを整理してみましょう。全体を整理することで課題や改善点も見えてくるかもしれません。 現状運用の全体整理に必要なKPI分析やコミュニケーションの改善などと踏まえた「コンタクトセンターの全体設計」がチャネルの活用と顧客サポートの充実のために必要となってきます。

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