コンタクトセンターの長年にわたる課題、生産性の向上。生成AIの登場は、課題解決への期待に応えることができるのでしょうか。コンタクトセンターの経営思想やCX、生成AIへの取り組みにおける日本の現在地や今後求められる視点とはー。
2024年1月19日、コンタクトセンターCRMのリーディングカンパニーであるテクマトリックス株式会社とコンタクトセンター向けCXソリューションを開発・提供するモビルス株式会社は、資本業務提携を締結しました。
テクマトリックス株式会社 取締役 常務執行役員 アプリケーション・サービス事業部門長 鈴木 猛司 氏と、モビルス株式会社 代表取締役社長-石井 智宏が対談し、業務提携締結に至った背景や今後の展望、2024年の業界トレンドから海外と日本でのCXや生成AIの取り組み状況の違いまで、たっぷりと語り尽くしていただきました。今回は後編をお届けいたします。前編はこちら。
【前編】
【後編】
コンタクトセンターはVOCの宝庫。生成AI登場で分析や活用が加速する
ー昨今経営テーマになっている「CX」に関するお二人の考えをお聞かせください。
石井:
コンタクトセンターはなかなかコストセンターから抜け出せず、トップマネジメントから見た地位も低く経営上の最重要事項に上がってこないのです。コスト削減の話は出てもバリューアップに関する話は出てきません。コストセンターではなく、CXが企業のブランディングになるのだと伝えていきたいです。この辺り、鈴木さんはどう見ていますか?
鈴木氏:
コンタクトセンターは、苦情受付係から始まっています。昔は相手が落ち着くまで話を聞き、謝り続ける役割でしたが、今は苦情受付を主目的と捉えているセンターはありません。
もっと前向きにお客さまに満足を与えようとか、不満を持って連絡をしてきた人も最終的には好感度を与えてクローズしようとか、事業に貢献したいという意識が現場はものすごく強く意識が変わってきています。
少し前まではVOC(Voice of Customer)が主流のテーマで、「お客さまの声を企業活動に生かしていきましょう」ということには取り組まれてきていました。VOCという言葉から発展したのがCXだと思っています。お客さまの声だけでなく体験がどうだったか、ということをコンタクトセンターではヒアリングし、察するということが求められています。
かつては営業本部にお客さま相談室があり、お客さまからクレームが営業にかかってくると「お客さま相談室」に回していました。
それが今は、お客さまの声やCXがどうであったかをしっかりヒアリングするために、マーケティング配下や社長直轄に配置し、経営にダイレクトに届くようにしているところもあります。営業配下だとトップに伝わるときはオブラートに包まれて実態は伝わりにくいですが、経営に直接届く配置だともっと生の声を聞かせられると思います。社長へ直接レポートしたり、管理職全員へメールする企業もあるほどです。VOCやCXへの感度、認識は確実に高まっていると感じています。
コンタクトセンターには膨大な数のお客さまとの接触記録がありますが、これまで積極活用してこなかったのです。その蓄積が宝だということも大体の人は分かっています。「これらをどう使うか」がこれから本格的に始まると思います。ここで生成AIを使って分析していく動きが加速していくでしょう。
データがないと分析できませんが、コンタクトセンターにはデータがあるので、生成AIの活用を比較的始めやすい素地があります。そのため、コンタクトセンターは、弊社としてもVOC活用を提案できる最も近い場所にいると考えています。
弊社がVOCデータをお預かりしている量は、日本でトップクラスに入ります。お客さまへの提案や、弊社としての活用といったことがこれから取り組んでいくことです。
VOCの内容自体は完全に匿名化しており、お客さま固有の情報は何も分からない状態になっています。そのため、統計情報としてサービスを提供することもおそらくできるようになっていますし、モビルスさんのオペレーション支援AI「MooA®」※1と連携することも可能だと思います。
ー連携のお話がでましたが、今年、両社でどのような取り組みをしていくといった構想をお持ちですか?
石井:
コンタクトセンターでは、VOCをいかに社内で管理・活用するかというテーマは昔からありましたが、分析ができないため進んでいませんでした。カテゴライズしVOCを要約し、分析するのは生成AIの得意分野です。人だとどうしてもカテゴライズの仕方や登録内容などにブレが生じ、そのままだと使えないこともあるため、生成AIの登場によってようやくVOCを活用できる素地が出てきたと思います。
将来的には問い合わせの8割をAIが回答する世界が来るのではと予測しています。そのときに必要なナレッジを蓄積する場所として、CRMが最適だと思いますので、ぜひ連携して取り組んでいきたいところです。
鈴木氏:
VOCのデータがあることは非常にアドバンテージになります。このデータをいかに活用していくかの議論が、AIを使って加速していくことは間違いありません。そこがモビルスさんと連携していくところだと考えています。今後はコンタクトセンターの効率化や生産性向上を進めていくための取り組みが多くなると思います。
例えば、「FastAnswer2」※2と「Visual IVR」※3との連携で全体の効率化を大幅に向上させるとか、「MooA」との連携で要約の自動化などでオペレーターの後処理時間の短縮による効率化といった着手しやすいところから事例を作っていき、企業活動として数字にもしていきたいです。
次の段階では、今持っているデータをAIを使って、お客さまに利益還元できるビジネスモデルを見つけられるとブレイクスルーを起こせると思うので、模索していきたいところです。弊社にもお客さまにもVOCデータの蓄積があり、生成AIというテクノロジーもあるという環境は整っています。その上で何ができるか、考えていくベースはできています。効率化だけではない何かを生み出していきたいです。
CXは企業のブランディングに直結する。効率化や生産性向上のその先へ
ー最後に、パートナー・クライアント企業へのメッセージをいただければと思います。
石井:
弊社では今後リブランディングを予定していますが、先ほど鈴木さんもおっしゃっていたように、効率化や自動化、ノンボイス化というテーマからもう一歩先を提供していきたいと考えています。
コンタクトセンターにインバウンドで入ってくるVOCは、お客さまの声の一部でしかありません。声を上げないサイレントカスタマーをどう救うか?Amazonの書評欄やSNSでの炎上などが与えるインパクトにどう対応してくか、テーマにしていきたいところです。VOCをどう管理してプロアクティブ・プレディクティブに対応していくか、まだ日本の企業で取り組んでいるところはほぼないと思いますが、海外ではCCO(Chief Customer Officer)やCSO(Chief Sales Officer)の役員を中心に改革する風土が出来始めています。
日本はソリューションも企業風土もこれから醸成していくことになりますが、テクマトリックスさんと一緒に訴求して事例を作っていきたいです。
CXを企業広告や営業活動と同じく収益に直球でインパクトを与えるものだという意味を込めて「CX-Branding」を訴求していきたいと考えています。
鈴木氏:
日本市場の労働環境が厳しくなってくることは間違いありません。コンタクトセンターで働く人がどんどん減っていくので、効率化、生産性向上は必須です。そこに対して、テクマトリックスはソリューションを提供していきます。
生産性向上に向けて取り組む中で、CX全体を視野に入れて手を組める人をもっと増やしていきたいと思っています。
モビルスさんだけでなく他の企業や人材とも組み、Win-Winの関係を進めていき、お客さまのためになることを実現していきます。
CRMのアプリだけ見てもまだ作らないといけないところが山ほどあり、人の採用もまだ必要な状況です。このペースでは陣地拡大が広がらず、網羅性はなかなか上がりません。コンタクトセンターのメンタルヘルスも重要な問題です。そこに対するケアも大きな課題です。その課題解決になる企業とも手を組んでいきたいです。
テクマトリックスがめざすものは、生産性を上げることにとどまらず生産性向上のその先を考えていくことです。
※1:「MooA」は、モビルスが提供する、生成AIや独自のAI技術を取り入れた、オペレーターの対応業務の負担を軽減し、対応業務全体の短縮化と、VOCの活用を促進するオペレーション支援AIです。
※2:「FastAnswer2」は、テクマトリックスが提供する、FAQを一元的に管理し、問合せ件数の削減やコンタクトセンター(コールセンター)内のナレッジ活用を支援するFAQナレッジシステムです。
※3:「Visual IVR」は、モビルスが提供する、電話、Webチャット、LINE、チャットボット、ボイスボット(電話自動応答)など、複数ある問い合わせチャネルを一覧で表示、お客さまの目的や受電状況に応じて最適な窓口へ誘導できるシステムです。
【前編】コンタクトセンターのCXや生成AIの取り組み、海外と日本でどう違う?CRMのリーディングカンパニーのテクマトリックスとモビルスが対談へ戻る