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急速な進化を遂げる生成AIは、これからのカスタマーサポートとCXにどのような影響をもたらすのでしょうか。

今回、国内のみならずグローバルBPOベンダーとしてもトップクラスを誇るトランスコスモス株式会社 代表取締役共同社長 神谷 健志氏と、顧客サポート業務のソリューションを開発・提供するモビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏による対談が実現。

海外企業の動向にも詳しい両者に、国内におけるCXの課題と諸外国の事例を交えながら、生成AIの実用に向けた取り組みやリスク対応策、今後の展望などについてお話しいただきました。前編、後編の2回にわたってお届けします。

【前編】
・2023年を象徴する「コロナ禍後の社会」と「技術の進化」
・対ユーザーのAI対応実現には、ナレッジの整理が肝要

【後編】
・自動化へのシフトスピードやCX改善成果の捉え方における、日本と海外の差とは
・「成功事例を作り続け、業界を変える」。両社の協力を強めて企業の成長に尽力

■対談メンバー

トランスコスモス株式会社 代表取締役共同社長 神谷 健志

1998年東京大学院卒、2005年ペンシルベニア大学ウォートンMBA取得。大学卒業後NTTコミュニケーションズにて通信エンジニアとして勤務。MBA取得後、米系戦略コンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニーにおいて10年に亘り通信・ハイテク・小売並びにプライベート・エクイティなどのクライアントに向け全社戦略、パフォーマンス改善、合併統合活動等のプロジェクトを実施。

2015年トランスコスモスに参画、経営戦略本部長として、労働集約型ビジネスモデルから転換し「Digital Transformation Partner」を目指す全社戦略の立案と実行を推進。2023年4月より代表取締役共同社長。

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井 智宏

1998年 早稲田大学卒、2009年 ペンシルベニア大学ウォートンMBA取得。ソニー株式会社にて11年間ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。MBA取得後、国内投資ファンドにて執行役員。その後ソニー会長率いるクオンタムリープ株式会社のエグゼクティブパートナーとして多数の日本企業の海外進出を実行支援。

2014年モビルスに参画。受託開発中心のビジネスから業態チェンジをし、主力製品「MOBI AGENT」や「MOBI BOT」「MOBI VOICE」などをリリース。企業のコンタクトセンターや自治体向けに製品の提供、導入支援を行っている。

2023年を象徴する「コロナ禍後の社会」と「技術の進化」

―最初に、2023年はトランスコスモスさんにとってどのような年だったでしょうか?1年を振り返った神谷様の所感をお聞かせください。

インタビュー様子

神谷氏:
当社にとって2023年は、次の3カ年に向けて策定した新しい中期経営計画の初年度だったのですが、1年目から想定と全然違う事象がいろいろと起きました。コロナ禍中に作った中計であり、新型コロナウイルスが5類に移行した後の世界が完全に予想できるものではなかったという理由もありますし、あとはやはり、本日の議題でもある生成AIの進化や取り巻く環境の変化も大きく影響しています。

2022年の終わり頃からChatGPTが世間の話題となり始め、そこからわずか1年ほどでこれほどの存在となるとは、おそらく大多数の人が想像すらしていなかったでしょう。それだけ目まぐるしい変化が起きているということです。コロナ禍後の社会の動向と、技術の進化の大きく2つの要因で、3カ年計画の想定との違いが見られた、そんな1年でした。

―「想定との違い」がポジティブに出たところと、ネガティブに出たところを教えていただけますか?

神谷氏:
ポジティブな面で言うと、無人対応や自動化を進めなければいけないという意識が、当社のお客様企業の間でも圧倒的に高まったことです。

一方のネガティブな面は、そうは言ってもやはり各社とも業績や先行きが読めない不安もあるため、一気に投資をしようとしているかというと、一様ではないことが挙げられます。先日とある講演にて、「コロナ禍でIT投資・デジタル投資を増やした企業は実質4割程度で、増やした企業と減らした企業は明確に分かれている」というお話をお聞きしましたが、まさにそのような話だと思います。

投資によってデジタルシフトを加速する企業もあれば、コロナ禍でさまざまな活動が抑制されてコスト削減に向かわざるを得なくなり、その流れを引きずっている企業もあります。世の中全体としては、まだ若干抑制の風潮が強いように感じますが、それも日々変わっています。当社としても、今はコロナ禍中に撒いた種が、いろんな芽を出し始めている状況だと捉えています。

インタビュー様子

石井:
2023年4月からが中計の1年目ということですが、中計を考えている時期は、コロナ禍の収まり方や自治体の動きといった今後の情勢を、どう読まれていたのでしょうか?

神谷氏:
もちろんコロナ禍は収束に向かいますし、その中で必要とされていた自治体を中心とした様々な業務のニーズが減っていくだろうということは想定していました。

その一方で、コロナ禍とは関係なく、日本は人口減少時代に突入しているわけですし、加えてテクノロジーはどんどん進化しているので、デジタルシフトは引き続き進むと考えていました。ですが、日本はDXを推し進めなければいけないとずっと言い続けていながらも、現状はなかなかうまく進んでいないように感じます。

様々なデジタルテクノロジーを導入してみても、なかなか実態としてビジネスを変革できるような成果が見えてこず頓挫してしまう。必要性があるとなんとなく分かっていても、大きな成功体験がないため、進めようにも引っ掛かる部分があるのだろうと思います。

石井:
DXという言葉が賑わっているように見えて、実態はそこまでではないのかもしれないですね。

神谷氏:
そうなんです。当社は2017年の早い時期から「Global Digital Transformation Partner」を掲げて、デジタル技術の活用によるお客様企業の変革を支援しているのですが、まだまだこれからだというところです。

石井:
私たちも基本的には貴社と同じ感覚を持っています。コロナ禍に対する不安はあったものの、長年大きな変化がなかった自治体もコロナ対応が急務となり、当社のソリューションの導入・利用は加速しました。我々の業界としては、相当な追い風だったと思います。もちろん、コロナ禍による一過性の需要の波だと重々認識していたので、おのずと落ち着いてくるだろうと思っていましたが、引き続きノンボイスシフトはじわじわと進んできています。

ところが、生成AIのインパクトはあまりにも強く、「有人対応でもいいから、チャネルをもっと多角化してノンボイスにシフトしよう」としていた企業までもが、最近は少し幻想めいた様子で「これって、人の手でやらなくてもよくなるんじゃないの?」と、一旦足踏みしているトーンを感じます。

その一方で、「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス」(主催:株式会社リックテレコム)の出展者の傾向を見ると、以前はボイスボットをメインに手掛ける企業が当社を含めた3~4社と、大手の大規模システムが数個ある程度だったのが、2023年は至る所で「ボイスボットを開始しました」とアピールしている状況となっていたんです。

これまで自動化しづらかった電話対応や音声の領域が、生成AIの後押しもあって自動化への期待値が相当高まっているなと実感しましたし、生成AIがどんなスピードで何ができるようになっていくのかをしっかり追随することが、私たちの事業にとってものすごく重要な時期に来ていると思いました。

また、BPO各社から事業モデルを全面的に改革する旨のメッセージが出始めた印象があるので、2024年は業界全体が大きく変わる1年になるのではないかと感じますね。

神谷氏:
そうですね。「ボイスか、ノンボイスか?」を考えると、おそらく今後も日本はボイスの比率が極端に減らないと言いますか、ボイスが残っていく部分は必ずあるでしょう。なので、チャネルを変えることを前提とするのではなく、チャネルは変えずとも生成AIを使いながら進化させる動きも活発になると考えられますね。

石井:
そう思います。ただ、そうは言っても、「電話をしたくない」というユーザー層は増えてきていると思うのです。そういった層に対しては、自動化するか否かはさて置き、ユーザー視点でチャネルをきっちりと構築していく必要性もあるのではないかと考えています。

ある化粧品メーカーの事例ですが、その企業はカスタマーサポート用にノンボイスのチャネルも一応設けてはいたものの、そちらにはあまり問い合わせが入っていなかったため、「お客様は電話を求めている」と思い込み、電話対応を徹底する施策を取っていました。

しかしある時、全顧客と電話をかけてきている顧客の年齢構成を比較したときのギャップに啞然としたそうなのです。何もコンタクトしてきていない顧客層は、何か不満があった際も「電話しかないなら、このサービスは捨てよう」という判断に至っている可能性が非常に高いと考えられ、今はノンボイスの対応にも力を入れるようになられています。

企業の想定と実態との乖離は、さまざまなところで生じているのだろうと思いますね。

インタビュー様子

神谷氏:
その点に関しては、当社が毎年実施している「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」の2023-2024年版でも明確に表れています。調査の中で「今後なくなってもよいチャネル」は何かを尋ねたところ、消費者の2割が電話を「今後なくなってもよい」と回答し、トップとなっていました。

また、問題解決におけるチャネル利用の優先順位について消費者に尋ねたところ、まずはウェブサイトやSNSの検索で情報収集するという人が97%と圧倒的多数を占めました。その後は78%の人がなるべくウェブで自己解決を図り、それでもどうにもならなかったら電話やチャットなどの有人解決に移行するという流れになっています。

つまり、電話はかなり不満が募った状況の人が利用するチャネルと言えますし、CXの文脈で考えると、電話をかけてきてからの対応では、もうすでに遅いとも言えます。

出典:トランスコスモス「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2023-2024」

石井:
そもそもCXというものを、企業の中でどのレイヤーでのイシューとして捉えているかと考えると、日本はまだまだ非常に低いと感じるので、もっと意識を高めていきたいですよね。CXの改善を、トップマネージメントのイシューとして捉えてもらえるようにするには何をすべきか、とても難易度の高い課題に感じています。

神谷氏:
私も同感です。世の中にはさまざまなツールが登場していて、特にコスト削減につながるツールは効果が分かりやすく注目されがちですが、CXは削減どころかむしろ投資すべき領域であるはずです。CXをしっかり考えておられる企業は適切に投資されていると思いますが、どこに投資していいか分からなかったり、「無駄遣いではないか?」と懸念されたりしている企業があるのも事実です。

お客様企業がCXへの投資を事業成長への投資と捉えてこの領域への取り組みを進めて頂くことが大事ですので、そのための解を提示することが私たちの責任でもあると受け止めています。

インタビュー様子

石井:
例えばDXの場合はある種のバズワードになったと言いますか、「企業として変革しないといけない一大テーマだ」というメッセージ性が強く、CEO・COOクラスが率いて推し進めるべき課題だとイメージしやすかったと思います。しかし、CXと言うとまだまだ「コンタクトセンター」「おもてなし」といったように、企業全体で考えられていないケースが多いと見受けられます。

神谷さんがおっしゃる通り、CXはコストダウンではなく収益直結のテーマです。さらには今、新しいCXの在り方としてキーワードとなっている「Proactive CX」「Predictive CX」の世界を実現するために、積極的に投資をする動きが活性化するようになればいいですよね。

神谷氏:
私の前職のコンサルティング会社はNPSを発案した会社で、多くの企業に対してその導入と活用を手掛けていたのですが、NPSが上がれば、よりお客様が長く利用し、多く購入し、紹介もしてくださるという関係性が明らかになっています。つまり、NPSに対する投資は、財務的な成果につながるということです。

ですが、投資してからNPSが向上し、ファイナンシャルリターンが表れるまでには、どうしても時間差が生じてしまいます。そのため、CXの改善やNPSが収益に結び付くイメージが容易にはできないのではないかと思っています。

石井:
そうですよね。片や海外諸国では、コンサルティング会社などがCXと収益との関係性をデータで示すような動きが見られます。

神谷氏:
まさにそうですね。米国ではCLV(Customer Lifetime Value)などのユニットエコノミクス(顧客一人あたりの採算性)まで開示して、CX改善でしっかり収益を生み出そうとしている企業が多い様子を見ると、さすがだなと思います。日本はまだまだそうなっていませんが、見習うべきところは少なくないでしょうね。

対ユーザーのAI対応実現には、ナレッジの整理が肝要

神谷氏:
今日のこの対談の機会に、モビルスさんにぜひお伝えしたいことがありました。当社は、「お客様に感謝し、お客様の期待を超えるサービスを提供しよう」というサービスマインドを徹底するよう努めているのですが、これはモビルスさんのトップメッセージにある「つなぐ、こたえる、を超えていけ」と、大いに共通していると感じています。

「期待を超える」には、まず「期待に応える」というベースをクリアしていかなければいけませんが、NPSにおいても本当の意味でのロイヤルカスタマー、推奨者になって頂くには期待を超えなければなりません。モビルスさんも当社と同じ意思を持たれているのだろうなと思いました。

石井:
そう言っていただけて嬉しいです。「期待を超える」を実現していきたいですね。

今の神谷さんのお話を受けて、これまで何度か起きたチャットボットのブームが思い出されました。10年ほど前は「できないこともできる」という幻想の中でチャットボットが取り沙汰され、でもやっぱりできないからみんな失望してしまうというような現象が起きていましたよね。それは今起きている生成AIブームにも通じるところがあると思います。

それでも、テクノロジーの進化のスピードや技術的な驚きは10年前の比ではないと考えると、「今までできなかったことができるようになる=人々の期待値を超える」が現実味を帯びているようにも思うのです。

神谷氏:
そうですよね。テクノロジーによって誰もがそれをできるようになり、その先にある人間の創意工夫によって感動を生み出す――といった世界ですね。

石井:
はい。例えばコンタクトセンターの「繋がらない/待たされる問題」も、先ほどの「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」で出ていたように、消費者の望むウェブでの自己解決にはしっかりとテクノロジーを投入して、肝心な部分は人が行うようにすれば不満は解消していけると思うんです。

神谷氏:
それとあとは、やはり消費者の持つベーシックな期待も変わってきていると感じますよね。お客様は企業に対して、「こういう商品を買っていて、前回こういう意見を言った私だと当然分かっている」と思うようになっているからこそ、お客様がコンタクトをしてきたときに前回と同じことを聞いてしまうと、「また同じことを言わせるの?」と、大きな不満を生じさせかねません。このように、「企業は自分を分かってくれている」という消費者の期待値は間違いなく上がっています。

その辺を徹底するには人の手だけだと限界があるので、必ずやテクノロジーのサポートが必要となるでしょう。そういう意味でも、CXのベースをレベルアップさせなければいけないということです。

石井:
当社はこれまでノンボイスを訴求し続けてきて、さらには先ほどの貴社の調査結果のように、9割以上の消費者がまずはウェブから自己解決を図ろうとしているにもかかわらず、ユーザーが解決できる場所になかなかたどり着けない導線の課題も残っています。その背景には、日本企業でよくある「ウェブはマーケティングの担当で、CSが管轄していないから触りにくい」という風潮も、少しは影響している気がするのです。

ただその導線も、近い将来、生成AIが対ユーザーの応対である程度の裁量を持つときが来ると、現状のウェブサイトの構造自体が大きく変わって、今より良くなっているのではないかと思うのです。例えば、過去の対応履歴から推測した回答を最初から提示してあげたり、問い合わせ内容を大まかに入力するだけで回答できたりと、ユーザーがFAQを一生懸命探す必要はなくなるのではないかと。

神谷さんにぜひお伺いしたいのですが、生成AIがユーザーに応対する時代が来ると、今の問い合わせ総数のうち、AIによって解決する比率はどのくらいに達すると考えますか?

神谷氏:
かなり予想が難しいところではありますが、多くが自動化に置き換わっても、意外と人の応対が残る部分もあると考えています。私自身が電話で問い合わせるときを思い返してみても、「今の私は一般化されたFAQで解決できない特殊な状況にあるんだ!」となっているケースがほとんどです。その場合、権限や責任を持った人間のオペレーターがそれに寄り添った対処をするなどして、ようやく解決や納得につながるものなので、全てがAIに替わるわけではないだろうと。

ユーザーの納得を得る上で、人の感情に関わる部分も結構大事ですよね。AIでも感情にアプローチする応対の実現はチャレンジすべき世界だと思いますが、すぐには難しいのではないかと思っています。

ただ、逆のケースもあって、あまり詳しくないオペレーターが応対したときはかえって不満につながる懸念もあります。その点、「ルールや法律などを全て学習したAIによる結果がこちらです」と回答した方が、信頼感は高いかもしれません。AIによる解決の比率はシーン次第という回答になってしまいますが、石井さんはどう考えていますか?

石井:
私はいろいろな場所で「8割が自動化する」と言っています。2割が残る意図は、まさに神谷さんがおっしゃった通り、納得を引き出すための感情に関わる部分はマニュアルがないためAIに規定できず、人による応対が必要になるだろうということです。

ただし、「こういう事象に対しては、こう解決する」と、ナレッジの中に正解が規定できるものは、ほとんどの場合で人よりもAIの方が平均点の高い回答ができるようになってくると予想しています。

加えて、これまでは電話応対でも、オペレーターが会話の中からお客様の言いたいことや困っていることを汲み取る作業をしていましたが、徐々にAIでも精度高く、質問の肝を導き出せるようになってきています。仮にテキスト入力が苦手な高齢者も、「電話でもいいので困っていることを話してください」となると、UIとしてはAIを使うハードルが下がると思うのです。その観点から、8割が自動化するだろうと考えています。

多くの部分が自動で回答できるようになったときには、ユーザーが好きなチャネルを選べる環境が当たり前になり、今あるようなチャネルの議論自体がなくなっていくのではないかとも思っています。

神谷氏:
そうですね、チャネルの議論を超えた先を考えても、お客様をちゃんと理解して応対することが本質になるんでしょうね。

石井:
ちなみに、当社のクライアントの中にも、対ユーザーのAI対応の実施を目指して取り組んでいる企業はあります。ただ、技術サイドでは回答内容のサジェスト機能の精度アップを図ってある程度の道筋が見えてきていても、ナレッジの整理にまだまだ課題があるため、運用開始はまだ少し先になりそうます。当該製品とマニュアルのPDFを結び付ける情報が入っていなかったり、新旧のバージョンが混在していたりすると、AIは全てを平等に正しいものとして認識してしまうので、まずはこれらの既存のナレッジを整理しなければいけません。

また、こうした現状の課題から鑑みても、これから生成AIを活用していく前提では、ナレッジを分かりやすい形でAIに蓄積させるオペレーションが、とても重要になってくると思っています。

神谷氏:
結局のところ、AIを活用するにも、まずはナレッジ化や標準化をしてベースを整えておくことが大事ですよね。それはAI活用に限らず、DXがなかなか進まない一要因にも共通していると思いました。

当社はお客様対応ができるように“人”をトレーニングするビジネスをしてきたわけですが、AI活用の広がりは、当社にとってみるとトレーニングする対象が“人”から“AI”に置き換わっていく、という捉え方もできると思っています。人をトレーニングするためのノウハウが必要であるのと同様に、AIのトレーニングにも厳密なノウハウは必要で、そこはやはり人がやらざるを得ません。AIに学習させるための標準化と合わせて、トレーニングのノウハウも大事になってくると考えています。

石井:
現時点でのナレッジのベースはほぼテキストですが、ゆくゆくは画像・音声・動画までもがナレッジになると考えられます。そうなった場合に、従来のAIと生成AIとでは、コンタクトセンターにとって何が違い、どういうインパクトがあるのか――。そこに私は一つ持論があります。

人間のオペレーターであれば、お客様とのやり取りの中で自然と揺らぎが吸収できるところ、従来のチャットボットはひたすらQ(質問)とA(回答)の揺らぎを吸収する教師データを作り込まなければいけませんでした。ところが、生成AIは「最新版のマークが付いているマニュアルを読んでおいてね」と教育できるようになるので、ある意味では人のトレーニングと同じメソッドで行えるようになるのではないかと。

ただ、人間なら使えるナレッジと使えないナレッジの取捨選択をしたり、Excelの見方を自力で解読したりできますが、AIはまだそこまで機敏性が持てていないため、トレーニングの基礎となるナレッジが重要です。ナレッジの整理さえ十分にできていれば、AIがきちっと成長していけるようになることが、従来のAIと生成AIとの大きな変化点なのだろうと思っています。

神谷氏:
AIを上手く活用できる企業と、そうではない企業の差は、ロジカルかつ標準化された形でナレッジを整理できているか、そしてそのためのノウハウを持っているのか、そこに表れてくるということですね。

後編に続く。