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2024年1月18日、モビルス株式会社は「コンタクトセンター変革の現状と2024年の展望」をテーマに、オンラインセミナーを開催しました。Marketing Division 執行役員 柏原が登壇し、コンタクトセンター業界に大きなインパクトをもたらした生成AIの動向を始め、調査データや事例をもとに、2023年の業界動向の振り返りと、2024年の展望と予測される市場の変化についてお話しました。本記事では、セミナー内容を抜粋して紹介します。

■登壇者

モビルス株式会社 Marketing Division 執行役員 柏原 学

ソニーグループにてグローバルセールス、プロダクトマーケティング、商品企画、ポートフォリオプランニングを経験。
2016年モビルスに参画。現在はマーケティングの領域にてコンタクトセンター向けのCXデザイン設計提案を行う。

■目次

2023年のコンタクトセンター業界動向のまとめ

2023年のコンタクトセンター業界動向を振り返ると、大きく4つのことが言えます。一つ目は、コロナ禍の反動で人手不足が顕著になり、オペレーターの採用・育成・生産性向上が経営上の課題として捉えられていることです。

二つ目は、コンタクトセンター市場は、年5%の成長率で3年先も伸びる見込みが立っており引き続き緩やかに伸びていく状況です。ただし、売上構成の中でビジネスモデルの転換が求められています。

三つ目は、企業のITへの投資意欲は変わらず高く、在宅ワークの定着もありクラウド型CRM総市場は高い伸び率であることです。コールセンターシステムのクラウド化も2024年以降加速しクラウド市場を牽引していく見込みです。

四つ目は、2023年の生成AIの登場により、音声認識系ソリューションの優先度が高まっていることです。2024年から本格導入が始まっていきます。

次に、調査データや事例をもとに詳しく見ていきましょう。

オペレーターの採用・育成・生産性向上が深刻な課題

コンタクトセンターの市場推移を見ると、2023年は少し伸び率が下がりましたが安定して伸び続けています。2022年以降のコンタクトセンターの平均成長率は5.1%です。2023年度はコロナ特需が過ぎ、2024年以降はビジネスモデルの転換が求められます。人手不足を背景に、デジタル化やノンボイス化が推し進められていくため、売上構成の内容が変わっていくと考えられます。

上記グラフは「コンタクトセンターのもっとも深刻な経営上の課題」について、「コールセンター白書」の2022年と2023年の調査データを比較したものです。「オペレーターの採用・育成」に続き、2023年では「オペレーター一人当たりの生産性向上」が2番目に上がっています。オペレーターに関する課題が上位2つを占めており、深刻な課題になっていることが伺えます。

高い伸び率のクラウド型CRM、コールセンターでもクラウド化が進む

2023年度のクラウド型CRM総市場は、前年度比116%の5,728億円でした。2022年度にオンプレミス型を抜き、2021年度以降の年間平均成長率は17.6%、2024年度は前年比119%の6,836億円となる見込みで、2027年度には1兆円超の市場となる予測です。

コールセンターシステムのクラウド型、オンプレミス型市場の推移を見ると、総市場と比べると転換は少し緩やかです。2023年度シェア24.5%から2026年度に向けて40.8%と急速な成長が想定されており、今年から本格的に伸びていくと期待できます。

生成AIの登場で音声認識系ソリューションへの意識が高まる

「今後導入予定のITソリューション」の調査データでは、2022年から変わらず音声認識システムとボイスボットがトップ2を占めています。2023年に音声認識システムがトップになったことは生成AI(自然言語処理)の登場の背景もあると言えるでしょう。

「コールセンターのIT機能で強化の優先度の高いソリューション」でも、FAQやチャットボット、ボイスボットを軸に過去3年間で優先度順位に変動はないものの、2023年は「生成AIを活用した自動化や効率化を目的としたソリューション(43.6%)」「テキストマイニングなどVOCを分析するソリューション(41%)」「音声認識システムなどの自然言語処理ソリューション(35.9%)」が上位に上がっていることから、生成AIの登場で音声認識系ソリューションへの意識が高まっていることが伺えます。

SBI証券、みずほ証券、バッファローの活用事例

続いて、コンタクトセンターにおける変革の中で、有人チャットなどノンボイスや、ボイスボットを活用した成功事例を紹介します。

株式会社SBI証券|ボイスボットで書類請求を自動化、48%の費用削減と完了率約70%を実現

株式会社SBI証券では、コロナ禍で投資への関心が高まり問い合わせが急増したことを機に、業務効率化のためボイスボットを導入し、一部書類請求の自動受付を開始しました。有人オペレーター1人分強の処理件数をボイスボットが代替えでき、48%の費用削減と、平均完了率69%を実現しています。今後は、バックヤードの手続き処理の自動化により、1日あたりのカスタマーサービスセンターの問い合わせ1割相当である500件の書類請求をボイスボットで自動受付する予定です。

みずほ証券株式会社|チャットとボイスボットの双方で高水準の顧客満足度

みずほ証券株式会社では、株価上昇とコロナ禍での出社抑制および問い合わせ電話の増加で運用が圧迫されていることが課題でした。ボイスボットや有人チャットを活用し、Webからのお客さま情報の変更やパスワード再発行、口座開設、書類請求などの自動応対を行っています。問い合わせを減らすことを目的とせず、「プロアクティブなサポート」「エフォートレスな顧客体験」「ジャーニーでの一貫した品質のサポート」を目指しており、顧客満足度は非常に高いそうです。

株式会社バッファロー|LINEの有人チャット問い合わせ比率約50%、応答率30%から90%へ大幅改善

Wi-Fiルーターなどの機器を扱う株式会社バッファローでは、LINE公式アカウント上で有人チャットを運用し、1対6のオペレーション体制を確立しています。有人チャット導入により、応答率は30%から90%に大きく改善し、入電数も10万件から2万件へ減少しました。

画像やFAQ動画などを活用した的確な状況説明で、顧客満足度を向上させています。

チャット利用比率が年々増加し、2023年は48%がLINE・チャットを利用しノンボイスシフトに成功しています。同時に顧客満足度も高いまま維持している点が成功ポイントです。

なぜLINE比率48%を実現できたのでしょうか。電話で時間がかかった顧客には、LINEの方が空いているとオペレーターから案内することを始め、LINE・チャット窓口の土日サポート受付開始や、電話より営業時間を広く設定する、画像・動画FAQを利用してLINEならではの分かりやすさを重視するなど、「サービス認知向上」「LINEの利便性向上」「LINEに問い合わせが入りやすいように導線改善」に繋がる様々な施策が功を奏しているのです。

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こうした先進的な取り組みを既に行なっている企業様の今後の取り組みとして、本人特定を行いながらバックヤードの運用の自動化を行い、オペレーション全体の自動化や効率化を視野に入れていることが共通点になります。

ここに生成AIを取り入れていくと飛躍的な運用の改善につながるだろう事例を、次の項目で見ていきましょう。

2024年の展望と予測される市場の変化

2024年のコンタクトセンター業界の展望と予測される市場の変化は、次の3つです。1つ目は「2023年の生成AIの登場により、音声認識系ソリューションの優先度が高まり、2024年本格導入が始まる」。2つ目は「有人を介するカスタマーオペレーションの期待度は高まっていく」。3つ目は「DXテーマでコスト削減や効率化が引き続き進められる一方で、CX(顧客体験)向上による顧客ロイヤリティアップ、収益貢献に軸足が移る」です。

調査データや事例等を交えながら詳しく解説していきます。

NTTネクシアの生成AI活用実証実験

株式会社NTTネクシアの生成系AI(ChatGPT)の活用実証実験に、モビルスが開発したオペレーション支援AI「MooA」を提供し、①「電話応答後に応対履歴を管理システムへ自動投入」、②「応対コンテンツ(QA)の自動生成」、③「質問傾向や優良オペレーターの傾向把握によるオペレーター教育等の活用」の検証を行いました。

実証実験の成果として、「オペレーターのアフターコールワークの効率化」「応対コンテンツ(QA)の自動生成により、業務効率化と共に一次回答精度の向上」「オペレーターの教育・スキル向上等への活用」が確認できました。

<プレスリリースはこちら

生成AIのコンタクトセンター業務への活用として、要約やQA作成への活用は後処理業務の効率化として期待できます。特に、オペレーターの業務効率化・スキル向上への活用は、コンタクトセンターが抱える最も大きな課題であるオペレーターの採用・育成の面で大きなインパクトとなるでしょう。

モビルスのオペレーター支援AI「MooA」

CX向上による顧客ロイヤルティアップ、収益貢献に軸足が移る

経営テーマとして、コスト削減や効率化が進められる一方で、2024年は、CX(顧客体験)向上による顧客ロイヤリティアップ・収益貢献へ軸足が移っていくと考えています。

自己解決に失敗したとき60%の顧客が離れていく

「問題解決プロセスにおけるチャネル利用の実態」の調査データでは、消費者の97%は問題解決のために、まずはWebを検索し、78%は公式サイトなどで自己解決を図る。自己解決できない場合、消費者は不満を募らせつつ、最終的にコールセンターや有人チャット解決に移行するという結果が出ています。多くの人が自己解決できることを望んでいることが分かります。

「自己解決に失敗した時、継続利用停止や他社乗換を検討する」と回答した人は60%に上ります。自己解決を図るが解決しない場合、苦情や問い合わせをせず、その後離れていく層に対して、CX観点で対策をしていくべきではないでしょうか。

CXが与える収益インパクトは非常に大きい

グローバルの調査でも、「52%の顧客はCXの悪さで解約する」「65%は広告よりCXを重視する」「75%の顧客は不快な思いを企業に伝えない」「80%の顧客は良いCXへより高い金額を払う」といったデータが出ているように、CXが与える収益インパクトは非常に大きいと言えます。

コンタクトセンターが主に対応している領域は、問い合わせの回避や顧客応対処理の効率化などコストを下げるための業務ですが、今後はロイヤリティの維持や口コミに対する対応といった収益性への貢献が非常に大事な取り組みになっていきます。

解決率を上げ苦情申し立てをしない人を減らし、問い合わせの満足度を上げるための対応を取った場合、顧客損失の機会を減らすことが可能です。

CXは社内を説得する・理解させることが大変で、投資判断が難しいと捉えられがちです。しかし、CXへの投資効果は定量的にデータとして示せます。CXは広告と比べて、長期的な顧客ロイヤルティと生涯価値を生むため、投資効果が大きいのです。

プロアクティブな顧客体験が益々重要になる

従来のサポート領域では、購入後の疑問や問題について問い合わせをする「購入後の対応」に重きを置かれてきましたが、購入前の情報収集や検討段階でのサポートでいかに差別化を図れるかが、他社との差別化ポイントになります。

「Proactive(プロアクティブ) CX」が叫ばれているグローバルのコンタクトセンター業界では、問い合わせをしないユーザーに対しても運用改善に携わっている担当者に業界ごとの傾向値を提案し、運用の良いスコア・改善すべきスコアを先回りで示唆・提供するなどプロアクティブなサポートを行っています。他にも、問い合わせをしないユーザーがSNSなどで不満を出した際、事前に検知してフォローアップするなど、こうしたプロアクティブな顧客体験は今後益々重要になります。

人への投資がCX向上の鍵、コンタクトセンターの役割は経営貢献へ

「コールセンターの設立目的」の調査データでは、「顧客満足度の向上(86%)」や「VOCの収集と関連部署への共有(59%)」が上位を占めていますが、「コールセンターの経営貢献として経営陣に示している要素」としては「顧客対応に伴うCX向上度合を可視化した結果(45.2%)」「収集・分析・共有したVOCに基づく改善件数(29%)」「収集・分析・共有したVCOの件数(27.6%)」が上位で、理想と現実のギャップがまだまだ存在していることが伺えます。

「今後2年間のコンタクトセンターの重要戦略」の調査データでは、日本企業(63%)、海外企業(54%)ともに「顧客体験(CX向上)」が断トツで上位です。一方、「現在投資強化中・投資予定の重要領域」では、「オペレーター支援機能の導入」に関して日本企業は2%、海外企業は11%と差があります。CXを重要視する傾向はより高まっており、CX高度化を実現するためには、顧客ニーズに精通しニーズに対応できるスキルを持った経験値・かつ満足度の高いオペレーターが必要になってくるのです。

コンタクトセンターの役割も今後進化していきます。従来は、コストセンターとして費用削減を最優先に注力して、応答率、応対件数をサポートのKPIとして重視する企業が多く、入ってきた問い合わせをいかに効率良くさばくかに重きが置かれてきました。

今後は、CXの観点で、コストセンターからプロフィットセンターへ転換をして売上拡大、顧客満足度の向上、プロアクティブサポートといった高付加価値なサービス応対に役割がシフトしていくでしょう。


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