チャットボットがオペレータによるチャットに代わるほど完璧な顧客対応をこなせないのと同様に、ボイスボットもまた、オペレータによる電話対応に100%とって代われるという訳ではありません。「音声認識率」を例に挙げると、現代のAI技術ではまだまだ100%に達してはいない状況で、この認識率のカベを「運用で補う工夫」が必要です。

例えば、「固有名詞をあらかじめ辞書登録する」、「名前を誤変換しないようにカタカナで変換する」、「数字は発話させずダイヤルキーで入力する」、「音声でログを残した後でSMS送信で発話内容を本人に確認してもらう」 などをすることで、不完全な音声認識率を補うことができるでしょう。

今回は、各業界で導入が進むボイスボット運用時の「課題」になりやすいポイントと、運用によって回避できる可能性のある「解決方法(打ち手)」についての考察をまとめてみたいと思います。


(1)ボイスボットの「音声のなめらかさ」の課題と打ち手

まず、ボイスボットの「音声のなめらかさ」は『音声合成エンジン』の違いに大きく左右されます。そして、問い合わせ時にそれを電話口で聞く顧客が、「継続してボイスボット対応を受けてくれる」か、もしくは「電話を切って離脱してしまう」かという顧客体験の分かれ目に関わってきます。自社の顧客対応方針を考えた時に、ボイスボットがより自然な音声で発話出来ているかどうかや、自社のカラーに合った音声かどうかは重要なポイントです。

導入検討時に「Google Cloud」や「coestation」など各社の『音声合成エンジン』を聞き比べてみることをおすすめします。例えば、海外製か日本製か、内製か外部連携による提供かなど、各ベンダーやエンジンにおけるボイスボットの特徴を把握してみましょう。

また、音声合成された音声の「発音がおかしい」と思う時に、自社で個別調整を試み「チューニングできるかどうか」「チューニングに手間や時間がかからないか」は見落としがちなポイントです。せっかく問い合わせをしてくれた顧客に伝わらない音声や表現になってしまい「離脱」につながっていないか、自然でなめらかな発話が可能になるよう「発話内容に合わせたイントネーションの調整」をしてみましょう。

この際、全てを『音声合成エンジン』に任せるのではなく、電話がかかってきた際の「最初のガイダンス」だけは、あえて『本物の人の音声を録音したデータ』を利用することで、初期離脱率の改善につながった取り組みもあります。『本物の人の音声を録音したデータ』と「合成された音声データ」をうまく組み合わせて活用することでまだボイスボットに不慣れなお客様の初期離脱を防ぐことが期待できます。

(2)ボイスボットの「音声認識」の課題と打ち手

もともともの精度が高いエンジンを選ぶことはもちろん重要ですが、冒頭の通り現在の技術水準ではどのエンジンを選んだとしても「認識率100%」とはなりません。このため「精度向上のしやすさ」や「運用の改善のしやすさ」も重要なポイントになってきます。

例えば、「人名に特化」した認識エンジンを用いて、発話された人名をカタカナに変換することで、顧客情報リストデータベースとの突合など、後処理をしやすくして運用課題を下げていきます。あえて音声認識のハードルを下げることが、運用改善ができる打ち手となるでしょう。

(※ この場合、例えば「いしいともひろ」という音声データは「石井智宏」や「石井友弘」あるいは「石井知博」などではなく、はじめから「イシイトモヒロ」と変換させます)

また特定のキーワードのみを「辞書登録」させる機能も有効です。お名前と同様に認識精度の低い「業界用語」や自社の「製品名」などの特定キーワードをあらかじめ登録する事ができる辞書機能があると、狙ったキーワードに変換しやすくなり、発生頻度の高いキーワードの問い合わせ内容にも対応しやすくなります。

音声チャネルであることが売りのボイスボットですが、視点を変えてみると、そもそも顧客が電話を使っているので「番号など数字の入力」に関しては、発話よりも電話のダイヤルキー(ボタン)入力のほうが正確性が高くなります。設問ごとに「発話を認識させるのか、ダイヤルキー(ボタン)で受け付けるのかを切り替える」ことで、精度と利便性の向上の両方を狙うのも良いでしょう。

そして最後に、ボイスボットへの発話で「受け付けた内容をお客様自身が確認・修正」できることも大切です。このようなお客様側での確認画面(マイページ機能・レシート機能)があることで正しい情報のヒアリングと後処理ができます。
もちろん確認画面は音声ではなく、アプリやブラウザとなるため、ボイスボットが受け付けた電話番号宛に「URLリンク付きのSMSを送信」して顧客を確認画面に誘導するのが自然です。

(3)ボイスボットの「離脱率」の課題と打ち手

ボイスボットはちょっとした工夫や改善で大きく効果が変わるツールなので、現場レベルで「簡単に、素早く改善できるか」が重要ポイントです。

顧客との通話全体が録音され、それを聞き返しができることで、離脱をしてしまっている発話のタイミングなどを細かく確認して、原因の特定と改善につなげることができます。実際の発話ログから、顧客が電話から離脱してしまったポイントの調査をしたら、仮説を元にシナリオや発話内容の修正をしてみましょう。ボイスボットの「離脱率」改善(=完結率向上)のためには、このようなデータの分析が何よりも重要です。

この際、わざわざベンダー側に確認したりすると時間がかかってしまいますが、
ボイスボットの管理画面から「すぐにデータの閲覧ができる」、「データを抽出できる」、「分析しやすいUIやダッシュボードがあることでモニタリングがしやすい」などの条件がそろうとPDCAが回しやすくなります。

特定のシナリオ内で音声認識がうまくいかずエラーが出てしまっている場合、例えば『2回エラーが出たら、有人オペレータに電話を転送をする』というシナリオを作ることで離脱率を改善し、顧客満足度の低下を防ぐことができるでしょう。

最後に「全体のガイダンス(案内、質問)の間隔」についても触れたいと思います。ガイダンスは目安20秒以内におさえるのが大切で、相手を長く待たせないように会話はなるべくスリム化しましょう。そしてガイダンスの設計を担当するのは、実際に電話のオペレータ経験のある人が望ましいです。

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「ボイスボット単体で設計しない」ことも大切

今回は、各業界で導入が進むボイスボット運用時の「課題」になりやすいポイントと、運用によって回避できる可能性のある「解決の打ち手」についてポイントを解説してきました。

ただしボイスボットを運用する際には、ツール単体では考えずに 「どのコンタクトリーズン(問い合わせの内容)をボイスボットで対応するか」を考えることが大切です。例えば、チャットボットやボイスボットを始める際に「問い合わせ全体の10%をボットで自動化しよう」、「導入しやすい対応をボットにしよう」など担当者の肌感覚で適用範囲を検討している場合があります。

このような「問い合わせ全体のXX%をボットで対応」という考え方で始めてしまうと、効果が出たかどうかの測定も難しく、「導入したけど使えない」失敗パターンに陥りやすくなってしまいます。まずは「コンタクトリーズン分析」から最適なサポートチャネルを導き出すことが必要です。

ボイスボット活用事例

以下では、モビルスのクライアントにおけるボイスボット活用の成功事例を紹介していますのでぜひご覧ください。

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