<2021年10月23日→2022年1月28日更新>
企業のお客さま相談窓口やコンタクトセンター(コールセンター)を始めとしたコンタクトセンターは、呼量削減や生産性向上、顧客満足度向上の目的に、チャットボットやFAQシステムなどの自動化ツールの導入や、有人チャット対応など、デジタルシフトが必要とされています。
自動化ツールとして最近注目されているのが、「ボイスボット(AI電話自動応答システム)」です。
電話対応の効率化に取り組む上で、ボイスボットをどのように取り入れていけばよいか、既存の電話システムとの連携など、成功事例を交えながら紹介します。
コロナ禍でデジタルシフトが進むが、いまだ高い電話のシェア
モビルスが実施した「お客さま相談窓口の利用実態調査」では、コロナ禍で問い合わせをする人が増えたと回答した人は約4割に上りました。問い合わせ手段は、チャットやビデオ通話なども増えていますが、「電話(63.1%)」、「メール(57.2%)」「問い合わせフォーム(42.8%)」と従来のチャネルシェアはまだまだ高いです。
WebやFAQで自己解決できないから電話をする
現在の問い合わせは、電話に集中しています。しかし、問い合わせフローとして、いきなり電話をかける人は、実は多くありません。調査でも9割以上の人が「電話をかける前にWebサイトや説明書を確認する」と回答しています。
このことから「WebサイトやFAQを見ても解決できないから電話をする」ケースが多いのだと推測できます。もしくは、そもそも「郵便物にお客さま窓口の電話番号を記載されているから、とりあえず電話をする」といったケースもあることでしょう。
ボイスボットによる、電話対応の負荷軽減・コスト削減の可能性
別の調査結果では、「問い合わせをする際、まずは電話を利用する」と回答した人が43.9%でした。また、6割以上の人が、「問い合わせをする際、解決するのであれば必ずしも人の応対でなくても良い」と回答しています。
これらのことから、なかなか減らない電話対応の負荷軽減に、ボイスボット(AI電話自動応答システム)が活用できるのではないでしょうか。
ボイスボットとは、音声認識や自動言語処理などの技術を使い、発話内容を解析するシステムです。「AI電話自動応答システム」とも呼ばれ、電話応対を自動化できます。音声合成技術と組み合わせることで、聞き取りした内容を自動でテキスト化することも可能です。
予約や受注など手続き業務や、問い合わせの一時対応など、コンタクトセンターでもボイスボットの活用が始まっています。
ボイスボットをコンタクトセンターへ導入した際のROIを試算したデータがあります。例えば、席数200席のセンターで、全体のコールの20%をボイスボットに代替えすると、年間で1.2億円まで削減できるといわれています。
有効なボイスボットの設計や運用のポイント
ボイスボットを活用する際の、設計や運用のポイントは、「ガイダンスの工夫」「音声認識のカベを工夫でカバーする」「CXに着目した設計」「スモールスタート」の4つです。
①ガイダンスはなるべく待たせない
ボイスボットのガイダンス(案内、質問)は、目安20秒以内におさえます。 相手を長く待たせないように、 会話はなるべくスリム化しましょう。ガイダンスの 設計を担当するのは、 電話のオペレーター経験のある人が望ましいです。
②100%ではない音声認識率を補う工夫
音声認識率は、まだ100%ではありません。認識率のかべを補う工夫が必要です。例えば、「固有名詞をあらかじめ辞書登録する」、「名前を誤変換しないように、カタカナで変換する」、「数字は発話させず、ダイヤルキーで入力する」、「音声でログを残したあとに、SMS送信で発話内容を本人に確認してもらう」などで認識率を補うことができます。
③CX(顧客体験)に着目した設計
ボイスボットだけで完結させることが、ユーザー体験として最適とは限りません。無理に完結させようとせずに、ビジュアルIVRなどと組み合わせて考えます。
④スモールスタートで対応完了率を上げる
いきなり多くの対応を盛り込まず、スモールスタートがおすすめです。まずは、ボイスボットで対応完了率を上げ、その後、顧客管理システムとの連携などを考えていきましょう。
コールリーズン分析から、最適なサポートチャネルを導き出す
ボイスボットを導入する際、どのコールリーズン(問い合わせの内容)をボイスボットで対応するかを考えます。これまでチャットボットやボイスボットを始めるとき、「問い合わせ全体の10%をボットで自動化しよう」「導入しやすい対応をボットにする」など、担当者の肌感覚で適用範囲を検討していた方も少なくないのではないでしょうか。
「問い合わせ全体のXX%をボットで対応」という考え方で始めると、効果が出たかどうかの測定も難しく、「導入したけど使えない」失敗パターンに陥りやすくなります。
コールリーズン分析から、最適なサポートチャネルを導き出すことが必要です。
問い合わせ全体をコールリーズンで分解・分析し、コールリーズン別に最適なチャネルを検討し、ソリューションの適用範囲を検討していきます。
コールリーズンごとに、「有人対応の電話」「ボイスボット」「有人対応のチャット」「チャットボット」など、それぞれ最適なチャネルが異なります。
「ボイスボット導入」のプロジェクトを進める上でも、有人で対応すべきコールリーズンがあることを忘れてはいけません。
オペレーションの順番に沿ってボイスボットの対応導線を考える
特定のコールリーズンまたは、複数のコールリーズンをグループ化し、「ボイスの自動化はできるか?」「チャット対応すべきか?」「チャット対応すべき場合は有人チャット対応できるか?」「対話ボットで対応できるか?」「システム連携すべきか?」の順番で考えていきます。
ボイスボットで対応ができるコールリーズンを選定したあとは、オペレーションの順番に沿って、導線を整理していきましょう。
「ボイスの自動化ができる」コールリーズンは、対応内容によってその後の導線が異なります。例えば、「コールバック予約の受付」や「問い合わせ内容のヒアリング(要件特定)」をボイスボットで対応した場合は、その後オペレーターへ連携します。
「商品データや顧客データなどの照会」や「住所変更や注文などの手続き」をボイスボットで対応する場合は、システム連携が必要です。
ボイスボットソリューション検討時の比較ポイント
ボイスボットソリューション(AI電話自動応答システム)を選ぶ際に比較すべきは、音声認識の精度だけではありません。音声認識技術は近年目覚ましく向上していますが、100%完璧とはいきません。ボイスボットソリューションの機能で補う工夫が必要です。
ソリューションを選ぶ際には、認識率をカバーできる機能があるかどうか、ぜひ確認してください。
音声の認識率をカバーする主な機能
・辞書登録機能
製品名や専門用語などよく使われる固有名詞は、あらかじめ辞書登録しておきます。ボイスボットの管理画面上から簡単に辞書登録ができると便利です。登録した内容でテキスト変換されるので、誤変換を防げます。
・人名のカタカナ変換機能
名前を漢字で正しく変換するのは難易度が高いです。カタカナで変換できると誤変換の心配がありません。設問ごとにカタカナ変換に変えられる機能は重宝します。
・番号のプッシュ入力
ボイスボットは口頭でやりとりできる便利さが特徴ですが、電話番号など数字は発話させず、ダイヤルキーで入力する方が確実です。設問内容に合わせて、発話と番号のプッシュ入力を自由に使い分けます。
・SMSメッセージ設定
最も間違いがないのは、発話した本人に確認してもらうことです。音声でログを残したあとに、自動でテキスト化した内容をSMS送信し、本人に確認してもらいます。間違いがあれば、テキストを修正し返信してもらうことで、ログ履歴も自動更新されます。
以上の機能があると、かなりの確率で音声認識率をカバーできるのではないでしょうか。
ボイスボットの活用が期待されるシーン
ボイスボットは、突然の呼量増加への対応や、常時ボリュームの多い定型電話業務の対応に最適です。ボイスボットが活用できる主なシーンを紹介します。
ピーク時間の取りこぼし阻止
一つ目は、「電話が多いピーク時間に待たせてしまう」「取り切れない」といったことピーク時間の取りこぼし阻止の活用です。ボイスボットが用件の自動ヒアリングをし、聞き取りした内容を自動でテキスト化します。
担当部門へメール等で通知し、必要に応じて折り返し対応するので、「電話が全くつながらない」不満を解消できます。
業務時間外の自動対応
二つ目は、早朝や夜間など業務時間外の対応です。高度な自動応答シナリオで、24時間・365日稼働を実現できます。
よくある質問への対応
三つ目は、オペレーターが対応しなくても良い標準的な質問への対応です。よくある問い合わせや質問は、AIやシナリオで自動回答します。
ボイスボット活用事例
ボイスボット活用の成功事例を紹介します。
コンタクトセンターや自治体など問い合わせ業務における、負荷の重い定型業務や電話対応コスト削減に有効な「ボイスボット」(AI電話自動応答システム)の活用方法や導入事例インタビューをまとめた資料を無料配布しています!
在宅勤務の代表電話自動対応で電話対応時間60%削減
日本ロードサービス(JRS)様は、在宅勤務に伴い代表電話の自動応答にボイスボットを活用しています。
ボイスボット導入後、電話対応時間を前年比、約60%削減に成功しました。呼量増加時間帯または時期の一時対応を自動化し、やるべき業務に集中でき生産性の向上にもつながっています。代表電話の自動応答フローを築き、総務部門を中心にテレワーク可能な体制も構築できました。
代表電話・採用受付の一次応答を月800件自動化
串カツ田中様は、代表電話と人事課の電話一時対応を、ボイスボットで月に約800件自動化しています。その結果、電話対応にかかる人件費を40%コスト削減できました。電話対応の自動化で、採用活動のオンライン化の推進できたとのことです。
注文受付から配送手続きまで自動化、電話対応50%を完全自動化
宅配水のアクアクララ岩手を運営するマイアクア様は、注文受付や内容変更から、そのほか問い合わせまで、電話対応全般の一時受付をボイスボットで自動化しています。毎月1,000件ほどボイスボットで対応し、入電数90%削減、電話対応50%完全自動化まで至りました。RPAも活用し、受注受付後の入力業務の自動化も実現しています。
ボイスボット活用は従来の電話との連携が重要に
ボイスボットは単体での利用ではなく、従来の電話との連携がとても重要です。
ボイスボットによるプリヒアリング後にオペレーターへ内線転送や、営業時間外やピーク時にオペレーターが電話をとれないときにボイスボットへ内線転送するなど、従来の電話対応とボイスボットを柔軟に行き来して使います。
緊急な用件やクレームの受付といった最初から電話オペレーターが対応する必要がある場合は、ボイスボットを介さず電話への誘導が必要です。
ボイスボットのほか、チャットボットや有人チャットなど複数のチャネルがある場合、ビジュアルIVRで適切なチャネルを案内します。
【まとめ】ボイスボット活用のポイントは「コールリーズン」「全体導線の設計」「音声認識率カバーの工夫」
顧客体験を最適化するボイスボット導入の設計方法と活用事例を紹介しました。
まずは、コールリーズンからのアプローチです。コールリーズン分析をし、ボイスの自動対応に合ったコールリーズンを見つけます。
次に、ボイスボット単体で考えるのではなく、従来の電話や、チャットなどほかのチャネルの活用や、システム連携など全体の導線設計と連携を考えます。
そして、音声認識率をカバーする設計と運用に沿って設計していきます。
ボイスボット導入時は「コールリーズンアプローチ」「最適な全体導線設計」「ボイスボットの設計と運用」を考えながら活用していきましょう。